記事の要約
- 「デジタル遺言」は正式名称を「保管証書遺言」といい、2026年6月17日に成立したが、まだ利用はできない
- パソコンなどで作成し法務局で保管する新しい遺言であり、すでに始まっている「公正証書遺言のデジタル化」とは別の制度である
- 施行までは、自筆証書遺言や公正証書遺言で備えておくのが確実
「そろそろ終活を始めたいけれど、長い文章を手書きで書くのは大変そう」
「パソコンやスマホで、もっと手軽に遺言を残せないだろうか」
こうした声に応える新しい遺言として、いま注目されているのが「デジタル遺言」です。
2026年6月、パソコンやスマートフォンで作成できる遺言を新たに認める法律が成立し、日本の遺言制度は大きな転換期を迎えています。
この記事では、デジタル遺言(保管証書遺言)がいつから始まるのか、どのような手続きで作成するのか、そして混同されやすい公正証書遺言のデジタル化との違いについて、これから遺言の準備を始める方に向けて分かりやすく解説します。
なお、VSG相続税理士法人では、相続に関するご相談を無料で受け付けておりますので、相続でご不安なことがございましたら、お気軽にご連絡ください。
目次
デジタル遺言とは?正式名称は「保管証書遺言」
デジタル遺言とは、パソコンやスマートフォンなどで作成し、法務局に預けて保管してもらう、新しいかたちの遺言です。
デジタル遺言(デジタル遺言書)は通称であり、正式には「保管証書遺言(ほかんしょうしょゆいごん)」と呼ばれます。
現在、よく使われている遺言には、本人が本文を手書きする「自筆証書遺言」と、公証人が作成する「公正証書遺言」がありますが、デジタル遺言はこれらに加わる新しい方式の遺言です。
デジタル遺言の大きなメリットとして、全文を手書きしなくてよいことがあります。
パソコンやスマートフォンで文字を入力して遺言を作り、それを法務局に預けることで、正式な遺言として効力を持ちます。
ただし、デジタル遺言制度は2026年6月に成立したばかりであり、現在はまだ利用することができません。
「公正証書遺言のデジタル化」と「デジタル遺言」は別の制度
名前がよく似ているため混同されがちですが、「公正証書遺言のデジタル化」と「デジタル遺言(保管証書遺言)」は、まったく別の制度です。

最も大きな違いは「制度が始まる時期」です。
公正証書遺言のデジタル化は、2025年10月1日からすでに運用が始まっています。
一方、デジタル遺言(保管証書遺言)は、2026年6月に成立したものの、まだ施行されていません。
| 項目 | 公正証書遺言のデジタル化 | デジタル遺言(保管証書遺言) |
|---|---|---|
| 利用開始時期 | 2025年10月〜(すでに利用可能) | 2026年6月成立(まだ使えない) |
| 制度の位置づけ | 従来の公正証書遺言の手続きをオンライン化したもの | まったく新しい遺言の方式 |
| 作成者 | 公証人が作成する | 本人がパソコンやスマホで作成する |
| 保管先 | 公証役場(電子データで保存) | 法務局 |
| 主な手続き | ウェブ会議等で公証人と面談 | 法務局へ申請し、全文を口述する |
簡潔に言えば、公正証書遺言のデジタル化は「これまでの制度を、オンラインでも利用できるように利便性を高めたもの」であり、デジタル遺言は「本人がパソコン等で作成する、新しい遺言方式」です。
デジタル遺言(保管証書遺言)はいつから始まる?
