目次
この記事でわかること
- 現金と預貯金を相続する場合の手続について理解できる
- 現金を相続する場合の相続税の計算方法がわかる
- 相続税の申告後に現金の存在が発覚した場合の注意点が理解できる
親族が亡くなった場合に、現金や預貯金が遺産として残されていることは一般的によくあります。
現金や預貯金については特に難しい手続を要することなく、簡単に処理できるように思われるかもしれません。
実は、現金と預貯金は法律上、扱いが違うのです。
また、問題となりやすいのが亡くなった人がタンス預金などの形で現金を家に置いていた場合です。
タンス預金も適切な処理をしなければ、後で問題となるおそれがあります。
この記事では、現金や預貯金を相続する場合の手続き上の注意点や相続税の計算方法について解説します。
現金・預貯金を相続するには
かつては相続財産として不動産の占める割合が大きかったといわれますが、現在では不動産価格の下落により相対的に現金や預貯金の割合が増えています。
現金と預貯金については、普段生活する上ではあまり違いを感じることはないでしょう。
預貯金は所有者が引き出せばすぐに現金化できるためです。
しかし、法律上、両者は分けて考えられています。
現金の相続
現金は不動産や骨董品などと同様の「物」として扱われるという話をしました。
物は物理的に分割することが難しいことが多いため、基本的には相続人が死亡したからといって当然に相続人各自が単独で所有することにはならず、まず相続人全員の共有財産となります。
現金が共有財産になるということは、相続人の一人が単独で現金を使用することができないことを意味します。
このように相続人の共有財産となると財産の処分が制限され不都合があります。
そこで、共有となった財産を相続人が単独で利用できるようにするためには遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議では、現金を含む相続財産すべてについての具体的な分け方を、相続人全員の合意によって決定する必要があります。
相続人が多数いる場合には、遺産分割協議の成立までに数年かかることもあり、それまでの間現金を含む相続財産については一切の処分ができなくなります。
預貯金の相続についての従来の扱い
「物」として扱われる現金に対して、預貯金は金銭の引き出しを請求する「権利」です。
このような権利に関して従来の判例では、性質上可分である権利の場合には相続開始と同時に相続分に応じて分割されるものとし、物の相続とは異なり遺産分割協議を経ることなく相続人各自が、相続分に応じて単独で処分ができるものとされていました。
この判例で言う、性質上可分である権利とは、相続人の間で分割することが可能であるものをいい、金銭を請求する権利については可分であると判断されることが基本です。
例えば、死亡したAがBに対して100万円を請求する権利を持っていた場合、Aの死亡により相続人CとDが2分の1ずつ相続したとします。
この場合、請求を受けるBとしてはCとDに対してそれぞれ50万円を分けて支払えばよく、特段不都合は生じません。
このような場合、その権利は可分であると判断されるのです。
預貯金についても金銭を請求する債権であるため、上の例と同様に各相続人が自分の相続分に応じて金融機関に請求しても不都合はないと考えていたのが従来の判例でした。
現金を相続した場合の相続税の計算方法
現金を相続する場合に、相続税はどのように計算されるのでしょうか。
ここでは、相続税の一般的な計算方法もあわせて紹介します。
相続税の計算方法
相続税の計算をするためには、まず相続税の課税対象となる相続財産額を計算する必要があります。
課税対象となる相続財産は簡単に説明すると、次の順序で計算します。
- ・相続によって相続人が取得する財産の価額に、相続時精算課税という制度の適用を受ける財産価額を合算して相続財産の総額を算出
- ・相続財産の総額から負の財産である亡くなった人の債務や葬式費用等を差し引く
- ・死亡前3年以内に行われた生前贈与の総額を加算する
- ・基礎控除額を差し引く
なお、上でいう基礎控除額は以下のように計算されます。
600万円×相続人の頭数+3,000万円
このようにして計算された課税対象となる相続財産総額に基づき、相続税の金額が算定されます。
相続税の税率は課税対象となる相続財産総額が増えるほど上昇する仕組みとなっており、最高税率は55%となっています。
相続財産が現金である場合の評価方法
相続財産の中に現金が含まれる場合、上で説明した課税対象となる相続財産の額としては現金の額面そのままの額で評価されます。
これは、一見すると当然のように思われるかもしれません。
しかし次で説明するように、不動産の場合には時価よりも低く評価されることがあるため、これと比較すると遺産に現金が含まれていた場合には相続税の額が高くなる可能性が高いのです。
現金を相続すると相続税が高くなる?
