最終更新日:2025/11/5
合同会社の業務執行社員とは?代表社員や社員とはどう違う?

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネルを運営。
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YouTube:会社設立サポートチャンネル【税理士 森健太郎】
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この記事でわかること
- 合同会社の業務執行社員とは
- 業務執行社員と代表社員や社員との違い
合同会社の役職の中には「業務執行社員」というものがあります。あまり耳慣れない役職名かもしれません。
代表社員や職務執行者との違いを理解できていない人も少なくないでしょう。業務執行社員は経営判断を行う権限を持つ重要な立場ですが、代表権がなく、代表社員とは異なる役割を担っています。また、株式会社の取締役とも少し違います。
この記事では、業務執行社員の権限・役割・選任要件・責任範囲をはじめ、社会保険や雇用保険との関係まで詳しく解説します。これから合同会社の設立を検討している人や、業務執行社員という立場をよく理解したい人にとって、必読の内容です。


目次
合同会社の業務執行社員とは
合同会社の業務執行社員は、会社の経営や業務を担当する立場の社員です。合同会社には、業務執行社員とは別に「職務執行者」という立場があります。両者は、名前はとてもよく似ていますが、意味合いが異なります。また、代表社員と業務執行社員も役割が異なります。
ここでは、業務執行社員について解説しながら、職務執行者や代表社員との違いを整理します。
業務執行社員の権限と役割
業務執行社員は、会社の意思決定や経営判断を行い、会社の運営と業務執行を担う社員のことです。
たとえば、業務執行社員は、取引先との契約締結、資金の管理、事業方針の策定などを行います。合同会社では社員全員が業務を執行するのが原則ですが、定款で定めることで特定の社員のみに業務執行権を限定することもできます。
代表社員との違い
業務執行社員は経営判断を行う立場ですが、会社を代表するのはあくまで「代表社員」です。代表社員は、社内だけでなく第三者に対して会社を代表して意思表示をする権限を持っています。
業務執行社員には代表権がない
業務執行社員には会社を代表する権限はありません。会社の代表権を持つのが代表社員であり、業務執行社員は業務執行権を持つにとどまります。
会社の代表は代表社員で、業務執行社員は自分の責任の範囲で業務執行を行う権限があるということです。
業務執行社員と社員の違い
業務執行社員は、合同会社の社員の中から選出されます。とはいえ、すべての社員が業務を執行しているとは限りません。
合同会社では、すべての社員が経営を行うのが原則ですが、定款で業務執行を委任された社員がいれば、その社員が業務執行社員となります。
合同会社の社員は従業員ではない
合同会社でいう「社員」とは、会社に出資し経営を担う立場の人を指します。一般的には、社員は雇用されて働いている従業員というイメージがありますが、合同会社では社員は出資者のことです。
業務執行社員と職務執行者の違い
合同会社では法人が代表社員となることもあります。この場合、その法人に代わって実際の業務を行う人を職務執行者として指定します。職務執行者は、法人に代わって代表権を行使するという立場です。
業務執行社員と職務執行者は別物なので、混同しないように注意しましょう。
業務執行社員の人数と任期
合同会社では業務執行社員の人数や任期について制限がありません。そのため、それぞれの会社の状況に応じて柔軟に対応できます。
業務執行社員は何人いてもよい
合同会社の業務執行社員の人数について法律上の上限はありません。そのため、1人で経営を行う場合は1人だけでもよく、共同経営者がいる場合には複数人を業務執行社員として選任することもできます。
合同会社では、業務執行社員の人数を、事業規模や業務分担、経営体制の方針などに応じて柔軟に設定することが可能です。たとえば、複数の部門がある場合は、それぞれの責任者を業務執行社員とすることもあります。
ただし、業務執行社員の人数が増えれば意思決定の調整や責任の所在の明確化が必要になります。業務分担のルールをあらかじめ定めておくと運営がスムーズです。
業務執行社員に任期の定めはない
会社法では、業務執行社員の任期に関する規定は設けられていません。そのため、業務執行社員は、退任や解任がない限り継続して業務を行うことができます。
ただし、定款で業務執行社員の任期を定めることも可能です。法律での制限が少ないため、任期についても自由度が高いのが合同会社の特徴です。
合同会社の業務執行社員と株式会社の取締役は同じ?
合同会社の業務執行社員と、株式会社の取締役は、会社の経営を担う重要な機関です。両者には類似点もありますが、法律的な立場やルールなどに大きな違いがあります。ここでは、両者の役割や法的な位置づけの違いを解説します。
業務執行社員と取締役について
合同会社の「業務執行社員」と、株式会社の「取締役」は、どちらも会社の意思決定や経営判断を行う経営者であるという点では共通しています。ただ、相違点もあります。
共通点:どちらも経営者
合同会社の業務執行社員と株式会社の取締役は、会社の意思決定や経営に関わる重要な判断を下す立場であるという点では違いはありません。どちらも事業の方針決定、契約の締結などの業務について責任を担います。
ただし、株式会社では株主と経営者は分離されています。株主は会社の所有者であり、取締役は株主から委任されて経営を行います。一方、合同会社では出資者が経営を行うという「所有と経営の一致」が特徴です。
相違点:業務執行社員は必ず出資者
合同会社では、全社員が会社に出資をしています。
出資と経営がセットになっているため、社員から選任される業務執行社員は必ず会社に出資している社員(出資者)であるわけです。
たとえば、専門的なスキルを持つ第三者を経営に参加させたいという場合でも、出資を行ってもらわなければ、業務執行社員に任命することはできません。
出資のみするケース
合同会社では、原則「出資者=経営者」です。よって業務執行社員は必ず出資者となります。
ただ、例外的に社員が出資のみを行うケースもあります。定款で「経営に参加する社員」を定めれば、それ以外の社員は経営に参加しなくても問題はありません。

