交通事故に遭い、ある程度時間が経過すると、保険会社から連絡が入るのが一般的です。
「3ヶ月経ったし、むち打ちならそろそろ症状固定の時期ですよね?」
「骨折の場合は、半年くらいが症状固定か完治の時期かと思うので、そろそろ治療費打ち切りますね。」
などと言われることがあります。
通常、怪我の治療が進み「完治」または「症状固定(これ以上治療を継続しても改善が見込めないと医師が判断)」となったタイミングで示談交渉がスタートします。
症状固定の時期は、保険会社が決めるものではなく、主治医が判断するものです。
示談交渉を被害者にとって少しでも有利に進めるには、どうしたらよいのでしょうか?
どのような理由で保険会社が示談金を支払わないといってきているかを知ることも対応策を立てるのに非常に大切です。
ケースごとに理由を考えてみましょう。
このケースはとても多いのではないでしょうか?
「まだ痛いし、急にそんなこといわれても困るんですけど………。」
このように思われるのは当然のことです。
では、なぜ保険会社はそのようなことを被害者にいってくるのでしょうか?
その理由は、「自賠責保険の限度額」にあります。
自賠責保険とは、ご存知のとおり全ての車の所有者に加入義務があります。
ただし、「自賠責保険は被害者救済のためのもの」であるものの最低限の補償しか受けることはできません。
自賠責保険の限度額は以下のとおり決まっています。
入通院慰謝料 | 120万円 |
---|---|
後遺障害慰謝料 | 4,000万円 |
死亡慰謝料 | 3,000万円 |
太字で示した部分が治療に関わる部分です。
つまり、120万円を超過する部分は保険会社が負担することになるため、保険会社からしてみれば治療費を120万円以内に留めておきたいと思うからです。
示談交渉において主張が食い違い問題となるのは、治療費だけではありません。
「休業損害の減額」や「逸失利益の減額」も同じく問題となります。
「休業損害」から見ていきましょう。
交通事故に遭うと怪我のために仕事を休まなければなりません。
そうなれば、当然収入が得られなくなり減収してしまいます。
事故にさえ遭わなければ、当然に得ていたものですから、いわゆる“損害”にあたります。
会社員や自営業、主婦(専業兼業問わず1日1万円ほど)にも休業損害は認められます。
しかし、保険会社は「主婦には実収入がない」などと理由をつけて、支払いを渋るケースがみられます。
また、主婦だけにとどまらず、休業日数を実際の休業日数ではなく「限定的にしか認めない」などといってくるケースも珍しくはありませんので、注意が必要です。
続いて、「逸失利益」について見ていきましょう。
「逸失利益」とは、交通事故により後遺障害となった場合に請求できるもので、休業損害と同様に保険会社が支払いを渋ることがあります。
後遺障害が残ってしまったことにより、事故以前のように仕事ができなくなることがあります。
“労働能力の一部または全部が失われてしまう“などと表現されます。
たとえば、顔に大きな傷跡(醜状痕)が残ってしまった場合や骨の変形の場合、人前に出る仕事をしていた被害者にとってはとても大きな問題であり、従前のポジションから外されて減収してしまうこともあるでしょう。
転職を余儀なくされてしまい、減収となる場合もあります。
このようなケースでは、保険会社は「実際には労働能力が失われているとはいえない。」などといい、逸失利益の減額を主張してくることがあります。
次に、交通事故問題のほとんどのケースで主張が食い違う「過失割合」について見ていきましょう。
一般的には、ほとんどの交通事故では加害者、被害者ともに過失割合があるものです。
8対2や9対1などと表されるもので、多くの方が一度は見聞きしたことがあるのではないでしょうか?
