包括遺贈は債務も承継する？遺贈の放棄方法や注意点とは

相続が発生した際に、遺言により被相続人の財産を受け取る人がいる場合があります。

多くのケースでは、遺言書では受け取る財産が指定されており、それ以外の財産を法定相続人で分割することとなります。

しかし、遺言書の記載方法によっては、包括遺贈となって受贈者は法定相続人とほぼ同様の取扱いとなります。

どのような場合に包括遺贈となるのか、そして包括遺贈になるとどのようなことが起こるのか、確認していきます。

包括遺贈とは

亡くなった人が、生前に遺言書を作成している場合があります。

遺言書を作成した人が亡くなった場合は、その遺言書にしたがって遺産を誰がどれだけ引き継ぐかを決めていきますが、このことを遺贈といいます。

遺贈により遺産を受け取ることができるのは、法定相続人に限りません。

遺言で指定された人は、たとえ第三者であっても遺産を受け取ることができるのです。

遺言書を記載する際に特定の財産を誰に引き継がせるかを書く方法を、特定遺贈といいます。

一方、全財産を遺贈する、あるいは半分を遺贈するといった記載方法による場合は、包括遺贈となります。

特定遺贈と包括遺贈は、遺言書で財産を引き継ぐ人を決めるという点では似ていますが、まったく異なる点があります。

包括遺贈では債務も相続してしまう

包括遺贈により遺産を受け取る人のことを、包括受遺者といいます。

包括受遺者となった人は、その遺言書に書かれた割合の遺産を引き継ぐこととなります。

特定遺贈であれば、どの遺産を引き継ぐこととなるのかは、遺言書で定められています。

そのため、遺言書に債務を引き継ぐこととする旨の記載がなければ、特定受遺者は債務を引き継ぐことはありません。

一方、包括受遺者は、遺言書で指定された割合の債務を引き継がなければなりません。

たとえば、すべての遺産を遺贈するとした遺言書があった場合は、すべての債務をその包括受遺者が引き継ぎます。

また、全財産の3分の1を遺贈するとされた包括受遺者は、債務も3分の1引き継がなければなりません。

このように考えるのは、包括受遺者は法定相続人と同一の権利義務を有すると民法で定められているためです。

相続人と同じ権利義務を有することとなるため、プラスの遺産だけでなく債務についても引き継がなければならないのです。

一方で、特定受遺者については、そのような民法以上の規定はありません。

そのため、遺言書に書かれていない被相続人が残した債務を引き継ぐということはないのです。

包括遺贈により債務を引き継ぐこととなった場合、その債務の額によっては引き継いだ財産の額を超えてしまうこともあります。

このような場合には、遺贈しない方が有利になることも考えられるため、遺贈の放棄を検討する必要が出てきます。

包括受遺者が遺贈を放棄する場合は、どのような手順で行うこととなるのでしょうか。

包括遺贈を放棄する方法・必要書類

遺言書は、すべての遺産分割の方法に優先して実行されるものです。

仮に、受贈者以外のすべての法定相続人が遺産分割協議を行って同意したとしても、受贈者が同意しなければ遺産分割は成立しません。

それほど遺言書には大きな効力があるため、遺言書の内容を覆すためには定められた手続きを行わなければなりません。

もし、包括受遺者がその包括遺贈を放棄しようとする場合は、家庭裁判所で手続きを行わなければならないのです。

包括遺贈の放棄の手続き

包括受遺者は、相続人と同様の権利・義務を有しています。

しかし、法定相続人が相続放棄を行うことができるのと同じように、包括受遺者もすべての権利・義務を消滅させることができます。

この権利・義務を消滅させるためには、包括遺贈の放棄を行う必要があります。

包括遺贈の放棄を行うためには、家庭裁判所に包括遺贈放棄の申立てを行います。

申立てを行う家庭裁判所は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

包括受遺者の住所地を管轄する家庭裁判所ではないため、間違えないように注意しなければなりません。

包括遺贈の放棄の申し立てに必要な書類

包括遺贈の放棄の申し立てを行う際に準備しなければならない書類は、以下のとおりです。

• ①包括遺贈放棄申述の申立書
• ②遺言者の戸籍（除籍）謄本
• ③遺言者の住民票除票
• ④遺言書の写し
• ⑤包括受遺者の住民票