1人で合同会社を設立した場合
合同会社を1人で設立して運営している場合は、業務執行社員はなく代表社員がすべて1人で経営判断を行います。
合同会社は1人で設立・運営するケースも多い
合同会社は、設立時の手続きが簡素で費用を抑えられるため、個人事業主の法人成りのときに選ばれるケースが多い傾向があります。1人で設立して1人で運営している会社も多くあります。
1人で設立して運営している場合、自分が会社の持ち主であり代表社員であり、もちろん業務執行も自分で行うことになります。
業務執行社員が代表社員になる
1人で運営している合同会社の場合、業務執行社員としての仕事も、代表社員としての対応もすべて1人でこなす必要があります。
つまり、1人合同会社では、代表社員=業務執行社員=唯一の社員となるわけです。名刺などで使う役職名や肩書きは自由に設定できますが、登記簿には「代表社員」と記載されます。
業務執行社員が負う責任
合同会社の業務執行社員はどのような責任を負っているのでしょうか。ここでは、業務執行社員の責任の範囲について解説します。
合同会社はすべての社員が有限責任
合同会社では、すべての社員が有限責任です。代表社員であっても業務執行社員であっても出資額の範囲を超えて責任を負うことはありません。
たとえ会社が多額の借金を背負ったとしても、社員個人の財産が差し押さえられるようなことはありません。
有限責任とは?
有限責任とは、出資した資本金の範囲内で責任を負うというものです。これは無限責任とは反対の概念で、社員が私財を失うことはないことを意味します。たとえば、1人で合同会社を設立し、資本金50万円を出資した場合、会社の債務が500万円あったとしても社員が負う責任は出資額である50万円までです。
出資をしていない業務執行社員はいない
合同会社では、出資していない社員は存在しません。業務執行社員は、合同会社の社員の中から選任されます。そのため、必ず会社に出資をしているという立場にあります。
この点は、出資だけを行う株主と、経営を委任されている取締役が分かれている株式会社の仕組みとは異なるものです。合同会社では出資者と経営者が同一であるため、出資をせずに経営だけする社員は存在しません。よって、出資していない人が業務執行社員になることはありません。
合同会社の業務執行社員は雇用保険に加入できない
合同会社で業務執行社員として働く場合、社会保険や雇用保険の取扱いはどうなるのでしょうか。ここでは、業務執行社員が雇用保険に加入できるのか、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入義務はあるのかについて解説します。
会社から雇用されていない
業務執行社員は、会社を経営する立場にあります。労働者ではないため、雇用保険の加入対象ではありません。雇用保険は、会社に雇用されて働いている人が対象の保険制度です。
業務執行社員は、勤務時間や就業規則がある従業員とは法的な立場が異なり、労働者としての立場を守るための雇用保険では対象外とされます。
社会保険への加入義務はある
社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、業務執行社員であっても加入が義務づけられています。雇用保険のように労働者だけに限定されておらず、法人に所属する役員や経営者であっても、一定の要件を満たす場合には加入が必要です。
たとえば、合同会社の1人社長にも社会保険への加入義務が生じます。これは、負担の増加のようにも思えますが、長い目で見ると将来的な年金額や健康保険の保障内容を充実させることにつながります。
合同会社の業務執行社員は社員から選ばれる役職
合同会社の業務執行社員は、出資者であり、かつ経営者として業務執行を担う存在です。業務執行社員は、代表社員とは異なり会社の代表権は持っていませんが、会社の意思決定や運営に関わる重要な役割を果たしています。
また、業務執行社員は会社の出資者でもあります。合同会社では全社員が有限責任であり、出資額を超えて個人が責任を負うことはありません。
業務執行社員は雇用保険の対象にはならない一方で、社会保険への加入は義務です。
このように、合同会社の業務執行社員には、代表社員とも、そして株式会社の取締役とも違う役割があります。混同しないように整理しておきましょう。












