この記事でわかること
- 相続税に延滞税がかかる3つのケース
- 延滞税がいくらになるか自分で計算できるようになる
- 延滞税とともに課税されやすいペナルティ
- 相続税の申告・納税期限に間に合わない場合の対処法
相続税の納税・申告期限に原則延長はなく、期限を過ぎると延滞税が課税されます。
また相続税申告は正確性も重要で、期限内に申告していても計算誤り等があればその追徴税額については延滞税がかかります。
自主的な対応で早めに申告すればダメージも少なくて済みますが、税務署から指摘を受けた場合はすでに危険信号といえるでしょう。
今回は相続税の延滞税についてわかりやすく解説し、延滞税が発生するケースや計算方法を紹介します。
相続税が払えない時の対処法も解説しますのでぜひ参考にしてください。
目次
期限内に相続税を申告・納付しないと延滞税・加算税が課税される
すべての税金の申告や納付には期限が設けられており、期限を守らなかった場合には、延滞税や加算税が課されます。
相続税の申告・納付については、被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内が期限とされており、この間に申告と納税までを済まさなければなりません。
もしこの期限内に相続税の申告が間に合わなかった場合、相続人に対して加算税が課されることとなります。
また、相続税の納付が間に合わなかった場合には、その日数に応じて、延滞税と呼ばれる遅延利息のような税金が課されることとなります。
延滞税の計算に用いられる税率は、延滞した日数により変動するほか、年度ごとに見直されます。
相続税の延滞税がかかるケース
相続税の延滞税がかかるケースには、以下のようなものがあげられます。
- 相続税の納付期限に間に合わなかった場合
- 納付期限経過後に自主的な修正申告をした場合
- 税務調査による指摘を受けた場合
それぞれどのような事例なのか、確認していきましょう。
相続税の納付期限に間に合わなかった場合
遺産の内容に関わらず、相続税は納付期限までに現金一括納付が原則です。
納付期限を1日でも過ぎてしまうと延滞税・加算税がかかることになります。
しかし主な遺産が不動産など、簡単に換金できない財産であれば、納税資金の準備が間に合わないこともあるでしょう。
延納が認められると年賦による分割納付が可能になり、延納でも納付できない場合は物納の制度もありますが、相続税の申告期限までに所定の手続きが必要です。
一定の要件をクリアしたうえで、適切な手続きを経なければ延納・物納の制度は使えませんし、納税が完了するまでの日数分については延滞税がかかります。
納付期限経過後に自主的な修正申告をした場合
期限内に申告を済ませていても、後で評価額の誤りに気付く場合があります。
また申告時にはわからなかった財産が後になって発覚することもあるため、申告をやり直す(修正申告)ケースも出てきます。
修正申告した場合、最初の申告は未完了となってしまうので、遅延日数に応じた延滞税がかかってしまいます。
税務調査による指摘を受けた場合
申告内容に不審な点がある場合は、税務調査が行われる可能性もあります。
税務調査は申告から6カ月、または1年経過後に実施されるケースが多いようですが、2年後に実施される場合もあるので油断はできません。
税務調査によって申告内容の間違いが指摘された場合、納付期限日から追加納付までの遅延日数に応じて延滞税が課税されます。
申告から税務調査までは、いわゆる「証拠固め」の期間であり、預貯金口座などの情報は徹底的に調査されています。
調査の結果「異状なし」となるケースは稀であり、税務署から連絡・通知があった場合は何かしらの誤りがあったとみてよいでしょう。
相続税の延滞税が免除されるケース
延滞税の免除期間内である場合
期限内に申告した納税者が数年後に修正申告を行う場合でも、「法定納期限~1年を経過した日の翌日まで」、および「修正申告書の提出日~完納日まで」の期間のみが延滞税の計算対象となります。
そのため、実際には修正申告を3年後に行っても、延滞税の計算自体は1年分しか行われないケースが多くなります。
自主的に修正申告した場合、修正申告書の提出日から2カ月は低い税率で延滞税の計算が行われます。