なぜ、過失割合が争点となるかの理由は簡単です。
“賠償額が減額または増額する要因になるから”で、もっといってしまえば“加害者の過失割合が小さければ賠償金を減額できるから”です。
専門用語や法律用語を使われると、知らない被害者にとってはとても高圧的に感じるものです。
今まで見てきた「休業損害」「逸失利益」「過失割合」などが代表例ですが、まだまだ専門用語はありますし、煩雑な手続きを要するものがたくさんあります。
また、進捗を尋ねても回答が遅いことがしばしばあります。
高圧的な態度で専門用語を使われ、頭はパニックとなり怒りを覚えることもあるでしょう。
こちらは、被害者なのですから当然の感情です。
しかし、そのような保険会社に対してあまり感情的になってしまうと思わぬ損をしてしまいかねないので冷静に対応しましょう。
保険会社は、通常「任意保険基準」と呼ばれる基準で慰謝料の算出を行います。
しかし、この金額が適正な金額とはいえず低額であることを知っている人は多くありません。
慰謝料の算出基準は、3種類あります。
基準 | 慰謝料額 |
---|---|
自賠責保険基準 | 低い ↕︎ 高い |
任意保険基準 | |
弁護士基準(裁判基準) |
任意保険基準で算出された慰謝料額は、“最低限の補償”である自賠責保険基準で算出された慰謝料額とあまり変わらず、少し上乗せされた程度の金額です。
最高額といわれている弁護士基準で算出された慰謝料額と比べて、ケースバイケースですが2〜3倍ほどの差が生じることが少なくありません。
このようにして見ていくと、知らなくて損をしてしまうことがたくさんあります。
示談交渉に向けて正しい知識を一つでも多く備えておくことが、自分の身を守ることにもつながります。
相手方の保険会社は、あくまでも「加害者の代理人」であることを忘れてはいけません。
被害者としては不満に思うことも多いでしょうが、被害者に有利に示談交渉を進めてくれるわけではありませんので心に留めておいてください。
保険会社も営利企業ですので、少しでも支出を減らしたいのが普通です。
被害者側からすれば、認めたくはないでしょうがそれもまた仕方のないことなのかもしれません。
いずれにしても、保険会社としては示談交渉を長引かせたくないと思うのが一般的です。
また、示談交渉が難航して「裁判」に発展すると、時間も費用もかかるため、なるべくなら回避したいと思うものです。
ここでは、被害者にとって、損をせず有利に示談交渉に臨むために心がけておくことを見ていきましょう。
“備あれば憂いなし“です。
(参考)
通常は、被害者に過失がなければご自身の加入している保険会社が被害者の代理人となって交渉することはありません。(弁護士法に抵触するため)
しかし、仮に被害者の過失が0ゼロのケースでも、被害者が加入している保険によっては「お見舞い金制度」がある保険もあります。
念のためご自身の加入している保険会社にご連絡されることをおすすめします。
保険会社は被害者に交通事故の示談交渉に関する知識がないことにつけ込んで、加害者に有利に進めることがあります。
これまでも見てきた通り、多くは「過失割合」「休業損害」「逸失利益」「慰謝料」に関して不当に減額されてしまうことが想定されます。
このような基準は、どうやって“正当な〇〇”と判断できるのでしょうか?
それは、保険会社の提示してきた示談内容の「妥当性」を判断できるか否かが重要となります。
少しでも、ご不満・疑問に思われたらその場で答えを出さず、一旦時間をおき弁護士などの専門家に妥当性の判断を仰ぐのも有効です。
保険会社は交渉のプロですので、話術にも長けています。
もし、治療費の打ち切りや被害者にとって不利なことをいわれても、感情的になってはいけません。
被害者ご自身が痛みを感じて治療が必要だと思うのであれば、保険会社のいいなりになる必要はありません。
「治療打ち切りの根拠」をしっかりと明示してもらうなりしてみましょう。
しっかりと自分の意思を伝えることも大切です。
もちろん、怪我の治療ですので、主治医に相談することも忘れないでください。
主治医により、これ以上治療を継続しても改善の見込みがないと判断されれば「後遺障害等級認定」の手続きへと進むこともご検討されることをおすすめします。
保険会社とのやりとりは、たとえ“口約束”であっても法的な効力が発生しますので、書面に限らず有効となってしまいます。
相手方の交渉内容に同意してしまうと後戻りができません。
法律上は、交渉時に話した内容も意思表示として扱われてしまいます。
つまり、被害者自身が話した言葉に法律上でも責任が伴うこととなるため、安易に回答することは避けなければなりません。
そこで、“言った言わないの水掛け論“を回避するためにも、保険会社との交渉時のやり取りを記録しておくことをおすすめします。
交渉時のやり取りを記録する方法
※ただし、ボイスレコーダーは証拠保全や身の安全のために許容されるものであり、みだりに外部に公開しないようにしましょう。
「もうこれ以上は耐えられない!」「冷静に対応できないし、関わりたくない」などと思われたら、迷わず弁護士に依頼することをおすすめします。
態度の悪い保険会社と話していても、精神衛生上よくありません。
場合によっては、そのことが原因となり体調を崩されてしまう方もいらっしゃいます。
弁護士に依頼すれば、たとえ弁護士費用をかけても得られるメリットの方が大きいといえるでしょう。
「敷居が高い」
「弁護士って偉そうなんじゃない?苦手。」
「費用が高そう………。」
弁護士に依頼するかどうか躊躇される原因はこのようなことなどではないでしょうか?
