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事業再生ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、経営難に陥った企業が金融機関の協力を得ながら事業の再建を目指すための私的整理手続きです。金融機関との調整を円滑に進めるための各種支援措置が用意されていることも特徴です。
事業再生ADRは、会社の債務整理手続きのうち「私的整理」に分類される事業再生手続きです。
会社の債務整理は、大きく「法的整理」と「私的整理」に分けられます。
| 区分 | 主な手続き |
|---|---|
| 法的整理 | 破産、特別清算、民事再生、会社更生 |
| 私的整理 | 事業再生ADR、任意整理による私的交渉、中小企業活性化協議会による再生支援など |
法的整理とは、裁判所が関与する債務整理手続きです。一方、私的整理とは、裁判所を介さずに債権者との協議によって事業再生を目指す手続きをいいます。
事業再生ADRでは、主に金融機関を対象として返済条件の変更や債務免除などについて協議を行い、事業の継続を前提とした再建を目指します。そのため、会社を清算する破産手続きとは異なり、事業や雇用を維持しながら経営の立て直しを図れる点が特徴です。
また、一般的な私的整理と比べて、中立的な第三者が関与しながら手続きを進める仕組みが整備されているため、公平性や透明性を確保しやすいという特徴もあります。
事業再生ADRは、「私的整理」と「法的整理」の特徴を併せ持つハイブリッド型の事業再生手続きといわれています。
私的整理の特徴としては、原則非公開で進められることや、事業を継続しながら柔軟な再建計画を策定できることが挙げられます。一方で、法的整理のように中立的な第三者が関与し、公平性や透明性が確保される仕組みも備えています。
また、企業再生税制の活用やつなぎ融資(プレDIPファイナンス)など、一般的な私的整理では利用しにくい制度を活用できる点も特徴です。
このように、私的整理の柔軟性と法的整理の信頼性を組み合わせた制度であることから、事業再生ADRはハイブリッド型の再生手続きと評価されています。
事業再生ADRは、2007年の制度創設以降、多くの企業の事業再生に活用されています。
経済産業省によれば、2025年3月までに累計102件(337社)が事業再生ADRの利用を申請しており、このうち73件(291社)で事業再生計画案について対象債権者全員の同意が得られています。
一方、不成立または取下げとなった案件は27件(48社)、継続中の案件は2件(3社)となっています。

引用:事業再生ADR制度について|経済産業省
事業再生ADRは、特に法的整理による信用低下を避けたい企業や、事業価値を維持したまま再建を目指したい企業によって利用される傾向があります。
実際の利用企業としては、ジーンズメーカーのエドウインや、書店チェーンを展開する文教堂グループホールディングスなどが知られています。
| 企業名 | 主な再建手法 |
|---|---|
| エドウイン | 金融機関による約230億円の債権放棄に加え、伊藤忠商事の完全子会社となる再建計画について銀行団の同意を取得し、事業再生ADRが成立した。 |
| 文教堂グループホールディングス | 金融機関による支援に加え、主要株主である日本出版販売株式会社によるDES(Debt Equity Swap)などの金融支援を受けながら経営再建を進めた。 |
このように、事業再生ADRは倒産を回避しながら事業の継続を目指すための手段として、上場企業を含むさまざまな企業で活用されています。
事業再生ADRには、民事再生や会社更生などの法的整理にはないさまざまなメリットがあります。
事業再生ADRの大きなメリットの一つが、原則として非公開で手続きを進められることです。
民事再生や会社更生などの法的整理では、裁判所への申立てが行われるため、その事実が公になりやすくなります。
一方、事業再生ADRは私的整理の一種であり、裁判所を介さずに進めるため、原則として手続開始の事実が公表されません。そのため、取引先や顧客、従業員などに与える影響を抑えながら再建を進めることができます。
もっとも、上場企業の場合は適時開示が必要となるケースがあるため、必ずしも完全に秘密裏に進められるとは限りません。
事業再生ADRは、会社を清算するための手続きではなく、事業の継続を前提とした再建手続きです。そのため、事業そのものの収益力やブランド価値、人材、取引先との関係などを維持しながら経営改善を図ることができます。
法的整理では、信用不安から顧客や取引先が離れたり、優秀な従業員が流出したりするケースも少なくありません。
これに対し、事業再生ADRでは事業価値の毀損をできるだけ避けながら再建を進められるため、企業価値の最大化につながる可能性があります。