一方、税務署による更正や決定処分を受けた場合は、更正・決定通知書の発送日から3カ月は低い税率で延滞税の計算が行われます。
やむを得ない事情がある場合
期限内に納税ができないことについてやむを得ない事情があると認められた場合、延滞税が免除されることがあります。
やむを得ない事情とは、地震や暴風、豪雪などの自然現象のほか、火災や交通途絶などの人為的災害も含まれます。
また、納税者の病気などの個別事情が考慮されるケースもあります。
最近では、新型コロナの感染拡大により、実際に感染した人や予防のために外出を控えている人などが、手続きを経て申告と納付の期限延長が認められる措置が行われていました。
相続税の延滞税の計算方法
延滞税の発生は申告・納税期限日の翌日からとなり、延滞期間によって税率(割合)も変わります。
実際に計算するとわかりやすいので具体例を挙げてみますが、まず適用税率の考え方から解説します。
相続税の延滞税の税率
延滞日数が2カ月を超える場合は2つの税率を適用させるため、相続税の税率は2段階に分かれます。
2023年1月1日以後の延滞税の税率
- 納期限の翌日から2カ月まで:年7.3%または延滞税特例基準割合+1%のいずれか低い割合
- 納期限の翌日から2カ月以降:年14.6%または延滞税特例基準割合+7.3%のいずれか低い割合
参考:延滞税の割合(国税庁)
上記の「7.3%」や「14.6%」は原則税率であり、延滞税特例基準割合とは国税庁が指定する期間に適用される割合です。
ちなみに2023年1月1日から2023年12月31日までの延滞税特例基準割合は以下のとおりです。
- 納期限の翌日から2カ月まで:2.4%
- 納期限の翌日から2カ月以降:8.7%
「いずれか低い割合」なので、2021年の延滞税には2.4%または8.7%が適用されます。
延滞税の計算式と計算例
計算例
(納付税額×割合×延滞日数)÷365
では以下の条件で延滞税を計算してみましょう。
- 納付税額:300万円
- 延滞日数:90日(納期限は令和3年5月1日、本日は90日後の7月29日とする)
実際のカレンダーに従うので最初の2カ月(5月~6月)は61日、2カ月超の部分は29日で計算します。
- 納期限から2カ月以内の延滞税:(300万円×2.5%×61)÷365=12,534円
- 納期限から2カ月超の延滞税:(300万円×8.8%×29)÷365=20,975円
2つの計算結果を足した33,500円(100円未満は切り捨て)が延滞税額になります。
延滞税割合が大きく影響するため、2カ月を超えると一気に税額も上がります。
延滞税と共に課税されやすい加算税のペナルティ
申告・納税期限までに相続税を納付しなかった、あるいは申告内容に誤りがあった場合はペナルティの対象になり、延滞税以外の税金が発生することもあります。
延滞税以外の税金には以下のようなものがあり、自主的な申告と税務調査の指摘では税率が大きく変わります。
- 無申告加算税:正当な理由なく申告期限を経過した場合に課税
- 過少申告加算税:税務調査で過少申告を指摘され、修正申告する場合に課税
- 重加算税:作為的な税逃れ(隠ぺいなど)を指摘された場合に課税
延滞税+加算税のパターンは自主申告と税務調査の指摘によって変わり、無申告加算税だけであれば5%上乗せですが、重加算税が発生すると最大40%になります。
期限内かつ正確な申告が重要となりますが、延滞してしまった場合でも自主的に申告してダメージを最小限に抑えましょう。
相続税を未納のまま放置することのリスク
延滞税や加算税など相続税のペナルティは厳しくなっていますが、未納のまま放置すると自分だけでは解決できない問題へ発展します。
流れとしては税務署から電話や書面による催告が行われ、そのまま放置すると滞納処分の執行になります。
滞納処分は「差押え」「換価処分」「配当」の順に執行されますが、まず滞納者の生活維持に直結しない不動産などの差押えから始まります。
換価処分は差し押さえた財産の公売(売却)であり、公売による売却代金が滞納分に充てられます。
差押え財産は滞納者ではなく徴収職員が決定するため、場合によっては預金債権や証券類が対象になるでしょう。
また相続税には連帯納付義務もあるため、他の相続人に滞納分が請求される可能性もあります。
