交通事故において、被害者は加害者に対して治療費や慰謝料、自動車の修理代など損害賠償の請求をすることができます。
通常は事故の後に警察に連絡し、相手の氏名や住所などの情報を確認し、自分と相手方の保険会社に連絡をとった後は、相手方の保険会社と慰謝料や修理代などの損害賠償の支払いについて示談交渉を行う流れになります。
一般的な感覚からすると、任意保険は事故にあったときのために加入しているはずですので、保険を使うのが普通と思うでしょう。
しかし、加害者の中にはこの任意保険を使わないというケースがあります。
理由として多いのが、「保険を使うと翌年からの保険料が高くなる」ということです。
では、相手が保険を使わないのであれば、示談交渉や賠償請求はどのように行えばいいのでしょうか。
本記事では、交通事故で相手が任意保険を使わない際の賠償請求の方法や、賠償請求を弁護士に相談するメリットなどについて解説していきます。
目次
保険会社と示談交渉などを行うと、交渉や手続きがスムーズに進むことが多いです。
しかし、加害者である相手が任意保険を使わないとなると、示談交渉も保険会社と行うことができず、手間が増え苦労することになります。
交通事故の被害者は保険会社に対して示談交渉や賠償請求を行うことができます。
しかし、相手が保険を使わないのであれば当然保険会社とは交渉できませんので、加害者本人と交渉せざるを得なくなります。
相手に交通事故の賠償について専門的な知識があれば、交渉もある程度スムーズに進めることができるかもしれませんが、そのような知識がある人は少なく、交渉が難航することも多いので、専門家である弁護士に相談した方がよいかもしれません。
加害者である相手方が任意保険を使うときは、慰謝料や修理費などの賠償金は加害者の自賠責保険と任意保険会社が支払います。
また、賠償請求は相手方の任意保険会社にのみ行えばよく、任意保険会社が自賠責保険の支払う賠償金分もまとめて一括で支払いしてくれることになります。
しかし、任意保険を使用しないケースにおいては、本来であれば任意保険が支払う賠償金を加害者本人が支払わなければなりません。
そのため、賠償請求は相手方の自賠責保険と加害者本人に行う必要があります。
加害者である相手によっては、直接示談交渉を進めることが難しい場合もあります。
そのような場合に、加害者である相手方の自賠責保険会社に直接請求する「被害者請求」という手段があり、相手方の承諾を得ることなく請求することができます。
「加害者である相手の承諾なしに請求して大丈夫か」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、この被害者請求は「自動車損害賠償保障法第16条」で認められている権利ですので、心配する必要はありません。
被害者請求は自賠責保険に損害賠償請求するものですが、被害について無制限に請求できるわけではありません。
加害者に損害賠償請求可能なもののうち「対人賠償」のみが対象であり、自動車の修理費などの物損事故による損害は請求できませんので注意が必要です。
具体的に請求できるものとして、以下のようなものが挙げられます。
治療に関するもの | 治療費・診断書料・通院のための交通費など |
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休業損害 | 交通事故が原因で怪我をした場合に、休業しなければならなくなったことで減額した分の補償 |
入通院慰謝料 | 交通事故が原因で医療機関への入院や通院をしなければならなくなった場合に被った心労に対する補償 |
文書料 | 交通事故証明書や印鑑証明書など、被害者請求をする際に必要な文書料 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残ってしまったことを原因として、将来に渡って受ける精神的苦痛に対する補償 |
後遺障害逸失利益 | 後遺障害が残ったことにより失われた収入に対する補償 |
交通事故の被害者が被害者請求を行うことによって、次のようなメリットが考えられます。
原則的に、交通事故の賠償金は示談が成立した後に支払われる流れになりますが、自賠責保険に被害者請求をすると、加害者側との示談が成立する前であっても賠償金の支払いが受けられます。
示談成立を待たずに保険金をもらえるので、経済面の問題で示談を急がなくてはならないといった事態を防ぐことができます。
