東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産とは、裁判所を通じて破産者の借金を免除する手続きです。
借金の返済は免除される一方、換金価値のある財産は原則としてすべて処分され、債権者へ分配されます。
自己破産をすると、裁判所から沢山の人が家にきて家財などを残らず差し押さえてしまうというイメージがある方もいるかもしれません。
しかし、破産者の生計維持や経済的な再建に必要と認められる範囲で、一部の財産は処分せず残すことができます。
また、破産者の財産調査のために家を訪問するような場合は限られており、一般的には稀なケースと言ってよいでしょう
ここでは、自己破産における財産の処分や、処分される財産とされない財産の違いなどを解説します。
Contents
破産者が換金処分できる財産を所有している場合、自己破産の申立てをすると、裁判所は破産管財人を選任します。
破産管財人は、破産者と債権者の利害を調整する役割を持ち、通常は弁護士が選任されて次のような職務を行います。
破産者の財産は、預金通帳やクレジットカードの取引履歴などの客観的な資料をもとに調査されるため、通常、破産者の家を訪問して確認することはありません。
そのため、たとえば破産管財人が家にきてご近所などに破産の事実や財産の差押えがバレることはないでしょう。
ただし、より正確な調査を実施する必要がある場合は破産者の家を訪問するケースもあります。
では、どのようなケースで破産管財人が破産者の家を訪問して財産調査を行うのでしょうか。
具体的には、次のようなケースが考えられます。
破産手続きの申立てを行う弁護士は、事前に破産者の財産、借金額、借金の理由などを確認します。
通常、破産管財人はその確認を信頼して手続きを進めるため、自ら破産者の家を訪問して財産を調査することはありません。
しかし、破産者の言動や提出された財産に関する資料に矛盾などがある場合、破産管財人は財産隠しの疑いを持ちます。
破産管財人は破産者名義の口座の有無を確認するため、金融機関に照会をかけることも可能であり、たとえ隠している口座に事前に資金を移しても、入出金の履歴から不自然な点は判明します。
自己破産は、たとえ債権者の正当な利益を大きく損ねることになっても、自力での経済再建が困難な破産者の救済を優先する制度です。
財産隠しは裁判所や債権者をだまして違法に財産を維持しようする悪質な行為であり、そのような行為の可能性がある場合、破産管財人は破産者の家を訪問して調査します。
不動産や高額な家財などを所有している場合、破産管財人はその価値を正確に把握する必要があります。
通常は専門業者などが査定を行うため、破産管財人が自ら価値を査定するために家を訪問することはありません。
ただし、業者による査定に疑いがある場合や実物を見なければ換金できるかどうか判断できないような場合、現地調査として家を訪問する可能性があります。
破産管財人は、裁判所へ破産者が免責を受けるべきかどうか意見を述べるため、破産者が自己破産に至った原因を調査します。
自己破産に至る原因には、病気や介護などで生活がままならなくなったケースのほか、無計画な遊興費用による浪費など、破産による免責が不適切と判断されるケースもあります。
破産者が自己破産に至った原因を調査するため、生活の実態を面談や家計簿だけでなく直接訪問して確かめる必要がある場合に、破産管財人は自宅訪問を実施します。
破産者が個人事業主や会社経営者である場合、所有する財産が事業用に使われているケースも多く、財産に関する権利関係は複雑になります。
所有する財産も高額になる場合があり、財産状況を正確に把握する必要がある場合、破産管財人は自宅訪問して現物を確認します。
原則として、次のような換金価値がある財産はすべて処分の対象です。
換金価値の基準は裁判所によって異なりますが、たとえば東京地方裁判所では20万円以上の財産が基準となります。
対象となる財産について、それぞれ確認していきましょう。
通常、土地や建物などの不動産は価値が高く、裁判所が主導する競売で換金手続きが行われます。
価値が高い不動産を所有している場合には、裁判所が期日を設定し、所有者の同意を得ることなく売却手続きが進められます。
なお、不動産の換金方法は、競売のほかに任意売却という方法を選択できます。
任意売却は、金融機関の同意を得た上で、不動産の所有者と不動産会社が主導して売却する方法です。
市場価格で売却するため競売より高値となるケースもあり、もし売却価格が債務を上回った場合は自己破産をする必要がありません。
