この記事でわかること
- 遺言能力のある人とはどのような人か知ることができる
- 認知症の人が作成した遺言書についての注意点がわかる
- 遺言書が無効であると主張する場合の手続きの流れがわかる
亡くなった人が生前に遺言書を作成していたかどうか、知らないまま相続が発生することがあります。
その際、亡くなった人が認知症となっていた場合には、はたしてその遺言書はいつ作成したのか、あるいはその遺言書は有効に成立しているのかといった疑問が生ずることとなります。
そこで、認知症となった人が作成した遺言書の取り扱いについて解説します。
目次
そもそも認知症の人が書いた遺言書は有効なのか?
認知症の人が遺言書を残した場合にまず疑問に思うのが、認知症の人が書いた遺言書は有効なのか、ということです。
この疑問についての答えは、「認知症だからといってただちに遺言書が無効になるわけではない」となります。
遺言をするためには、遺言能力がなければなりません。
遺言書が有効に成立するかどうかを判断するには、認知症になっているかどうかではなく、遺言能力があるかどうかを判断する必要があるのです。
遺言能力とは
遺言能力とは、自分の行う遺言の意味を理解し、その結果を弁識することができる意思能力のことです。
もっとわかりやすく言うならば、遺言をした結果、相続人などの関係者にどのような結果が生じるかを認識することができることを意味します。
認知症となっていても、その症状が軽度であればそのような認識ができるため、必ずしも「認知症だから遺言能力がない」とはいえないのです。
成年後見人がいる場合の注意点
認知症となって意思能力が低下したために、成年後見人が選任されている場合もあります。
このような場合でも、遺言能力が一定程度まで回復すれば、遺言書の作成ができます。
ただし、この時は2人以上の医師の立ち会いが必要とされます。
また、成年後見人がいる場合には、遺言能力の有無とは別の問題にも注意しなければなりません。
後見人が選任されている場合で、後見の計算が終了する前に後見人や後見人の配偶者、後見人の子や孫などの直系卑属に利益となる遺言は無効になります。
後見人の利益となる遺言をすることのないよう、注意しなければならないのです。
遺言書が無効になるケース
遺言書を作成しても、遺言者に遺言能力がない場合、あるいは遺言能力があってもその作成の過程や内容に問題があって無効になる場合があります。
遺言書が無効になるケースを、その理由とともにまとめてみました。
最低限の意思能力すらない場合
認知症となった場合でも、ただちに遺言書が無効となるわけではないと説明しました。
しかし、最低限の意思能力を欠くような状態にある場合は、遺言能力がないものとされ、その遺言書は無効となります。
公証役場で公証人に作成してもらった公正証書遺言であっても、本人に遺言能力がないと認められる場合には、無効とされることがあります。
遺言の内容が公序良俗に反する場合
公序良俗に反するとは、法律に違反する場合、あるいは法令には違反しなくても社会通念上著しく不相当である場合をいいます。
不倫関係を継続するために行う不倫相手への遺贈などは、公序良俗に反するため無効とされる場合があります。
要素の錯誤があった場合
遺言を行う際に、事実とは異なる認識があったためにそのような遺言を行ったと考えられ、もし事実を正しく認識していればそのような意思表示をしていなかっただろうと考えられる場合、その遺言が無効とされることがあります。
例えば、障害を持つ子供が入所する施設に対する料金の支払いを心配して、その子供が入所する施設の責任者に遺産の管理をお願いするとした遺言を作成していたものの、実際には子供がその施設に入所する際に料金の支払義務はないため、その遺言が無効とされたケースがあります。
遺言書を偽造・変造した人がいる場合
遺言者本人が有効な遺言書を作成していても、その親族などが遺言書を書き換えたり加筆したりした場合には、その後の遺言書は無効となります。
また、本人が遺言書を作成していないのに、周りの人が勝手に本人名義で遺言書を作成した場合も当然無効となります。
特に問題になるのが、本人が認知症などになっているため、自分で遺言書を書くことができない場合です。
どのような理由であっても、そしてどのような関係の人であっても、代筆により作成された遺言書は無効となります。
遺言能力のない人が遺言書を作成した場合には、裁判で無効と判断されることになります。
遺言書としての形式を満たしていない場合
遺言書を作成したつもりでも、その形式が法律の要求を満たしていない場合には、遺言書として有効に成立しないことがあります。
例えば、自筆証書遺言のうち財産目録はパソコンなどを使って作成できますが、それ以外の部分は自筆しなければならないこととされています。
しかし、これを無視して遺言書全体をパソコンで作った場合、その遺言書は無効とされます。
中には公正証書遺言が無効となってしまう場合もあります。
軽微な誤りについては無効にならないこともありますが、そのような形式を満たすように作っておく必要があるのです。
詐欺や強迫により無理やり作成された場合
相続人やその関係者にだまされたり強迫されたりして、本人の意思に反する遺言書が作成されることがあります。
その遺言書が実行されると、結果的に詐欺をはたらいた者や強迫をした者が遺産を得て得をするのですが、それでは遺言者の意思に反した相続や遺贈が行われることとなってしまいます。
