東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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Contents
「自己破産をすると起業はできない」と思っている人も多いかもしれませんが、自己破産をしても起業は可能です。
自己破産をした場合、自己破産をしていない人の起業と比べてどのようなハンディキャップがあるのかについて、説明していきます。
もともと社長など起業の代表者や役員の地位にあった人は、自己破産するといったん退任しなければなりません。
しかし、自己破産をして免責が確定すると復権し、法律上は全ての制限が解除されます。
「免責」とは、負債の返済義務を免除する裁判所の決定のことです。
裁判所が出した免責許可決定が確定すれば、自己破産したことで受けていた制限が全て解除され、さまざまな権利が復活します。
つまり、自己破産後は一切の法律上の制限がなくなるので、自由に起業することができます。
ただし、自己破産すると新たな借入は原則としてできなくなります。
なぜなら、自己破産したことが信用情報機関に事故情報として登録されてしまうためです。
信用情報機関に事故情報が登録されると、ほとんどの金融機関や貸金業者はお金を貸してくれなくなります。
この状態に陥ることが、俗にいう「ブラックリスト」に載せられた状態です。
これは法律上の制限ではありませんが、金融機関や貸金業者は貸付を行う際に申込者の返済能力を確認するため、ブラックリストに載っている人にはお金を貸さないのです。
自己破産した情報は10年間、信用情報機関から消去されません。
したがって、自己破産後10年間は原則として新たな借入をすることはできません。
自己破産をしてブラックリストに載せられてしまうと、生活費のための借金だけでなく、起業のための融資も原則として受けることができなくなります。
特に、銀行や信用金庫などの金融機関の融資は、消費者金融などからの借金よりも審査が厳しく行われるため、事業者向けの一般的な融資を受けることはほぼ不可能です。
もちろん、融資を受けなくても起業できる場合は問題ありません。
しかし、融資を受けられないとできることは限られてしまいますし、事業を運営していく中で融資が必要となることも多々あるはずです。
したがって、自己破産後に起業は可能であるものの、資金の面でハンディキャップがあることは否定できません。
自己破産をしたら社長にはなれない、ということを聞いたことがある人も多いでしょう。
そこで、自己破産したら会社の代表や取締役の立場がどうなるのかをご説明します。
取締役と会社とは、民法上の委任契約で結ばれた関係にあります。
社長も「代表取締役」という取締役にあたるので、同様です。
民法上の委任契約は、当事者のどちらかが自己破産をすると終了すると定められています。
つまり、取締役が自己破産をすると会社との契約関係が終了するため、いったん退任しなければなりません。
この意味で、自己破産すると社長になれないというのは事実です。
以前に適用されていた「商法」では、自己破産した人は会社の取締役にはなれないと定められていました。
しかし、2006年5月からは、会社に関することは商法ではなく、新しく施行された「会社法」が適用されることになりました。
会社法では、自己破産した人が会社の取締役になれないという規定はありません。
そのため、取締役が自己破産をすると民法の規定に従っていったん退任する必要があるものの、すぐに再任されることは可能です。
したがって、自己破産した人でも個人事業で起業することはもちろん、法人を設立して社長になることもできます。
自己破産をして免責が確定すると全ての制限が解除されますが、自己破産の手続き中はいくつかの制限があります。
その制限のために起業が難しくなる場合もあります。
そこで、自己破産の手続き中にどのようなことが制限されるのかをご説明します。
ただし、以下の制限が課せられるのは自己破産の手続き中のみです。
免責が確定した後は、制限なく起業することが可能になります。
自己破産手続き中は、一定の資格や職業に就くことができなくなります。
主に「士業」と呼ばれる資格や、他人のお金を扱う職業には就くことができません。
制限される資格・職業の代表的なものは以下のとおりです。
自己破産手続き中に制限される資格・職業
これらの資格や業種で起業したい場合は、免責が確定するまで待ちましょう。
自己破産をすると、負債の返済義務が免除される代わりに所有財産を処分しなければなりません。
ただし、すべての所有財産を処分しなければならないわけではありません。
以下の財産は自己破産をしても手元に残すことができます。
自己破産をしても手元に残せる財産
基本的には、当面の生活に必要なもの以外の財産は処分することになります。
起業のために高価な設備などが必要な場合は、自己破産後に入手する必要があります。
自己破産の手続き中は原則として決まった住居に住まなければなりません。
引っ越しや3日以上の旅行をする場合は、裁判所の許可が必要になります。
起業する際、場合によってはお住まいの地域から遠方に滞在する必要があるかもしれません。
