最終更新日:2024/5/17
会社移転登記(法人移転登記)をしないとどうなる?手続きの流れや注意点
ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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この記事でわかること
- 会社移転登記(法人移転登記)の概要
- 会社移転登記をしなかったときの影響
- 会社移転登記の流れ・必要書類
- 会社移転登記にかかる費用・期間
- 会社移転時に登記申請以外に必要な届出
- 会社移転登記をする際の注意点
オフィスが手狭になったときや、立地条件のよい物件が見つかると、会社を移転する場合があります。
会社を設立するときは法務局に本店所在地を登記しているので、移転した場合は会社移転登記をしなくてはなりません。
しかし、会社の移転後は通常業務と荷物整理などを並行するため、うっかり会社移転登記を忘れてしまい、そのまま放置されているケースが少なくありません。
会社移転登記を怠った場合、取引先との関係や資金調達に影響が出やすく、裁判所からペナルティを科せられる可能性もあるので注意しましょう。
今回は、会社移転登記しなかったときの影響や、移転登記の流れや必要書類などをわかりやすく解説します。
会社移転登記(法人移転登記)とは
会社移転登記(法人移転登記)とは、個人の住所変更にあたる手続きです。
会社を法人登記した場合、本店所在地も登記事項証明書に記載されるため、本社の住所が変わったときは法務局に会社移転登記を申請しなければなりません。
個人の住民票や戸籍と異なり、会社の登記事項証明書は広く一般に公開されるので、常に最新の情報を登記しておく必要があります。
また、登記事項証明書に記載されている代表取締役の住所が変わったときも、変更登記が必要になるので速やかに変更登記を行うように注意してください。
会社移転登記をしないとどうなる?
会社移転登記の放置を登記懈怠(けたい)といい、裁判所からペナルティを科される可能性があります。
登記事項証明書の記載内容は社会的信用にも関わるため、会社移転登記を怠ると以下のような悪影響が発生するでしょう。
会社の信用を失う可能性がある
会社移転登記をしなかった場合、会社の信用を失ってしまう可能性があるので要注意です。
各企業が取引先を開拓する際、登記事項証明書を調査するケースが多いので、現住所と登記上の住所が違っていると信頼性を疑われます。
金融機関も融資の際に登記事項証明書を確認するため、会社移転登記を怠ると「ずさんな経営」と判断されてしまい、資金調達が難しくなります。
また、助成金や補助金の申請時にも登記情報はチェックされるので、会社移転登記をしなかった場合、資金繰りが悪化する恐れもあるでしょう。
代表者個人に100万円以下の過料を科せられる可能性がある
会社移転登記を怠ると、代表者個人に100万円以下の過料を科せられる可能性があります。
登記情報の変更は会社法第915条第1項に定められているため、会社を移転したときは、2週間以内に法務局へ会社移転登記を申請しなければなりません。
登記懈怠になっても直ちに過料を科せられるわけではありませんが、過料決定通知書はいつ届くかわからないので、会社移転登記は早めに済ませておきましょう。
会社移転登記の流れ・必要書類
会社移転登記を申請する場合、法務局の管轄が変わるかどうかで手続きの流れが異なります。
必要書類も法務局の管轄内・管轄外によって異なるので、詳細は以下を参考にしてください。
株主総会で会社移転を決議する
会社を移転する場合、株主総会の特別決議などが必要です。
議決権を行使できる株主のうち、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主が持つ議決権の3分の2以上の賛成があれば決議となります。
会社移転登記の際には株主総会の議事録を提出するので、必ず作成しましょう。
会社移転のスケジュール調整
株主総会による特別決議の後は取締役会を開き、会社の移転先やスケジュールを協議します。
取締役会では過半数の賛成を得て、その議事録を残してください。
取締役会を設置していない会社であれば、取締役の過半数の賛成が必要です。
社内や株主との調整が完了したら物件探しなどに取り掛かり、移転後は法務局に会社移転登記を申請します。
管轄法務局が変わらないときの会社移転登記と必要書類
会社の移転先が同じ法務局の管轄内であれば、移転日から2週間以内に管轄法務局へ以下の書類を提出します。
- 株式会社本店移転登記申請書
- 株主総会議事録と株主リスト(株主総会の特別決議を行った場合)
- 取締役会議事録(取締役会を設置している場合)
- 取締役の決定書(取締役会を設置していない場合)
- 委任状(代理人に登記申請を依頼する場合)
株式会社本店移転登記申請書は法務局の窓口、または法務局のホームページで入手できます。
管轄法務局が変わるときの会社移転登記と必要書類
