最終更新日:2024/8/6
法人の節税対策は永久節税型と繰延節税型に分けて対応をしよう
この記事でわかること
- 法人の節税対策について理解できる
- 法人の節税対策が自分でできる
- 節税と脱税の根本的な違いがわかる
会社を健全に維持するために、節税は重要です。
法人の節税対策には、永久節税型と、繰延節税型があります。
この記事では、法人税をはじめとする税金の種類と、代表的な節税方法についてご紹介します。
目次
法人税とは?意識するべき税金の種類
まず、法人が支払う税金についてそれぞれの概要を確認します。
法人税(国税)
法人税は、事業活動を通じて得た法人の所得についてかかる税金のことを言います。
個人で言うところの所得税のようなものです。
個人の所得税と違うところは、収益から費用を差し引いた会計上の利益に課税されるのではなく、法人税法上の「別段の定め」に規定される調整をして、益金と損金を算出します。
益金から損金を差し引いたものが、法人の所得となります。
法人住民税(地方税)
法人を維持するだけでもかかるのが住民税です。
法人であっても、地方自治体による公的サービスを受けていると考えられるため、法人でも住民税が課税されます。
住民税は、道府県民税と市町村の管轄である市町村民税を総称したものです。
法人の所得から法人税が計算されると、法人税額をそのまま課税標準として税率をかけ、法人住民税の法人税割部分を計算します。
さらに、法人の資本金別で定額の均等割を加算します。
つまり、
法人住民税=法人税割+均等割
になります。
均等割があるので、法人としての所得がゼロであっても、法人住民税はゼロにはなりません。
法人住民税は、所得がゼロでも支払わなければいけない税金です。
法人事業税(地方税)
法人事業税は、都道府県から課税されます。
法人事業税は税金ですが、納付時に損金に算入できます。
その他
その他の税や負担金などでは、社会保険料と給与にかかる所得税があります。
節税対策はなぜ必要?
節税対策は、なぜ必要なのでしょうか。
特に対策をせずに、税金の請求書がきたらそのまま払えばいいと思っている方もおられるかもしれません。
確かに、節税しないことは悪いことではありません。
しかし、会社を健全に経営していくことを考えると、会社が支払うお金を減らすことは重要です。
費用削減は、普段からしていることでしょうから、さらに削減することは難しいでしょう。
従業員にも少なからず負担や努力をしてもらわなければならないかもしれません。
税金は、必ず支払うものではありますが、ちょっとした工夫で支払いを減らせることがあります。
節税は、最初の計画の部分だけは努力や工夫が必要ですが、あとは税制の大幅な変更がなければそのまま継続すればいいだけです。
会社の節約という面で、コストパフォーマンスに優れているのが節税なのです。
法人が支払う税金は複雑です。
ちょっとした工夫で、支払う税金が少なく済む一方で、ちょっとしたことでも知らなければ必要以上に多く支払ってしまうという仕組みがあります。
節税方法を知らないことは損なのです。
工夫すれば節税でき、会社の負担が減るのであれば、節税しない手はないでしょう。
脱税にならないように注意
一方で、脱税は法律違反であり、悪質なものは犯罪になります。
脱税とは、本来支払うべき税金を支払わないことを言います。
節税をしても、支払うべき税金は支払わなければなりません。
脱税では、限りなく負担を減らすために、本来支払うべき税金まで減らそうとします。
費用にできないものを費用に計上したり、虚偽の会計帳簿を作ったり、実在しない取引先を用意したりなど、税務署をごまかそうとします。
脱税は犯罪です。
節税は、あくまでも税法というルールの中でしている工夫の一つなので、犯罪にはなりませんが、節税がいきすぎて脱税になってしまうといけません。
法人としての信用も失いますし、追徴課税などのペナルティを受けることになります。
気をつけましょう。
節税なのか脱税なのかわからないときは、税理士に相談してみることをおすすめします。
税理士は、節税と脱税のラインについて判例や国税庁からの通達などを参考にしてアドバイスすることができます。
最もよく知られている3つの節税方法
この章では、最もよく知られている節税方法を3つご紹介します。
益金を減らす
まずは益金を減らすことです。
売上を減らすことは難しいですし、会社にとっても良くないことですが、売上を計上するタイミングによって、益金を減らすことができます。
たとえば、物を販売する業態の場合は、相手に物を引き渡した時点で売上を計上します。
サービスの場合は、サービスの提供が完了した日に売上を計上します。
物品販売については、引き渡した時点以外にも、出荷のタイミングでの計上や、検収した時、使用収益、検針基準などがあります。
年度毎に好きな基準を使えるのではなく、会社内で売上基準を決めて計上しなければなりません。