デジタル遺言を含む「民法等の一部を改正する法律」は、2026年6月17日に成立し、2026年6月24日に公布されました(法律番号:令和8年法律第45号)。
デジタル遺言(保管証書遺言)の具体的な施行日は、まだ決まっていません。
ただし、改正法では、保管証書遺言に関する規定は、「公布日である2026年6月24日から3年以内」に施行されることとされています。
そのため、遅くとも2029年6月24日までには制度が始まる予定ですが、実際の開始日は今後の政令で定められます。
デジタル遺言(保管証書遺言)の作り方・手続きの流れ
デジタル遺言は、以下のような流れで作成される予定です。

- パソコンやスマートフォンを用いて、遺言の全文を作成する
- 作成した遺言データに、署名(またはマイナンバーカードなどの電子署名による本人確認措置)をする
- 法務局に、遺言の保管を申請する
- 法務局の担当者(遺言書保管官)の前で、遺言の全文を口述する(対面またはウェブ会議)
- 法務局に保管され、遺言としての効力が発生する
この手続きの中で最も特徴的な手続きが、遺言の内容を自身の声で読み上げる「全文の口述」です。
パソコン等で作成された遺言書は、手書きの筆跡に比べて「本当に本人が作成したものか」を判別しにくいというデメリットがあります。
そのため、本人が遺言の内容を読み上げる手順を設けることで、なりすましや、第三者からの強要を防ぐしくみになっています。
なお、言葉を発することが難しい方への配慮として、通訳人を介する方法や、筆談(文字の入力など)によって伝える方法も認められる見込みです。
また、財産の一覧である「財産目録」が含まれる場合は、その部分の口述を省略できる特則も設けられます。
デジタル遺言のメリットとデメリット
デジタル遺言には、これまでの紙による遺言書にはない利点がある一方で、注意しておきたい点もあります。
デジタル遺言のメリット
デジタル遺言の主なメリットは、以下のとおりです。
- 1.手書きの負担が大きく減る
- 全文を自筆する必要がなく、書き間違えても修正が簡単なため、高齢者などの長文を書くのがつらい方でも遺言書を作成しやすくなります。
- 2.押印や検認の手間がかからない
- 今回の法改正により、遺言書への押印要件は廃止される方向です。
さらにデジタル遺言は、相続発生後に家庭裁判所で遺言書を確認してもらう「検認」という手続きも不要になる見込みであり、残されたご家族の手続きにかかる負担を軽減できます。 - 3.紛失や改ざんのリスクが減る
- 遺言データは法務局で厳重に保管されるため、自宅で遺言書を保管する場合のように、紛失や改ざんの心配が少なくなります。
- 4.指定した人へ通知が届くため、発見されやすい
- デジタル遺言の保管申請時に、通知してほしい人を指定しておけば、亡くなったときに法務局から自動で「遺言書があります」と通知が届きます。
相続人側から調査を依頼しないと存在に気づかれにくい公正証書遺言と比べ、遺言書を見つけてもらいやすくなります。
デジタル遺言のデメリット・注意点
一方、デジタル遺言の利用には、以下の注意点もあります。
- 1.パソコンやスマートフォンの操作に不慣れだと利用しづらい
- 文字入力やオンライン申請の手続きに慣れていない方にとっては、手続きを負担に感じる可能性があります。
- 2.文面を自分で作る必要がある
- 公正証書遺言のように公証人が内容を整えてくれるわけではないため、書き方があいまいだと、あとで効力に問題が生じるおそれがあります。
- 3.本人の意思や遺言能力の確認という課題がある
- 本当に本人の意思によるものか、判断能力が十分だったかをどのように確認し、担保するかは、対面の公正証書遺言に比べて慎重な判断が求められるため、運用面での細かな工夫が続けられています。
同時に変わる遺言のルール(押印の廃止・危急時遺言)
2026年6月に成立した民法改正では、デジタル遺言(保管証書遺言)の新設だけでなく、従来の遺言に関するルールも見直されました。
(1)自筆証書遺言などの押印が不要になる
これまでの遺言は、「自筆」と「押印」がそろって初めて有効となるのが原則でした。
しかし、今回の民法改正により、自筆証書遺言などにおける押印の要件が廃止される方向になりました。
握力が弱くなり印鑑をうまく押せない方にとっては、負担が軽くなる見直しです。
ただし、現時点で自筆証書遺言を作成する場合は、従来どおり押印が必要ですので注意しましょう。
(2)危急時遺言に、録音・録画の方式が加わる
死亡危急時遺言や船舶遭難者遺言についても、録音・録画を同時に行う方法など、デジタル技術を活用した新しい方式が追加される予定です。
