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自己破産をしても社長になれる!取締役の欠格事由や自己破産者が会社設立資金を得るための方法と共に解説

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!

この記事でわかること

  • 自己破産した人でも社長になることができるということがわかる
  • 取締役になることのできない欠格事由について知ることができる
  • 自己破産した人が会社を設立し資金調達する方法がわかる

経営していた会社が倒産し、自身も自己破産した場合は、もう一度社長になることができないと考えるかもしれません。

しかし実際には、自己破産した人でも法的には社長になることができます。

ただ、もう一度会社を設立するためには、いくつかの障害を乗り越えなければなりません。

ここでは、会社の取締役になることのできない人についても確認するとともに、再度会社を設立するための注意点を確認していきます。

自己破産をしても社長にはなれる

自己破産した人は、社長になることができないと考えているのであれば、それは大きな誤解です。

自己破産した人であっても、社長になることはできます。

旧商法では欠格事由となっていた

どうして自己破産した人は社長になることができないと考える人がいるのでしょうか。

それは、2005年まで存在していた旧商法が関係しているのでしょう。

旧商法では、自己破産したことが取締役の欠格事由とされていました。

つまり、自己破産した人は社長になることができないという規定があったのです。

当時、実際に自己破産した人などが、自己破産した場合は社長になれないと記憶しているため、今でもそう考える人がいるのです。

取締役と会社との関係

取締役は従業員と違い、会社と雇用契約を結ぶわけではありません。

取締役は、会社と委任契約を締結し、会社から仕事を委任されることとなるのです。

しかし、当事者の一方が死亡したり、破産手続開始決定を受けたりした場合には、その委任契約は終了することとされています。

会社と取締役との関係においても、取締役が自己破産の手続きを開始すると、会社との委任契約は終了することとなります。

そのため、そのまま取締役として会社にとどまることはできず、一旦は取締役としての地位を失うこととなるのです。

ただ、一旦は取締役から外れたとしても、その後取締役になることができるかどうかは別の問題です。

旧商法では、その後も取締役になることができないという制限が設けられていましたが、会社法ではどうなっているのでしょう。

会社法では欠格事由から除かれた

旧商法に代わって新たに制定された会社法では、自己破産したことは取締役の欠格事由から除かれています。

そのため、過去に自己破産を経験した人や、現在自己破産の手続きを行っている人でも、会社の取締役になることができます

会社の事業とは関係なく、自己破産したことで取締役を退任した人の場合、もう一度その会社の取締役になることができます。

また、自己破産した後に別の会社を設立して、その会社の代表取締役になることもできます。

取締役になれない4つの欠格事由


会社法が制定されたことで、自己破産しても取締役の欠格事由に該当しないこととされました。

それでは、会社法における取締役の欠格事由にはどのようなものがあるのでしょうか。

簡単にその内容を確認しておきましょう。

(1) 法人

法人は、会社の取締役になることができないこととされています。

この法人には、株式会社、有限会社のほか、社団法人、財団法人、医療法人など、あらゆるものが含まれます。

会社の取締役になることができるのは、法律用語でいうと「自然人」だけなのです。

(2) 成年被後見人もしくは成年被保佐人

成年被後見人とは、精神上の疾病や障害により判断能力を欠く状態にあり、家庭裁判所で審判を受けた者を言います。

また、成年被保佐人とは、精神上の疾病や障害により判断能力が著しく低下しており、家庭裁判所で審判を受けた者を言います。

成年被後見人または成年被保佐人に該当する者は、物事の正しい判断ができないおそれがあるため、取締役になることができません。

(3) 会社に関連する法令の罪を犯した一定の者

罪を犯した者については、そのことでただちに取締役になることができなくなるわけではありません。

ただ、犯罪の内容とその刑罰の内容により、2つの欠格事由が定められています。

まずは、会社法、証券取引法、破産法などの会社に関連する法律違反を犯した場合です。

法律違反を犯して、刑の執行が終わり、または刑の執行を受けなくなった日から2年を経過しない者は、取締役になることができません。

執行猶予により、実際には刑が執行されなかった場合でも、執行猶予期間が経過してからさらに2年間は取締役になれません。

(4) 会社に関連する法令以外の法令の罪を犯した一定の者

会社法や証券取引法以外の、法令違反により罪を犯した場合には、③とは異なる要件が定められています。

この場合は、罪を犯して禁固以上の刑に処せられ、あるいは刑を受けなくなるまでの者は、取締役になることができません。

したがって、罰金刑を受けた人については、欠格事由に該当しないため、取締役になることができます。

また、刑の執行猶予中の者は含まれないとされているため、懲役刑や禁固刑でも執行猶予がついている場合は取締役になれます。

自己破産することで制限される職業や資格

自己破産しても、取締役になることは可能であるとお分かりいただけたでしょう。

それでは、自己破産すると制限を受ける資格や職業にはどのようなものがあるのでしょうか。

制限を受ける職業

自己破産をすると事業を続けることができない職業には、顧客の金銭を取り扱うものや許認可を受けているものがあります。

生命保険募集人、質屋、貸金業者、証券外務員などは、顧客の金銭を取り扱う業種であるために制限を受けるものです。

また、警備員や旅行業務取扱主任者、建設業などは、都道府県などの許認可を得て事業を行っており、制限を受けることとなります。

制限を受ける資格

士業の中には、自己破産した場合に制限を受けるものがあります。

弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、行政書士、宅地建物取引士など、多くの資格が制限を受けることとなります。