事業再生ADRでは、裁判所が定める厳格な手続きに従う必要がないため、企業の実情に応じた柔軟な再建計画を策定できます。
たとえば、返済期間の延長や元本の一部免除、DES(債務の株式化)、スポンサー支援の導入など、企業の状況に応じた再建スキームを組み合わせることが可能です。
また、事業譲渡や不採算事業の整理なども含め、関係者と協議しながら再建計画を作成できるため、法的整理に比べて柔軟な対応が期待できます。
事業再生ADRでは、一定の要件を満たすことで企業再生税制などの優遇措置を利用できる場合があります。
通常、金融機関から債務免除を受けた場合には、その免除額が「債務免除益」として課税対象となる可能性があります。しかし、事業再生ADRに基づく再建計画が一定の要件を満たす場合には、繰越欠損金の活用や資産評価損の計上などが認められ、税負担を軽減できることがあります。
税負担の軽減は再建計画の実現可能性にも大きく影響するため、事業再生ADRの重要なメリットの一つといえるでしょう。
事業再生ADRは、すべての企業に適した手続きというわけではありません。利用にあたっては、債権者との合意形成が必要になることや、一定の費用負担が発生することなど、いくつかのデメリットも存在します。
事業再生ADRでは、再建計画を成立させるために対象となる債権者全員の同意が必要です。
民事再生や会社更生では、多数決によって再生計画が認可される場合があります。しかし、事業再生ADRはあくまで私的整理であるため、一部の債権者が反対した場合には原則として計画を成立させることができません。
そのため、金融機関が多数存在する場合や、債権者間の利害調整が難しい場合には、手続きが長期化したり、不成立となったりする可能性があります。再建計画の内容だけでなく、債権者との信頼関係や事前調整も重要となる点に注意が必要です。
事業再生ADRを利用する場合、一定の費用負担が発生します。具体的には、事業再生実務家協会へ支払う審査料や手続実施者への報酬のほか、再建計画の策定を支援する弁護士、公認会計士、税理士、コンサルタントなどの専門家費用も必要となります。
企業の規模や案件の複雑さによって異なりますが、数百万円から数千万円規模の費用が発生するケースも少なくありません。そのため、事業規模が比較的小さい企業にとっては、費用負担が利用のハードルとなる場合があります。
事業再生ADRは私的整理の一種ですが、純粋な私的整理に比べると手続き上のルールや制約が多くなります。
たとえば、事業再生ADRでは対象債権者間の公平性を確保する必要があるため、特定の金融機関だけを優遇するような再建計画は認められません。また、中立的な第三者が関与することから、手続きの透明性や合理性も求められます。
これに対し、純粋私的整理では債権者ごとに個別交渉を行うことができるため、より柔軟な条件設定が可能な場合があります。
もっとも、事業再生ADRは公平性や透明性が確保されていることから、金融機関の理解を得やすく、企業再生税制などの各種支援措置を利用できるというメリットもあります。そのため、自由度と信頼性のどちらを重視するかを踏まえて手続きを選択することが重要です。
事業再生ADRは、事業再生実務家協会が選任する手続実施者の関与のもと、金融機関との協議を重ねながら事業再生計画の成立を目指す手続きです。
一般的には、申請から事業再生計画の成立まで約3カ月程度で進められることが多く、民事再生などの法的整理に比べて迅速な解決が期待できます。
【事業再生ADRの流れ(モデルケース)】
| 手続の流れ | 内容 |
|---|---|
| ① 利用申請 | 会社が事業再生実務家協会へ事業再生ADRの利用を申請する |
| ② 一時停止通知の発送 | 金融機関に対して債権回収や法的整理申立ての一時停止を要請する |
| ③ 第1回債権者会議 | 会社が事業再生計画の概要を説明し、対象債権者全員から手続きへの参加について同意を得る |
| ④ 事業再生計画案の策定 | 会社と専門家が協力して具体的な再建計画を作成する |
| ⑤ 手続実施者による調査・検証 | 手続実施者が事業再生計画の合理性や実現可能性を調査する |
| ⑥ 第2回債権者会議 | 事業再生計画案の内容や調査結果について説明・協議を行う |
| ⑦ 第3回債権者会議 | 対象債権者全員の同意を得られれば事業再生計画が成立する |
| ⑧ 再建計画の実行 | 債務免除や返済条件の変更、スポンサー支援などを実行し、事業再建を進める |
事業再生計画が成立するためには、対象となる金融機関全員の同意が必要です。反対する金融機関が存在し、全員一致が得られなかった場合には、事業再生ADRは不成立となります。
もっとも、不成立となった場合でも、特定調停の特例や民事再生などの法的整理へ移行できるケースがあるため、直ちに再建の可能性が失われるわけではありません。
事業再生ADRでは、事業再生を円滑に進めるために、さまざまな支援措置が用意されています。