①の書類は、相続放棄申述書を利用して作成すればいいものとされています。

また、②、③の書類は、遺言書を作成した人が亡くなったことを証明するための書類です。

④は、包括遺贈の放棄の申立てを行った人が、実際に包括受贈者であることを証明するためのものです。

これらの書類がすべてそろって、包括遺贈の放棄の申立てを行うことができる人であると証明することができるのです。

包括遺贈の放棄の申立て期限

包括遺贈の放棄を行うことができるのは、遺贈を知った日から3か月以内となります。

相続が発生した日から3か月というわけではないため、実際には亡くなった日から3か月以上経過していても認められます。

ただ、包括遺贈があったことを知っただけでは放棄するかどうかの判断はできません。

包括遺贈があった場合には、遺産の内容を確認し、債務の額が大きなことがわかったら包括遺贈の放棄を行うこととなります。

そのため、遺贈を知った日から3か月という期限は、実際にはあっという間に過ぎてしまうことも考えられます。

そのため、包括遺贈があったことを知ったらできるだけ早く遺産の内容についても確認するようにしましょう。

包括遺贈を放棄する際の注意点

最後に、包括遺贈を放棄した場合の注意点について、いくつかご紹介します。

包括受遺者が法定相続人でもある場合は、特に複雑であるため、注意しなければなりません。

包括遺贈を放棄しても他の受遺者の受遺分には影響しない

遺言書の中身によっては、包括受遺者が1人だけとは限りません。

たとえば、3人の兄弟が遺産をそれぞれ3分の1ずつ引き継ぐこととする遺言書の場合、3人が包括受遺者となります。

この場合、3人のうちの1人だけ包括遺贈を放棄することができ、他の2人は自身の判断で遺産を受け継ぐことができます。

この時、1人だけ放棄しても他の2人の受遺分が増えることはありません。

あくまで受遺分を放棄していない人については、遺言書に書かれたとおりの遺贈が行われるのです。

包括遺贈を放棄しても相続人としての権利義務は残る

包括受遺者が、法定相続人であるということも多いでしょう。

この場合、包括遺贈について放棄を行っても、法定相続人として相続権を有するため、依然として債務を引き継ぐ可能性は残ります。

包括遺贈による債務の引継ぎだけでなく、相続による債務の引継ぎを避けるためには相続放棄もしなければなりません。

相続放棄の期限は、相続の開始を知った日から3か月以内とされており、包括遺贈の放棄より早い場合もあるため、注意しましょう。

包括遺贈の一部だけを放棄することはできない

相続放棄を行う際は、債務だけを相続しないという選択肢はなく、財産も債務もすべてを相続しないこととなります。

これと同じように、包括遺贈の放棄を行う場合も一部だけを放棄するということはできません。

債務だけを放棄することができないのはもちろんですが、遺贈する割合を下げることもできないのです。

そのため、包括遺贈を放棄するか否かについては、遺産の内容をよく調べてから決断しなければなりません。

包括遺贈の放棄を撤回することもできない

いったん包括遺贈の放棄を行ったら、その後に放棄を撤回することはできません。

たとえば、包括遺贈を放棄した後に、それまで把握していなかった財産が見つかったとしてもやり直すことはできないのです。

ただ、他の相続人にだまされたり、脅迫されたりしたために放棄した場合は、後から放棄を取り消すことが認められます。

まとめ

近年では相続対策として遺言書を作成する人が増えています。

しかし、遺言書を作成する際に、専門家に相談している人は必ずしも多くないため、後から問題になるケースも少なくありません。

包括遺贈と呼ばれる内容の遺言書の場合も、実際に誰がどの財産を引き継ぐのかで争いになることがあります。

また、債務がある場合には、結局のところ包括遺贈を放棄するしかないため、被相続人の想定どおりに遺産を引き継ぐことができないこともあります。

遺言書を作成する際には、あらかじめ専門家に相談し、確実に財産を引き継ぐことができる方法を考えることが重要です。

また、遺された側は遺産の中に債務が多くある場合は、遺言書をそのまま実行していいのか、あるいは放棄すべきか、考える必要があります。

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