この記事でわかること
- なぜ空き家の相続税が高くなるのか理解できる
- 空き家を相続したときの相続税や計算方法がわかる
- 小規模宅地等の特例を使った場合の節税効果がわかる
- 相続発生前と発生後の空き家の相続税対策がわかる
- 空き家を売却したときの譲渡所得税が自分で計算できるようになる
総務省統計局がまとめた「平成30年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は848.9万戸であり、過去最高になる13.6%の空き家率です。
過去の統計をみると、20年間で270万戸以上の空き家が増えており、今後も空き家率は上昇するとの推測もあるようです。
空き家の増加原因には少子高齢化や人口減少、核家族化などがあり、人が住んでいる家でも居住者が高齢であれば、死亡後に空き家になる確率は高いとされています。
すでに社会問題となっている空き家ですが、中には市街地の中心部などに建てられた家もあるため、資産価値や相続税はかなり高いでしょう。
今後は空き家を相続する方も増えると想定されるため、今回は空き家の相続税について解説します。
相続税対策や売却時の税金についても詳しく解説しますので、空き家相続が予想される方はぜひ参考にしてください。
目次
空き家の相続では小規模宅地等の特例が使えない
自宅の相続には「小規模宅地等の特例」が使えるため、一定要件を満たせば330㎡までの敷地は8割引の評価額になります。
1億円の土地であれば2,000万円まで評価額が下がるため、相続の際にはぜひ使いたい特例ですが、残念ながら以下のような空き家には適用できません。
- ・居住者の死亡により、すでに空き家になっている家屋
- ・被相続人が空き家として所有していた家屋(人が住んでいない家屋)
小規模宅地等の特例は実際に人が住んでいた土地・家屋が対象であり、被相続人の配偶者や、同居する相続人などが相続した場合に適用されます。
居住者がいる家よりも相続税が割高になってしまうため、相続財産の中に空き家がある方は注意が必要です。
空き家の相続税計算方法
人が住んでいる家よりも空き家の相続税は割高になると解説しましたが、実際にどれだけの税額になるか具体例を挙げて計算してみます。
小規模宅地等の特例の節税効果もよくわかるので、自宅または空き家を相続予定の方は参考にしてください。
基礎控除を差し引いて課税遺産総額を計算する
相続税を計算する場合、まず基礎控除を差し引いて課税対象になる財産額を計算します。
計算がわかりやすくなるよう相続財産は自宅の敷地のみとし、小規模宅地等の特例を使った場合とそうでない場合で比較してみます。
- ・相続財産:面積300㎡、評価額1億円の自宅敷地
- ・相続人:子1人(被相続人とは別居、持ち家があるため特例は使えない)
まず以下の計算で基礎控除を算出します。
相続税の基礎控除
3,000万円+(600万円×相続人の数)
上記の計算に当てはめると、基礎控除や課税遺産総額は以下のようになります。
- ・相続税の基礎控除:3,000万円+(600万円×1人)=3,600万円
- ・課税遺産総額:1億円-3,600万円=6,400万円
小規模宅地等の特例を使わない場合。
6,400万円が相続税の課税対象額になります。
相続税の速算表を使って税額を計算する
課税遺産総額が計算できたら、次に相続税の速算表から税率や控除額を適用させます。
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% - 3,000万円以下 15% 50万円 5,000万円以下 20% 200万円 1億円以下 30% 700万円 2億円以下 40% 1,700万円 3億円以下 45% 2,700万円 6億円以下 50% 4,200万円 6億円超 55% 7,200万円 引用:相続税の速算表(国税庁)
速算表では1億円以下の部分にあたるため、税率30%と700万円の控除額を差し引いて相続税を計算します。
相続人が複数いる場合は財産の取得割合に応じて按分しますが、相続人が1人の場合は計算もここで終了です。
では次に、小規模宅地等の特例を使った場合の税額を計算してみます。
小規模宅地等の特例を使うと相続税はいくらになるか
先ほどの計算には減額要素がないため相続税は1,220万円でしたが、小規模宅地等の特例を使うと相続税はいくらになるでしょうか?