事業再生ADRでは、取引先に対する商取引債権の弁済を円滑に進めるための仕組みが設けられています。
仕入先や外注先への支払いが止まると、商品の供給やサービス提供が停止し、事業継続に大きな支障が生じるおそれがあります。そのため、事業再生ADRでは、特定認証紛争解決事業者が、商取引債権が少額であることや、早期に弁済しなければ事業継続に著しい支障を来すことなどを確認します。
仮にその後、民事再生や会社更生などの法的整理に移行した場合でも、裁判所はこの確認結果を考慮したうえで、商取引債権を他の再生債権・更生債権より優先して弁済できるかを判断します。
これにより、取引先との関係を維持しながら、事業再生を進めやすくなります。
事業再生ADRでは、社債の元本減免を含む再建計画を進めやすくする仕組みも整備されています。
社債の元本減免を行うためには、社債権者集会の決議や裁判所の認可が必要となる場合があります。事業再生ADRでは、特定認証紛争解決事業者が、社債の元本減免が事業再生に合理的に必要であることや、社債権者にとっても経済的合理性があることなどを確認します。
その後、社債権者集会決議について裁判所の認可が申し立てられた場合、裁判所はこの確認結果を考慮して判断します。
これにより、社債を抱える会社でも、私的整理の段階で社債の元本減免を含む再建計画を進めやすくなります。
事業再生ADRでは、手続き期間中の資金繰りを支えるため、つなぎ融資(プレDIPファイナンス)を受けやすくする仕組みが整備されています。
つなぎ融資とは、事業再生ADRの開始から終了までの間に、事業継続や資金繰りのために必要となる融資のことです。経営状態が悪化している企業は新たな融資を受けにくくなるため、法的な優遇措置や公的保証制度によって資金調達を円滑化する仕組みが設けられています。
【つなぎ融資債権の優先弁済に関する蓋然性の向上】
事業再生ADRでは、特定認証紛争解決事業者が、つなぎ融資について「資金繰りのために合理的に必要であること」「対象債権者全員の同意を得ていること」を確認します。
事業再生ADRが不成立となり法的整理へ移行した場合には、裁判所はこれらの確認結果を踏まえ、つなぎ融資に関する債権の優先弁済を認めるべきか判断します。
これにより、法的整理へ移行した場合でもつなぎ融資の優先弁済が認められる可能性が高まり、金融機関は安心して融資を実行しやすくなります。
【中小企業基盤整備機構による債務保証】
事業再生ADRの手続き期間中に実施されるつなぎ融資については、独立行政法人中小企業基盤整備機構による債務保証制度を利用できる場合があります。
主な保証内容は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保証限度額 | 5億円 |
| 保証割合 | 借入元本の50% |
| 資金使途 | 事業継続に欠くことのできない運転資金 |
| 保証期間 | 1年以内 |
| 保証料 | 年1.0%(担保徴求時は0.5%) |
| 担保 | 原則不要 |
| 保証人 | 原則として代表者保証が必要(金融機関が徴求していない場合は免除可能) |
【事業再生円滑化関連保証】
中小企業が事業再生ADRの手続き中につなぎ融資を受ける場合には、事業再生円滑化関連保証(中小企業信用保険法の特例)を利用できる場合があります。
主な内容は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保証枠 | 普通保険2億円、無担保保険8,000万円、特別小口保険2,000万円を別枠で利用可能 |
| 填補率 | 普通保険 70%→80%へ引上げ |
| 保険料率 | 普通保険・無担保保険1.69%、特別小口保険0.4%(一定の場合はさらに低率) |
このような優遇措置によって、中小企業でも事業再生ADRの手続き期間中に必要な運転資金を確保しやすくなり、再建計画の策定や事業継続を円滑に進めることが期待できます。
事業再生ADRでは、再建計画が成立した後の資金調達を支援する制度も用意されています。
事業再生は、計画が成立しただけで完了するわけではありません。計画を実行するためには、運転資金や設備投資資金などが必要になることがあります。
中小企業については、事業再生ADRで成立した事業再生計画を実施するために必要な資金について、事業再生計画実施関連保証(中小企業信用保険法の特例)を利用できる場合があります。この制度では、保証枠の別枠化、填補率の引き上げ、保険料率の引き下げなどの特例が設けられています。
これにより、事業再生ADRの手続き終了後も、金融機関の支援を受けながら再建計画を実行しやすくなります。
事業再生ADRでは、債権放棄を伴う事業再生計画が成立した場合、企業再生税制等の適用を受けられることがあります。
