東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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借金が返済できないほど膨れ上がってしまった場合、最終手段として利用されるのが自己破産です。
自己破産をすると、借金の返済が免除され、経済的な立て直しが容易になるメリットがあります。
しかし、ギャンブルが原因の借金となると話は別です。
ギャンブルによって大きな借金を抱えた場合、自己破産をしても借金を免除されない可能性が高くなります。
ただし、生活再建の余地があると裁判所に認めてもらうことで、例外的に免除を受けられるケースも少なくありません。
この記事では、ギャンブルによる借金の自己破産を成功させるコツや注意点、自己破産できない場合の対処法についてわかりやすく解説します。
ギャンブルによる借金を抱えて困っている方は、ぜひ参考にしてみてください。
Contents
結論として、ギャンブルによる借金は自己破産ができない可能性があります。
自己破産は債務者の財産を処分する代わりに、将来にわたって借金を免除する(=免責)手続きであり、一般的に、自己破産は借金の免除による経済の立て直しを目的としています。
したがって、裁判所から免責許可を得られなければ借金の返済義務がそのまま残り、自己破産の目的が達成できないことになります。
ギャンブルによる借金は、破産法に定められた免責不許可事由に該当します。
免責不許可事由に該当していても自己破産の申立て自体は可能ですが、裁判所による免責許可が得られない恐れがあります。
自己破産における免責不許可事由とは、裁判所が免責不許可を出すことができる理由を列挙した破産法上の規定です。
自己破産は借金を免除する強力な手続きであり、当事者に大きな影響を与えることから、破産法において厳密に規定されています。
免責の判断においても、破産法の規定が基本的な指針になります。
ギャンブルによる借金については、破産法252条1項4号に定められています。
第二百五十二条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと
上記に規定されている賭博とはギャンブルのことを指しています。
つまり、ギャンブルによって財産を使いすぎた場合、または、ギャンブル目的で多額のお金を借りた場合には、免責許可が受けられない可能性があることを規定しています。
なぜ、ギャンブルによる借金が免責不許可事由に含まれているのでしょうか。
競馬やパチンコなどのギャンブルは法律で認められているものの、大きな借金を背負うリスクがあります。
通常は収入の範囲内で利用することが想定されていますが、度を超えてお金を注ぎ込んでしまう人も少なくありません。
債務者がギャンブルによって借金を抱えてしまった場合でも、簡単に自己破産ができると、債権者の不利益が大きすぎると言えます。
ギャンブルにいくら注ぎ込んでも、自己破産で借金を帳消しにすればよいことになるためです。
実質的に、ギャンブルのリスクを債権者が負うことになってしまいます。
したがって、ギャンブルによる借金の免除は、原則として認められないとされています。
ギャンブルによる借金は免責不許可事由に該当しますが、ただちに免責不許可になるわけではありません。
免責不許可事由とは、あくまでも「免責不許可にできる事由」であり、必ずしも免責不許可になるとは限らないためです。
最終的な免責許可・不許可の判断は裁判官が下します。
免責を判断するにあたって、裁判官は債務者の状況や行動を総合的に評価します。
裁判官の裁量により免責許可を受けることを「裁量免責」と呼びます。
裁判官が裁量免責を認めるケースとしては、「ギャンブルによる影響が比較的軽微なケース」や「債務者に反省が見られるケース」が挙げられます。
では、それぞれ解説します。
ギャンブルによる借金が免責不許可事由になるのは、ギャンブルを原因として財産を著しく減少させた場合や、多すぎる債務を抱えた場合に限られています。
自己破産をするほど借金が膨れ上がっている場合、債務者は多かれ少なかれ浪費行動をしている可能性が高いでしょう。
免責許可の判断で問題になるのは、ギャンブルに費やした金額や内容です。
たとえば、一時的な衝動によりギャンブルに走ったものの、日常的にはギャンブルをしていないケースでは、ギャンブルによる影響が比較的軽微だと言えます。
一方、毎日のように賭博場に通い、損失が出るごとに借入れを繰り返しているようなケースでは、免責不許可となる可能性が高まります。
ギャンブルによる借金があっても、債務者に反省が見られれば、裁量免責を受けられる可能性があります。
そもそも自己破産は債務者の生活を立て直す機会を与える手続きです。
一度ギャンブルで失敗したからと言って、すぐに生活再建の機会を奪うのは妥当ではありません。
このため、自己破産手続き中の債務者の姿勢や言動は、裁判官の免責の判断に大きく影響します。
ギャンブルによる借金を深く反省し、今後は手を出さないだろうと認められるケースでは、裁量免責が期待できるでしょう。
