目次
この記事でわかること
- 遺産分割協議書の目的とその効果
- 遺産分割協議書を公正証書にする必要性
- 遺産分割協議を公正証書にする方法
- 遺産分割協議を行う際の注意点
遺産分割のとき相続人が被相続人の配偶者と子1人だけなら、さほど混乱もなくスムーズに分割ができるはずです。
しかし、子が多かったり、逆に子がおらず、配偶者と被相続人のたくさんの兄弟姉妹と分割したりするケースもあることでしょう。
大人数であれば同居していない方々も多く、電話やメールで話し合いをしても、そう簡単に話はまとまりません。
そのため、相続人全員で遺産分割について話し合うのが「遺産分割協議」です。
当然大勢の相続人が口約束で決めても、「言った」「言わない」でまた揉める可能性があるので協議書を作成します。
こうすれば、当時の協議内容をすぐにチェックできますよね。
さらに、協議書の信用性をより高める手段が、その書類を「公正証書」にすることです。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議の内容を記載する書類となります。
この書類は、法律でどのように作成するか規定されておらず、基本的に記載内容は自由です。
では、話し合いで決めた内容を、単に記録するための書面なのかと言えば、そうではありません。
この書類を作成することで有益となる効果と役割があります。
遺産分割協議書が必要となる3つのケース
電話やメールで協議内容を伝えることは可能です。
しかし、集まって話し合いをしたいなら、時間の調整も難しいですし、どの相続人の家へ集まるかも決めなければいけません。
なかなか面倒な作業となります。
しかし、遺産分割は大切な手続きです。
次のようなケースでは協議が必要です。
(1)遺言書が無く、相続人が多い場合
遺言書に詳しく遺産分割の内容が記載されていたり、たとえ遺言書がなくても相続人に子1人だけだったりすれば当然協議は必要ありません。
しかし、遺言書がなく相続人も複数人いる場合、やはり誰がどんな遺産を引き継ぐかをしっかり決める必要はあるでしょう。
(2)遺言書に指定されている財産が一部のみ
例えば不動産資産は相続人が指定されていたものの、預金や債券等の金融資産は誰に分与されるか指定されていない場合が該当します。
この場合、相続人の一人が勝手に金融資産を自分の物にしてしまえば、深刻なトラブルに発展する可能性が高いです。
そんなことの無いように、相続人全員で協議する必要があります。
(3)遺言書の内容に相続人が納得していない場合
遺言書で、誰にどんな遺産が分与されるか明確に指定されていたものの、相続人の全員または一部が、その内容に不満を持っていて、異なる遺産分割を望むケースです。
遺言書の内容と異なる分割方法は、相続人全員の合意で決めることができます。
その際に、遺産分割協議をしっかり行うことが大切です。
遺産分割協議書の3つの効果
協議書の記載は、手書きはもちろんパソコン等での作成もOKです。
いずれにしても手間はかかる作業となります。
しかし、協議書を作成すれば次のような効果が期待できます。
(1)相続人間の後々のトラブル予防
遺産分割協議はもちろん、相続人間の意見の対立もあることでしょう。
しかし、ひとたび協議が成立し協議書も作成されれば、全員の合意のあったことは明白となります。
そのため、相続人達は後から「やはり被相続人の預貯金が欲しい」とか「合意なんてそもそもしていない」と主張したとしても通りません。
(2)分割内容が容易に把握でき、保存できる
相続人それぞれ望んだ遺産を取得でき、ひと安心で協議で終えられるなら一安心でしょう。
ただし、口頭で決めただけでは相続の内容がどうだったのか、相続人達の記憶も曖昧となり、揉めだすこともあります。
そんなことにならないため書面化は必要です。
協議がまとまった後は、自分へ分与された遺産が容易に把握でき、その内容を後々まで正確に保存できます。
(3)相続手続きに必要な場合も
被相続人の亡くなったことを金融機関が知ると、相続人から勝手に引き出されないよう口座は凍結されてしまいます。
当然凍結されたままでは預貯金が受け取れない状態となります。
相続手続きを進める際、遺産分割協議をした場合には、その証拠となる協議書の提出を求められることでしょう。
一方、金融資産のみならず不動産資産でも同様で、遺産分割協議の後、被相続人から相続人へ不動産の相続登記をする際は、法務局から協議書の提出を必ず要求されます。
協議書がないと、相続手続きもスムーズにはかどらないこととなります。
遺産分割協議書の2つの役割
相続トラブルは、一度起こるとその解決までに多大な労力を伴うことでしょう。
