東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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自己破産手続きをすることにしたとき、高額の予納金を納めなければいけないと聞いたが、具体的にはいくらくらいなのか知りたい、または、あまりにも高額だと準備できない可能性もあるのがそのような場合はどうしたらよいのか知りたい、という方もいらっしゃると思います。
予納金とは、破産手続きをするときに裁判所に支払う費用のことです。
破産者の財産金額によって予納金は異なりますが、財産がない場合は1万円前後、財産がある場合は最低でも20万円になります。
この記事では、破産手続きに必要な予納金にはどのようなものがあるのか、その内訳と金額の相場、支払うタイミングについて解説します。
併せて、予納金が準備できない場合の対処法についても説明します。
Contents
「予納金」とは、自己破産手続きを行う際、最低限、手続きにかかる費用として予め裁判所に納める費用です。
本来は、破産財団から支払うべきものですが、破産手続き前は、どのくらいの財産が破産者に残っているかわかりません。
破産財団を形成するだけの財産が残っていない可能性もあります。
そこで、破産手続きを進められるようにするため、自己破産の申立人は、破産財団の形成に関わらず、
破産手続きにかかる費用だけは予め支払わなければならないとされています。
予納金の納付は、破産手続開始の要件となっています。
裁判所によって命じられた予納金を支払わなかった場合、破産手続開始の申立ては却下されてしまいます。
予納金には、手数料、官報公告費用、引継予納金などがあります。
主に破産管財人の報酬に充てられる引継予納金が大部分を占め、調査すべき財産が多く、対処すべき事柄が多いほど、仕事量は増えるので、高額になることになります。
法人破産では、債権者数も多く、従業員の未払い賃金や解雇の問題もあります。
テナントの明け渡しなどの問題も生じてきます。
このように手続きが複雑であるため、仕事量が多く、予納金も高額になるといえます。
他方で、法人に資産価値のある在庫などがあり、確実な換価、売却ができるような状況であれば、基準より低い予納金が認められる例もあります。
破産手続きにおいては、すべての債権者を把握する必要があります。
債権者の把握は、基本的には、申立人の提出する債権者一覧表によって可能になりますが、一覧表に漏れがあったり、申立人が認知していない債権者がいたりする可能性もあります。
そこで、破産者に対する破産手続開始決定がなされると、官報に公告して破産者の破産の事実を広く社会にアナウンスし、すべての債権者へ知れ渡るようにします。
自己破産をすると、士業などの職業には一定期間就けなくなるなど、一定の資格制限を受けることになるので、それを社会に周知するという意味合いもあるでしょう。
官報に乗せる情報は、事件番号、主文、理由の要旨、免責意見陳述期間、免責審尋期日などです。
破産手続開始決定と免責許可決定のタイミングで2回、官報に公告されます。
官報公告にかかる費用は、10,000円~19,000円ほどで、これも予納金として申し立て時に納付しなければなりません。
「引継ぎ予納金」は、破産者から代理人弁護士に預けられ、代理人弁護士から破産管財人に引き継がれる予納金のことです。
引継ぎ予納金は、主に破産管財人の報酬に充当されます。
破産管財人は、財産等の調査・管理・換価処分などの規定された破産管財業務を遂行していくため、最低限の報酬が必要になります。
また、破産管財業務にかかった実費も引継ぎ予納金から支出します。
同時廃止事件では、破産手続が破産開始決定と同時に終了するため、手続処理費用や破産管財人報酬は発生しません。
そのため、引継ぎ予納金も必要ありません。
引継ぎ予納金は、破産管財人が管財業務や諸手続を行う、管財事件にのみ必要になります。
引継ぎ予納金制度には、破産手続に一定のハードルを設けることで、無用な破産手続を避けるという機能もあります。
引継ぎ予納金があまりに高額になると、自己破産を利用できる人が限られてしまいます。
そこで、引継ぎ予納金を少額にした、「少額管財制度」があります。
少額管財制度では引継予納金は20万程度となっています。
