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最終更新日:2026/4/10

社長は雇用保険に加入できるのか?雇用保険加入の条件や家族について解説します

社会保険労務士 西村兆潔
この記事の執筆者社会保険労務士 西村兆潔

ベンチャーサポート社労士法人 社会保険労務士。
大学を卒業後に、都内にある社会保険労務士事務所での勤務経験を経て、ベンチャーサポートに入社。

PROFILE:https://vs-group.jp/tax/startup/profile_writing/#p-nishi

この記事でわかること
  • 社長が雇用保険に加入できない理由
  • 雇用保険加入の条件
  • 兼務役員について

社長は、雇用保険で「守られる立場」ではありません。事業がうまくいかなければ収入が途絶える可能性もありますが、社長は従業員ではないため雇用保険に加入できません。

このような意味で、社長という立場はリスクが高いといえます。社長のなかには「万が一、会社をたたむことになったときに失業給付は受けられないのか」と不安を抱く人も多いです。

この記事では、雇用保険のしくみと加入条件を整理しながら、社長が原則加入できない理由、役員が使用人兼務役員(以下、兼務役員)として例外的に加入できるケース、家族従業員の扱い、小規模企業共済などの社長自身のリスク管理の方法を、わかりやすく解説します。

個人事業と法人の違い、会社設立の流れ、必要書類、費用など会社設立の全体像をわかりやすく解説!

社長は雇用保険に加入できない

結論、社長(代表取締役など会社を代表する者)は雇用保険に加入できません。

雇用保険は、会社から雇われて働く「労働者」を守る制度であり、経営者や事業主のための制度ではないからです。

ただし、社長以外の役員(取締役等)なら、従業員としての身分をあわせ持つ兼務役員の場合など、労働者性が認められることで加入できるケースはあります(判断はハローワーク)。

ここでは、雇用保険の位置付けや、労働者と社長・役員の違いを整理し、なぜ社長が雇用保険に加入できないのかを解説します。

雇用保険は労働者のための保険

雇用保険は、失業した人の生活と再就職を支えるための制度です。

雇用保険には、失業給付のほか、教育訓練給付や育児休業給付、介護休業給付など、雇われて働く人をサポートするしくみが含まれています。

この制度は、事業主と労働者が保険料を負担し合い、失業などが発生したときに決まった金額の給付を労働者が受けられるようにするためのものです。

あくまで雇用されて働く「労働者」を保護する目的であるため、経営判断を行い従業員を雇用する立場にある社長や会社法上の役員は雇用保険の対象になりません。

社長本人が希望しても、雇用保険には加入できないのです。

社長は労働者ではない

社長も働いているのに、なぜ雇用保険に加入できないのでしょうか。

これは、雇用保険の対象となる「労働者」が、会社からの指揮命令を受けて働き、その対価として賃金を受け取る人を指しているからです。

会社において、社長や取締役は、会社の経営方針を決定する立場にあります。そして自身の判断で会社運営を行います。会社との関係は雇用契約でなく委任契約に基づいており、労働者とは立場が異なるわけです。

社長や会社法上の役員は「労働者」とはみなされず、雇用保険の加入対象外となります。たとえ会社のために長時間働いていたとしても、それは「経営者として働いている」「委任契約に基づいたもの」となります。

雇用保険の条件

雇用保険に入れるかどうかは「労働者としての実態」と「労働時間などの条件」を満たしているかで判断されます。

雇用保険に加入できる条件については、雇用保険法で以下のように定められています。

雇用保険法 第四条

この法律において「被保険者」とは、適用事業に雇用される労働者であつて、第六条各号に掲げる者以外のものをいう。

引用:e-Gov 法令検索

ここでは、雇用保険法の基本的な考え方を踏まえ、加入できる人の条件を整理します。自社の従業員が雇用保険の対象になるかどうか判断する際のポイントになります。

雇用保険に加入できる人

雇用保険に加入できるのは「雇用されて働く労働者」です。

そして「会社に雇用されている」と判断される要素として、次のようなものが考えられます。

  • 雇用契約に基づいて労働しているか
  • 会社からの指揮命令を受けて働いているか
  • 出退勤の時間や勤務場所など
  • 業務内容や異動の指示に従う義務があるか
  • 給与や時給・日給など、労務の対価として賃金を受け取っているか

