最終更新日:2025/6/12
取締役の任期は1年にできるのか?役員の任期と再任についても解説します

ベンチャーサポート税理士法人 大阪オフィス代表税理士。
近畿税理士会 北支部所属(登録番号:121535)
1977年生まれ、奈良県奈良市出身。
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この記事でわかること
- 取締役の任期に関する基本ルール
- 任期を1年に設定するメリットとデメリット
- 任期の数え方と注意点
取締役の任期は一般的には2年とされています。ただし、会社の規模や経営方針によっては、1年に短縮して取締役の任期を設定することも可能です。株式の譲渡制限がある非公開会社では柔軟な対応が認められており、10年まで任期を延長できます。
取締役の任期を1年に設定することで経営の見直しや短期目標への対応がしやすくなります。一方で、任期が短いことで株主総会や登記といった手続きの頻度が増えるなどのデメリットもあります。
この記事では、取締役の任期を1年に設定できるかどうかを中心に、任期の基本ルールや数え方、再任時の注意点まで詳しく解説します。
目次
取締役の任期は1年でも問題ない
取締役の任期は、2年が一般的です。非公開会社であれば10年まで延長できますが、任期を短く設定することもできます。
取締役の任期に関するルール
取締役の任期に関するルールは会社法で定められています。
取締役の任期は通常は2年ですが、会社法332条の但し書きで「定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない」としているため、任期を1年に設定することもできます。
取締役の任期は2年が一般的
取締役の任期は、公開会社であれば2年が一般的です。
取締役の任期が2年とされているのは、取締役が行う経営判断という業務は継続性の確保が重要であるためです。また、任期を設定することで、定期的に株主総会の信任を得ることで、経営の健全性と透明性を維持するという目的もあります。
公開会社では、2年ごとに取締役の適格性を確認する機会が設けられているのです。
非公開会社では10年まで延長できる
非公開会社の場合、定款で定めることで取締役の任期を最長10年まで延長することが可能です。これは会社法の規定に基づくもので、すべての株式に譲渡制限がある会社(非公開会社)の特例です。
取締役の任期を長く設定することは、経営の効率化につながります。登記手続きや株主総会での選任手続きを短いサイクルで行う必要がなくなるためです。とくに、家族経営の中小企業や、株主構成が安定している企業においては、取締役の任期を10年とすることで手続きの負担とコストを抑えることができます。
もちろん、非公開会社であっても取締役の任期を1年に設定することもできます。
取締役の任期を1年にする理由とは
取締役の任期をあえて短く設定するケースがあります。どのような理由で任期を1年にするのでしょうか。
意見の相違による解任のリスクを減らす
取締役は会社の重要な経営判断を行う立場にあります、そのため、ときに取締役同士で意見が割れてしまうこともあるのです。
会社の経営判断は会社の存続に関わるような重大なものであるため、意見の相違が原因で人間関係が悪化する可能性があります。
意見の相違が生じた場合、最悪のケースであれば取締役の解任に至るケースもあります。しかし、任期を短くしておけば、任期途中での解任のリスクを減らせます。
損害賠償請求のリスク回避
取締役は任期の途中でも株主総会の決議で解任できます。ただし、その解任の理由によっては、残りの任期に支払われる予定であった報酬を損害賠償として支払う義務が発生する可能性があります。
報酬の支払いをする必要があるかどうかは、解任の理由の正当性が焦点となります。
参考:会社法339条2項の「正当な理由」に関する主張の整理|裁判所(PDF)
複数年の任期を設定するのが一般的
取締役の任期は、複数年の任期を設定するのが一般的です。公開会社であれば2年、非公開会社であれば10年を上限に設定します。
手続きの面でデメリットがある
取締役の任期を1年にすると、選任のための株主総会と登記の手間が1年ごとにかかります。選任では株主総会の開催と議事録の保管が必要になり、その都度、登記の手間と印紙代がかかります。
運営面での混乱
取締役の任期を短くすることで、会社の運営面でも混乱を招くケースがあります。
たとえば、取締役が任期満了のタイミングで独立するケースです。任期がひとつの節目になってしまい、取締役が退任することで混乱が生じる可能性があります。
もちろん、取締役はいつでも自らの意思で辞任できますが、任期がひとつの節目となって必要な人材の確保ができなくなる可能性も考えられます。
短期間での経営再建など特殊な事情がある場合
取締役の任期を1年に設定する理由として、短期間での経営再建などを任されている場合があります。
たとえば、赤字の解消や新規事業の立ち上げなど、明確な経営課題に取り組むために外部から専門性の高い人材を取締役として招くケースがあります。そうした取締役には、一定の成果を短期間で出すことを求めることも多くなります。任期を1年とすることで、経営判断の見直しや人事の柔軟性を確保できます。
取締役には中長期的な視点での経営判断が求められますが、このようなケースではよりスピーディーに問題解決するリーダーシップを発揮することが求められます。
監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社
監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社では、取締役の任期は会社法で「1年」と定められています。
取締役の任期を短くして会社の監督体制を確保することがその目的です。取締役の任期を短くすることで定期的に取締役の資質や適正を見直す仕組みになっています。
会社の種類 | 任期の原則 | 任期の特例 | 備考 |
---|---|---|---|