売上計上基準は、合理的な理由があれば変更することが可能です。
たとえば、歯科医院(法人)の場合を考えます。
歯科医院の場合、歯の矯正にはかなりの時間がかかります。
装置を取り付けた時点で売上を計上すると、多額の未収金が発生してしまいます。
歯の矯正は、何年にも渡ってするものなので費用は分割で支払われることが多いのです。
支払日=取り付け時点であれば、その日に計上にすることが悪いわけではありません。
ただ、売上があるということは、そこに課税されてしまうわけですから、まだお金をもらっていない部分がある場合は、その分の税金を先に支払わなければいけなくなり、負担になるでしょう。
国税庁は、
「矯正装置の装着など一定の役務の提供を行った時に基本料等の全額について請求し受領することとしている場合には、基本料等の全額についてその一定の役務の提供を了した日の収入金額とします。」
という見解を出しています。
ただ、あくまで患者との契約の実態に沿ったものである必要があります。
詳しくは、国税庁のホームページをご覧ください。
似たような発想ができる業種は他にもあります。
システム開発や、建築業などは、物やサービスの提供を完了するまでに長く時間のかかる業種と言えるでしょう。
これらの収益認識基準については、国税庁の基準をよく読んで参考にしてください。
売上の計上基準を変えることは、脱税に使われる手段でもあります。
もし税務調査が入った場合でも、きちんと説明できるようにしておいてください。
合理的な理由があれば売上計上基準を変更しても良いのですから、合理的な理由をきちんと説明できるようにすることが大事です。
損金を増やす
2つめは、損金を増やすことです。
ここで言う損金とは、一般的に経費とか費用と言われているものと似ていますが、財務会計で言う「経費」のことです。
厳密にいうと損金は税務会計上の考え方で、会社の経費を税法上の「別段の定め」に規定される調整をして算出したものです。
経費=損金ではありません。
ところで、損金に入れられるのに、入れ忘れている項目はありませんか。
たとえば、売掛金や未収金のうち、回収できる見込みが低いものについては、貸倒引当金を計上します。
もはや回収の見込みがなくなった債権については、貸倒損失を計上してください。
貸倒損失も、貸倒引当金も、限度額があるものの、損金に算入することが可能です。
固定資産税の減価償却の方法を見直すこともできます。
固定資産税は、定率法と定額法の2つの方法で減価償却をします。
定額法は、固定資産の帳簿価額を年数で割る方法です。
定率法は、固定資産の帳簿価額に定率を掛け算して計算します。
定率法だと、早くに損金化できます。
固定資産の取得時にかかる租税公課や不要物の処理費用などの付随費用についても損金化が可能です。
もう使わなくなった固定資産は早めに廃棄してください。
廃棄すると、固定資産の帳簿価額が固定資産除却損という損金になります。
特別控除を利用する
3つめは、特別控除を利用する方法です。
雇用促進税制
「雇用促進税制」を利用すると、一定の地域で無期雇用かつフルタイムの雇用者を一人増やすごとに40万円の税額控除を受けられます。
厚生労働省のホームページによると、
「地域再生法に基づき都道府県知事が認定する「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」の認定を受け、本社機能の拡充・移転を実施する事業主において、特定業務施設(整備計画に基づき整備する本社機能を有する施設をいいます。)の雇用者を増加させた場合、1人当たり最大90万円の税額控除が受けられます。」
と説明されています。
また、厚生労働省のリーフレットでは、
「東京23区から地方に本社機能を移転する場合、雇用者増加数1人あたり最大3年間で170万円の税額控除が受けられます。(本社機能の拡充の場合は最大30万円)」
とあるので、東京から地方に移転した企業が、移転した先で新規に社員を雇用する際にも利用できます。
全国どこでも良いわけではなく、地域再生法に基づいた認定を受けなければなりませんので注意が必要です。
また、ハローワークに「雇用促進計画」を提出する必要があります。
所得拡大促進税制
中小企業庁では、積極的に賃金を上げる企業を応援するために「所得拡大促進税制」を用意しています。
中小企業庁のリーフレットによると、
「所得拡大促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で、前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。」
と説明されています。
簡単に説明すると、従業員に支払う給料をアップしたら、アップした分の一部を税額控除できるという仕組みです。
厚生労働省の雇用促進税制との併用も可能です。
中小企業投資等促進税制
こちらも、中小企業庁の管轄の税制控除です。