遺産分割協議書には、このような事態を未然に防ぐための2つの役割があります。
(1)相続人全員を拘束する契約書としての役割
遺産分割協議書に法定相続人全員が署名押印すれば、契約書として当事者を拘束し、被相続人の遺産を勝手に独り占めするような行為や、紛争の蒸し返しはできなくなります。
ある相続人がこの協議書に記載された内容に反する行為を行うと、他の相続人達から裁判を提起され、立場がかなり不利となることでしょう。
協議書は裁判を行う際に有力な証拠ともなるのです。
ただし、契約書である以上、使用する印鑑は実印であることが望まれます。
また、協議書が2枚以上に渡れば全員の契印、2通以上作成するなら全員の割印が必要となります。
(2)正当な権利を持つという証明書の役割
前述したように、被相続人の金融口座の凍結解除・名義変更等を行う際や、法務局で相続が原因の所有権移転登記申請をする場合、協議書の提出が求められます。
つまり、法定相続人以外の個人はもとより金融機関、そして行政機関へも証明書として通用することを意味するのです。
遺産分割協議書を公正証書にすべき理由
後述しますが、公正証書の手続きはやや面倒ですし、お金もかかります。
できればお金をかけるのは避けたい方々も多いことでしょう。
しかし、公正証書としておいた方がさらに証明力は高まります。
その理由として次の2つがあります。
(1)公証人が作成するので信用力は高い
公正証書は公証人(公証事務を担う公務員)が作成するため、信用性がより高くなります。
この公正証書の原本は公証役場で20年間保管されます。
万一ご自分が紛失しても、これならば安心ですよね。
また、いかなる個人や団体に対しても、公証人が作成した真正の文書として主張できます。
(2)毅然とした対応ができる
協議後、その分割が相続人間でスムーズに行われたなら問題ないものの、その過程で再び揉めだすケースはあります。
例えば被相続人の不動産資産を代償分割する場合です。
この方法は、不動産資産以外に目立った遺産が無い時など、相続人の誰かがその遺産を継ぐものの、他の方々にはお金で我慢してもらうという方法です。
しかし、後日そのお金が惜しくなり、支払うべき相続人がいつまでたっても代償金を渡さない事態も想定されます。
遺産分割協議書を公正証書として作成しているのなら、この公正証書を証拠として強制執行することが可能です。
このように、困った事態にも毅然とした対応ができます。
遺産分割協議書を公正証書にする方法
遺産分割協議の内容を公正証書にするまでは、様々な作業が必要となります。
しかし、スムーズな遺産分割を行うためには、いずれもしっかり行っていくべき作業と言えます。
こちらでは、公正証書にするまでの流れ、記載内容等について説明します。
遺産分割協議の準備から公正証書にするまでの流れ
被相続人が亡くなれば、遺族たちは役所への死亡届の提出、葬儀や墓地への納骨等、いろいろな手続き・手配に追われます。
その一方で、遺産分割のため次のような作業が必要となります。
(1)法定相続人の調査
相続が開始されれば、まず法定相続人が誰であるかを明確にしなければいけません。
そのため、被相続人の誕生~死亡の間の全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)を市区町村役場から収集します。
これらの書類で被相続人の尊属(父母等)や兄弟姉妹、先妻の子等の存在がわかります。
(2)財産の調査
法定相続人が明らかになれば、分割する遺産の調査を行います。
現金・預貯金の有無や被相続人が口座を保有している金融機関を調べます。
不動産資産の調査は、市区町村役場で固定資産課税台帳を閲覧すれば、被相続人の所有していた物件を確認できます。
(3)遺産分割協議を行う
法定相続人と被相続人の遺産を調査し終えたら、いよいよ遺産分割協議を行います。
全ての相続人へ協議日時・場所を伝え、集合してもらいます。
電話連絡やメール、直接会って話し合う方法のいずれでも構いませんが、全員の合意なくして遺産分割協議の成立はありえません。
(4)遺産分割協議書の作成
遺産分割協議の成立後に遺産分割協議書を作成します。
協議の内容は手書きやパソコンで作成します。
その内容に相続人全員が納得したら、全員で署名・押印を行います。
なお、署名は自筆で、押印は実印で行うと証明力が高まります。
(5)公正証書にする
遺産分割協議書の信用力をさらに高めるため、公証役場で公正証書にする手続きをとります。
公証人の指示通りに必要書類を集めましょう。
公正証書にする場合の記載内容
こちらでは、具体的に記載する内容を例示してみます。
【具体例】
- ・被相続人:A(令和元年12月20日死亡)
