この記事でわかること
- 相続税の申告・納付期限
- 申告期限を過ぎた場合のペナルティ
- 相続税申告以外に期限のある相続手続き
相続税の申告・納付期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内です。しかし、すべてのご家庭で相続税の申告が必要なわけではなく、遺産総額が相続税の基礎控除以下の場合、申告は不要となります。
相続税申告が必要であるにもかかわらず申告期限に遅れたり、そもそも申告を行わなかった場合、ペナルティの税金が課されるため、申告・納付期限は遅れないように注意しなければいけません。
2015年に改正された相続税の基礎控除額の引き下げによって、相続税は裕福な家庭だけの話ではなくなっています。
この記事を読んで、相続税の申告期限や必要な手続き、期限を過ぎた場合の対処法を知っておきましょう。
目次
相続税の申告と納付の期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月
相続税の申告期限は、被相続人(亡くなった人)の死亡を知った日の翌日から10カ月です。被相続人の最後の住所地を管轄する税務署へ申告を行い、相続税の納付も10カ月以内に行わなくてはいけません。1日でも遅れると延滞税がかかってしまうため注意してください。
たとえば、被相続人が7月10日に亡くなり、相続人が亡くなったことを当日に知った場合(身近な方であれば死亡当日に知るケースがほとんどでしょう)の相続税の申告・納付期限は、翌日の7月11日から10カ月にあたる翌年5月10日となります。
相続税の申告・納付期限は「亡くなったことを相続人が知った日」を起点として数えるため、もし疎遠などを理由に他の相続人よりも被相続人が亡くなったことを知るのが遅れた相続人の申告・納付の期限は、他の相続人より後ろ倒しになります。
ただし、実務上は相続人が共同で相続税の申告書を提出するため、申告期限が一番早い人にあわせて進めることを推奨しています。
なお、下記のような例外もあります。
例外① 10カ月後が土日祝の場合は次の平日
相続税の申告・納付期限にあたる10カ月後が土日祝日の場合、稼働していない行政機関が多いため、次の平日を期限日としています。
たとえば、申告・納付期限が7月16日土曜日だった場合、翌日が日曜日、翌々日が祝日ならば、その次の平日である7月19日が期限日となります。
土日祝日による期限日の前倒しはありませんが、連休明けは行政機関が混雑する傾向にあるため余裕を持って申告の準備を進めましょう。
例外② 災害など特殊な事情があった場合は最大2カ月延長されることがある
相続税の申告期限は原則として延長は認められませんが、災害その他やむを得ない理由により期限に間に合わない場合は税務署に申請すると申告期限を最大2カ月間延長できます。
災害その他やむを得ない理由には、被災して申告ができなかったり、新型コロナウイルス感染症に感染した場合が該当します(ただし、新型コロナは季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられたため、単に感染しただけでは延長を受けられるとは限りません)。いずれかに該当する場合、「その理由のやんだ日から2カ月以内」に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出しましょう。
また、下記のような場合にも延長が認められます。
- 胎児が提出期限までに生まれない場合
- 相続人となりうる胎児が相続税申告書の提出期限までに生まれない場合は、胎児がいないものとして申告書を提出しますが、胎児が生まれたものとして課税価格及び相続税額を計算した場合に、相続税の申告書を提出する義務がなくなるときは、自己の責めに帰さないやむを得ない事実であるため、災害その他やむを得ない理由に該当し、申請書を提出することにより、胎児が生まれた日から2カ月の範囲内で延長することができます。
- 相続人に異動が生じた場合
- 認知や相続人の廃除または取消に関する裁判の確定、相続の回復、相続放棄の取消などにより、相続人となった人、相続人ではなくなった人が申告期限の1カ月以内に生じた場合、災害その他やむを得ない理由に該当し、申請書を提出することにより、これらの事由が生じた日から2カ月の範囲内で延長することができます。
- 死亡退職金が支給された場合
- 被相続人の死亡により、被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金などの支給が相続税の申告書の提出期限前1カ月以内に確定した場合も、災害その他やむを得ない理由に該当し、申請書を提出することにより、事由が生じた日から2カ月の範囲内で延長することができます。
