東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産をした場合、保有財産を没収されてしまうのが原則です。
そのため、保有財産を自分の手元に残したいがために、自己破産で財産隠しをしようと考えてしまう人もいます。
そこで、自己破産で財産隠しをするとバレるのか、また仮にバレた場合、どのようになるのか気になるところです。
この記事では、自己破産で財産隠しがバレたときに負う法律上の責任と財産隠しをしてもバレる理由を中心に解説していきます。
自己破産で財産隠しをしたときについて知りたい方は、参考にしてみてください。
Contents
自己破産で財産隠しをした場合、複数の法律上の責任を負うことになります。
状況によっては、詐欺罪に問われる可能性もあるので注意が必要です。
自己破産で財産隠しをすると、法律上でどのような責任を負うことになるのか、具体的に解説していきます。
財産隠しをした上で自己破産の申立を行ない、免責の許可を得られたとしましょう。
その後に財産隠しをしていたことがバレると、詐欺罪の対象となるケースもあります。
なぜなら、破産法265条で詐欺破産罪が規定されているからです。
詐欺破産罪とは、債権者を害する目的で財産隠しなどの行為をした場合を処罰する規定です。
財産隠しを行なった時期は、自己破産手続きの前後を問いません。
破産法265条では、「破産手続き開始決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」旨を定めています。
そのようなことから、自己破産手続きで免責許可が得られた後、財産隠しがバレると詐欺罪に問われる可能性があるのです。
もし、詐欺破産罪に問われて有罪判決を受けた場合、債権者の申立によって免責許可が取り消される場合もあります。
上記によって免責許可が取り消されると、借金の支払い義務も負わなければなりません。
自己破産の手続き中に財産隠しがバレた場合、民事上の責任を負う可能性があります。
なぜなら、裁判所から免責不許可を言い渡された場合、借金の支払い義務を負うことになるからです。
破産法252条では、免責不許可事由が規定されています。
同条1項規定の、「債権者を害する目的で、破産財団に属し、または属すべき財産の隠匿」という文言が財産隠しのことです。
そのため、自己破産の手続き中に財産隠しがバレると、免責不許可となる可能性もあります。
免責不許可になれば、借金の支払い義務も残るため、民事上の責任を負わなければなりません。
財産隠しをしてもバレなければ、自己破産時に少しでも多くの財産を残せるといった期待を抱いてしまうこともあるかもしれません。
しかし、自己破産時に財産隠しをしてもバレてしまうのが通常です。
そのため、自己破産をする際に甘い期待を抱いて財産隠しをするべきではありません。
なぜ自己破産時に財産隠しをしてもバレてしまうのか、その理由を解説していきます。
自己破産の申立をする際、申立者の保有財産の内容を明らかにするため「財産目録」という書類を提出します。
財産目録は申立者側で作成するため、一部の財産を記載しないで提出してもバレないのではとも考えられます。
しかし、提出された自己破産申立書類の内容やその調査で財産隠しはバレるのが通常です。
自己破産の申立時には、財産目録とともに「課税証明書」「源泉徴収票」「過去2~3ヶ月分の通帳や給与明細書」などを提出しなければなりません。
裁判所側の調査で上記書類の内容を確認すれば、申立者の保有財産額や資金の流れを把握できます。
もし、事前に預金口座からまとまった資金を引き出しておいても、面談の際に裁判官からその点を追及されて財産隠しがバレてしまうのです。
一定金額以上の財産保有者が自己破産をする場合、管財事件によって手続きが進められます。
管財事件とは、自己破産の申立者の保有財産を換価処分後、各債権者へ平等に配当を行なう形で進められる手続きです。
管財事件で自己破産の手続きが進められる場合、申立者の保有財産を管理したり、処分したりする破産管財人が選任されます。
破産管財人は、管財業務を行なう際、預かる財産の内容を詳しく調査します。
たとえば、通帳に固定資産税の引落履歴があるにもかかわらず、財産目録に不動産の記載がなかったとしましょう。
破産管財人はその点を申立者に詳しく追及します。
それにより、財産隠しを行なったことが破産管財人にバレてしまうのです。
また、申立者への郵便物は、一旦すべて破産管財人に転送されます。
破産管財人がその内容物を確認した上で、申立者に渡されるのです。
たとえば、郵便物が証券会社からのものである場合、金融商品を保有していることが疑われます。
しかし財産目録に金融商品の記載がない場合、その点を破産管財人から詳しく聞かれます。
そのような形で財産隠しがバレてしまうケースも少なくありません。
自己破産で財産隠しをした場合、法律上で時効の対象となることがあります。
時効とは、一定期間その状態が継続している場合、それが法律上の権利関係と相違するときであっても、その状態が法律上の規定に適合していると扱う制度のことです。
時効には、それによって権利を得られる取得時効と権利を失う消滅時効の2種類あります。
自己破産の財産隠しをした場合、対象となるのは消滅時効です。
自己破産で財産隠しをした場合、民法424条で規定する詐害行為取消請求権の対象になる可能性があります。
詐害行為取消請求権とは、債務者が債権者を害する目的でした行為を、一定の要件のもとに債権者が訴えによって取消ができる制度です。
詐害行為取消請求権には、権利行使期間の制限が設けられています。
債務者が詐害行為をしたことを債権者が知ったときから2年経過した場合、権利行使できなくなります。
詐害行為がなされたときより10年経過したときも同様です。
また、破産法160条以下で債権者を害する行為の否認に関する規定が設けられています。
