この記事でわかること
- 遺産総額が基礎控除内であれば相続税の申告は不要
- 相続税の基礎控除額や法定相続人に該当する人
- 相続税が0円でも申告が必要なケース
遺産総額が基礎控除内であれば、相続税は申告も納付も不要です。そのため、預貯金や不動産などの財産を相続した場合、必ずしもすべての家庭に相続税がかかるとは限りません。
国税庁の「令和4年分 相続税の申告事績の概要」によると、令和4年の被相続人(亡くなった人)の財産に相続税が課された割合は9.6%でした(※1)。つまり、約90%の人は相続税が発生しないということです。
また上記以外に、相続税はかからなかったが相続税の申告が必要だった人が2.4%程います。これは、相続税の特例や税額控除を適用して相続税が0円になったケースで、特例や税額控除の適用要件として相続税の申告が必要だったケースになります。
本記事では、相続税の申告が不要なケースと基礎控除の計算方法、相続税が0円でも申告が必要なケースの具体例をわかりやすく解説します。
目次
相続税申告が不要なケースと注意点を詳しく解説
動画の要約相続税申告の要否は基礎控除額を超える財産があるかで決まります。評価方法や特例の利用、申告期限と手続きを確認し、専門家の活用を推奨します。
遺産総額が基礎控除内なら相続税の申告は不要
相続税には「基礎控除」というものがあり、相続する財産の総額から一定額を控除する金額のことです。相続税は遺産の総額に対して課税されるわけではなく、遺産の総額から 基礎控除を差し引いた金額に相続税がかかります。遺産の総額が基礎控除以下であれば、相続税の申告は不要です。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円 × 法定相続人の数)」で計算します。法定相続人が多いほど基礎控除額は増え、以下の表のようになります。
■法定相続人の人数ごとの基礎控除額法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
5人 | 6,000万円 |
例えば、法定相続人が1人の場合、基礎控除は3,600万円になります。現金や預金、不動産などの遺産総額が3,600万円以下であれば、相続税の申告は不要で相続税もかかりません。
遺産総額が3,600万円を超える場合には、その超えた金額に相続税がかかってきます。
遺産総額が基礎控除額以下であれば相続税が生じない(申告不要)
遺産総額 ≦ 基礎控除
遺産総額が基礎控除額を超えれば原則相続税がかかる(申告必要)
遺産総額 > 基礎控除
相続税の申告が不要なケースと必要なケースの具体例
前述の相続税の基礎控除や法定相続人を踏まえた上で、相続税の申告が不要なケースと必要なケースの具体例をそれぞれ紹介します。
まずは申告が不要なケースの具体例を見ていきましょう。
相続税の申告が不要なケース
子どもが3人、父はすでに他界しており、母が亡くなった場合のケースです。法定相続人は子ども3人となるため、相続税の基礎控除額は4,800万円になります。
この場合、相続した遺産総額が4,000万円で基礎控除額4,800万円よりも低いため、相続税はかからず申告も不要です。
事例1相続税申告が不要なケース
母が亡くなり、法定相続人は子ども3人。
- 【基礎控除】
- 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人3人)= 4,800万円
- 【遺産】
- 現預金 1,000万円
- 株式等 1,000万円
- 土地 1,500万円
- 建物 500万円
- 死亡保険金 1,700万円
- ※死亡保険金の非課税枠 -1,500万円
- 葬儀費用 200万円
遺産総額の計算
プラスの財産 | マイナスの財産 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,000 | 葬儀費用 | 200 |
株式等 | 1,000 | ||
土地 | 1,500 | ||
建物 | 500 | ||
死亡保険金 | 1,700 | ||
※非課税枠 | -1,500 | ||
合計 | 4,200 | 合計 | 200 |
遺産総額4,000 |
- 遺産総額4,000万円<基礎控除4,800万円
-
結論:遺産総額が基礎控除以下となるため、
相続税はかからず、申告も不要
相続税の申告が必要なケース
4人家族で子どもが2人、母はすでに他界しており、父が亡くなった場合のケースを紹介します。法定相続人は子ども2人なので基礎控除額は4,200万円になります。
このケースでは遺産総額4,500万円のうち基礎控除4200万円との差額300万円に対して相続税がかかるため、申告が必要です。
被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内に、相続人が被相続人の住所地を管轄する税務署に相続税申告を行い、納税をすることになります。