相続財産が現金の場合には、現金の額面がそのまま課税対象となる相続財産として評価されるという話をしました。
これに対し、不動産の場合には時価より低い金額で課税対象となる相続財産額が評価されることが多いのです。
したがって、現金で相続すると不動産で相続する場合に比べて相続税が高くなるといえます。
このため、相続対策をする際には現金で不動産を購入して不動産を相続するようにすれば、相続税を抑えられる可能性が高くなります。
具体的には、土地の相続税評価額は時価の8割程度とされていることが多いです。
また、建物については土地よりさらに低い時価の7割程度となることが多いとされています。
例えば、1億5,000万円を現金で保有していた場合には、相続財産は1億5,000万円となります。
これに対し、土地1億円と建物5,000万円の不動産を保有していた場合の評価額をシミュレーションすると、以下のとおり1億1,500万円まで圧縮される可能性があります。
1億円×80%+5,000万円×70%=1億1,500万円
上のシミュレーションでは、相続財産が遺産である場合は不動産である場合と比較して、課税対象となる相続財産額は450万円も高くなる可能性があるのです。
概算ですが、仮に税率が30%だとすると、課税対象となる相続財産額に450万円の差があれば、支払うべき相続税が135万円も増減することとなります。
また、賃貸マンションのように貸家付きの土地については、上で説明したものよりさらに評価額を圧縮することができます。
この場合、特に土地の評価額が自己利用の場合より低くなります。
具体的には、賃貸マンションなどを建てている場合の土地は、相続財産としては以下のように評価されます。
自己利用とした場合の土地評価額-自己利用した場合の土地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合
上の例では土地1億円の場合、相続財産としての評価額は時価の80%である8,000万円でした。
これに対し、賃貸マンションなどを建てている場合には、例えば借地権割合30%、借家権割合30%、賃貸割合80%とすると、以下のように計算される結果、相続財産としての土地評価額は7,424万円まで圧縮されるのです。
8,000万円-8,000万円×30%×30%×80%=7,424万円
相続税を節税しながら現金を相続人に残す方法
前述したように、現金・預金をそのまま相続すると、不動産などに比べて評価額が高くなり、結果として相続税が高額になる可能性があります。
しかし、不動産などの価値が下がるかもしれない財産に変えることに抵抗があったり、
現金の方が利便性が高いなどの理由で、現預金をそのまま財産として相続人に渡したいという方も多いと思われます。
そのような場合は生前贈与を活用することをお勧めします。
時間をかけて生前贈与を行うことにより、相続財産を減らし、結果的に相続税を節税することが可能です。
ただし、贈与を行った場合贈与税が課せられます。この項では贈与税をかけずに贈与を行う方法を解説します。
暦年贈与 年間110万円の非課税枠を活用する
贈与税には年間110万円の非課税枠があります。贈与された額が年間110万円以内であれば、贈与税はかからず、贈与税申告も不要です。
そのため、現金を残したい人に、毎年110万円以内の範囲でお金を渡せば、贈与税をかけずに贈与することが可能です。
なお、年間110万円というのは、受け取る側の合計金額です。父から110万円、祖母から110万円、合計220万円の贈与を受けた場合などは贈与税の対象となるので注意してください。
贈与する側の人はお金を渡す人数を増やすことで、更に相続財産を圧縮することが出来ます。
相続時精算課税制度 2,500万円までの贈与が非課税
贈与税には年間110万円の非課税枠があります。贈与された額が年間110万円以内であれば、贈与税はかからず、贈与税申告も不要です。
そのため、現金を残したい人に、毎年110万円以内の範囲でお金を渡せば、贈与税をかけずに贈与することが可能です。
なお、年間110万円というのは、受け取る側の合計金額です。父から110万円、祖母から110万円、合計220万円の贈与を受けた場合などは贈与税の対象となるので注意してください。
贈与する側の人はお金を渡す人数を増やすことで、更に相続財産を圧縮することが出来ます。
住宅取得等資金の贈与の特例を利用する
教育資金の一括贈与の特例を利用すると、30歳未満の子や孫の教育資金として贈与したお金は、1,500万円まで非課税となります。