ギャンブルによる借金は免責不許可事由に該当しますが、裁判官の裁量免責によって借金を免除できる余地があります。
裁判官は債務者の事情を考慮して、総合的に免責許可・不許可を判断します。
裁量免責を受けるには、免責を受けるだけの理由があることを裁判官に納得してもらう必要があります。
ここでは、ギャンブルによる借金の自己破産を成功させるコツを解説します。
ギャンブルによって借金を作ったにも関わらず、虚偽の申告をするのは避けなければなりません。
債務者の中には、免責許可を受けたいからと思わず嘘をついてしまう方がいます。
しかし、虚偽の申告は裁判官の心証を悪くするだけでなく、他の免責不許可事由に該当する恐れがあります。
借金額を過小報告する、あるいはギャンブルの頻度を少なく申告したとしても、借入頻度や引き出し額を見れば、いずれ嘘はバレてしまいます。
たとえ自分にとって不都合な内容に思えても、裁判上では偽りなく申告するようにしましょう。
ギャンブルによる借金があれば、裁判官との面談や書類提出を求められることがあります。
時には、ギャンブルをしたことを責めるような厳しい質問をされる場合もあるでしょう。
免責許可を受けるためには、裁判上の手続きにおいて誠実な姿勢を見せることが大切です。
裁判所からの協力依頼にはできる限り真摯に対応し、面談や提出の期日は守るようにしましょう。
ギャンブルによる借金に対する反省を示すには、反省文を提出することも効果的です。
反省文では、これまでの行動を深く反省している旨を述べた上で、どのように生活を再建していくかを記しておくとよいでしょう。
反省文に記載する内容としては、次のようなものが挙げられます。
反省文はテンプレートを丸写しするのではなく、必ず自分の言葉で丁寧に記述することをおすすめします。
ギャンブルによる借金を自己破産すると決めたら、その後ギャンブルをしてはいけません。
手続き中にギャンブルをしたことが発覚すると、裁判官の心証が悪くなる恐れがあります。
ギャンブルは免責不許可事由に該当しているため、通常の借金よりも難しい立場にあることを忘れてはいけません。
原則として免責が認められないところ、免責を得るためには裁判官に納得してもらう必要があります。
ギャンブルによる借金を免除したいと言いながら、ギャンブルを続けているようでは行動に一貫性がありません。
少なくとも自己破産手続き中はギャンブルに関わることをやめ、反省の姿勢を印象付けるようにしましょう。
ギャンブルによる借金で自己破産する場合、通常の自己破産よりも手続きが複雑になる可能性があります。
特に裁判官の心証が大切になるため、ひとつひとつの手続きを慎重かつ丁寧に進めなくてはならないためです。
債務者ひとりですべての手続きを行うとなると、精神的にも身体的にも大きな負担がかかります。
自己破産を成功させるためにも、できるだけ弁護士などの専門家のサポートを受けるようにしましょう。
ここからは、ギャンブルによる借金を自己破産するときの注意点を解説します。
ギャンブルによる借金を自己破産する場合、原則として管財事件として扱われます。
自己破産の手続きは「管財事件」と「同時廃止」の2種類に大別されます。
一般的に、通常の破産手続きは管財事件に該当します。
管財事件では、裁判所が選任した破産管財人によって、債務者の財産状況や借金の調査が行われます。
一方、債務者の保有財産がない場合や調査が必要ない場合には、破産管財人を選任せずに破産手続きを終える「同時廃止」が利用できます。
同時廃止では、管財事件よりも簡易的な手続きが可能ですが、原則としてギャンブルによる借金では適用できません。
そもそもギャンブルによる借金は免責不許可事由に該当しており、個別の事情について詳細な調査が必要となる可能性が高いでしょう。
たとえ処分できる財産がなくても管財事件となるため、債務者の負担は大きくなる傾向があります。
ギャンブルによる借金の自己破産では、手続きの費用が高くなる傾向があることに注意が必要です。
破産管財人が選任される管財事件では、裁判所費用に破産管財人の報酬が加算されるためです。
一般的に、破産管財人の報酬は20万円以上とされています。
財産状況や債務状況の管理・調査に時間がかかれば、さらに費用がかさむ恐れがあります。
ギャンブルを原因とした借金を自己破産する場合、手続きの期間は長くなる傾向にあります。
裁判官が免責許可・不許可の判断を下すにあたって、自己破産に至った経緯や生活再建の可能性を慎重に判断するためです。
場合によっては、何度も裁判所に出頭して面談を行うことや、詳細な書類の作成・提出を求められることもあります。
更生の余地があるかの判断が難しい場合は、一定期間の収支を報告させ、生活再建ができているかどうかを観察することがあります。
ギャンブルによる借金を自己破産する場合には、手続きの期間が延びる可能性を考慮して、時間に余裕を持って申し立てるようにしましょう。
ギャンブルによる借金の有無に関わらず、自己破産申立て後の競馬やパチンコ、スロット、宝くじなどのギャンブルは避けるべきです。
自己破産手続き中のギャンブルは、免責許可の判断に影響を及ぼす可能性が高いためです。