例外③ 死亡日が死亡推定期間の場合、最終日が相続開始日
孤独死や事故死などで被相続人の死亡日が特定できない場合、除籍謄本の死亡日には死亡したと推定される「1月4日から1月9日までの間」のように期間で記載されます。この場合は、死亡推定期間の最終日を相続開始日とみなすため、相続開始日を起点に申告・納付期限日が設定されます。
たとえば、死亡推定期間「1月4日から1月9日までの間」では、1月9日が相続開始日となり、申告・納付期限は同年11月9日になります。
相続税の申告・納付期限を過ぎた場合のペナルティ
相続税の申告・納付期限は、災害で被災した場合や遺贈の放棄があった場合などを除き、申告期限の延長は認められません。
相続税の申告・納付期限を過ぎた場合には、ペナルティとして延滞税と無申告加算税が追加で課されます。
延滞税
延滞税は、納付期限を過ぎた場合に課せられる税金です。
延滞税の税率は原則として、納付期限の翌日から2カ月以内の期間は「年7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%(令和6年は2.4%)」のいずれか低い割合ですが、2カ月を超える期間は「年14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%(令和6年は8.7%)」のいずれか低い税率で計算されます。
延滞税は、延滞している日数に応じてかかり、納付が遅れるほど高額になるため注意しましょう。
加算税の種類 | 内容 | 税率 |
---|---|---|
延滞税 | 税金を定められた期限までに納付していない場合 | 納付すべき本税の8.7%(2カ月以内:2.4%) ※令和6年の場合 |
無申告加算税
無申告加算税は、申告書の提出が遅れた場合に課せられる税金です。税務署からの調査の事前通知の前に、申告・納付期限後に自主的に申告すれば納付すべき税額の5%、税務調査で指摘されてから申告した場合は50万円以下の部分は15%、50万円超から300万円以下の部分は20%を追加で納付しなければいけません。
なお、令和5年度税制改正により、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税については、納付すべき税額が300万円を超える部分は30%の税率に引き上げられます。
申告期限後、比較的早いタイミングで税務署から電話や文書での簡易的なアプローチが行われることもあるため、申告・納付漏れに気づいたらすぐに自己申告することで負担する金額を抑えられます。
加算税の種類 | 内容 | 税率 |
---|---|---|
無申告加算税 | 申告期限までに申告せず、期限後に自主的に申告した場合 | 納付すべき税額の5%(※) |
申告期限まで申告せず、期限後に税務調査で指摘されてから申告した場合 | 納付すべき税額 50万円まで:15% | |
50~300万円まで:20% | ||
300万円~:30% |
- ※
- 過去5年の間に同税目において無申告加算税または重加算税を課されておらず、法定納期限までに全額納税されていて、法定申告期限から1カ月以内に期限後申告書の提出があった場合、無申告加算税は課されない
期限内に遺産分割がまとまらない場合は「未分割申告」を
相続税の申告・納付期限までに遺産分割が間に合わない場合、期限内に未分割申告するという対策があります。
未分割申告とは
相続人の間で申告期限内に遺産分割が決まらない、申告期限までに全遺産の把握や評価が終わらない、といった理由では申告期限は延長できません。そのような状況の場合、いったん申告期限内に未分割の状態のまま申告・納税を済ませる未分割申告をしましょう。
未分割申告とは、各相続人などが民法に規定する相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の申告をすることです。未分割では、誰がどの財産を取得するか確定していないため、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などの特例や控除が適用できません。
ですが、遺産分割協議が成立し、実際に分割した財産の額に基づいた修正申告または更正の請求の際には、特例や控除を適用できます。
修正申告
修正申告とは、当初に申告した税額が正しい税額より少ないことに申告期限後に気づき、正しい税額に訂正すると共に不足の税額を納めるための申告です。
更正の請求
更正の請求とは、当初に申告した税額よりも正しい税額が少ないことに申告期限後に気づき、納め過ぎた税額を還付してもらう手続きです。
つまり、追加の税額を納めるときは修正申告、納め過ぎた税金の還付を受けるときは更正の請求を行います。