- ・法定相続人:B(妻)・C(被相続人の兄)・D(被相続人の妹)
- ・被相続人の遺産:(不動産資産)〇△マンション、(金融資産)〇〇銀行・△△銀行普通預金
- ・遺産分割協議成立日:令和2年5月20日
- ・不動産資産の取得に関し相続人間でやや意見の相違あり
なお、新たに被相続人の遺産が発見された場合も考慮し、その遺産を誰が取得するか、明記しておいた方が良いでしょう。
ただし、その発見された遺産が、遺産分割した遺産総額に匹敵するほど高額となるケースでは、遺産分割協議をやり直した方が無難です。
公正証書にする場合の必要書類
提出書類については公証役場の指示に従い、収集を行いましょう。
主に書類は次のようなものが必要です。
- ・公正証書作成のための資料:遺産分割協議書またはメモ書きのようなものでも可
- ・被相続人の戸籍謄本等:誕生~死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本が該当
- ・相続人の戸籍謄本
- ・相続人の印鑑登録証明書・実印
- ・不動産資産に関する証明書類:固定資産評価証明書、登記事項証明書が該当
- ・金融資産に関する証明書類:預金通帳、有価証券の残高証明書等
- ・負債に関する証明書類:借入先の残高証明書等
ケースによっては、さらに追加の書類が要求される場合もあります。
さらに公証人手数料もかかります。
遺産の価格によって手数料も異なってきます。
価格が100万円以下なら手数料は5,000円で済みます。
しかし、価格が5,000万円を超える場合、手数料は43,000円以上と高額になります。
遺産分割協議書を公正証書で作成する際の注意点
遺産分割協議書を作成するにしても、公正証書で作成するにしても、注意すべき点は存在します。
気を付けないとケースによっては、遺産分割協議のやり直しが必要となる事態も想定されます。
こちらでは、遺産分割協議の際に想定されるケースをあげ対応策について説明します。
相続人が未成年者や認知症の人の場合
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。
たとえ法定相続人が未成年者や、認知症の方々であっても協議の場に参加させなければいけません。
しかし、まだまだ年少である相続人、ましてや認知症の相続人が、正確に分割内容を把握し合意できるとは限りません。
この場合は、公正な協議の実現のため家庭裁判所に申し立て、未成年者ならば「特別代理人」を、 認知症の人には「成年後見人」を選任してもらいます。
この方々が代わりに遺産分割協議書や公正証書へ署名押印することで、有効な書類となります。
相続人が参加できない時や、行方知れずの時
遺産分割協議は前述したように、法定相続人が一堂に会する必要はありません。
遠方にいる方々にはメールや電話で分割内容を連絡し、後日、署名押印や印鑑登録証明書の提出で合意させることも可能です。
ただし、法定相続人が海外に住んでいる場合や、行方知れずとなってどこに住んでいるかわからない事態も考えられます。
海外に住んでいる方々の場合には、印鑑登録証明書の取得は難しいため在外公館で「サイン証明書」を取得しましょう。
この証明書があれば協議書を作成できます。
また、連絡が取れず所在すら不明の相続人には、家庭裁判所に申し立て「不在者財産管理人」の選任で対応します。
その上で、家庭裁判所の許可を得れば行方知れずの相続人がいなくても、遺産分割協議できます。
遺産分割協議の時期は法定されていないが
遺産分割協議を行ったり、協議書の作成や公正証書としたりする期間は法定されていません。
ただし、各法定相続人の気が向いた時に行えば良いのかと言えばそうとは言えません。
相続税の申告期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内となります。
なかなか猶予はあるようにも思えますが、協議で揉めると申告期限を経過する場合もあります。
この期限内に協議が終わらないと、「未分割」の申告となってしまい、配偶者控除・小規模宅地等の特例のような相続税軽減制度の利用が難しくなります。
なるべく申告期限内に遺産分割協議書を作成し遺産分割しておくことが無難です。
まとめ
遺産分割協議とその協議書の作成は面倒な作業かもしれませんが、相続トラブルを未然に防ぐ大切な方法です。
相続が開始されたら、なるべく速やかにこの作業を進めることが求められます。
遺産分割協議の進め方や協議書の作成に不安を覚える方は、相続に強い弁護士などに相談してみることも検討してみてはいかがでしょうか。
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