しかし、ご自身が加入している任意保険に「弁護士費用特約」が付帯されていれば実質費用負担なしで弁護士に依頼することができます。
「実際に相談してみたら胸のつかえが取れてスッキリした!」という声もよく聞かれます。
弁護士に依頼するとメリットが多いことは何となく感じるところですが、具体的にはいったいどのようなメリットがあるのでしょうか?
弁護士に相談するメリットについて、代表的な例をご紹介します。
態度の悪い保険会社を相手に示談交渉を行うことは、相当な労力を要します。
弁護士に依頼することで、これら全てを一任することができ示談交渉のストレスから解放されます。
保険会社は交渉のプロですが、弁護士も交渉のプロであり法律のプロです。
また、正当な根拠を示し客観的な証拠に基づいて交渉することに長けているので、裁判に発展することなく示談交渉で話がまとまることが多いです。
保険会社としても、被害者側の弁護士が出てくることによって、こちらの条件をすんなり飲むということが多くみられます。
保険会社にとっては、時間や費用のかかる訴訟リスクを回避したいと思うからです。
言葉を選ばずにいえば、保険会社に対してある種のプレッシャーをかけることができます。
慰謝料額の増減に影響を及ぼす「過失割合」が、示談交渉において大変重要な役割を果たします。
過失割合の妥当性は素人では判断することがとても難しい領域です。
「事故態様」を精査し、場合によってはドライブレコーダーなども参考にします。
あらゆる視点から精査し、過去の膨大な裁判例を参考にして「適正な過失割合」を導き出します。
適正な過失割合を導くことができれば、不当な慰謝料の減額を防ぐことができます。
また、弁護士基準で算出した慰謝料額を適用することにより、“慰謝料アップ”への可能性が高まります。
多くのケースで慰謝料アップとなりますので、弁護士に依頼しないと損をするといっても過言ではないかもしれません。
参考までに、「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」の比較をご覧ください。
例:「むち打ち」の怪我を負い通院したケース
(入通院慰謝料の比較)
通院期間 | 自賠責保険 | 任意保険基準 | 弁護士基準 (裁判基準) |
---|---|---|---|
3か月 | 25.8万円 | およそ37.8万円 | 53万円 |
6か月 | 51.6万円 | およそ64.2万円 | 89万円 |
8か月 | 68.8万円 | およそ76.8万円 | 103万円 |
例:「むちうちの後遺障害」が残ってしまうほどのお怪我を負われたケース
(後遺障害慰謝料の相場比較)
等級 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|---|
12級 | 93万円 | およそ100万円 | 290万円 |
14級 | 32万円 | およそ40万円 | 110万円 |
比較してみると金額の差は一目瞭然です。
普段はなかなか馴染みのない弁護士ですが、どのように選べばよいのでしょうか?
最近では、メールや電話、LINEなどでも一次的な無料相談を行っている事務所が増えました。
あまり堅苦しく考える必要はありませんので、まずは、インターネットで【交通事故 弁護士 無料相談】などと検索してみてください。
その中から、何件か問い合わせをしてみて相性のよい弁護士を見つけるのがおすすめです。
一概にはいえませんが、弁護士選びの際には以下の4つのポイントが重要です。
交通事故の弁護士選びのポイント
以上のうちから最も大切な「交通事故問題に精通した弁護士」について見ていきましょう。
医者と同じく弁護士にも得意分野があり、離婚、相続、企業法務、医療、不動産、刑事など人によってさまざまです。
とりわけ交通事故問題は、医療分野や保険分野など専門的な知識や経験が求められますので、交通事故問題に精通した弁護士を選ぶことが大切です。
交通事故問題に強い弁護士なら、抜け漏れなく賠償金を請求することができますので、示談金アップにもつながります。
また、後遺障害等級認定をする場合には、弁護士がサポートすることで「適正な等級」「適正な後遺障害慰謝料」を得ることができます。
これは、入通院慰謝料とは別で請求できる金額であり大きな金額です。
煩雑な手続きを全て弁護士に任せて、ご自身は事故後の生活再建に向けたご準備をされてみてはいかがでしょうか?
相手の保険会社の対応が悪いことは、残念ながらよくあることですが、感情的にならずに冷静に対応しましょう。
弁護士に依頼すれば、示談交渉のストレスから解放されます。
示談交渉がスムーズに進み示談金もアップできれば、少しは事故の傷も癒えるのではないでしょうか。
お金の問題ではないかもしれませんが、事故後の生活を支えるためにお金は不可欠です。
損をしないためにも、被害者であるご自身の知識を備えておく、または弁護士に依頼する体勢を整えておくことをおすすめします。