ただ、○○士という名称の資格のすべてが制限を受けるわけではありません。

保育士、社会福祉士、介護福祉士などは、その制限の対象にはなっていません。

また、医師や看護師などの資格についても、自己破産したことによる制限を受けることはありません。

制限を受ける公務員

一般的に、公務員については自己破産による職業制限を受けません。

しかし、人事院の人事官や教育委員会の委員、公正取引委員会の委員などは、自己破産によりその職を解かれることがあります。

職業や資格の制限は一時的なものである

このように、自己破産により制限を受ける職業や資格は一部ではあります。

ただし、これらに該当してしまうと、資格を失ってしまい仕事を継続できないのではないかと心配な方もいるでしょう。

しかし、資格について制限を受けるのは、破産手続きの申立てから免責許可が決定するまでの期間に限られます

一般的には、この期間は3か月から6か月とされており、一生その資格を失うわけではありません。

ただ、数か月間は今までのように仕事ができない期間が生じてしまう可能性があります。

特に自身で開業している人の場合は、その間の収入を得る方法や顧客を守る方法を考えなければなりません。

現実的には自己破産者が会社を設立するのは難しい


自己破産した人であっても、会社の取締役になることができるため、新たに自分で会社を設立することも可能です。

しかし、法的には可能であっても、現実的に自己破産した人が新たな会社を設立するのは、難しいと言わざるを得ません。

それはなぜかと言うと、自己破産した人は金融機関の「ブラックリスト」に載ってしまうためです。

事業に関係する借金であっても、個人的な借金であっても、自己破産により借金の返済を免責された場合は、その記録は残ります。

このブラックリストに載ってしまうと、一定期間、その人は金融機関から融資を受けることができなくなるのです。

また、融資だけでなく、リース契約を締結できなくなり、クレジットカードを利用することもできなくなります。

ブラックリストへの登録期間は、債務整理の手続きを行ってから最低でも5年間とされています。

また、信用情報機関によっては、それより長い10年間とされている場合もあります。

つまり、5年から10年にわたって、金融機関から借り入れなどを行うことができないのです。

会社を設立するにあたっては、開業資金や運転資金、設備投資など多くの資金が必要です。

また、リース契約を利用したいと考えることも多くあるでしょう。

しかし、自己破産により自身の財産をほとんど失っていることから、自己資金だけでは会社を設立することはできません。

新たな借金ができない状態で会社を設立し、事業を行うことは非常に難しいのです。

自己破産者が会社設立資金を得るための方法

自己破産した人は、自己資金が十分にない上、金融機関からの融資を受けられない状況にあります。

そのため、会社を設立する際には、開業資金を確保することでさえままならない可能性があるのです。

そこで、民間の金融機関からではなく、公的融資を利用して開業する方法を知っておく必要があります。

自己破産したばかりの人でも利用できる制度があることから、これらの制度を利用して、新たなチャレンジを始めてみましょう。

自己破産する場合の自由財産とは

自己破産した場合、基本的には個人の財産はすべて差し押さえられ、換価処分のうえ債権者に分配されます。

しかし、すべての財産を換価処分してしまうと、自己破産後の生活を送ることもできなくなってしまいます。

そこで、自己破産してもごく一部の財産については、換価処分の対象から除外されます

この財産のことを「自由財産」と言うのです。

自由財産として認められるものは、以下のとおりです。

  • (1) 99万円以下の現金
  • (2) 差し押さえが禁止された財産(生活必需品や食料など)
  • (3) 破産開始決定後に取得した財産
  • (4) 破産管財人が破産財団から放棄した財産(財産価値が低いものや、換価のための費用がかかり過ぎるものなど)
  • (5) 自由財産の範囲が拡張された財産(育児や介護など個別の事情に配慮してくれる)

自由財産に該当するものについては差し押さえの対象から外れ、手元に残しておくことができます。

ただ、新たな会社の開業資金とするにはあまりにも金額が少ないため、実際にこの財産だけで開業するのは難しいのです。

再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)

民間の金融機関での資金調達が難しいため、自己破産した人でも利用できる制度で資金調達を行う必要があります。

最初に紹介するのは、日本政策金融公庫の「再挑戦支援資金」です。

これは、新たに開業する人または開業後7年以内の人を対象とする融資制度です。

過去に廃業した経験を有する人が経営する法人でも利用することができます。

新たに事業を始めるため、または開業後の設備資金や運転資金について、最大7200万円(うち運転資金4800万円)の融資を受けられます。

基本的には担保や保証人が必要とされることや、自己資金が3割程度必要とされる点には注意が必要です。

新創業融資制度

再挑戦支援資金と同じく、日本政策金融公庫が実施している融資制度です。

ただ、再挑戦支援資金とは融資限度額や利用要件などに違いがあります。

利用できる人は、新たに事業を始める人または事業開始後税務申告を2期終えていない人とされています。

また、雇用の創出を伴う事業を始める人や、現在勤務している企業と同業種の事業を始める人などの要件に該当する必要があります。

また、新たに事業を始める人や税務申告を1期終えていない人については、1割以上の自己資金があることが要件とされています。

融資限度額は3000万円であり、このうち1500万円が運転資金とされています。

担保や保証人は原則不要とされていますが、その分借入利率は高めに設定されています。

まとめ

自己破産した人であっても、会社の取締役に就任したり、新たに自分で会社を設立したりすることは可能です。

しかし、自分で会社を作る場合、金融機関から融資を受けることができないという制約があります。

そのため、思いどおりに会社の事業を立ち上げることができない可能性もあるのです。

そのような場合には、日本政策金融公庫の融資制度を利用して、資金調達を行うことも考えておく必要があります。

様々な要件がありますが、これに該当すれば融資を受けることは可能です。

ぜひ、新たな気持ちで起業にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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