裁判所によって多少金額は変わります。
申立て時点で高額の財産を有している場合は、特定管財(通常の管財)事件になることもありますが、ほとんどのケースがこの少額管財事件であるといえます。
引継ぎ予納金は原則として一括払いです。
例外的に、4回~5回程度の分割払いを認めている裁判所もあります。
引継ぎ予納金は、破産財団を形成するので、債務者自身に変換されることはありません。
ただし、債権者申立て事件の場合は、債権者が予納金を支払うことになるので、破産者の財産ではないので、破産財団から返還されることになります。
まず、引継予納金以外の予納金は、おおむね、次のような金額になります。
破産手続手数料 | 1,500円程度 |
---|---|
官報公告費用 | 10,000円~19,000円 |
郵券 | 5,000円程度 |
これらは、同時廃止事件であっても最低限納めなければなりません。
また、少額管財ではない、特定管財の引継予納金の基準は、負債額に応じて次のようになっています。
これは東京地方裁判所の事例で、裁判所によって多少変わります。
負債額 | 引継予納金の額 |
---|---|
5,000万円未満 | 700,000円 |
5.000万円以上1億円未満 | 800,000円 |
1億円以上5億円未満 | 1,500,000円 |
5億円以上10億円未満 | 2,500,000円 |
10億円以上50億円未満 | 4,000,000円 |
50億円以上100億円未満 | 5,000,000円 |
100億円以上 | 7,000,000円 |
法人破産に加えて、代表者個人の破産手続きも同時に行う場合、別途費用がかかります。
法人破産の申し立てをすると、2週間から1カ月経って裁判所から予納金支払いの連絡があります。
支払いの期限は、特に決められているわけではありませんが、予納金を支払わないと破産手続は進みません。
予納金を支払うと、それから破産手続開始決定がなされることになります。
したがって、予納金は支払いの連絡があり次第、速やかに支払うべきでしょう。
破産の申し立てから、1カ月ぐらいが納付の目安になることになります。
ただし、東京や大阪などの大都市では、即日面接という手続きをスピードアップさせる制度が導入されていることが多いです。
この場合は、申し立てた当日に破産手続開始決定がなされますので、予納金も当日に納める必要があります。
予納金の分割払いは認められないのが基本です。
例外的に、東京地裁では、20万円の引継予納金の納付に限って、破産手続開始決定後の4回の分納を認めています。
これ以外の一般的なケースでは、予納金の準備ができるまで半年程度手続きを保留してもらえる場合もありますが、そのような場合でも、受任した弁護士等がいったん預かって積み立て、予納金額まで貯まった時点で、一括納付ということになります。
、特に破産管財人の報酬に充てる引継予納金については、納め切らないと破産管財人の管財手続きが進まない、という運用がなされていることもあります。
また、支払い手続きを一定期間放置してしまうと、裁判所から手続きを取り下げるように求められることになります。
破産手続きをすることが決まったら、予納金分を無理のない範囲で積み立てておくとよいでしょう。
弁護士に依頼する場合、弁護士報酬を後回しにして、予納金の支払いを先に済ませるような相談に乗ってくれる場合もあります。
予納金に充てるお金が手元にない場合は、どうしたらよいのでしょうか。
このような場合であっても、法人破産の場合、弁護士に相談すれば資金を作ることは可能です。
破産手続きの申し立てを弁護士に依頼すると、弁護士は債権者に、受任通知を送付します。
債権者は受任通知を受け取ったら、一般的には債権の督促をストップするので、法人側もその支払いを停止して、破産手続きのために準備することが可能になります。
具体的には、法人の財産を売却して現金化したり、売掛金の回収をしたりして資金を捻出します。
法人が加入している生命保険などを解約し、その返戻金を充当するケースもあります。
ただし、これらはあくまでも破産手続きに充当する費用に充てることが条件になります。
一部の債権者に優先的に弁済したり、自分の生活費に充当したりすることは、「偏頗弁済」と呼ばれ、破産管財人の調査によって問題になりますので、注意しましょう。
