交通事故問題をスムーズに解決し、かつ少しでも多くの適正な示談金を得るためには、交通事故発生後なるべく早めに弁護士に依頼することが必要です。
「適正な示談金を得るまで」とは、イコール「解決する(支払いを受ける)まで」を意味します。
交通事故発生から解決まではどのような流れなのでしょうか?
また、示談書の保管期間はどのくらいなのでしょうか?
時間の経過は思っている以上に早いものです。
事故後は治療を行いながら日常生活をこなしていかなくてはならず、あっという間に半年ほど経過してしまいます。
普段から「時効」というものを意識して生活している方は、ほとんどいないでしょう。
しかしながら、交通事故の被害者となれば「時効」についても意識して問題解決にあたらなければなりません。
この記事が被害者の方にとり、少しでもご参考になれば幸いです。
目次
下図でざっくりと流れを確認していきましょう。
【傷害事故のケース】
死亡事故のケースは、いったいどのような流れなのでしょうか?
損害賠償請求時〜示談金受け取り(ご遺族で分配)までの流れをみていきましょう。
「示談書はいつまで保管しておけばよいの?」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この答えは、「しばらくは保管しておきましょう」です。
少なくとも、確実に示談金を受け取ることができるまでは保管しておきましょう。
また、示談書の内容にもよりますが、「後遺障害が発生した場合は別途支払う」などという条項が盛り込まれていれば、少なくとも完治するまでの間は保管しておくべきです。
示談書の内容にもより一概には言えませんが、示談が成立したからといってすぐに処分してしまうことのないように注意しましょう。
仮に、示談が成立したにもかかわらず、加害者が示談金を支払わなかったとします。
そのようなときに備えて、直ちに強制執行を行うことができるように示談書を「公正証書」で作成しておくことで、示談金を回収することが可能となります。
つまり、示談書を公正証書で作成すると、裁判を経ずに強制執行手続きを行うことができるのです。
交通事故後に、示談交渉やお怪我の治療を行っていると、時間が過ぎるのはとても早いものです。
「時効」に関してもしっかりと意識しておかなければなりません。
2020年4月1日から民法改正が施行され、交通事故による損害賠償請求権に関して変更があります。
請求できる期限 | |
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損害賠償請求 (人身損害の場合) | 5年 |
損害賠償請求 (物的損害の場合) | 3年 |
※参考 「ひき逃げ」などの加害者不明の場合は以下のとおりです。
いずれか早い方となります。
つまり、改正後の民法では「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の期間」が5年に延長されました。
これは、人の生命や身体は他の利益以上に保護する必要性が高いということからです。
(改正以前は、人の生命や身体と他の利益との区別はありませんでした)
ここでは、改正された民法(2020年4月1日施行)についてみていきたいと思います。
そもそも「消滅時効」とは、一定期間権利行使しなければ期間満了により権利が消滅してしまうものです。
つまり、権利行使できるのに“何もしないでいる”と、行使できたはずの権利が消滅してしまいます。
少し驚かれるかもしれませんが「権利の上に眠るものは不保護」という考え方があります。
自分の持つ権利を放っておいてしまったために、時効が完成し消滅してしまっても文句は言えないということです。
では、いったいどのようにして消滅時効を阻止すればよいのでしょうか?
民法改正以前は、消滅時効を阻止するためには何らかのアクション(ex催告、裁判など)を起こさなければなりませんでした。
また、民法改正により「合意による時効の完成猶予」(※後述)という新たな制度も加わっています。
少しでも分かりやすくなればよいのですが、時効を阻止する(時効の更新・完成猶予)方法をまとめてみました。
まずは、時効の更新・猶予の意味を確認しておきましょう。
時効の更新 | 更新事由が発生した場合に、既に発生していた時効期間が無意味となり“新たに” 時効時間が進行開始する(≒振り出しに戻る)制度のこと |
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時効の完成猶予 | 完成猶予事由が発生した場合に、一定期間が経過するまで消滅時効の完成が猶予される(≒先延ばしになる)制度のこと |
更新事由、完成猶予事由とはいったいどのようなものなのでしょうか?
事由 | 完成猶予 | 更新 |
---|---|---|
裁判上の請求(147条) | 裁判上の請求、支払督促などの事由がある場合は猶予される。権利が確定せず事由が終了となれば終了したときから6ヶ月間は猶予される | 権利が確定したときは、事由が終了したときから新たに時効が進行開始される |
強制執行など(148条) | 強制執行や担保権の実行などの事由がある場合は猶予される。申し立ての取り下げや取り消しによる事由が終了した場合は、事由が終了したときから6ヶ月間は猶予される | 事由が終了したときから新たに時効が進行開始される(※申立ての取下げや取り消しによる事由による終了の場合を除く) |
仮差し押さえなど(149条) | 仮差し押さえや仮処分の事由がある場合は、その事由が終了したときから6ヶ月間は猶予される | |
催告(150条) | 催告があったときから6ヶ月間猶予される | |
承認(152条) | 権利の承認があったときは、そのときから新たに時効が進行開始される |
権利についての協議を行う旨の合意が書面(または電磁的記録)でされたときは、下記のうちいずれか早いときまでの間は時効が完成猶予されます。
時効の完成猶予により、訴訟が不要となりました。
これは民法151条により新たに定められた制度です。
これまでは、当事者間で協議中であっても“時効を阻止”するには訴訟を提起するなどの方法によらなければなりませんでした。
訴訟提起となれば、たとえ前向きに協議が進められていたとしても、それが滞ってしまうことが少なくありません。
当事者間の協議により円満解決を図るという目的のために、新たに設けられた規定です。
示談書は、示談が成立したらすぐに破棄してよいものではないということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
たとえ示談が成立しても、実際に支払いが行われなければ意味がありません。
しっかりと支払いが確認できるまではもちろんのこと、後々のトラブルを回避するためにも、しばらくの間は大切に保管しておくことをおすすめします。
時効に関しては、一度聞いただけでは分からないことも多く、個々のケースに当てはめて精査する必要があります。
「自分のケースではどうなのかな?」とご心配であれば一度弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。
時効は、期限があるものです。
自らの権利を失うことのないように、「権利者」として適切に対応していかなければならないことも忘れてはいけません。