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自己破産をしたときの生命保険の取り扱いとは?解約したくないときの対処法

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!

この記事でわかること

  • 自己破産をしたときに生命保険の解約が必要な場合と不要な場合
  • 自己破産時に生命保険を解約したくないときの対処法
  • 自己破産後に生命保険は再加入できるか

自己破産は、裁判所への申立てにより自力返済が困難になった債務者の借金を全額免除するための手続きです。

自己破産をすると、借金の返済が免除される一方、所有する財産は債権者への分配のために清算されます。
清算対象の財産とは、不動産や自動車などの有形資産だけでなく、債権や著作権などの権利も含まれます。

では、家族の生活を守るために加入を続けてきた生命保険も、清算のために解約しなければならないのでしょうか。

前提として、解約の可能性があるのは破産者が保険契約者と同一の場合のみで、家族が契約者の場合は対象となりません。

この記事では、自己破産をしたときの生命保険の取り扱いや、解約をしないで済む対処法について詳しく解説します。

自己破産をしたときの生命保険の取り扱い

自己破産をしたときに、生命保険はどのように取り扱われるのでしょうか。
ここでは、保険のタイプや解約が不要な場合について説明します。

保険のタイプと特徴

保険は、主に以下2つのタイプに分かれます。

掛け捨てタイプ

掛け捨てタイプは、保険期間が満了になっても満期保険金の支払がなく、途中で解約した場合の解約返戻金もほとんどありません。

しかし、保険料は比較的安く設定されており、死亡などのリスクに十分な保障を得られます。
代表的なものに、定期保険や医療保険などがあります。

貯蓄タイプ

貯蓄タイプは、保険料の一部が積み立てられ、満期時や解約時にはお金を受け取ることができる保険です。

掛け捨てタイプより保険料は高くなる傾向にあるものの、万が一に備えながら貯蓄もできる点が特徴です。
学資保険や個人年金など、主に年齢に応じたライフイベントにまつわる保険がこのタイプです。

生命保険は、掛け捨てタイプ、貯蓄タイプ、どちらの種類もあります。

このうち、自己破産をしたときに解約が必要となるケースが多いのは貯蓄タイプの生命保険です。

より具体的に見ていきましょう。

生命保険の解約が必要な場合

貯蓄タイプの保険は「保険料を支払いながら、将来のために資産形成をしたい」というニーズに応えた保険です。

この資産形成として積み立てた分が、自己破産では財産とみなされ、清算の対象となります。
将来受け取るために積み立てている分は、実質的には定期預金などの財産と同じと評価されるためです。

ただし、自己破産で清算の対象となる財産は、以下の基準を満たしたものに限られます。

  • 破産手続開始決定時の解約返戻金が総額20万円を超えるとき(東京地方裁判所の場合)

重要なポイントは、総額20万円を超える解約返戻金を受け取れるかどうかです。

掛け捨てタイプの生命保険であれば、解約返戻金はゼロか、あってもわずかな金額です。
しかし、資産形成を目的とした貯蓄タイプの生命保険は、長年加入していると解約返戻金がかなりの高額になっている場合も少なくありません。

なお、複数の生命保険に加入している場合、この「総額20万円」は個々の保険契約ごとには判断されません。
すべての保険契約の解約返戻金を合計した総額が20万円を超えているかどうかで解約の要否が判断されます。

解約返戻金の額が重要な判断基準となるため、自己破産を検討されている方は「解約返戻金の証明書」を取り寄せて確認しておきましょう。

生命保険の解約が不要な場合

では、解約返戻金が総額20万円を超えている場合、必ず生命保険を解約しなければならないのでしょうか。

実は、総額20万円を超える場合であっても、以下の対処法をとることで生命保険を解約しないで済む可能性があります。

  • 契約者貸付制度を利用する
  • 自由財産の拡張制度を利用する
  • 解約返戻金に相当する額を裁判所に積み立てする
  • 保険法上の介入権制度を利用する

これらの対処法について、次の章から詳細を確認していきましょう。

自己破産時に生命保険を解約したくないときの対処法

生命保険を解約したくないときの対処法として、次にあげる制度を利用することが考えられます。

契約者貸付制度を利用する

契約者貸付制度とは、保険契約を継続したまま、積み立てた解約返戻金の7割前後の範囲で払い戻しを受けられる制度です。

払い戻しを受け取った場合、本来の解約返戻金から契約者貸付分を控除した残額が財産として評価されます。
残額が20万円未満になれば、清算される財産の対象とはなりません。