自己破産での財産隠しが債権者を害する行為に該当する場合、自己破産の手続き開始後にその行為を否認することが可能です。
しかし、この規定にも権利行使期間の制限が設けられています。
破産手続き開始の日から2年経過した場合、または債権者を害する行為の日から10年経過した場合は、時効によって上記の権利行使ができなくなります。
自己破産で財産隠しを行なっても時効の対象になるから大丈夫だと考えてしまう方もいるかもしれません。
しかし、自己破産の手続きの際、裁判所や破産管財人から申立者の保有財産について厳格に調査されます。
自己破産で財産隠しを行なった場合、現実的には時効期間前にバレてしまうケースが大半です。
したがって、時効があるから自己破産で財産隠しをしても問題ないという考えは持たないほうがいいでしょう。
自己破産の手続きの際、申立者の保有財産のすべてが調査されます。
預貯金、現金、不動産の他、自動車なども調査対象です。
自己破産の手続き中に、上記財産はどのように調査されるのか解説していきましょう。
預貯金の調査は、預金口座の通帳の入出金履歴をもとに行なわれるのが通常です。
上記の履歴と自己破産申立の際に提出された給与明細書や家計収支表の記載内容との整合性を調査します。
複数口座を保有している場合で、自己破産申立の際に一部の口座だけを申告してもそのことはすぐにバレてしまいます。
公共料金など生活の支払い履歴や給与振込履歴などの確認から、複数口座を保有していることがわかってしまうからです。
現金の調査は、預金口座の通帳の出金履歴をもとに行なわれます。
人々がまとまった現金を手にする場合、預金口座に振込をしてもらうのが通常です。
そのため、預金口座の通帳の出金履歴から、保有している現金の額をある程度推測できます。
預金口座の通帳に高額な出金履歴がある場合、その点を追及されて現金の財産隠しが発覚するケースも少なくありません。
不動産の調査は、法務局で登記情報を取得後、名義人を確認する方法で行なうことが可能です。
また、預金口座の通帳に固定資産税の支払い履歴がある場合、そこからも不動産を保有していることがわかります。
自動車を保有している場合、定期的に車検を受けなければなりません。
また、毎年自動車税の支払いをする必要があります。
自動車を保有している場合、車検費用や自動車税の支払い履歴が預金口座の通帳にあるのが通常です。
そのため、自動車の調査は、預金口座の通帳の内容から車検費用や自動車税の支払い履歴を確認する方法で行なわれます。
自己破産の手続きでは、すべての財産が没収されるわけではありません。
没収される財産がある一方、残せる財産もあります。
自由財産に該当する財産は、自己破産をしても残すことが可能です。
それでは自由財産について詳しく解説していきましょう。
自由財産とは、自己破産の手続きの際に保有している財産のうち、申立者の生活に必要だと認められる最小範囲の財産を言います。
具体的には、99万円以下の現金と差押禁止財産のことです。
民事執行法および施行令の規定で、66万円以下の現金を差押えることが禁止されています。
一方、破産法では、66万円に2分の3を乗じた額(99万円)は、破産財団に属さないと規定されています。
破産財団とは、自己破産の手続きの際に保有している財産のうち、処分の対象となる財産のことです。
そのようなことから、99万円以下の現金を自由財産として、自己破産の手続き後も残せるのです。
また、差押禁止財産の内容は、民事執行法131条、152条などに規定されています。
生活に欠かせない衣服や家具、1ヶ月間の生活に必要な食料や燃料、給料や賞与の額の4分の3に相当する部分などがこれに該当します。
破産法34条4項の規定によって、一定の事情のもとに裁判所側で自由財産の拡張ができます。
それにより、自由財産の範囲を広げてもらうことが可能です。
自由財産の拡張は、裁判所側が自己破産の申立者の生活状況、保有財産の種類および額、収入を得られる見込みなどを総合的に判断した上で行なわれます。
99万円を超える預貯金、自動車、保険の解約返戻金などが拡張によって自由財産と認められる場合があります。
自己破産をする場合、自由財産など一定範囲内以外の財産は没収されてしまいます。
財産を没収されたくないと考えている方の中には、自己破産以外の債務整理の方法で解決したいと希望している方もいるでしょう。
次に自己破産以外の債務整理の方法として、個人再生および任意整理について解説していきます。
個人再生とは、裁判所で手続きを行なう債務整理の方法で、一定の条件のもとに借金を大幅に減額できる点が特徴です。
個人再生の手続きをする場合も、自己破産と同様に原則として保有財産は没収されます。
しかし、特則によってローンのある住宅であれば残すことも可能です。
住宅を残した上で債務整理の手続きを行ないたい方にとって、個人再生は検討余地があります。
任意整理とは、裁判所を介さず、当事者間で借金の返済や返済期間について話し合いをしながら手続きを行なう債務整理を言います。
債権者との話し合いで、将来の利息や遅延損害金を免除してもらい、借金の返済負担を軽くしてもらうのが通常です。
任意整理をする場合、手続き対象を選択することが可能です。
そのため、保有している住宅や自動車のローンがある場合でも、任意整理の手続き対象から外せば没収されずに済みます。
返済期間を見直してもらえば借金完済できる可能性がある方は、この方法を選択するのがいいでしょう。
自己破産で財産隠しをしたことがバレると、状況によっては詐欺罪になる可能性もあります。
詐欺罪に問われると、懲役刑や罰金刑に処されることになるため、自己破産で安易に財産隠しをするべきではありません。
自己破産で財産隠しを行なっても、通常裁判所や破産管財人の厳格な調査でバレます。
また、自己破産をしても、生活に必要な最低限度の財産は残せます。
自己破産申立の際には、必ずすべての財産を申告することが大切です。
もし、どうしても財産を残したいのであれば、自己破産以外の債務整理の手続きを検討しましょう。