弁護士費用の分割払いによって費用を捻出する方法もあります。
弁護士によっては、相談に応じてくれる先生もいるでしょう。
また、個人であれば法テラスなどを利用して弁護士報酬を節約すれば、予納金に回せるお金が捻出できる可能性もあるでしょう。
法テラスは、「日本司法支援センター」といい、国が設立した国民の法的問題を解決するための団体です。
国家政策として、「法律にまつわる手続費用の貸与」を行っています。
法テラスでは、一定の収入要件などをクリアすれば、弁護士費用を立て替えてくれるほか、条件に該当すれば弁護士費用が一部免除になる制度もあります。
ただし、弁護士を選ぶことはできません。
どうしても予納金に充当するお金がないときは、親戚や知人に借りるなどする方法が考えられます。
ただし、破産手続きですので、消費者金融に借りたり、無理なローンを組んだりするのは禁物です。
法人破産は、1カ月~2カ月程度の事業継続の余裕はあるが、その先の事業継続が厳しいというような段階で早めに検討し、弁護士に相談するのがベストといえます。
どのようなタイミングであったとしても、予納金のあてがない場合には、一度弁護士に相談するのがベストです。
予納金は、同時廃止か管財事件かによって大きく異なります。
同時廃止とは、破産の手続きを開始すると同時に手続きを完了する方式です。
破産の申し立てをしたときに、20万円以上の財産がないと、同時廃止として扱われることが多いです。
反対に20万円以上の財産があると、裁判所が「どれぐらいの財産を持っているのか?」の調査をしなければいけなくなり、管財事件として扱われます。
管財事件だと最低でも20万円の予納金が発生しますが、同時廃止だと1万円前後で抑えられます。
破産で予納金を節約したいなら、同時廃止での処理が必須になります。
「どうやって破産を同時廃止にしてもらうのか?」と思うかもしれません。
破産を同時廃止にするか・管財事件にするのかは、裁判所の判断になります。
自分が申し立て時に「同時廃止にしてください」とお願いしても、要件を満たしてない場合は、同時廃止の判断にならないかもしれません。
同時廃止で処理してもらうために、下記の要件を満たす必要があります。
まず財産が20万円以上あると、管財事件になるので注意しましょう。
次に免責不許可事項といって「裁判所から見て、破産を許可できない理由がある」と判断されたら、同時廃止にはなりません。
例えば借金の理由が浪費・ギャンブルであったり、裁判所に虚偽の報告をしていたりすると、免責不許可事項に該当する可能性があります。
また申立書にミスがあると、裁判所が余計に調査する必要があり、同時廃止になりにくい可能性があります。
自分で破産申立を行うと、申立書のミスが多く、裁判所とのやりとりが難航するケースが多いです。
予納金を抑えるためには、弁護士に相談して、適切なアドバイスをもらうのが確実でしょう。
なぜなら弁護士は裁判所が必要としている情報を分かっており、裁判所とのやりとり・債権者との交渉にも慣れているからです。
個人で分からないまま進めて、時間・お金を無駄にするぐらいなら、弁護士に依頼した方がいいでしょう。
破産申立は裁判所から説明を求められることもあるため、弁護士にサポートしてもらう方が心強いです。
多くの弁護士事務所では、初回の相談を無料で行っているので、気軽に相談できますよ。
弁護士費用の支払いを分割で対応してくれることもあるため、まずは相談してみるのがおすすめです。
破産手続きでは、原則、最低限の予納金を納めないと、破産手続ができないということがおわかりいただけたでしょうか。
破産管財事件であれば、50万円~数100万円程度は用意しなければならないといえます。
予納金が支払えない場合は、弁護士に相談すれば、費用の捻出方法を考えてくれたり、弁護士費用を分割払いや後払いにしてくれたりする弁護士もいるので、あきらめずに信頼できる弁護士を探してみましょう。
個人であれば法テラスを利用することも選択肢の一つです。
法テラスであれば、弁護士費用を立て替えてくれるほか、条件によっては弁護士費用の一部免除も可能です。
このような方法でも予納金を捻出できない場合は、知り合いから借りるなどの方法を検討しましょう。
ただし、消費者金融などの高金利の金融業者から借りるのはやめましょう。