まず自宅敷地の評価額から計算しますが、面積が330㎡以内なので土地のすべてに特例が使えます。
小規模宅地等の特例を使うと評価額は2,000万円になり、基礎控除内に収まるため相続税はゼロ円になります。
単純な相続の例でしたが、特例を使える家と空き家では相続税に1,220万円の差が出ます。
空き家でも出来る相続税対策4つ
人が住んでいる家と空き家では相続税に大きな違いが出るため、なんらかの相続税対策を考えておく必要があるでしょう。
相続税対策は相続発生前と発生後に分けられるので、状況に応じて4つの方法から選んでください。
相続発生前に空き家は売却する
人が住んでいない空き家にも維持・管理コストは発生し、相続税も割高になるため、売却して現金にするという選択肢もあります。
空き家には以下の2パターンがあるので、それぞれの売却メリットを詳しく解説します。
- ・相続発生後に空き家になる
- ・すでに空き家になっている
相続発生後に空き家になる家屋の売却
所有者が住んでいる家屋を売却する場合、代わりになる住居の確保が必要になりますが、譲渡所得税は大幅に軽減できます。
居住用財産(マイホーム)の売却には特別控除の特例があるため、譲渡所得から3,000万円までを控除できます。
譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超える場合、譲渡所得が6,000万円以下であれば税率も14.21%に軽減されるため、節税面でも有利になるでしょう。
ただし、特例だけを目的とした入居や別荘などには使えず、確定申告の際には戸籍の附票の写しや譲渡所得の内訳書なども添付する必要があります。
具体的な条件は国税庁ウェブサイトに掲載されているので、売却を検討する際には参考にしてください。
すでに空き家になっている家屋の売却
先ほど解説した「マイホームを売ったときの特例」は、すでに空き家になっている家屋にも使えます。
誰も住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却すれば、譲渡所得から3,000万円まで控除できますし、軽減税率も適用されます。
空き家状態を長期化させなければ税制面でフォローする、といった国のスタンスも伺える措置ですね。
小規模宅地等の特例を使えるよう賃貸活用する
相続発生前の空き家対策には賃貸活用もあります。
貸家にしている家屋にも小規模宅地等の特例は適用されるため、相続が発生した際、200㎡までの面積は評価額を5割引にできます。
相続発生前3年以内に始めた賃貸事業は特例の対象外となりますが、3年以内であっても事業的な規模(5棟以上の貸家)であれば特例を使える場合もあります。
家なき子が空き家に住んで小規模宅地等の特例を使う
持ち家がなく賃貸暮らしの相続人を「家なき子」と呼ぶことがあり、以下の要件を満たしていれば、家なき子の特例によって小規模宅地等の特例が使えます。
- ・被相続人に配偶者がいない(2次相続の状態)
- ・相続開始の直前、被相続人の自宅に同居していた法定相続人がいない
- ・相続発生から3年前までに、相続人は自分の持ち家または配偶者の持ち家、3親等以内の親族の持ち家、特別の関係がある法人が所有する家に住んでいない
- ・相続する家を過去に所有したことがない
- ・相続税の申告期限までは宅地を所有しつづける
相続発生後の対策になりますが、空き家状態を防止でき、330㎡までの土地は8割引の評価減になります。
賃貸アパートやマンション、社宅などに住んでいる相続人がいる場合は、家なき子特例を利用した空き家相続を検討してみるべきでしょう。
空き家を売って所得控除の特例を使う
相続発生後の節税対策は限られるため、家なき子の特例が使えず相続税も高額であれば、売却も検討してみてください。
2016年(平成28年)の法改正により、相続で取得した空き家にも譲渡所得3,000万円まで特別控除の特例が使えるようになりました。
ただし、以下のように条件はかなり厳しくなっています。
- ・家屋と土地の両方を相続している
- ・売却価格が1億円以下
- ・2016年(平成28年)4月1日から2023年(令和5年)12月31日までの間で、かつ、相続発生から3年目の12月31日までに売却
- ・1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋
- ・区分所有登記されていない建物(マンションなどは使えない)
- ・相続発生の直前から被相続人が1人で住んでいる
- ・相続発生から売却するまで居住・貸付・事業用に使われていない
- ・現行の耐震基準に適合するよう改修されている
相続した空き家を売却したときの譲渡所得税の計算方法
家屋などの売却益には譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得税の計算は単純に売れた金額に税率を掛けるものではなく、不動産の取得費や売却時の費用なども加味します。
不動産の所有期間が長いか短いかによっても税率も変わるため、具体例を挙げてわかりやすく計算方法を解説します。
譲渡所得税を算出する計算式
土地などの不動産を売却した際は、以下のように譲渡所得税を計算します。
・譲渡所得の税額:課税譲渡所得×適用税率
不動産の取得費は文字どおり取得にかかった費用であり、売買契約書などで確認できます。
また税率は不動産の所有期間に応じて以下のように適用させます。
- ・所有期間5年以下(短期譲渡所得):39.63%(所得税等30.63%、住民税9%)
- ・所有期間5年超(長期譲渡所得):20.315%(所得税等15.315%、住民税5%)
所得税には復興特別所得税も含めており、所有期間については、被相続人が所有していた期間も含めて計算します。
特例控除については後で解説しますので、まずわかりやすい例で譲渡所得税を計算してみましょう。
具体的な計算例で譲渡所得税を算出
不動産の譲渡所得税について、以下の例をもとに計算してみます。
- ・売却額:5,000万円
- ・取得費:1,300万円
- ・譲渡費用:500万円
- ・所有期間:10年
まず課税譲渡所得を計算し、次に長期譲渡所得の税率を適用させて税額を算出します。
- ・課税譲渡所得:5,000万円-1,300万円-500万円=3,200万円
- ・譲渡所得の税額:3,200万円×20.315%=650万800円
ひとまず税額を計算できましたが、相続後3年以内に不動産を売却した場合は取得費加算の特例が使えます。
では次に取得費加算の特例について解説し、特例適用後の税額も計算してみます。
取得費加算の特例により税額は安くなる
相続した不動産を売って売却益が出た場合、取得費加算の特例によって所得税を安くできます。
不動産を取得して相続税を支払い、相続開始の翌日から3年10ヶ月以内に譲渡していれば特例を利用できます。
仮に不動産の相続税として400万円を納税していた場合、先ほどの計算から特例分の金額を控除できます。
- ・課税譲渡所得:5,000万円-1,300万円-500万円-400万円=2,800万円
- ・譲渡所得の税額:2,800万円×20.315%=568万8,200円
3年10ヶ月を境に税額は80万円以上も変わってしまうため、空き家の売却はなるべく早めがよいということになります。
まとめ
空き家状態が長期化すると雑草の処理なども大変になり、野生動物が住み着く可能性もあります。
景観を損なうだけではなく近隣住民への迷惑にもなってしまうため、まさに負の財産といえるでしょう。
相続人の誰かが引き継ぐ場合、不動産の評価や相続税軽減の知識が必要であり、売却する場合は一旦相続登記をして名義を変えなければなりません。
いずれも不慣れな方にとっては難易度の高い作業や手続きですが、相続税には申告・納税期限もあり、売却のタイミングも遅くなると所得税が高額になります。
空き家の相続で悩んでおられる方は、税理士や司法書士が在籍する法律事務所へ相談するとよいでしょう。
ただし相続が専門で、なおかつ実績の多い事務所への相談がポイントとなります。
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