交通事故の発生について被害者の過失割合が大きい場合、加害者側に損害賠償請求できる金額は過失相殺されてしまい、請求額が大きく減額されてしまうことがあります。
過失相殺とは、交通事故の被害者にも過失があった場合に賠償金額からこの過失分を減額することです。
しかし、自賠責保険による賠償の場合、被害者の過失が7割以上という重大な過失がある場合でない限り、過失相殺による減額処理は行われません。
そのため、被害者の過失割合が大きい場合は、加害者である相手方の加入している自賠責保険に対して、被害者請求をする方が賠償金の額が高くなることがあります。
ただし、被害者だと主張する側に10割の過失がある無責事故の場合については、自賠責保険が支払われません。
この無責事故の例として、被害者だと主張する車両が赤信号を無視したことによる事故の場合や、センターラインオーバーしたことによる事故の場合などです。
後遺障害等級認定における申請手続きには、加害者側の任意保険会社に依頼する方法があります。
この手続きを依頼することを「事前認定」といいます。
しかし、保険会社は自賠責保険が定める最低限必要な書類を集めて提出するだけです。
そのため、被害者の望む認定結果が出るよう手続きを進めてくれるわけではありませんので、適切な後遺障害等級が認定されないおそれがあります。
しかし、被害者請求であれば、被害者自身が症状の証明に必要だと思われる書類を自ら追加して提出できるので、被害者にとって適切な後遺障害等級が認定されるための工夫をすることができます。
被害者請求にはメリットが多くありますが、万能というわけではありません。
次のようなデメリットもあり、場合によっては「被害者請求をやめておけばよかった」と思ってしまうこともあるかもしれませんので確認しておきましょう。
事前認定であれば、後遺障害診断書を医師に作成してもらうだけで、大抵の手続きは任意保険会社が行います。
しかし、被害者請求の場合には、被害者自身で後遺障害等級認定に必要な書類や治療を受けた病院から画像、検査データなど全ての提出書類を集めなければなりません。
また、自身の症状を証明するために何が必要なのかといったことも判断しなければならず、メリットを活かせず、苦労した割に報われない結果になることもあります。
事前認定の場合は、任意保険会社が後遺障害診断書以外の必要な資料を揃えてくれますので、被害者側が準備する必要がありません。
しかし、被害者請求の場合は、病院から診断書や診療報酬明細書、検査資料などを集める必要があり、その際にはそれなりに費用がかかります。
資料の量にもよりますが、数万円程度がかかることが多いです。
被害者請求の場合、先払いを受けることができるのは自賠責保険の限度額までとなります。
そのため、この限度額を超える分については加害者側に請求する必要があります。
任意保険会社を通さず示談交渉する際に問題となるケースとして、相手が賠償金を払わない、または賠償金を支払うお金を持ってないということがあります。
では、被害者としてどういった対処法が考えられるでしょうか。
相手にもよりますが、まずは話し合うことが大切です。
現に支払いがない場合において、相手に支払う意思があっても資力がない場合には強引に一括払いを求めたところで支払うことができません。
そこで、相手に支払う意思がある場合に賠償金を分割払いにして払えるようにする方法があります。
しかし、分割払いにすると支払い自体が長期になる場合が多いため、完済の前に相手の行方がわかからなくなってしまうことや、連絡が取れなくなることがあります。
そのため、分割払いにするときはできる限り短期間の支払いにするよう交渉することが大切です。
内容証明郵便とは、手紙の内容や、いつ手紙を送付したかなどを証明できるもので、相手に送付した文書の内容が公文書として残りますので、裁判となってしまったときなどに証拠として提出することができます。
また、通常の普通郵便よりも証拠として残ることもあって、こちら側の強い決意が伝わるため、受け取る側としてはかなりのプレッシャーを受けます。
その結果、相手が支払いを認めるといったケースが良くあります。
賠償金を回収する手段として仮差押えを行うことがあります。
この仮差押えは、訴訟を起こして判決が出ていない段階でも、相手方に財産の処分をさせないようにする手続きです。