会社移転によって管轄法務局が変わる場合、移転日から2週間以内に、移転前と移転先の法務局へ以下の書類を提出します。
- 株式会社本店移転登記申請書(2通)
- 株主総会議事録と株主リスト(株主総会の特別決議を行った場合)
- 取締役会議事録(取締役会を設置している場合)
- 取締役の決定書(取締役会を設置していない場合)
- 委任状(代理人に依頼する場合は新・旧法務局用に2通)
- 印鑑届書
- 印鑑カード交付申請書
なお、必要書類は移転前の法務局から移転先の法務局へ送付されるので、2カ所で会社移転登記を申請する必要はありません。
会社移転登記にかかる費用・期間
会社移転登記を申請する場合、費用と期間は以下のようになります。
管轄法務局が変わるときは約2倍の費用になるので、不足がないように準備してください。
会社移転登記にかかる費用
会社移転登記を法務局に申請するときは、以下の費用がかかります。
- 登録免許税:3万円(管轄法務局が変わる場合は6万円)
- 郵便切手代や交通費などの諸費用:数百円程度
- 司法書士費用:4~5万円程度
会社移転の登録免許税は一律3万円になっており(管轄法務局が変わる場合は6万円)、金融機関の窓口で納付できますが、収入印紙で納付するケースが一般的です。
収入印紙は郵便局やコンビニエンスストア、または法務局内の売店で購入しておきましょう。
なお、登記・供託オンライン申請システムに登録してオンライン申請する場合、登録免許税をネットバンキングで納付できます。
会社移転登記にかかる期間
会社移転登記を法務局に申請すると、1週間~10日程度で手続きが完了します。
法務局の繁忙状況によっては2週間程度かかる場合もありますが、会社移転登記が完了しても、特に通知はありません。
会社移転後の登記事項証明書を確認したいときは、登記・供託オンライン申請システムの登記情報提供サービスを利用すると便利です。
会社移転時に登記申請以外に必要な届出
会社を移転した場合、登記申請以外にも以下の届出が必要です。
期限が定められている届出もあるので、会社移転登記と同時進行できるようにスケジュール調整しておきましょう。
税務署
会社の移転は税務署への届出が必要になるので、決められた期限内に以下の書類を提出します。
- 異動届出書
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(従業員を雇用している場合)
- 消費税異動届出書(課税事業者の場合)
- 登記事項証明書(異動届出書に添付)
会社移転によって管轄税務署が変わる場合、移転前の税務署にのみ届出すると、移転先の税務署へ書類を転送してもらえます。
必要書類の提出方法は税務署窓口へ持込みや郵送、またはe-Taxのいずれかです。
都道府県税事務所
会社を移転したときは、移転日から遅滞なく都道府県税事務所へ以下の書類を提出します。
- 異動届出書(法人異動事項申告書)
- 登記事項証明書
提出書類の名称・種類は都道府県税事務所によって異なるので、事前に確認しておきましょう。
会社の移転が都道府県をまたぐときは、移転前と移転後の自治体にそれぞれ異動届出書などを提出してください。
労働基準監督署
従業員を雇用している会社が移転する場合、移転日の翌日から10日以内に労働基準監督署へ以下の書類を提出します。
- 労働保険名称・所在地等変更届
提出先は、移転後の会社所在地を管轄する労働基準監督署です。
ハローワーク
雇用保険に加入している従業員がいる場合、会社移転日の翌日から10日以内にハローワークへ以下の書類を提出します。
- 雇用保険事業主事業所各種変更届
- 労働保険名称・所在地等変更届の控え
- 登記事項証明書
ハローワークには「労働保険名称・所在地等変更届の控え」を提出するので、先に労働基準監督署の届出を済ませておきましょう。
市区町村役場
会社の移転を行なった場合には、市区町村役場に以下の書類を提出します。
- 法人の設立・設置・変更等に伴う届出
- 特別徴収義務者の所在地・名称変更届出書
- 登記事項証明書
必要書類の種類や名称は自治体ごとに異なるので、役場の担当窓口に事前確認しておきましょう。
年金事務所
会社を移転すると、健康保険や厚生年金保険の届出も必要になるので、移転日から5日以内に以下の書類を年金事務所に提出します。
- 健康保険・厚生年金保険適用事業所名称/所在地変更(訂正)届
- 登記事項証明書
会社移転で管轄が変わるときは、移転前の年金事務所に届出してください。
また、この場合には保険証の差し替えも必要です。
金融機関と郵便局
会社を移転した場合は、金融機関と郵便局にも住所移転の届出が必要になるので、以下の書類を提出してください。
【金融機関】
- 金融機関指定の届出用紙
- 預金通帳
- 届出人の本人確認書類
- 登記事項証明書
【郵便局】
- 郵便物の転居届
郵便局に転居届を提出すると、1年間は旧住所あてに送付された郵便物を転送してもらえます。
