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法人・会社破産の気を付けるポイントと注意点

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!

多くの法人や会社が設立される一方で、経営が立ち行かなくなったり事業の継続が難しくなったりして、自己破産する法人・会社の数も少なくありません。

自己破産を行うためには多くの手続きが必要となりますが、法人や会社の場合は個人の場合とは違う注意点もあります。

ここでは、法人・会社が自己破産を行う際のポイントについて解説します。

法人・会社の自己破産についてより注意が必要な理由

法人・会社が自己破産を行う際は、法人として行うことと、法人の代表者などが個人として行うことがあります。

そのため法律関係が複雑になり、手続きを進めるうえで混乱を起こしてしまうことがあります。

また、個人の場合に比べて資産や負債の額が大きくなるほか、取引先の数が多いため自己破産による影響を及ぼす利害関係者の数も増えてしまいます。

法人や会社の自己破産には、より厳格な手続きが求められるうえ、正しく手続きを行わなければ法的な問題となる可能性もあります。

あらかじめ何をしなければならないのか把握したうえで、自己破産の手続きを開始することで、問題が生じることのないようにしましょう。

法人・会社の破産の注意点⑴否認権行使の対象となるような行為をしない

法人や会社が破産をするためには、裁判所で手続きを行う必要があります。

裁判所で破産手続きを行うにあたっては、破産管財人を選任して資産・負債の調査を行う「管財事件」と、破産管財人を選任せず資産や負債の調査も行わない簡便な方法である「同時廃止事件」の2つの方法があります。

しかし、法人や会社の破産は利害関係者の数も個人の破産に比べて多く、法律関係が複雑であるため、同時廃止事件として破産手続きを行うと不正な破産の申し立てが起こる可能性もあり、債権者の理解は得られません。

そこで、ほとんどの裁判所では法人・会社の破産手続きは管財事件として行わなければならないと定めています。

管財事件となった場合、破産管財人により破産会社の財産の処分が行われます。

破産管財人は、すべての債権者が平等に弁済を受けられるように財産の処分を行う必要がありますが、破産会社の中には、特に懇意にしていた債権者にだけ先に債務を返済しようとするケースがあります。

しかし、これは債権者の平等を侵害するもので認められません。

そのため、破産手続き開始前に返済してしまった財産を破産管財人は取り戻すことができるのです。

この破産管財人の権限を「否認権」といいます。

一部の債権者にだけ債務を返済した後に破産を申し立てるという行為は、誰もが考えうるものであり、また実際によく行われるものですが、否認権が行使されると最悪の場合訴訟にまで発展し、かえって手続きを複雑にしてしまう可能性があります。

破産申し立て前であれば問題ないという考えは通用しないため、とりわけ慎重に行動しなければならないのです。

法人・会社の破産の注意点⑵事業用資産はすべて処分の対象になる

法人や会社が保有するすべての資産は、換価処分により金銭に形を変えて債権者に配当されます。

ただし、すべての資産が金銭化できるわけではありません。

現実には価値のない財産や処分に費用がかかる財産もあるため、その処分にお金がかかるケースも珍しくありません。

また、価値のある財産について、その会社の代表者や役員が勝手に持ち帰ったり格安で売却したりすることは許されません。

もしこのようなことをすると、会社に損害を与えたとして破産管財人により否認権が行使され、その財産の売却代金を会社に返還しなければならなくなったり、損害賠償請求を受けたりすることが考えられます。

会社が保有する売掛金や未収入金といった債権も財産です。

これらの債権を有するにもかかわらず、回収努力を怠って放置しておくことは認められません。

法人・会社からその経営者の親族に対する未収入金や貸付金を有する場合もあるかもしれませんが、これらを回収しないことは許されないのです。

法人・会社の破産の注意点⑶従業員との関係は慎重に

従業員にとって、自分が働いている法人や会社がなくなるのは死活問題です。

そのため、法人・会社の破産手続きにあたって、従業員への対応を誤ると大きな問題に発展してしまいます。

従業員に対する説明は誠心誠意行うことが何より肝心です。

そのうえで、従業員と法人・会社の法律関係にもとづく対応が必要となります。

破産手続きに入ることを説明したうえで、従業員を解雇する必要があるのかあるいは破産手続きが完了するまで雇用を継続するのかは、その従業員が行う業務の内容によっても異なり、必ずしも一律にはならないと考えられます。

雇用期間がいつまでになるのか、退職金の支払いはどのようにするのか、即時解雇を行うための解雇予告手当の支給についてはどのようにするのか、といった点に注意し、このような問題点があることをあらかじめ従業員にも理解しておいてもらう必要があります。