そこで、だまされたり強迫を受けたりして遺言書を作成したということを証明して、作成した遺言書を取り消し、その遺言の内容が実行されないようにすることができます。
遺言書自体に不備はなく、外見上は有効に成立しているのですが、正式な手続きを経ることで、その遺言書を取り消すことができるのです。
遺言無効確認手続きの流れ
遺言が無効であることを主張するためには、裁判所での手続きを行う必要があります。
その裁判での流れを確認しておきましょう。
遺言無効確認調停
家庭裁判所で裁判官・調停委員の関与のもと、遺言書の有効性について相続人どうしで話し合いを行います。
これを遺言無効確認調停といいます。
遺言書の有効・無効を争う場合、まずは関係者どうしで話し合いを行うことが求められており、その話し合いが不調に終わった場合に初めて、訴訟を提起することとされています。
このことを調停前置主義といいます。
相続人どうしの話し合いで、遺言を無効とすることに相手方が納得すれば、その段階で遺言が無効であることが確認されます。
ただ、相手方が納得しなければ調停は不成立となり、次の段階に進むことになります。
相続人どうしの話し合いでは解決しなかったため、裁判で決着をつけようという気持ちで家庭裁判所での調停に臨んでいるわけですから、実際に調停が成立する可能性はそれほど高くありません。
そのため、最初から調停を行わずに、そのまま訴訟に進むケースもあります。
遺言無効確認訴訟の提起
遺言が無効であると主張する人は、無効であることを裁判所に確認してもらうための訴訟を提起します。
調停は家庭裁判所で行いますが、訴訟は地方裁判所で行うこととなります。
遺言が無効になる場合についてはすでに説明しましたが、遺言が無効であると主張する人はそのような事実があったことを明らかにし、無効であることを立証しなければなりません。
遺言無効確認訴訟を提起する際は、時効がありません。
そのため、あわてて訴訟を提起する必要はないのですが、時間が経過してしまうと相続財産がすでに他人の手に渡ってしまい、遺言が無効であると確認されても、実際にはその効果を得られないことがあります。
また、時間が経過すればするほど、無効となる原因事実があったことを立証するのが難しくなります。
そのため、時効はなくても早めに訴訟を起こすことを考える必要があります。
遺言無効確認訴訟の審理
遺言無効確認訴訟の審理の場においては、遺言が無効であることを主張する人と有効であることを主張する人の双方が、互いに自分の主張を行うこととなります。
遺言能力について争いがある場合には、その当時遺言能力があったかを判断するため、診断書やカルテ、その人を知る証人の証言などにより、無効となるか有効となるかの判断を行います。
また、遺言書が偽造された可能性がある場合には、筆跡鑑定が行われる場合があります。
このようにして、客観的な事実からその遺言書が有効か無効かを判断するのです。
遺言無効確認の判決
双方が互いに自分の主張を行い、あるいは立証を行って審理が尽くされたら、裁判所が判決を下します。
判決により遺言が無効と確認されれば、その遺言書はないのと同じ状態になります。
この場合、判決の後に相続人どうしで遺産分割協議を行い、相続財産を分割することとなります。
判決により遺言書が無効とされたとしても、そこで相続財産の分割方法まで裁判所が決めるわけではありません。
遺産分割協議を行う際も、再び相続人どうしで揉める可能性があるため、注意しなければなりません。
遺言書の効力について揉めた場合、遺言無効確認調停から始まり遺言書の有効・無効が確認されます。
もし無効となった場合には、そこから遺産分割協議を始めることとなるため、すべての相続手続きを完了させるまでには、かなりの時間がかかってしまいます。
遺言無効確認手続きに必要な書類
遺言無効確認訴訟を提起する場合、その人の遺言能力について問題があることを確認するため、様々な書類が用いられます。
遺言能力をめぐる争いとなっている場合には、その遺言者の医療記録(カルテや診断書)や介護の記録などを用います。
要介護認定を受けている人は、その認定を受けた時に作成した意見書などを添付すると、実際にどのような症状であったかを知ることができます。
意思能力を測るために「長谷川式簡易知能評価スケール」という指標がよく用いられます。
この「長谷川式簡易知能評価スケール」は、簡易的な言語性知能検査で、主に認知症のスクリーニングが目的とされています。
遺言書を作成したとされる当時の指標について記録が残されていれば、客観的にその当時の意思能力を知ることができます。
また、遺言書の偽造が疑われる場合は、筆跡鑑定が行われます。
その際、遺言者本人が書いた文字がサンプルとして用いられるため、直筆のノートや手帳などを探しておくといいでしょう。
まとめ
認知症となった親に遺言書を書いてもらっても、その遺言書が有効に成立するとは限りません。
どうしても遺言書を書いてもらう必要がある場合には、医師の診断書や介護の記録などをそろえておいて、遺言能力があることを主張できるような準備をしておく必要があります。
また、代筆した場合には無効とされるため、必ず本人が自筆しなければなりません。
本来、遺言書をめぐる争いを避けるためには、確実に遺言能力があるうちに遺言書の作成を行っておくべきです。
元気なうちに遺言書の作成を行うことは、相続でのトラブルを避けるための基本なのです。
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