裁判所の許可を得れば問題はありませんが、免責が確定してから起業する方が無難でしょう。
自己破産をすると原則として融資を受けられないことは説明しましたが、自己破産した人でも利用できる「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」という融資制度もあります。
起業に際して融資が必要な場合は、この制度を活用するとよいでしょう。
ここでは、再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)の概要や注意点についてご説明します。
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)とは、廃業や自己破産などをした、一度事業に失敗した人を対象として日本政策金融公庫が提供している融資制度のことです。
この融資制度は、創業に再チャレンジする人を支援してくれるものです。
「一度事業に失敗した」というのは過去に廃業した経験があることを意味しますが、自己破産した人でも利用できるのがこの融資制度の特徴です。
国民生活事業 (個人の場合) | 中小企業事業 (中小企業の場合) | |
---|---|---|
限度額 | 7,200万円(うち運転資金は4,800万円) | 7億2,000万円(うち運転資金は2億5,000万円) |
返済期間 | 設備資金20年以内(うち据置期間2年以内) 運転資金7年以内(うち据置期間2年以内) | 設備資金20年以内(うち据置期間2年以内) 運転資金7年以内(うち据置期間2年以内) |
この融資制度の対象となるのは、新たに開業する場合または開業後おおむね7年以内で、次の条件を全て満たす人です。
再挑戦支援資金の利用条件
資金の使い途は、設備資金だけでなく運転資金も認められます。
融資限度額は、個人での起業の場合と中小企業を起業する場合で次のように異なります。
再挑戦支援資金の融資限度額
返済期間は、個人・中小企業とも以下のとおりです。
再挑戦支援資金の返済期間
この再チャレンジ支援融資の制度を利用する場合は、次の3点に注意が必要です。
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)は廃業経験者の再チャレンジを支援する制度です。
廃業歴がない場合は、この融資制度の対象にはなりません。
この融資制度の利用条件として、「廃業したときの負債が起業後の事業に影響を及ぼさない程度に整理される見込みがあること」が必要とされています。
自己破産をしても免責を受けていない場合は、負債の返済義務が免除されていないため、事業後の事業に影響を及ぼすおそれが高いと判断されるでしょう。
その場合、融資を申し込んでも断られてしまいます。
再挑戦支援資金は、利用条件さえ満たせば必ず融資を受けられるというわけではありません。
日本政策金融公庫による審査を通過することが必要です。
審査においては、利用条件を満たしているかどうかだけでなく、事業計画や収支計画、返済能力などについて個別に確認されます。
多くの場合、保証人や担保が必要になるといわれています。
再挑戦支援資金制度の利用が難しい場合は、同じく日本政策金融公庫が提供している「新創業融資制度」の活用を考えてみましょう。
新創業融資制度は再挑戦支援資金制度よりも融資限度額が低く設定されていますが、無担保・無保証で融資が受けられるというメリットがあります。
融資限度額が低いとはいえ、最大で3,000万円の融資を受けることが可能なので、検討する価値はあるでしょう。
注意点として、以下のように再挑戦支援資金制度よりも細かな利用条件があるので、利用する際は確認が必要です。
新創業融資制度の対象となるのは、以下の要件のいずれかを満たす人です。
新創業融資制度の対象
上記の条件に当てはまるかどうか、事前に確認しておきましょう。
新創業融資制度を利用するためには、起業する事業について雇用の創出を伴う、つまり従業員を雇うなど必要があるなどといった要件もあります。
ただし、この制度による貸付金残高が1,000万円以内の場合はこの要件を満たすものとみなされます。
これから新たに事業を始める人と事業を始めてから税務申告を1期終えるまでの人については、開業資金について10分の1以上の自己資金があることが要件とされています。
ただし、現在お勤めの起業と同じ業種の事業を始めるなどの場合は、この要件を満たすものとみなされます。
自己破産をしても、免責が確定すれば起業は自由にできます。
しかし、金融機関や貸金業者から融資を受けることが難しいため、資金繰りに苦労するというデメリットがあることは否定できません。
そんなときに活用できるのが、再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)ですが、必ずしも審査に通るとは限りません。
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)で融資を受けるためには、起業後の事業計画や収支計画をしっかりと練ることがポイントとなります。
もし条件に当てはまらず融資を受けられない場合は、新創業融資制度の活用も考えてみてください。
起業の準備を万全に整えて、再チャレンジを成功させましょう。