ただし、受け取った契約者貸付分の取り扱いについては注意が必要です。

自己破産の申立てをするのに、契約者貸付制度を利用することについて合理的な説明をする必要があるためです。
たとえば、破産申立て費用や生活費、税金の支払などの使途といった理由であれば問題はありません。

しかし、預金として貯蓄や、生活費以外に浪費した場合は、債権者に分配すべき財産を不当に維持したとみなされることがあります。
この場合、自己破産による借金の免除が認められません。

生命保険の維持を目的として契約者貸付制度を利用する場合は、必ず事前に弁護士と相談するようにしましょう。

自由財産の拡張制度を利用する

自己破産の手続きでは、破産者の手続き中の生活を保障するため、生活に不可欠なものなど一定の財産を手元に残すことができます。
この財産を自由財産といい、現金99万円以下の現金や生活家財道具などが対象となります。

さらに、破産後の生活再建のために必要な範囲で、上記以外の財産を自由財産として扱ってもらうための手続きがあります。
この手続きは「自由財産の拡張」といい、裁判所に認められれば、生命保険も必要な範囲として維持できる可能性があります。
ただし、判断は基本的に破産管財人や裁判所によるため、必ず認められるものではない点に注意しましょう。

解約返戻金に相当する額を裁判所に積み立てする

裁判所へ解約返戻金に相当する額を預けることで、保険契約を維持できる可能性があります。

保険を解約するのは解約返戻金を債権者に分配するためであり、その相当額を代わりに用意することで契約を免れることができます。
特に、健康状態や高齢などが理由で生命保険に再加入することが難しい場合に検討する方法です。

なお、前提として事前に自由財産の拡張を申し立て、裁判所から認められることが必要です。

保険法上の介入権制度を利用する

解約返戻金の相当額を用意しようとしても、破産者の経済状況によっては困難な場合が少なくありません。

保険契約が解除されてしまうと、その受取人が重大な不利益を受ける可能性があります。
そこで、破産者以外の保険金受取人から解約返戻金の相当額を支払い、解除を免除してもらうことができる制度を「保険法上の介入権制度」といいます。

介入権により、保険金受取人の側から生命保険を維持継続することができます。

ただし、保険金受取人が解約返戻金の相当額を支払える経済力を持っていることが必要です。

不正な財産隠しは処罰される可能性がある

保険契約を維持したいからといって、以下のような行為をすると裁判所に財産隠しと判断される可能性があります。

  • 自己破産の手続き時に申告しない、事前に名義変更するなどの方法で、生命保険契約があることを隠したとき
  • 自己破産の手続き前に保険契約を解約し、解約返戻金があったことを隠したとき

財産隠しは破産法上で免責不許可事由として定められており、該当すると借金が免除されません。
場合によっては詐欺破産罪として刑罰を受ける可能性もあるため、手続きは適切に行うようにしましょう。

自己破産後は生命保険に入れる?

では、自己破産で生命保険を解約した後に、再び生命保険に加入することはできるのでしょうか。

自己破産をすると一定の職業に就けない、クレジットカードやローンが長期間利用できないなどの制約を受けることになります。

しかし、生命保険を含む保険加入については制約がないため、破産手続き中であっても再加入することができます

なお、自己破産手続き中に貯蓄タイプの保険に再加入した場合、解約返戻金が財産としてみなされると解約しなければならないのは同様です。
貯蓄タイプの生命保険に再加入したい場合は、自己破産の手続き後に申請することが望ましいでしょう。

まとめ

自己破産は、債権者への分配だけでなく、破産者の生活再建も目的としています。

そのため、原則として解約が必要な生命保険であっても、方法によっては契約を維持したまま破産手続きを進めることができます。

自己破産は手続きが複雑であり、適切な方法をとらなければ本来維持できる財産を失ってしまい、免責を得られないといった結果になりかねません。
また、裁判所によっては各地方で運用が異なる場合があります。

特に生命保険の継続を希望される場合は、弁護士に相談の上、対処法について適切なアドバイスを受けるようにしましょう。

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