ただし手続きが複雑で対応してくれる不動産会社も少ないため、任意売却を選択するケースは駅近のマンションなど市場価格で高額な売却が見込める場合に限られるでしょう。
たとえば自動車やバイク、貴金属、ブランド品、骨董品などは一般的に換金価値が高く、生活必需品とみなされないものは処分の対象となります。
ただし、経年劣化などで換金価値がない場合は対象となりません。
株やFX、仮想通貨などの金融資産は生活のために必要不可欠とはいえず、処分の対象となります。
自己破産をしても取引の継続は可能であるケースが多いですが、換金価値を超えて所有している金融資産は一度処分しなければなりません。
個人事業主の場合、すでに販売先へ納品はしているものの、代金は翌月や翌々月などに受け取る約束となっている場合が多くあります。
これを売掛金といいます。
また、お金を融資として借りる場合だけでなく、自らがお金を貸すケースもあるかもしれません。
そういった将来受け取る予定の売掛金や貸付金などの債権も、換金価値のある財産としてみなされます。
会社に勤務されている方は、すでに受け取った退職金や退職後に受け取る予定の見込み額が、次の割合で財産としてみなされます。
退職金の差し押さえといっても、実際に会社を退職する必要はなく、会社への差し押さえもありません。
財産の処分方法として、会社に在籍したまま「財産としてみなされた相当額」を破産者本人から支払います。
積立型の生命保険など、解約後に返戻金を受け取れるタイプの保険などは、その返戻金が財産としてみなされます。
契約返戻金の額が換金価値の基準を超えている場合、保険を解約しなければならない可能性があります。
破産者の生活を再建するため、自己破産しても差し押さえの対象とならない財産を自由財産といいます。
自由財産は、破産法という法律で具体的に次の5つが定められています。
それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
破産者が破産手続開始後に新たに取得した財産を新得財産といい、処分の対象となりません。
たとえば、破産手続開始後に勤務先の会社から振り込まれた給料や、親が死亡した場合の相続遺産などが該当します。
例外として、破産手続開始決定前から既に取得することが決まっていた財産は対象とされてしまうため、注意が必要です。
破産手続き中を含む当面の生活を賄うため、99万円以下の現金は差し押さえの対象となりません。
注意点として、99万円以下という枠は財産全体で計算した上限となります。
たとえば、現金30万円と家財60万円であればすべて手元に残せますが、現金60万円と家財60万円の場合は、合計して99万円を超える部分は残すことができません。
一般的には、残したい財産の価額に現金を加え、合計額が99万円以下になるよう調整するケースが多いです。
衣食住などの基本的な生活に不可欠な財産は差し押さえが禁止されています。
具体的には、整理タンス、ベッド、調理用具、食器棚、就業上必要な仕事道具などがあげられます。
破産者の生活状況などを考慮し、必要不可欠と判断された財産は、99万円を超える場合でも個別に自由財産として認められる可能性があります。
たとえば、生計を維持するために必要な仕事道具や、僻地に住んでいる、あるいは病気で移動が困難である場合の自動車などです。
ただし、単に利便性があるという理由だけでなく、通常の自由財産のみでは最低限度の生活が維持できないと裁判所に認められなければなりません。
自由財産を拡張するための説明は非常に専門的な内容であり、例外的な扱いであるため、裁判所が認めるケースは少ない傾向にあります。
本来は処分の対象となる財産でも、換金できる見込みがないと判断された財産は破産者の手元に戻ります。
たとえば、山奥にある土地建物といった売却が難しい不動産などが典型例です。
換金できるかどうかの判断は、財産を処分する破産管財人の意見が考慮されるため、破産者から換金価値がないと主張して財産を残すことは原則としてできません。
自己破産手続きで財産を残せるかどうかは、個別の事情によるため弁護士に相談するとよいでしょう。
どうしても財産を残したいからといって、財産を隠す、あるいは協力者に譲渡すると、自己破産が認められないだけでなく、詐欺破産罪という処罰を受けるリスクもあります。
自己破産手続きで財産を隠すのは非常に困難であり、財産を残したい場合は専門家の助力が不可欠です。
まずは破産手続きに精通した弁護士に相談し、少しでも希望に沿った条件で借金を整理しましょう。