相続税の申告・納付が間に合わないときの対処法
どのような事情があったとしても相続税の申告・納税期限は絶対であり、放置すると無申告の扱いになります。
申告が完了しなければ配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、税額軽減の優遇措置も使えません。
しかし遺産分割協議が決着しないまま長期化したり、期限内に申告・納税するつもりでも納税資金が準備できない場合もあるでしょう。
最後は、相続税の申告・納付が間に合わないときの対処法を解説します。
修正申告すれば無申告加算税はかからない
遺産分割協議が成立しなければ各相続人の相続税も決まらないため、協議が長期化すると申告・納税期限に間に合わない場合もあります。
このような場合は、一旦法定相続分どおりに分割したとみなして申告し、遺産分割成立後に修正申告すれば無申告加算税は課税されません。
また、申告期限後3年以内の分割見込書を提出しておけば、修正申告後に配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が使えるので、相続税も大幅に減額されます。
納税資金が不足する場合は延納や物納を利用する
遺産のほとんどが不動産の場合、評価額によっては高額な相続税になるため、納税資金を準備できないケースもあります。
土地を売って納税資金準備する事例もありますが、期限に間に合わなければ意味がなく、希望価格で売れない場合もあるでしょう。
現金化しにくい相続財産が多いようであれば、延納や物納も検討してみてください。
延納による分割納付
相続税の分割納付が延納といい、以下の要件を満たせば、納付困難な金額を上限として年賦で納税できます。
- 相続税額が10万円を超えている
- 現金一括納付が困難である
- 申告および納税期限までに申請書を提出し許可されている
- 延納税額および利子税相当額の担保を提供する
原則として延納期間は5年以内であり、年3.6%~6.0%の利子税も発生しますが、資金準備の目途が立っていれば検討の価値はあるでしょう。
延納が困難な場合は物納を利用する
土地などの不動産を現物として納める方法が物納です。
延納による納税も困難な場合には検討するべきですが、物納可能な財産の種類は限られており、以下の(1)~(3)の順で優先順位も決められています。
- (1)上場株式、国債、地方債、不動産、船舶、特定登録美術品、不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
- (2)非上場株式、社債、証券投資信託や貸付信託の受益証券、非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
- (3)動産(家財など)
なお、抵当権が設定されているような不動産や、境界未確定の不動産などは物納できません。
取得者未確定の財産も物納はできないため、遺産分割協議だけは決着させておく必要があるでしょう。
税理士に相談する
相続税の申告・納付の期限に間に合わない場合は、まず税理士に相談するといいでしょう。
申告書の作成が間に合わなくなるということはまずありませんし、相続税額がより少なくなるような計算をしてもらえます。
また、税務署との折衝を任せることができるため、現金納付が難しい場合の延納や物納などの対処法を、税務署に相談してもらうことも可能です。
不安を抱えるのではなく、専門家である税理士に相談して、対処法を考えてもらいましょう。
まとめ
相続には様々なケースがあるため、財産の種類や相続人の事情によっては申告・納税期限に間に合わない場合もあります。
延納や物納などの救済措置もありますが、利子税の支払いや手元に残しておきたかった財産を失うなど、決して有利な条件ではありません。
また不動産や非上場株式などの遺産は評価が難しく、申告の際にはミスも起きやすいでしょう。
対策としては納税資金準備が最優先になりますが、申告・納税で困った場合はまず相続専門の税理士に相談してください。
特に不動産は評価者によって価値が激変するため、税理士の評価によって相続税が基礎控除内に収まる事例も珍しくはありません。
専門家の力を借りながら、何かと気が休まらない相続問題の時期を乗り越えましょう。