よくあるケースですが、相手が裁判の途中で「この裁判負けそうだ」と感じたときに、持っている財産を隠してしまうことや処分してしまうことがあります。
そうなると、いくら裁判で勝訴判決を得たとしても、賠償金を回収することができなくなってしまいます。
仮差押えの手続きをすることで、このような事態を防ぎ、確実に賠償金を回収することができます。
とはいえ、仮差押えをするためには新たに裁判をしなければならず、時間がかかってしまいます。
そこで、示談書を公正証書にし「強制執行認諾条項」をつけておくと、時間をかけずに相手の財産を差し押さえることができます。
交通事故紛争処理センターとは、裁判外で紛争解決を行う「ADR」の1つです。
交通事故紛争処理センターを利用すると、担当員弁護士が間に入ってくれ、和解のあっせんをしてもらえます。
また、被害者本人が費用をかけて弁護士に依頼をする必要がありませんので、弁護士費用は一切かからないというメリットがあり、示談交渉がうまく進まず交渉が決裂したときなどに非常に役立つ機関です。
しかし、依頼できるケースが限られており、利用できない場合があるので注意が必要です。
交通事故紛争処理センターは、示談交渉がこじれたときに非常に役立つ機関なのですが、加害者が任意保険の契約をしていない場合は、相手方の同意がなければ利用することができません。
そのため、自賠責保険での示談交渉が難航していて、相手側との関係がこじれているときにセンターを活用するための同意を相手から得るというのは難しいかもしれません。
弁護士に交通事故の損害賠償請求を依頼することは非常に大きなメリットがあります。
弁護士に依頼するメリットとして次のようなものがあります。
弁護士に依頼することでもらえる慰謝料が2倍から3倍に増額されることがあります。
保険会社が提示してくる金額は任意保険基準という会社独自に設定した基準で算出しますが、弁護士が算出してくれる弁護士基準の方が遥かに高額になります。
弁護士でもない人がこの弁護士基準により慰謝料算定することは厳しいものがあるので、弁護士に依頼し算定してもらいましょう。
保険会社は支払い額を抑えるために、被害者側にも一定の過失があると主張されることがあります。
しかし、一般の人が証拠を集め適切な過失割合を求めることは非常に困難です。
弁護士であれば、実況見分調書などの記録を分析し被害者に有利になるよう主張してくれますので、良い結果を得られる可能性が高くなります。
後遺障害慰謝料の請求をするためには、後遺障害等級認定に必要な書類や治療を受けた病院から画像、検査データなどの提出書類を集めなければなりません。
しかし、そういった煩雑な手続きを弁護士が代行してくれますので負担が大きく軽減できます。
後遺症による慰謝料を請求するためには後遺障害の申請をして認定されなければなりません。
この申請には法律の知識なども必要となるため、弁護士にサポートしてもらうことで適正な後遺障害等級が認定される可能性が高くなります。
交通事故による示談交渉というものは、ケガの治療や手続きなどで負担がかかっているときに、示談金の額を減額しようと主張してくる相手と交渉をしなければなりませんので、一般的に考えられているもの以上に大きなストレスとなります。
しかし、弁護士に相談し依頼すると、豊富な知識や経験を基に被害者が有利になるよう交渉してくれますので、示談交渉によるストレスが軽減されることになります。
交通事故の被害者となった後の流れとしては、加害者側の任意保険会社と交渉し交通事故を原因とする損害額を支払ってもらう形になります。
しかし、相手方が任保険を使わない場合は、加害者の自賠責保険と加害者本人それぞれに対して賠償請求をしなければなりません。
また、加害者側が賠償金を払わない可能性もありますので、相手方が任保険を使わないときは手続きから示談交渉、賠償請求まで複雑になり苦労することが多くあります。
ただ、依頼するメリットがわかっても弁護士費用が気になる方も多いかもしれませんが、多くの弁護士事務所では弁護士費用は成功報酬制ですので、基本的に費用倒れになることはなく、示談金の金額などと比べても弁護士費用は安いといえますので心配する必要はありません。
適切な損害賠償額を受け取ることができ、様々な不安や面倒事を解消できるよう、交通事故の案件に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。