ただし、郵便局側の手続きに数日かかるので、転居届は移転前に提出した方がよいでしょう。
運輸支局
社用車がある場合、会社を移転したときには車検証の変更が必要になるため、移転日から15日以内に以下の書類を運輸支局に提出します。
- 車検証
- 車庫証明書(発行日から概ね1カ月以内)
- 登記事項証明書(発行日から3カ月以内)
- ナンバープレート(ナンバーに変更がある場合)
会社が移転すると駐車場も変わるので、まず移転先の管轄警察署で車庫証明を取得してください。
その他の届出や取引先への通知
会社移転によって入居先が変わると、以下の届出が必要になるケースがあります。
- 防火対象物使用開始届出書:使用開始の7日前までに管轄消防署へ提出
- 消防計画作成(変更)届出書:使用開始の7日前までに管轄消防署へ提出
- 防火対象物工事等計画届出書:内装工事を行う場合は着工7日前に管轄消防署へ提出
- 防火・防災管理者選任(解任)届出書:選任や解任があれば速やかに管轄消防署へ提出
移転先の物件が決まったら、管轄の消防署にも相談しておくとよいでしょう。
また、会社移転登記などの手続きが完了した後は、取引先に移転した旨を通知してください。
会社移転登記をする際の注意点
会社の移転登記を申請する場合、商号を変更しなければならないケースがあります。
管轄法務局が変わる場合は、印鑑カードも移転前のものは使えなくなるので、以下の点に注意してください。
定款を変更するときは株主総会の特別決議が必要
会社移転によって本店所在地が変わる場合、定款を変更するために株主総会の特別決議が必要です。
ただし、本店所在地が最小行政区画までの記載になっており、同じ市内や区内の会社移転であれば、株主総会による特別決議を省略できます。
なお、定款の本店所在地が「市」や「区」までになっていても、登記事項証明書には詳細住所が記載されるので、会社移転登記は必ず申請しなければなりません。
本店移転の場合は2週間以内に変更登記する
会社(本店)を移転したときは、移転日から2週間以内に会社移転登記しなければなりません。
前述のとおり、2週間を経過すると100万円以下の過料になる可能性があるため、移転日から数えて2週間後までに移転登記の申請が必要です。
会社の移転日は以下のように判断するので、間違えないように注意してください。
- 定款変更がなく、移転完了後に取締役会の承認決議があった場合は決議日が移転日
- 定款変更があり、移転完了後に株主総会の決議があった場合は株主総会日が移転日
裁判所から過料決定の通知が届いた場合、異議申立ての期間は1週間しかありません。
移転日から2週間以内の移転登記が難しいときは、司法書士に登記申請を依頼しておきましょう。
移転先によっては商号変更が必要
移転先のビルなどに同じ商号(会社名)の会社がある場合、自社の商号を変更しなければなりません。
商業登記法第27条には「同一商号・同一本店の禁止」が定められており、同じ商号と本店住所地の会社は登記が禁止されています。
商号には一定のルールがあり、「株式会社ベンチャー」と「ベンチャー株式会社」は登記簿上で別会社と判断できるため、商号変更は不要です。
ただし、以下のようなケースは商号変更が必要です。
- 株式会社明石:読みが「あかし」
- 株式会社明石:読みが「あかいし」
なお、移転先の同一商号は以下の方法で調査できます。
- 移転先の管轄法務局で調査する(専用のコンピュータで調査)
- 登記情報検索サービスによるオンライン検索(料金332円)
商号変更は定款や登記情報に影響するので、移転前に調査してください。
参考:登記情報検索サービス
管轄法務局が変わるときは印鑑カードの再発行が必要
会社移転によって管轄法務局が変わる場合、印鑑カードの再発行が必要です。
印鑑カードは会社の印鑑証明書を取得する際に提出しますが、管轄の法務局が変わったときは移転前の印鑑カードが使えなくなります。
再発行手数料はかからないので、早めに法務局で手続きしておきましょう。
住所以外の変更登記が必要になるケース
「登記事項証明書には以下の事項が記載され、会社の移転に伴って商号などを変更したときも、法務局に変更登記を申請しなければなりません。
- 商号(社名)
- 本店所在地
- 事業目的
- 発行済株式の総数並びに種類及び数
- 資本金の額
- 取締役の氏名
- 代表取締役の氏名及び住所
商号などの変更登記を怠った場合も、代表者個人に100万円以下の過料が科せられる可能性があります。
まとめ
会社の移転は登記懈怠になっているケースが多いので、引っ越しが完了したら速やかに法務局へ申請しておきましょう。
会社移転登記を怠ったペナルティは裁判所が決定するため、過料決定通知書が届くと、ほぼ確実にお金を払わなければなりません。
しかし、税務署や労働基準監督署などの届出もあるので、1人で対応すると社業に専念できなくなります。
会社移転登記や税務関係の届出などに困ったときは、ぜひベンチャーサポートの無料相談を活用してください。