交通事故の被害者と加害者の間で行われる示談交渉で賠償問題が解決しないときには、裁判所へ訴訟が提起されることが多くあります。
この記事では、交通事故裁判について手続きの流れとそれに要する期間、費用の相場、和解について良い条件を引き出す方法と、和解案に不満があったときの対処法も併せて説明していきます。
目次
民事訴訟では、判決が言い渡されると裁判手続きが終了しますが、これ以外にも途中で和解が成立したときや訴訟が取下げ・却下されたときにも手続きが終了することになります。
特に交通事故裁判では、和解が成立して終了するケースが多いです。
裁判所が公表している平成30年度の統計によると、その年度内の交通事故裁判のうち、和解が約75%、判決が約20%、その他が約5%の原因で終了したとの結果になっています。
交通事故裁判は、当事者の示談交渉で問題の解決が出来ないときに提起されますが、一般的に裁判が終了するまでには長い時間を要するといわれています。
この裁判手続きの流れは、簡易裁判所の少額訴訟手続きを除いて次のとおりとなります。
ここからは、それぞれの項目で要する期間について説明します。
交通事故裁判は、被害者が裁判所へ訴状を提出して、これを受理した裁判所が訴状と第1回期日の呼出状を加害者へ送達して上で開始されます。
訴状が提出されてから第1回期日である口頭弁論が開始されるまでには、2か月から3か月ほどの期間を要します。
口頭弁論などの審理の期日は、約1ヶ月半ごとに1回の頻度で開催され、ほとんどの案件のうち約80%以上が3回以内に終了していますので、口頭弁論や争点整理、証拠調べ・尋問手続きなどの審理自体が終了するまでに5か月ほどの期間を要することになります。
第2回目の期日からは続行期日と呼ばれて、口頭弁論や争点整理手続きなどが行われます。
このとき、争点が明確で当事者の主張と証拠資料も出揃っているのであれば、証拠調べが行われることもあります。
民事訴訟では、当事者が自身の主張する事実を証明するために証拠を提出しますので、これを確認する作業の「証拠調べ」の手続きがあり、交通事故裁判では当事者尋問が行われるケースもあります。
これらの手続きの前後では、裁判所から和解案が提示されて「和解勧告」がなされることが多く、当事者双方が和解に応じると裁判が終了となります。
そして、和解が成立しなかったときは新しい主張と証拠が提出されない限り、口頭弁論などの審理が終了して判決の言い渡しの期日が定められます。
判決は、口頭弁論などの審理が終了してから2か月ほど経過してから言い渡されることが多いのですが、訴訟の内容が複雑になるほど言い渡しの期日までに時間を要することがあります。
判決が言い渡されると、原告・被告双方へ判決書が送達されますが、この判決書を受け取ってから2週間以内に控訴・上告がなされないと判決が確定し、裁判手続きが終了することになります。
なお、平成30年度の裁判所の統計では、交通事故裁判が判決で終了するまでの期間が平均で約18か月という結果になっています。
交通事故裁判を含めて訴訟を提起するためには一定の費用がかかりますが、主なものの相場は次のとおりとなります。
1.申立手数料
申立手数料は、訴状に記載された請求額(訴額)などに応じて定められた金額を収入印紙で納付します。
たとえば、訴額が50万円なら手数料が5千円、訴額が150万円なら1万3千円となります。
詳細は、裁判所の公式サイトで「手数料早見表」として公表されています。
2.文書郵送料
郵送料は裁判所ごとに定められていて、当事者1名あたり3千円~6千円分の郵便切手を訴状と合わせて提出します。
3.弁護士費用(依頼したときのみ)
弁護士費用は、依頼を受けた弁護士ごとに異なりますが、相談料が30分5千円~、着手金が10万円~30万円、報奨金として相手方支払額の10%~30%、その他日当・交通費・郵便料などの実費も必要になります。
交通事故裁判では「和解に応じた方が早く解決できる」と一般的に捉えられていますが、次の様な事情があるときには、判決で裁判が終了する平均的な期間よりも時間を要することがあります。