これらを総合して「事業主ではなく従業員として働いている」と判断できる場合には、雇用保険の加入対象になります。

労働者として雇用されていること

雇用保険に加入するためには「労働者」である必要があります

たとえば、顧問契約や業務委託契約など、「個人事業主」として働いている場合、雇用保険の対象外です。長期にわたって委任契約や請負契約をしている場合でも、雇用されていない個人事業主は雇用保険には加入できません。

そして社長や役員も、委任契約で業務を行う立場であるため、労働者に該当しません

ただし、後述する「兼務役員」として実態が労働者に近いと判断され得る役員は、例外的に雇用保険の対象となる可能性があります。

所定の労働時間などの条件を満たしている

ただし、雇用契約のもとで働く労働者であれば必ず雇用保険に加入できるわけではなく、一定以上の労働時間などの条件も満たす必要があります

たとえば以下の場合は、雇用保険の適用除外として加入対象になりません。

  • 週の所定労働時間が20時間未満の者
  • 継続して31日以上の雇用が見込まれない者
  • 季節的事業に雇用される者(雇用期間や所定労働時間による)
  • 日雇労働者のうち、日雇労働被保険者にならない者
  • 昼間学生(卒業見込証明がある等の例外あり)

※法改正により、2028年10月から加入要件の週所定労働時間が「10時間以上」に変更予定

参考:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要(PDF)

つまり、短時間のアルバイトや、極めて短期間の雇用の場合は、上記の条件を満たさず加入対象外となることがあります。

ただし、自社の従業員が条件を満たしているにもかかわらず会社が雇用保険に加入させていない場合は、是正指導を受ける可能性があります。

雇用保険に加入できない人

雇用保険は労働者を対象としていますが、労働者であれば誰でも加入できるわけではありません。

社長や役員のような「そもそも労働者ではない人」に加え、労働者であっても適用除外に当たる場合は加入対象外になります。ここでは、雇用保険に加入できない2パターンを整理します。

社長は労働者ではないため加入不可

前述のとおり、取締役などの役員は労働者ではないため、原則として雇用保険の加入対象にはなりません。社長(代表取締役)については、例外なく加入不可です。

仮に社長が「長時間働いている」「実務も多くこなしている」「社員と同じように働いている」といった事情があっても、経営判断を行う立場である以上、労働者とはならないのです。

ここは現場の肌感覚ではなく、制度のルールとして押さえておく必要があります。

適用除外の場合は労働者でも加入不可

前述した雇用保険法の適用除外に該当する場合は、労働者でも雇用保険に加入できません。

つまり、雇用保険の加入対象になるかは「労働者かどうか」と「適用除外に当たらないか」の両方を確認することで定まります

役員が雇用保険に加入できる例外がある

社長以外の役員であれば、例外的に雇用保険の対象となるケースがあります。

ここでは「兼務役員」について、具体的な判断要素や加入手続きの流れを解説します。

兼務役員

「兼務役員」とは、役員でありながら、同時に従業員としての業務も行っている人を指します。

たとえば、社内で一般社員と同じように会社の指揮命令を受けて、その業務の対価として給与が支払われている場合などです。

兼務役員として雇用保険の対象になり得るのは、次のようなケースです。

  • 実際にタイムカードや勤怠システムで労働時間が管理されている
  • 従業員としての給与が支払われている
  • 従業員としての業務が中心
  • 役員報酬より給与が多い