メリット
ペナルティの税金が課されない
期限内に未分割申告をしておくことで、遺産分割完了後の修正申告または更正の請求の際に無申告加算税を課されずに済みます。
修正申告時に特例などを適用できる
未分割申告の提出時に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することで、遺産分割が成立後の修正申告または更正の請求時に、小規模宅地等の特例や、配偶者の税額軽減の適用ができます。
申告期限から3年経過後になっても、訴えの提起がなされている、和解、調停、または審判の申立てがなされているといったやむを得ない事情により分割が整わない場合には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を申告期限後3年を経過する日の翌日から2カ月を経過する日までに提出することにより、その後分割が成立したあとに提出する申告書において、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を適用することができます。
デメリット
一時的に特例や控除の適用を受けていない相続税を納める必要がある
未分割申告では、誰がどの財産を取得するか決まったあとに適用できる特例や控除が適用されない状態で申告するため、納税額が高額となり、納税資金に苦慮する可能性があります。
相続税申告以外に期限のある相続手続き
相続においては、相続税申告以外にも期限のある手続きがあります。
相続放棄・限定承認(3カ月)
被相続人の借金などの負債を引き継ぎたくない場合は、相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければいけません。
しかし、相続放棄をしてしまうと負債以外の財産も引き継げなくなるため、放棄するかどうかの判断は慎重に行う必要があります。
また、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産(負債)を引き継ぐ限定承認という選択肢もあります。限定承認をする場合も相続放棄と同様、相続開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所で限定承認の申述をしなければいけません。
相続放棄は相続人単独で行えるのに対し、限定承認は相続人全員で行わなければいけない点に注意が必要です。
準確定申告(4カ月)
被相続人に一定以上の収入があった場合、亡くなったことを知った日の翌日から4カ月以内に準確定申告を行わなければいけません。準確定申告とは、被相続人の亡くなった年の所得税の申告です。
遺留分侵害額請求(1年)
請求できる遺留分がある場合、遺留分の侵害を知った日から1年を経過するまでに遺留分侵害額請求をしないと遺留分請求権は時効消滅します。
遺留分とは、配偶者、子ども等(直系卑属)、父母等(直系尊属)に認められる最低限遺産を引き継ぐ権利のことで、遺言書によりこの金額を下回る指定を受けた相続人は、遺産を引き継いだ人に遺留分に相当する金額を請求することができます。
なお、遺留分の請求権は相続が発生したことを知らなかったとしても、相続開始から10年間が経過すると時効消滅します。
相続登記(3年)
相続で不動産を取得した場合、取得したことを知った日から3年以内に、相続登記をする義務があります。正当な理由がないのに相続登記をしない場合、10円以下の過料が科される可能性があります。
遺産分割が3年以内に成立しない場合、「相続人申告登記」をすることで、義務を果たすこともできます。その後、遺産分割が成立したときは相続登記が必要となります。
まとめ
相続税の申告期限は、やむを得ない理由に該当しない限り、相続があったことを知った日の翌日から10カ月以内です。災害その他やむを得ない事由での申告期限の延長申請が認められた場合は、その理由がやんだ日から2カ月後が提出期限です。
遺産分割が整わなくとも申告期限を守らないと延滞税や無申告加算税といった余計な税金を納めることになります。
申告期限内に遺産分割が成立するのが一番ですが、難しい場合は、申告期限内に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して未分割申告をしましょう。未分割申告をした際は、遺産分割が成立した後に、成立を知った日から4カ月以内に修正申告または更正の請求を忘れないように注意が必要です。
申告期限を延長したいがやむを得ない事由に該当するのかわからない場合や、遺産分割協議が申告期限内に間に合いそうもない場合は、早めに税理士に相談しましょう。
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