事例2相続税申告が必要なケース
父が亡くなり、法定相続人は子ども2人。
- 【基礎控除】
- 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人2人)= 4,200万円
- 【遺産】
- 現預金 1,700万円
- 株式等 1,000万円
- 土地 1,500万円
- 建物 500万円
- 葬儀費用 200万円
遺産総額の計算
プラスの財産 | マイナスの財産 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,700 | 葬儀費用 | 200 |
株式等 | 1,000 | ||
土地 | 1,500 | ||
建物 | 500 | ||
合計 | 4,700 | 合計 | 200 |
遺産総額4,500 |
- 遺産総額 4,500万円 > 基礎控除4,200万円
- 結論:遺産総額が基礎控除を超えるため、相続税がかかり、申告も必要です。
※遺産の総額4,500万円から基礎控除4,200万円を控除した金額300万円が課税の対象(課税遺産総額)となります。
相続税が0円でも相続税の申告が必要なケース
相続税には「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」など、大幅に財産の評価額を下げる特例や、税額を軽減する税額控除の制度が設けられています。相続税の特例や税額控除を適用することで相続税が0円になるケースも少なくありません。
ただし、相続税の特例や税額控除の中には、相続税の申告が要件となっているものがあるため注意が必要です。それぞれの相続税の特例・税額控除についての相続税申告の要否は、以下の表のとおりです。
■相続税の特例や税額控除と相続税申告の要否特例や税額控除 | 相続税の申告 |
---|---|
小規模宅地等の特例 | 必要 |
農地の納税猶予の特例 | 必要 |
配偶者の税額軽減(配偶者控除) | 必要 |
未成年者控除 | 不要 ※ |
障害者控除 | 不要 ※ |
相次相続控除 | 不要 ※ |
※ 納税額が0円になった場合
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人(亡くなった人)の自宅や店舗、事務所など、事業用に使っていた宅地につき大幅に評価額を減額する措置のことです。不動産の評価額を下げることにより、結果として算出される税額も下がることになります
具体的には、適用要件に該当する場合、「居住用」「事業用」の宅地に関しては80%、「事業用」として他人に貸し付ける土地に関しては50%評価額を減額できます。相続した宅地等に「小規模宅地等の特例」を適用するためには相続税の申告が要件となっています。
事例3
小規模宅地等の特例を適用して、相続税がゼロになるケース
母が亡くなり、法定相続人は子ども2人。
- 【基礎控除】
- 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人2人)= 4,200万円
- 【遺産】
- 現預金 1,700万円
- 株式等 1,000万円
-
土地 1,500万円
※小規模宅地等の特例適用後の評価額 300万円 - 建物 500万円
- 葬儀費用 200万円
遺産総額の計算
プラスの財産 | マイナスの財産 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,700 | 葬儀費用 | 200 |
株式等 | 1,000 | ||
土地 | 1,500 | ||
(※特例適用後 | 300) | ||
建物 | 500 | ||
合計 | 4,700 | 合計 | 200 |
遺産総額4,500 |
-
特例適用前の遺産総額 4,500万円 > 基礎控除4,200万円
小規模宅地等の特例を適用すると、土地評価額は300万円になるため、
遺産総額3,300万円 < 基礎控除4,200万円 -
結論:遺産総額は基礎控除の範囲内であるため、相続税はかかりません。
ただし、小規模宅地等の特例を適用するためには申告が必要となります。
農地の納税猶予の特例
農地の納税猶予の特例とは、農業を営むか、農地を貸し付けていた被相続人から農地を相続した人の、農業投資価格(農業に使用することを前提にした土地の売買価格)によって計算した場合の相続税額を超える部分の相続税額が、相続した人が農業をし続ける限り納税が猶予されるという制度です。
農地に「農地の納税猶予の特例」を適用するためには相続税の申告が要件となっています。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者の税額軽減(配偶者控除)とは、配偶者が相続や遺贈によって取得した相続財産の取得額のうち、配偶者の法定相続分あるいは1億6,000万円のいずれか大きいほうの金額まで、相続税がかからずに相続することができる制度です。