通常、金融機関から債務免除を受けると、その免除額は「債務免除益」として課税対象となる可能性があります。しかし、事業再生ADRでは一定の税務上の優遇措置が認められており、再建の妨げとなる税負担を軽減できる場合があります。
【債務者企業に対する措置】
| ① 資産評定による評価損を損金算入できる | 事業再生ADRに基づく資産評定によって生じた評価損を損金として計上できます。 |
| ② 期限切れ欠損金を優先して利用できる | 評価損の計上後も利益が残る場合には、期限切れ欠損金を青色欠損金より優先して利用できます。 |
| ③ 青色欠損金を利用できる | 上記①・②を適用した後も課税所得が残る場合には、青色欠損金による相殺が可能です。 |
【債権者に対する措置】
| 債権放棄による損失を損金算入できる | 事業再生ADRに基づく再建計画に沿って実施された債権放棄については、原則としてその損失を損金として計上できます。 |
このように、債権者側にも税務上のメリットが認められているため、金融機関などが債権放棄に応じやすくなり、事業再生計画の成立を後押しする効果が期待されています。
事業再生ADRでは、対象債権者全員の同意を得られず、不成立となることもあります。このような場合でも、特定調停法の特例により、事業再生ADRで行われた資産評定などの結果を活用しながら、特定調停へ移行できる場合があります。
通常、特定調停では、裁判官に加えて複数の民事調停委員による調停委員会が関与します。もっとも、事業再生ADRを利用した企業が特定調停を申し立てた場合、裁判所は、事業再生ADRで資産評定などがすでに実施されていることを考慮し、裁判官のみで調停を行うことが相当かを判断します。
また、民事再生や会社更生へ移行する場合にも、事業再生ADRで手続実施者が和解の仲介をしていたことが、監督委員の選任などで考慮される仕組みがあります。
このように、事業再生ADRには、私的整理が不成立となった場合でも、法的整理へ円滑に移行しやすくする仕組みが整備されています。
事業再生ADRは、金融機関との調整や再建計画の策定など、高度な専門知識が求められる手続きです。そのため、利用を検討している段階から事業再生に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士に相談する主なメリットは以下のとおりです。
事業再生ADRは対象債権者全員の同意が必要であり、準備不足のまま手続きを進めると不成立となるおそれがあります。事業再生の成功可能性を高めるためにも、早い段階で弁護士へ相談することが重要です。
事業再生ADRは裁判所を利用しない私的整理であるのに対し、民事再生は裁判所を利用する法的整理です。
事業再生ADRは原則として非公開で進められるため、取引先や顧客への影響を抑えやすいというメリットがあります。一方で、再建計画を成立させるためには対象債権者全員の同意が必要です。
これに対し、民事再生では裁判所の関与のもと手続きを進めるため、一定の多数決によって再生計画が認可される場合があります。
はい、上場企業も事業再生ADRを利用できます。実際に、文教堂グループホールディングスなど、多くの企業が事業再生ADRを活用して事業再建を進めてきました。
もっとも、上場企業の場合は適時開示義務があるため、事業再生ADRの利用が公表されるケースがあります。
事業再生ADRを利用したからといって、既存株主の株式が直ちに消滅するわけではありません。
もっとも、再建計画の内容によっては、DES(債務の株式化)や第三者割当増資、減資などが実施されることがあります。
その結果、既存株主の持株比率が低下したり、経営権がスポンサー企業へ移転したりする可能性があります。
事業再生ADRでは、一般的に金融機関などの金融債権者を対象として債務調整を行います。そのため、仕入先や外注先などの商取引債権者に対して債務免除を求めることは通常想定されていません。
むしろ、事業継続を図る観点から、商取引債権については従来どおり支払いを継続し、取引関係を維持することが前提となるケースが多くなっています。
事業再生ADRは、私的整理の柔軟性と法的整理の公平性・透明性を兼ね備えたハイブリッド型の事業再生手続きです。
原則として非公開で進められるため、取引先や顧客への影響を抑えながら事業再建を目指せるというメリットがあります。また、商取引債権の優先弁済やプレDIPファイナンス、企業再生税制などの支援措置を活用できる点も特徴です。
もっとも、対象債権者全員の同意が必要であることや、専門家費用などのコストがかかることから、すべての企業に適した手続きとは限りません。自社にとって事業再生ADRが最適な選択肢か判断に迷う場合は、事業再生に詳しい弁護士へ早めに相談することをおすすめします。
相談先に迷ったら、法人破産に精通している「VSG弁護士法人」までぜひお気軽にご相談ください。それぞれの状況に合わせて、最適な解決策をご提示させていただきます。