ただし、これは生命の危険が迫っている場合など、法律で定められた特殊な場面に限られる制度です。
通常の遺言として、動画や音声だけで自由に遺言を残せるようになるわけではありません。
施行を待てない人が今できる遺言の準備
「デジタル遺言が数年先まで使えないのであれば、今は何もできないのか」と思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。
現行の制度であっても、確実に遺言を残す方法は十分に用意されています。
現行の遺言ルールの整理
まず、現在の遺言書作成における注意点を確認しておきましょう。
- 1.遺言の「本文」について
- 現状、遺言書の本文は、全文を自身の手で書き写すこと(自書)が要件です。
パソコンで入力して印刷しただけの本文は、遺言書として無効になってしまいます。 - 2.財産目録について
- 財産を一覧でまとめた「財産目録」については、2019年からパソコンでの作成が認められています。
ただし、すべてのページに遺言者本人の署名と押印が必要です。 - 3.スマートフォンのメモアプリや動画で残したメッセージについて
- 現在の法律下では法的効力はありません。
家族への想いを伝える手段としては有益ですが、法的効果を持つ遺言とは区別する必要があります。
現状の方法で相続に備える
これから遺言を用意したい方には、大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つの方法があります。
デジタル遺言も含め、それぞれの特徴を一覧表で比較してみましょう。

| 比較項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | デジタル遺言(保管証書遺言) |
|---|---|---|---|
| 作り方 | 本人が手書きする (財産目録はパソコンでの作成可) |
公証人が作成する | 本人がパソコンやスマホで作成する |
| 費用の目安 | ほぼ無料 (法務局保管の利用:1件につき3,900円 |
財産額に応じた手数料がかかる (数万円〜) |
未定 (今後定められる可能性がある) |
| 保管場所 | 自宅 または 法務局 | 公証役場 | 法務局 |
| 証人の要否 | 不要 | 必要(2人以上) | 不要となる見込み |
| 家庭裁判所の検認 | 必要 (法務局保管を利用すれば不要) |
不要 | 不要となる見込み |
| 即時利用の可否 | 今すぐ利用可能 | 今すぐ利用可能 (一定の場合には、ウェブ会議を利用した手続にも対応 ) |
現時点では利用不可 |
今すぐ利用できるのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つです。
手軽さを重視するのであれば、自筆証書遺言が適しています。
法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用すれば、紛失や改ざんのおそれが大きく減り、相続発生時の家庭裁判所による検認手続きも不要になります。
一方で、より高い確実性や安心感を重視する場合は、法律の専門家である公証人が作成する公正証書遺言が推奨されます。
前述のとおり、公正証書遺言は、2025年10月よりウェブ会議システムを用いたオンライン作成にも対応しており、利便性がさらに向上しています。
デジタル遺言に関するよくある質問
Q1:動画や音声で残した遺言は有効になる?
Q2:デジタル遺言書に押印は必要?
Q3:認知症でもデジタル遺言を作成できる?
Q4:デジタル遺言のデータはブロックチェーンで管理されるの?
Q5:民間の「デジタル遺言サービス」との違いはなにか?
まとめ:デジタル遺言は「成立したが、まだ運用開始前」
今回は、デジタル遺言(保管証書遺言)の概要についてお伝えしました。
- デジタル遺言(保管証書遺言)の運用開始は数年先となるため、直近で遺言を用意したい場合は現行の制度で備える必要があります。
- 現時点における主な選択肢は、手軽な「自筆証書遺言(保管制度の併用)」か、安全性の高い「公正証書遺言」です。
- デジタル遺言の施行を待って先送りするのではなく、まずは「今できる方法」で家族のための第一歩を踏み出すことが大切です。
私たちVSG相続税理士法人では、相続専門税理士と、グループ内の行政書士や司法書士が連携し、遺言書の作成から将来の相続手続きまで、窓口一つで総合的にサポートできる体制を整えています。
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