仮に被相続人の遺した相続財産の総額が1億6,000万円以下であった場合、全額を配偶者が相続する形をとることで相続税がかからないようにできます。当然、ほかに相続人がいても相続税はかかりません。
配偶者の税額軽減を適用するためには相続税の申告が要件となっています。
事例4
配偶者の税額軽減を適用して、相続税がゼロになるケース
父が亡くなり、法定相続人は母と子ども1人。
遺産分割協議で母が全ての財産を相続することになりました。
- 【基礎控除】
- 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人2人)= 4,200万円
- 【遺産】
- 現預金 1,700万円
- 株式等 1,000万円
- 土地 1,500万円
- 建物 500万円
- 葬儀費用 200万円
遺産総額の計算
プラスの財産 | マイナスの財産 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,700 | 葬儀費用 | 200 |
株式等 | 1,000 | ||
土地 | 1,500 | ||
建物 | 500 | ||
合計 | 4,700 | 合計 | 200 |
遺産総額4,500 |
- 遺産総額4,500万円 > 基礎控除4,200万円
-
結論:遺産総額は基礎控除を超えますが、配偶者控除の適用により相続税はかかりません。
ただし、配偶者控除を適用するためには申告が必要となります。
相続税が0円となった場合に相続税の申告が不要なケース
ここからは、相続税が0円となった場合に相続税の申告が不要なケースを紹介します。
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相次相続控除
これらの控除は適用要件に相続税申告が含まれていないため、各控除を適用して相続税が0円になった場合、相続税を申告する必要はありません。
それぞれの控除ごとに取り上げるため、ぜひ参考にしてください。
未成年者控除
相続税の未成年者控除とは、未成年の相続人が成人になるまでの教育費など養育のためのお金を考え、相続税の負担を少なくするという制度です。
適用要件を満たした未成年者が相続人の場合、相続税額から一定の金額が控除されます。
また、未成年者控除の適用によって相続税が0円となった場合、相続税の申告は不要です。
未成年者控除の控除額
障害者控除
相続税の障害者控除とは、障害がある相続人が遺産を相続した場合に相続税を軽減できる制度です。
障害がある人の親、兄弟などの相続人とも控除額を分け合うことができますが、「被相続人(亡くなった方)」が障害者であっても控除はありません。
なお、障害者控除の適用によって相続税が0円になった場合も、相続税の申告は不要です。
障害者控除の控除額
特別障害者:(85歳 - 相続発生時の年齢)× 20万円
事例5
障害者控除を適用して、相続税がゼロになるケース
父が亡くなり、法定相続人は母と子ども1人。
子供は年齢40歳、一般障害者に該当- 【基礎控除】
- 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人2人)= 4,200万円
- 【遺産】
- 現預金 1,700万円
- 株式等 1,000万円
- 土地 1,500万円
- 建物 500万円
- 葬儀費用 200万円
- ※障害者控除 450万円
遺産総額の計算
プラスの財産 | マイナスの財産 | ||
---|---|---|---|
現預金 | 1,700 | 葬儀費用 | 200 |
株式等 | 1,000 | ||
土地 | 1,500 | ||
建物 | 500 | ||
合計 | 4,700 | 合計 | 200 |
遺産総額4,500 |
(85歳 ‐ 40歳) × 10万円 = 450万円
- 遺産総額4,500万円 > 基礎控除4,200万円
- 結論:この場合の相続税額は30万円ですが、相続人である子が障害者であるため、
障害者控除450万円を相続税額から控除でき、相続税はかからず申告も不要です。
障害者控除額の計算 (85歳 - 40歳)× 10万 = 450万円
一般障害者の場合、満85歳になるまでの年数 × 10万円の相続税を控除できます。
相次相続控除
相次相続控除とは、一次相続の被相続人が亡くなってから10年以内に、一次相続の相続人が亡くなり二次相続(数次相続)が発生した場合に適用できる制度です。
一次相続の相続人に課税されていた相続税額のうち一定の金額を、二次相続の相続人の相続税額から控除することができます。
相続税の申告が不要か迷った際の判断ポイント
相続税の申告が不要かどうかは、遺産総額が基礎控除内なのか、特例や税額控除を適用したのかなど、ケースによって変わります。
相続税がかかるかどうか、申告が必要かどうかをケースごとに表にまとめましたので参考にしてください。