従業員との争いとなって解決しないと破産手続きを進めることができなくなるため、問題が発生する前に従業員に納得してもらえる状況を作っておきましょう。

また、賃金として支払う金額については、従業員が法人・会社に対する債権者となります。

他の債権に優先して弁済や配当を受けることができますが、それでも全額が支払われるとは限らないため、この点も従業員には理解しておいてもらう必要があるでしょう。

なお、従業員に法人・会社の自己破産をいつ伝えるのかは非常に難しい問題です。

破産手続きを開始する前に伝えておくのが一般的ですが、あまり早く伝えすぎると取引先などに情報が洩れる可能性が高くなります。

ただ、あまりギリギリに伝えても従業員の不信感を招くだけとなります。

いつが正解という問題ではありませんが、状況を見ながら慎重に行うべきでしょう。

法人・会社の破産の注意点⑷役員に対する報酬は保留すべき場合も

従業員に対する人件費は、従業員の債権であり会社にとっては債務となることは説明しました。

しかし、同じ人件費でも役員に対する報酬は優先的に支払うべき債権ではありません。

むしろ、法人・会社が資金繰りに行き詰まるような状況にある中で、役員に対する報酬を支払うことは認められないと考えられます。

役員は経営者として、その法人・会社の運営を委任された責任を負わなければなりません。

経営が苦しい状況にある中で、自己の報酬を優先して支払ったということが分かれば、破産管財人により否認権が行使される可能性もあるので、注意が必要です。

法人・会社の破産の注意点⑸法人や会社が有する契約は事前に把握しておく

法人や会社は、個人の場合より多くの契約を結んでいることが考えられます。

法人や会社で特に多いのが、社用車やコピー機、パソコンなどのリース契約を有する場合です。

リース契約を有している法人・会社が破産手続きを行う場合、その解約期間中に解約手続きを行わなければならないため、単に車両や事務用品を自己のものとして所有している場合より複雑な手続きが必要となります。

リース契約を途中解約すると、その契約の内容によっては中途解約による損害金をリース会社に支払わなければならないこともあるため、必ずその契約内容を確認しておきましょう。

また、リース会社にあらかじめその契約内容を確認したうえで、自己破産をする際にはどのような手続きが必要となるのか、打ち合わせをしておきましょう。

その他、事務所・店舗の賃貸借契約、インターネットや電話回線の契約、携帯電話の契約などは、個人の場合とはその契約内容も契約口数も違います。

あらかじめ解約手続きを進めることができるのか、その際に違約金は発生するのかを確認しておきましょう。

法人・会社の破産の注意点⑹代表者の債務整理や自己破産の可能性も

法人・会社の中でも、特に中小企業が金融機関から借入を行う際、その代表者が個人保証を行うことが条件とされ、連帯保証人となっているケースが多くあります。

法人・会社が自己破産をすることでその借入金の返済義務から免れたとしても、連帯保証を行った代表者は依然として借入金の返済義務があるため、法人・会社に代わって返済を行わなければなりません。

ただ、このような場合は代表者個人にも十分な資力がないことが多く、残された借入金を返済していくのは非常に困難となります。

もし、個人が法人・会社の債務の保証人となっていて、今後個人では法人・会社が有していた債務を返済できないと考えるのであれば、個人においても自己破産の手続きをしなければなりません。

この時、法人・会社の破産手続きだけ先に進めてしまうと、連帯保証人となっている個人に支払義務が生じてしまうため、同時に手続きを進めるようにしましょう。

また、個人として行う手続きには、自己破産の他に個人再生などの債務整理もあります。

いずれの方法が自分にとってより良い選択肢となるのか、弁護士などの専門家に相談しながら進めていくようにしましょう。

法人・会社の破産の注意点⑺破産手続きをするための費用を確保しておく

裁判所にもよりますが、法人や会社の自己破産手続きには、弁護士を代理人にたてなければならないとされていることが多いと思います。

法的には法人・会社が自分で破産を申し立てることも可能であり、弁護士に依頼する必要がないこととされている裁判所もありますが、手続きが複雑で利害関係者が多いため、実務上も弁護士の存在は不可欠とされています。

そのため、法人・会社が破産手続きを行うためには、弁護士に依頼するための弁護士費用が必要となります。

また、法人・会社が裁判所に自己破産を申し立てる際には、管財事件として取り扱われます。

そのため、裁判所に予納金を納付しなければなりません。

予納金も破産手続きのために必要な費用です。

さらに、従業員の賃金・退職金・解雇予告手当を支払わなければ、破産手続きをスムーズに進めることはできません。

これらの人件費は破産手続きを進めるうえで必要不可欠な費用となります。

この他にも、事務所や店舗を明け渡すための費用や各種の契約を解除するための費用が必要です。

お金がないから自己破産するということも考えられるのですが、その一方で自己破産するためにはお金がかかるということも知っておかなければなりません。

まとめ

法人・会社の破産手続きにおける注意点をあげました。

他にも注意すべき点はあるかと思いますが、最低限ここにあげた点を守る必要があります。

破産手続きを進めるうえで特に重要なのは、従業員から理解を得ることです。

従業員は破産手続きにおいて会社に対する債権者となるため、会社と利害が反する立場となります。

従業員の理解を得ながら破産手続きを進めることができるかどうかで、手続きをスムーズに進めることができるかどうかが変わってきます。

じっくり時間をかけて丁寧に、破産手続きを決断するに至った経緯を説明し、その後の処遇についてもきちんと説明するようにしましょう。

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