交通事故では、事故原因について当事者双方に何らかの過失があることが殆どです。
しかしその過失割合について当事者の主張が大きく食い違っていると、それぞれの主張を裏付ける確定的な証拠が提出されない限り、裁判所から和解案が提示されるタイミングが遅くなり、和解成立までに時間を要することになります。
交通事故の被害者は、事故によるケガが原因で後遺症が残ったときには後遺障害の認定を受けると、後遺障害慰謝料と逸失利益を賠償金として支払ってもらえます。
後遺障害の認定は、1級から14級に区別されており、数字が小さくなるほど障害の程度が重く、これに応じて賠償金の額も大きくなります。
後遺障害の等級の認定は、損害保険料率算出機構が行いますが、認定の審査に必要な医学的検査の不足や提出書類の内容の不備などで、必ずしも被害者の症状に合致した認定がなされていないこともあります。
交通事故裁判では、損害保険料率算出機構の認定結果に拘束されませんので、認定された等級に不満のある被害者が更に症状が重い等級に基づいて賠償金を増額して請求することが可能です。
この場合、裁判所が後遺障害について重い方の等級を認定するか否かは、過失割合の増減と同様に賠償金の額に影響を及ぼすため、当事者双方にとって譲歩できないポイントとなります。
そのため、和解が成立するまでに時間を要することになります。
交通事故の被害者が死亡したケースでは、賠償金が高額となるため、加害者や加害者側保険会社が少しでも支払いを抑えようと、被害者の過失割合や事故と死亡との因果関係を否定して争ってくることがあります。
この場合も、過失割合や後遺障害を争っているケースと同様に和解が成立するまでに時間を要することになります。
交通事故裁判では、専門的知識と経験を持つ鑑定人に対して、争点となっている事実について医学的または工学的な観点から判断や意見を求める鑑定の手続きが行われることがあります。
この場合、裁判所は、鑑定結果を待ってから和解案を提示することになるので時間を要することになります。
ちなみに、交通事故裁判で鑑定が行われた場合、裁判終了までに要した平均期間は約35か月です。
ここでは、交通事故裁判の被害者にとって良い条件の和解案が出されるための対処法を説明します。
交通事故裁判では、被害者が加害者の不法行為や過失、自身の損害、事故と損害の因果関係を積極的に主張して証明していかなければなりません。
そのため、事故当時の状況についてドライブレコーダーや周辺の防犯カメラの映像と目撃者の証言、自身のケガや後遺症などについての医学的所見などを可能な限り収集して提出する必要があります。
交通事故の被害者は、後遺障害の認定を受けていないときでも裁判で自身の後遺障害を明確に証明すれば賠償金を増額させることができますが、加害者から反証を受けて必ずしも希望のとおりにならない可能性もあります。
しかし、被害者が裁判提起前に後遺障害の認定を受けていれば、少なくとも等級に応じた賠償金を確保することができます。
裁判所から提示される和解案は、裁判官が当事者の主張とこれを裏付ける提出された証拠から判断することになります。
自身にとって良い条件の和解案を引き出すためには、裁判官との会話から当事者のうち、どちらの主張が認められそうかを見極める必要があります。
このため、訴訟技術や専門知識を持つ弁護士へ依頼することをおすすめします。
交通事故裁判の当事者は、裁判所から提示された和解案に納得できないときには、これを受け入れずに判決を求めることができます。
ただし判決では、特に被害者にとって和解案よりも賠償金が減額される、また全面的に敗訴するリスクもあることを理解しておく必要があります。
交通事故の被害者は、自身の損害を一日でも早く賠償してもらいたいと思うのが当然なので、裁判所の和解勧告に応じて早期に解決するか、時間をかけて判決を求めるか否かは大変悩ましいことでしょう。
「少しでも早く解決したい、少しでも多く賠償金を受取りたい」という方は、交通事故の賠償問題の解決に実績のある弁護士に相談することをおすすめします。