この特例を利用して贈与する場合、専用口座の開設が必要になり、資金を使用する際に都度「教育資金」であることを証明する領収書やレシートを金融機関に提出する必要があります。
教育資金の一括贈与の特例を利用する
教育資金の一括贈与の特例を利用すると、30歳未満の子や孫の教育資金として贈与したお金は、1,500万円まで非課税となります。
この特例を利用して贈与する場合、専用口座の開設が必要になり、
資金を使用する際に都度「教育資金」であることを証明する領収書やレシートを金融機関に提出する必要があります。
結婚・子育て資金の一括贈与の特例を利用する
結婚・子育て資金の一括贈与の特例を利用することで、20歳以上50歳未満の子や孫に結婚や子育て用の資金を贈与した場合、1,000万円までを非課税とすることが出来ます。
この特例で受けた贈与する場合、専用の口座を開設し、使用する際には証拠となる領収書やレシートを提出する必要があります。
結婚資金には、婚活費用、結婚式費用、結婚による引っ越しの引越し費用などが該当し、結婚・婚約指輪や、新婚旅行の費用は対象外となります。
相続税の申告後・納税後に出てきた現金を申告しなかった場合
亡くなった人がタンス預金のような現金を保有していた場合、その現金は当然ながら相続財産として相続税の課税対象となります。
しかし、タンス預金については預貯金と異なり、財産の有無がわかりにくい特徴があります。
このため、遺産分割をした後にタンス預金の存在が発覚することもあり得ます。
現金の申告をしなかった場合のペナルティ
相続財産となるべき現金の存在について、相続税の申告時に気付かず後から発覚した場合には、気付いた時点でただちに税務署に対して修正申告をする必要があります。
現金であれば多少申告漏れがあったとしても税務署には気付かれないと思うかもしれませんが、税務署は現金の申告漏れが多発しているため、税務調査では厳格に確認されます。
このため、税務署に見つからずにやり過ごすことはできないと考えておいた方がよいでしょう。
また、現金の申告漏れがある場合に自発的に申告をすれば加算税が免除されます。
これに対し、自発的に修正申告をせず、税務調査があって初めて修正申告を行うような場合、延滞税や過少申告加算税のほか、意図的な財産隠しと認められた場合には重加算税も課されるなど、納税額が多額になります。
したがって、相続税の申告後にタンス預金などを見つけた場合にはそのままにせず、すぐに税務署に対して修正申告をする必要があるのです。
現金を他の相続人に隠して遺産分割をした場合のリスク
亡くなった人のタンス預金を見つけた場合に、他の相続人に隠して独占してしまおうという思いが頭をよぎるかもしれません。
しかし、これも後で発覚したときに他の相続人との関係で横領という犯罪に問われる可能性があるため、すべきではありません。
そもそも、相続後に税務調査が入った場合には、前に説明したようにタンス預金の存在は高い確率でばれてしまいます。
このとき、同時に相続人にも現金が隠されていたことが判明してしまいますので、他の相続人にばれないように独占するということは難しいのです。
現金相続でもめないための注意点
相続財産の中に現金や預貯金が含まれていた場合、特に相続人が長年亡くなった人と同居していたりすると、生前の感覚で現金や預貯金を利用してしまうことがあります。
しかし上で説明した通り、死亡と同時に相続が開始され遺産分割協議が完了するまでは自由に利用することができなくなることを覚えておく必要があります。
特に、現金を発見したことを隠蔽した場合には、税務署や他の相続人から責任を追及される結果になりますので気を付けなければなりません。
まとめ
相続財産にまつわる手続きや相続税の計算は非常に複雑です。
万が一間違いがあれば税務調査の対象となるため、十分に注意して取り組む必要があります。
身近な親族が亡くなって忙しい時期にこのような手続きを正確に遂行することは非常に大きな負担となることがありますので、不安がある場合には早い段階で税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
また、そもそも資産を多く保有している場合など多額の相続税が課税される可能性が高い人については、生前から相続税を軽減するための対策を打っておくことも検討するとよいでしょう。
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ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
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