「機械装置等の対象設備を取得や製作等をした場合に、取得価額の30%の特別償却または7%の税額控除(※税額控除は、個人事業主、資本金3,000万円以下法人が対象)が選択適用できるものです。」
と説明されています。
ちなみに、電子計算機については平成29年度税制改正により対象から外れました。
電子計算機の設備投資をお考えの方は、中小企業経営強化税制または商業・サービス業・農林水産業活性化税制など他の税制の活用を検討しましょう。
節税には大きく分けて2つの節税方法がある
節税には大きく分けて2つの方法があります。
一度設定してしまえば半永久的に節税できる永久節税型と、費用を支払うタイミングを調整することで節税になる繰延節税型です。
永久節税型の節税対策
永久節税型は、以下の方法があります。
普段から行う永久節税型の節税
普段からできる節税の方法をご紹介します。
役員給与と役員賞与
役員の給与は、毎月一定額を支給する場合に損金に算入できます。
会社の業績が上がったときも、逆に低迷している時でも一定額を支払うことが条件です。
決算終了後に毎年行う株主総会や取締役会で役員給与の変更をすることができます。
期中での変更は認められていません。
会社の業績に関わらず、役員給与を一定にしておくと、損金に算入できるようになるので節税になります。
役員の賞与については、支払う金額と日時を税務署に届ければ損金に算入することが可能です。
届出の提出期限は、株主総会等の決議があった日から1カ月を経過する日か、会計期間開始の日から4カ月を経過する日のいずれか早い日になります。
出張旅費規程
特に出張が多い企業の場合は、出張手当を一律に支給する方法をとっている場合もあるでしょう。
実費ではなく、出張手当を支給する場合は、出張旅費規定を整備し、出張手当を損金にしましょう。
決算前に行う永久節税型の節税
決算の時期の前に、毎年できる節税方法は以下の通りです。
少額減価償却資産の特例
少額減価償却資産の特例は、中小企業が30万円未満の資産を購入した際、年間300万円に達するまで、その購入価格の全額を損金にできる制度です。
「この特例は、取得価額が30万円未満である減価償却資産について適用がありますので、器具および備品、機械・装置等の有形減価償却資産のほか、ソフトウェア、特許権、商標権等の無形減価償却資産も対象となり、また、所有権移転外リース取引にかかる賃借人が取得したとされる資産や、中古資産であっても対象となります。」
とされており、かなり幅広い資産を購入することができます。
消耗品の購入
1つあたり10万円未満の物品は、購入価格の全額を損金に計上できます。
必要なものがあれば、決算前に購入しておけば、利益が出そうな場合の節税になります。
繰延節税型の節税対策
繰延節税型について説明します。
ポイントは、お金をいつ、どのタイミングで受け取るかということです。
決算前に行う永久節税型の節税
決算前に、今年は利益が出そうだと思ったらできる方法をご紹介します。
基本的に損金を前もって計上するだけなので、翌年に支払うタイミングでは損金にできません。
翌年のことまで考えて計上してください。
決算賞与
支払いがまだなされていなくても、未払い給与として決算賞与を計上し、損金を増やすことができます。
実際に支払った時点では損金に計上できません。
支払った時点で損金に計上できないので、翌期の損金は減ることになってしまいます。
未払費用・短期前払費用
サービスの提供を受けたものの、まだお金を払っていないものは未払費用です。
一方で、サービスを受けるのは先だが、前もって費用を払っておこうというものが、前払費用です。
前払費用は、費用と名前がついていますが、原則として資産になり、サービスを受けたときに費用になります。
短期前払費用の特例を使うと、支払い時点で損金に算入することが可能です。
国税庁ホームページでは、
「法人が、前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務にかかるものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、1にかかわらず、その支払い時点で損金の額に算入することが認められます。」
とされています。
まとめ
今回は、法人税の節税対策についてご紹介しました。
法人が支払う税金の代表が、法人税です。
法人は売上を上げなければいけない一方で、売上が上がればその分法人税も高くなってしまいます。
売上を認識するタイミングの調整は、脱税になってしまうケースもあるので慎重に対応してください。
損金に算入できる分はもれなく計上し、必要なものがあれば決算前に購入しましょう。
国が応援している事業には、税制控除が適用される場合があります。
雇用の少ない地域で雇用を増やす、新しい挑戦をしたいので設備投資したい、従業員の賃上げをしたいなど、国の方針と合うところで税制控除を受けられる場合は、ぜひ制度を利用して上手に節税しましょう。