特に、ギャンブルによる借金で自己破産に至った場合、手続き中にギャンブルをすると反省の姿勢が見られないと判断されても仕方ありません。
たとえ裁判所に隠れてギャンブルをしたつもりでも、破産管財人の調査によってバレる確率は高いでしょう。
自分ではギャンブルの衝動を止められない場合、ギャンブル依存症である可能性があります。
ギャンブル依存症には適切な治療が必要であるため、自己破産手続きと同時に病院での診断を受けることをおすすめします。
過去にギャンブルによる借金で自己破産をした場合、2回目の自己破産は認められない可能性が高いでしょう。
何度もギャンブルを繰り返す債務者に更生の余地があるとは言いにくいためです。
なお、借金の理由を問わず、前回の免責許可から7年以内の自己破産申立ては免責不許可事由に該当します。
自己破産による免除を当てにして借金を繰り返していると見なされ、免責が受けられない可能性があることに注意しましょう。
前述したように、ギャンブルによる借金で自己破産する際には、原則として管財事件の扱いとなります。
管財事件は同時廃止と比べて、手続きにかかる裁判所費用が高くなります。
さらに、弁護士に依頼する場合には、別途弁護士費用が必要になります。
ここでは、自己破産にかかる費用について、裁判所費用と弁護士費用に分けて解説します。
管財事件における裁判所費用は、最低20万円以上かかります。
費用は債務者の事情によって変動しますが、20万〜50万円程度が相場です。
費用内訳 | 費用相場 |
---|---|
申立て手数料 | 1,000円〜1,500円 |
予納金 | 最低20万円〜(東京地裁の場合) |
予納郵券 | 4,400円 |
自己破産をする場合、弁護士費用は30万円から80万円が相場です。
費用内訳 | 費用相場 |
---|---|
相談料 | 5,000円〜1万円(30分あたり) |
着手金・報酬金 | 30万〜80万円 |
事務手数料 | 3万円程度 |
借金に困っている方にとって、弁護士費用は高く感じられるかもしれません。
しかし、ギャンブルによる借金は免責不許可事由に該当するため、免責許可を受けるには慎重に手続きを進める必要があります。
免責許可の確率を高めるためにも、弁護士への依頼を検討するようにしましょう。
ギャンブルによる借金を理由として、自己破産の免責許可が受けられない場合には、他の債務整理を検討しましょう。
自己破産以外の債務整理としては、次の3つが挙げられます。
免責不許可事由は破産法に定められた規定であり、ギャンブルによる借金が問題となるのは自己破産の手続きに限られます。
他の債務整理では、借金をした原因は問われません。
ただし、自己破産以外の債務整理では、すべての借金を免除できないことに注意が必要です。
あくまで借金の返済負担を減らす手続きであり、残った借金を完済するまでは返済義務が残り続けます。
ここでは、3つの債務整理の特徴について、自己破産と比較しつつ解説します。
任意整理とは、債務者と債権者が直接話し合い、借金の返済条件や返済額を再調整する手続きです。
裁判を介さずに行うため、手続きにかかる費用や時間が軽減できます。
基本的には、ギャンブルによる借金でも交渉可能です。
ただし、任意整理で交渉できるのは、返済期間の延長や利息カットなどにとどまり、元金を減らすことは難しいことが多いようです。
月々の返済負担は減らせますが、返済義務を免除されることはありません。
任意整理が向いている人は、次のような人です。
個人再生とは、債務者が無理なく返済できる計画を作成し、裁判所に認めてもらう手続きのことです。
借金額を5分の1〜10分の1まで大幅に減額できる代わりに、残った債務については3〜5年以内に完済する必要があります。
個人再生後に返済計画に基づいた返済ができなければ、債権者から計画の取り消しを申し立てられる可能性があるため、返済能力が特に重要です。
裁判上の手続きではありますが、借金の原因が問われることはありません。
個人再生が向いている人は、次のような方です。
特定調停とは、債務者と債権者との間に裁判所に入ってもらい、返済期間の延長や利息カットなどの返済条件を交渉する手続きです。
任意整理と似ていますが、手続きの進行は裁判所が選定した調停委員会が行います。
特定調停では、借金を作ることになった原因が問題になることはありません。
債権者との交渉を裁判所に任せられるため、債務者個人でも利用しやすいと言えます。
一方、借金全額が免責されることはなく、返済義務自体は残ることになります。
このため、少なくとも借金の元本を支払うだけの能力は必要です。
特定調停が向いている人は、以下のような人です。
自己破産は破産法に基づいた厳格な手続きであり、免責許可を受けるにも一定の要件を満たす必要があります。
またギャンブルによる借金は免責不許可事由に該当するため、自己破産をしても借金が免除されない恐れがあります。
裁判官の裁量免責を狙うには、ギャンブルをきっぱり辞め、誠実な姿勢で手続きを進めるようにしましょう。
あらかじめ弁護士に相談することで、手続きを順調に進められる可能性が高まります。