相続税 | 申告の要否 | |
---|---|---|
基礎控除以下 | かからない | 申告不要 |
特例適用で 相続税がかからない (小規模宅地等の特例・農地の納税猶予の特例・配偶者の税額軽減) | かからない | 申告必要 |
特例適用で 相続税がかかる (小規模宅地等の特例・農地の納税猶予の特例・配偶者の税額軽減) | かかる | 申告必要 |
未成年者控除・障害者控除・相次相続控除 適用で相続税がかからない | かからない | 申告不要 |
相続税の申告漏れや申告の不備があるとペナルティが課される恐れがある
課税対象となる財産であるにもかかわらず申告をしていない、または申告内容が過少であることが税務調査で発覚すると、本来納付すべきだった相続税と併せて加算税や延滞税が課されます。
みなし相続財産など見落としやすい相続財産に気をつける
相続が発生した場合、被相続人の財産をすべて洗いださなければなりません。このときに相続財産から見落としやすいのが、「みなし相続財産」です。
被相続人が契約者かつ被保険者である生命保険の死亡保険金や死亡退職金などを遺族が受け取った場合、受取人固有の財産となり相続財産にはなりません。しかし、相続税法上はみなし相続財産として相続税の課税対象となります。
死亡保険金や死亡退職金には非課税枠が設けられており、法定相続人1人につき500万円まで控除され、非課税枠を超える部分は相続税の課税対象となります。こうした「みなし相続財産」の把握漏れがないよう、気をつけましょう。
計算例
契約者と被保険者が被相続人、保険金受取人が法定相続人の場合かつ、2,500万円の保険金、法定相続人が3人の場合
500万円×3人=1,500万円が非課税枠、残り1,000万円が課税対象。
生前贈与加算に注意する
相続時精算課税制度や暦年贈与を適用して贈与を受けたケースでは、生前贈与加算に注意が必要です。
- 相続時精算課税制度を適用していた場合
- 持ち戻し期間内に暦年贈与で贈与を受けていた場合
特に相続時精算課税制度や暦年贈与の適用から相続の発生まで間が開くと、生前贈与加算を忘れてしまう可能性があります。
相続税の過少申告や申告忘れにも繋がりかねないため、気をつけましょう。
相続時精算課税制度を適用していた場合
相続時精算課税制度を選択して生前贈与を受けた場合、2,500万円の贈与までは贈与税が非課税となります。
しかしながら、相続が発生した時点で、相続時精算課税制度によって贈与した財産は相続財産に加えて相続税の計算に含めなければなりません。
遺産が基礎控除以下であったとしても、相続時精算課税制度による贈与財産の加算をして、課税遺産総額が基礎控除を超えた場合は相続税の申告が必要となります。このような相続時精算課税制度を適用した贈与財産の加算漏れに注意しましょう。
相続時精算課税制度にも年110万円までの基礎控除が新設
2024年1月1日以降の贈与より、相続時精算課税制度にも年110万円までの基礎控除が新設されました。そのため、年110万円の基礎控除額分の贈与財産は、相続財産への加算から除かれます。
持ち戻し期間内に暦年贈与で贈与を受けていた場合
暦年贈与を選択して贈与を受けていた場合も、注意が必要です。
暦年贈与は亡くなった日を起点として過去7年(※)の間に、「贈与した財産を相続財産に足し戻して相続税を計算しなければいけない」というルールがあります。この一定期間を、持ち戻し期間といいます。
年間110万円の限度額以内の贈与であっても、被相続人が亡くなる前7年(※)以内の贈与は、相続財産に加算されます。
(※)持ち戻し期間に関する注意点
令和5年度税制改正により、3年以内の贈与の持ち戻しが7年に延長されることになりました。
2024年1月1日以後の贈与については、加算期間が「3年以内」から順次更新され、実際に「亡くなる前7年以内」が適用されるのは2031年からとなります。
なお、延長された4年の間に受けた贈与のうち、総額100万円までは相続財産に加算されません。
相続税の申告については税理士に早めに相談しよう
遺産総額が基礎控除内であれば、相続税は申告も納付も不要です。注意点としては、特例や税額控除の中には、相続税が0円でも申告が必要な場合があることです。
相続税の申告は相続開始日から10カ月以内と期限が決まっており、手続きも煩雑なため想像以上に時間がかかります。
相続が発生した場合、相続税の申告・納付をミスなく期限内に正しく行うには、税理士に相談すると安心です。
税理士なら遺産の調査をはじめ、特例や税額控除が適用可能かどうかの検討、申告・納税まで幅広くサポートを受けられます。
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ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
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