なお、労働者性の最終判断は、就業実態、就業規則の適用、賃金/報酬の区分、権限(代表権/業務執行権)などを総合的に考慮し、ハローワークが行います。

代表権や業務執行権がない

兼務役員として雇用保険の対象となるには、会社の経営判断を行う権限が限定されていることも重要な要素です。

たとえば、代表取締役社長として会社の対外的な意思決定を行っている場合などは、労働者とは評価されません。

一方、実際の経営判断や業務執行の権限がなく、実務の多くを従業員として行っている役員には、労働者性が認められる余地が出てきます。

役員報酬より給与が多い

役員としての報酬より従業員としての給与の方が多い場合は、従業員としての性格が強いと判断されやすくなります。

逆に、役員報酬が高く、従業員としての給与が少なかったり形式的であったりすると「実態は経営者」と評価されやすく、雇用保険の対象外と判断されることが多いです。

従業員として身分がある

兼務役員であると認められるためには、従業員としての身分が必要です。

たとえば、他の従業員と同じように就業規則が適用され、人事評価・異動・勤務時間管理が行われているかがポイントになります。

  • 出退勤の管理が行われている
  • 業務命令に従う義務がある
  • 賃金規程に基づいて給与が支払われている

上記のような実態があれば、労働者性が強いと判断される可能性が高いです。

ハローワークで手続きできる

兼務役員として役員が雇用保険に加入する手続きは、ハローワークで行います。手続きには、以下のような書類が必要です。

  • 必須:兼務役員雇用実態証明書
  • 添付資料:登記事項証明書(履歴事項全部証明書)、定款、就業規則・給与規程(または雇用契約書等)、賃金台帳、出勤簿(タイムカード)、労働者名簿、役員報酬規程・決定根拠、議事録、雇用保険被保険者資格取得届(状況に応じて)等
  • ※求められる添付資料は管轄ハローワークによって異なる

    また、タイムカードや就業規則なども必要になるため、事前にハローワークに確認しましょう。

    社長の同居親族と雇用保険について

    中小企業では、社長の配偶者や子どもが会社で働いているケースも少なくありません。このような「家族従業員」は、雇用保険に加入できるのでしょうか。

    ここでは、社長の家族でも雇用保険に加入できるケースと、その判断ポイントを整理します。

    家族でも加入できるケースはある

    原則として、個人事業主や社長自身と同様、会社代表者の同居親族は、雇用保険に加入できません。別居の親族まで一律に対象外ということはありません。

    ただし、例外として以下の条件を満たしていれば同居親族でも雇用保険に加入できるケースがあります。

    • 業務を行う際、事業主の指揮命令に従っていることが明確である
    • 就業の実態が、他の労働者と同様である※
    • 事業主と利益を一にする地位にない

    ※実際に同居親族以外の従業員を雇用していることが必要

    社長のリスク管理としての選択肢

    社長自身は原則として雇用保険に加入できないため、会社がうまくいかなかった場合や引退する場合の備えは、自ら準備しておく必要があります。

    ここでは、社長の老後資金や退職金づくりの観点から、代表的な選択肢として小規模企業共済を紹介します。

    小規模企業共済

    小規模企業共済は、経営者や個人事業主のための制度で、廃業や退職後の生活資金、事業再建資金を目的としてあらかじめ積み立てができるというものです。

    社長や役員は雇用保険に加入できないため、事業をやめたり退職したりする際の保障がありません。小規模企業共済に加入していれば、共済金を受け取ることができます。

    雇用保険のように「失業給付」を受けられるわけではありませんが、事業の終了や廃業に備えた資金づくりとして有効です。

    小規模企業共済の共済金等の受給権は、法律上、原則として差押え等の対象になりません。ただし自己破産などの局面での扱いには例外もある(国税滞納処分の場合など)ため、事前に弁護士に確認してください。

    参考:小規模企業共済法 第十五条|e-Gov 法令検索
    参考:よくあるご質問|共済サポート navi

    社長自身が雇用保険に加入できないからこそ、小規模企業共済などの制度を活用して、自分自身のセーフティーネットを用意しておくことが重要です。

    社長は雇用保険に加入できない

    社長は例外なく雇用保険に加入できません。他の役員も、会社の経営を担う立場であり、雇用保険が想定する「労働者」に該当せず、原則としては雇用保険に加入できません。

    仮に長時間働いていても、会社からの指揮命令を受けて賃金を得ているわけではなく、委任契約に基づいて経営を行っているため雇用保険の対象外なのです。

    ただし、兼務役員として従業員と同じように働いている役員の場合、実態によっては例外的に適用対象となることもあります。また、社長や役員の家族についても、他の従業員と同様の働き方であれば加入できる可能性があります。

    社長自身は雇用保険で守られないからこそ、小規模企業共済などの制度を活用し、自ら将来の生活資金や退職金に備えることが重要です。

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