交通事故では、被害者と加害者の示談交渉が折り合わずに裁判となることも多くありますが、事前に裁判手続きについて知識を深めておくと良い結果をもたらすことにつながる可能性もあります。
この記事では、交通事故裁判の手続きの流れ、特にその中で行われる尋問手続きについて事前の準備から当日のことまでを併せて説明します。
目次
交通事故裁判は、次の手順で進められます。
裁判所へ訴状を提出することを提訴とよび、提出した当事者が原告、相手方が被告となりますが、交通事故の場合には、被害者が加害者を訴える損害賠償請求訴訟、加害者が被害者を訴える債務不存在確認訴訟があります。
また、交通事故裁判の手続きでは、当事者の主張と証拠資料が出尽くした頃を見計らって、裁判所から和解案が提示されることが一般的です。
この和解案は、当事者の双方が応じると和解が成立となって裁判手続きが終了し、応じないときには裁判手続きが続行されます。
そして、続行された裁判手続きでは、当事者の申立てまたは裁判所の職権で当事者尋問が行われることになりますので、これらの結果と提出された証拠資料をもとに裁判官が判決を言い渡すことになります。
当事者尋問の前に陳述書の提出を求められますが、この書類は、事故当日の状況、発生した被害の状況などの当事者に起こった事実や意見を時系列に分けて作成され、これにもとづいて尋問が行われますので、内容に不確かな部分が多いと判決にも影響がある大変重要なものになります。
また、当事者の主張・争点によっては、当事者尋問を終えてからも裁判所から再度の和解案の提示がなされることもあります。
判決が言い渡されると、その内容に不満のある当事者は、一定の期間内に次の進級で裁判を続ける控訴・上告をすることができます。
控訴・上告がなされないときは、判決が確定することになりますので、当事者に判決書の記載とおりの権利・義務が生じることになります。
なお、裁判所へ提出する書類は、原告では訴状、準備書面、陳述書と手続きの進行に応じて増えていきますが、すべての書類で主張に一貫性、関連性などがないと、主張の信憑性が疑われて和解案や判決に不利になるおそれがありますので注意しなければなりません。
当事者尋問は、裁判所が開庁している平日の日中に行われますが、本人の代わりに代理人による出廷は認められません。
そして、尋問に先立って当事者に対して「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べません」という内容の宣誓を求められます。
また、所要時間は当事者の1名につき30分から60分が割り当てられるので、交通事故の被害者1名、加害者1名なら1時間から2時間で終了することになります。
尋問の流れとしては、当事者ごとに主尋問と反対尋問が行われて、裁判官が必要に応じて補充尋問を行います。
なお、尋問に正当な理由がなく欠席した当事者には、尋問事項に関する相手方の主張が真実であるとみなされ、後日意見を改めて述べることができないというペナルティが課せられます。
当事者尋問は、事前に当事者から提出された陳述書から主張の要点を確認していく作業になりますが、交通事故裁判では、主に次の様な尋問事項となります。
尋問は、事故発生前後の状況や被害について時系列に沿って1問1答式で回答していきますが、仮に被害者である原告に対して主尋問を行うときには、次の様な質問がなされます。
これらの質問は、当事者が弁護士を依頼しているのであれば、その弁護士が行い(原告への主尋問は原告側弁護士、被告への主尋問は被告側弁護士)、依頼していないのであれば裁判官が行います。
また、質問への回答は、メモなどの文書を見て行うことが認められませんので、自分の記憶だけが頼りとなります。
そのため、弁護士を依頼しているのであれば陳述書の内容に合わせて事前に打ち合わせをして対策をすることが一般的です。
反対尋問は、相手方が弁護士を依頼していればその弁護士(原告に対して被告側弁護士、被告に対して原告側弁護士)から、依頼していないのであれば裁判官から主尋問でなされた回答の信憑性を揺らがすものや陳述書との矛盾点などの質問がなされます。
仮に被害者である原告に対して反対尋問を行うときは、次の様な質問がなされます。
特に相手方の弁護士が質問を行うときは、回答者の動揺を誘って失言を引き出すことを目的としたものもあるので、冷静な対応が必要になります。
補充尋問は、裁判官が必要に応じて当事者に対して、主尋問や反対尋問の回答について更に詳細を確認するために行いますが、裁判官が何に興味を示しているのかを知る手掛かりにもなりますので、当事者の答え方も重要となります。
再主尋問や再反対尋問は、当事者が希望するときに行われることがありますが、時間的に余裕がないことが多いため、短時間で打ち切られたたり、必ずしも行われるとは限りません。
当事者尋問で裁判所へ出廷するときには、服装について規定はありませんが、相手方や裁判官に不快な印象を与える服装は避けるべきで、スーツや襟付きのシャツなどの無難なものを選んだ方が良いでしょう。
当日は、印鑑(認印で構いませんがスタンプ式の印鑑は避けた方が良い)とボールペン、本人確認資料(免許証やマイナンバーカードの顔写真、住所・氏名の記載があるものが好ましい)を持参してください。
その他の注意点としては、次の様なものがあります。
尋問の際には緊張してしまうこともあるでしょうが、事前にこの注意事項を読み込み、少しでも落ち着いて裁判に臨むようにしましょう。
交通事故裁判での当事者尋問は、人証とよばれる証拠調べの一つなので、発言はすべて記録されて判決の基礎となる証拠(尋問調書)となります。
また、交通事故の被害者は、裁判において加害者の不法行為、過失、自身の損害、損害と不法行為の因果関係を立証しなければなりませんが、これらを裏付ける確定的な証拠がないときには、当事者尋問でしか立証するしかありません。
当事者尋問では、陳述書の作成、反対尋問に対する想定問答など専門知識や訴訟技術が最も求められることになるので、交通事故裁判に実績のある弁護士に依頼することをおすすめします。
この記事が、交通事故の被害者にとって少しでも有利な条件で賠償問題が解決する一助になれば幸いです。