公開会社 | 2年 | 短縮は可能(1年など) | 株式の全部または一部に譲渡制限がない |
非公開会社 | 2年 | 最大10年まで延長可能 | 全株式に譲渡制限がある中小企業や家族経営の会社など |
監査等委員会設置会社 | 1年 | なし | 毎年の見直しが義務 |
指名委員会等設置会社 | 1年 | なし | 経営と監督が分離している |
選任した日によって任期が短くなってしまうケース
取締役の任期は、選任した日によって最大で1年近く短くなります。ここでは、取締役の任期の数え方について解説します。
役員の任期の数え方
取締役を含めた役員の任期の数え方は、会社法で「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」とされています。
つまり、選任された日からスタートして2年間という任期ではなく「選任された日から2年以内に終了する事業年度の定時株主総会の終結時点」が任期の終了とされます。
事業年度と役員の任期は違う
役員の任期とよく混同されがちなのが、事業年度です。事業年度と役員の任期は別のものであって、一緒に考えると混乱してしまいます。
事業年度とは、会社が経理上の区切りとして定めている期間のことです。一方、役員の任期は、選任された時期と事業年度の関係によって決まるものであり、必ずしも事業年度と一致するとは限りません。
タイミングによっては任期が1年近く短くなることがある
取締役の任期は、選任された時期によって実質的に1年近く短くなるケースがあります。
たとえば、事業年度が毎年4月1日~翌年3月31日の会社で、2025年3月に取締役を選任したとします。定時株主総会は事業年度が終了してから3カ月以内に行われるのが一般的です。
この場合、「選任後2年以内に終了する事業年度」は2025年度となり、その定時株主総会が、仮に2026年6月に開かれたとすれば、任期は実質「1年3カ月程度」と2年に満たない期間となります。
任期満了の時期を正しく把握するためには、事業年度の区切りと株主総会の開催時期を確認することが重要です。
役員の任期は変更できる
役員の任期は定款に記載されていることが多いのですが、一旦、役員の任期を決めた後であってもいつでも変更できます。
任期の変更には株主総会の決議が必要で、株主総会の議事録を定款とともに保管すれば任期の変更がなされます。任期の変更のみであれば、定款変更だけでよいため法務局で変更登記をする必要はありません。
任期を終えた役員の再任について
役員が任期を迎えた場合、再任や重任の手続きを取ることで引き続き取締役の職にとどまれます。
任期満了後に再任・重任できる
取締役を含めた役員が任期満了となった場合には、再任・重任の手続きが必要です。また、任期満了に伴って職を退く場合は退任となります。
再任とは、過去に役員の職にあった人が再度、同じ役職につくことです。例えば、昨日退任した人が、今日、同じ役職につく場合も再任と表現します。任期満了による退任と就任の日にタイムラグがあれば再任です。タイムラグが1日でも10年でも再任となります。
重任とは、任期満了の当日に再度、選任されることです。再任の場合と異なって日が空いておらず、退任した日に新たに選任されます。
株主総会の決議
取締役が任期満了となり、再任・重任する場合は、株主総会の開催と議事録の作成をしなければなりません。株主総会の議事録は、定款と一緒に保管することで定款変更となるほか、登記の際にも必要です。
株主総会を開催し、議事録を作成して法務局で登記が終了した時点で、すべての再任(重任)の手続きが完了します。
役員の任期はどこで確認するのか
会社設立後に日々の業務に追われていると、つい役員の任期を忘れてしまうこともあるでしょう。役員の任期はどのように確認すればいいのでしょうか。
定款で確認できる
役員の任期は、定款で確認することができます。途中で任期を変更している場合は、定款とともに保管されている株主総会の議事録で確認できます。
定款には、取締役の任期が「2年」や「10年」など、具体的に記載されているため、まずは定款を確認しましょう。
取締役を含めた役員の任期の管理は、会社法上の義務を果たすためにも重要です。役員ごとに選任の時期が異なる場合は、個別に記録をつけておくと安心です。
役員に変更があった場合は登記が必要
取締役を含めた会社法上の役員に変更がある場合は、必ず法務局で登記を行う必要があります。
任期満了後に同じ人が再任する場合も登記が必要
取締役の任期が終了して、また同じ人が取締役として再任もしくは重任される場合でも、登記が必要です。
「同じ人が継続するのだから登記の変更はしなくても同じ」と思ってしまうかもしれませんが、任期が満了して新たに再任(重任)された事実を登記しなければなりません。
登記の期限は変更が生じてから2週間以内です。
選任懈怠と登記懈怠
あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが「選任懈怠(けたい)」と「登記懈怠」という言葉があります。
選任懈怠とは、取締役などの役員の任期が切れているのにもかかわらず、新しい役員を選任していない状態のことです。新しい役員を選任しないことで、会社法で定められた役員の定数を満たしていない場合にも選任懈怠となります。
続いて、登記懈怠ですが、これは、必要な登記を行っていない状態のことです。
取締役の任期は会社の状況に応じて設定する
取締役の任期は2年が一般的ですが、会社の方針や運営体制に応じて短縮して1年に設定することが可能です。
任期の長さにはそれぞれメリットとデメリットがあり、状況に応じた判断が必要です。また、任期満了後は必ず、再任・重任・退任のいずれかの手続きと登記が義務付けられています。登記を怠ると罰則の対象になることもあるため注意が必要です。
取締役の任期に関する書類の作成などで不安がある場合は、司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。適切な任期の設定と手続きを行うことで、経営の安定と法的リスクの回避につながります。