この記事でわかること
- 相続税の2割加算や基礎控除の誤りやすい事例がわかる
- 生命保険の契約内容や保険金に関する誤りの事例がわかる
- 相続財産の評価や範囲を誤った事例がわかる
2015年1月の税制改正以降、相続税を納める人は2倍近くに増えました。
基礎控除額の引き下げや一部税率の変更が主な原因ですが、申告数の増加とともに税額計算のミスなど、誤った内容の申告も増えているようです。
ほとんどの方は相続税申告の初心者なので致し方ない部分もありますが、過少申告などのミスには気を付けたいところですね。
一方では、国税庁のウェブサイトに「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」が公開され、誤りやすい申告事例14種類を紹介しています。
今回は相続税申告を控えている方必見の記事として、国税庁の事例集をさらにわかりやすく解説します。
相続人・基礎控除に関する間違えやすい事例
最初に紹介する事例は相続税の2割加算や基礎控除に関するものです。
特に間違いやすい4つの事例を解説しますので、兄弟姉妹や孫が相続人になる場合は注意してください。
被相続人の兄弟姉妹が相続した場合の2割加算
兄弟姉妹の相続人には相続税が2割加算されますが、事例1では被相続人の兄弟姉妹しかいないため、2割加算されないと考えたケースです。
被相続人の配偶者や1親等の血族(親や子など)がいる・いないに関わらず、兄弟姉妹が相続人になった場合の2割加算は変わらないので注意してください。
参考:事例1(国税庁)
被相続人の孫養子が相続した場合の2割加算
孫を養子にすると、被相続人の実子と同じ第1順位の法定相続人になります。
法律上でも1親等の血族になるため、2割加算の対象外になると考えた例ですが、養子縁組した孫でも2割加算の適用は変わりません。
孫との養子縁組には税逃れを目的とした例もあり、本来の趣旨とは異なる制度利用を防止するため、2割加算が適用されています。
参考:事例2(国税庁)
被相続人の孫が代襲相続した場合
先ほどの例では、孫には必ず相続税が2割加算されると解説しましたが、代襲相続の場合は2割加算の対象外になります。
代襲相続とは被相続人の子がすでに死亡しており、その子(孫)が第1順位の相続人に繰り上がることをいいますが、養子縁組と違って租税回避行為にはなりません。
参考:事例3(国税庁)
被相続人と養子縁組を行った孫がいる場合の基礎控除
相続税には基礎控除があり、以下のように計算します。
計算例
相続税の基礎控除
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
養子縁組すると養子も法定相続人になりますが、基礎控除の計算に含める人数は以下のように定められています。
- ・被相続人に実子がいる場合:1人
- ・被相続人に実子がいない場合:2人
参考:事例4(国税庁)
事例4では実子が1人いるため、養子は2人いても1人分しか基礎控除の計算に含めません。
生命保険金に関する間違えやすい事例
次に紹介する3つの事例は生命保険に関するもので、相続税申告書の第9表や第11表の誤りについて紹介されています。
本来の相続財産とみなし相続財産の違いがわかるので、契約者や保険料負担者など契約内容に注目してください。
生命保険金とともに払戻しされる前納保険料(みなし相続財産)
事例5では相続人が死亡保険金1,400万円を受け取っていますが、前納保険料150万円の払い戻しがあったため、第9表と第11表に分けて申告書を作成しています。
保険金と保険料を区別して考えたためですが、どちらもみなし相続財産になるため、第9表へ合計額を記載し、第11表の作成は不要になります。
みなし相続財産とは、被相続人の死亡をきっかけとして発生する財産で、死亡保険金や死亡退職金、信託受益権などが挙げられます。
参考:事例5(国税庁)
保険金とともに払い戻しされる前納保険料は、申告書第9表へ記入してください。
保険事故が発生していない生命保険契約(本来の相続財産)
事例9では、本来の相続財産とする生命保険料について、2種類の保険契約を例に解説されています。
- ・保険契約A:契約と保険料負担および被保険者は父親、保険金受取人は娘
- ・保険契約B:契約と保険料負担は父親、被保険者は娘、相続後に娘が契約を承継
契約Bでは保険事故(娘の死亡)が発生していないため、契約Aの保険金2,500万円のみで申告書第9表を作成した例です。
しかし、父親の保険料負担額は「生命保険契約に関する権利」として本来の相続財産になるため、解約返戻金相当額を記入して第11表を作成します。
参考:事例9(国税庁)
保険事故が発生していない生命保険契約(みなし相続財産)
事例10は、以下のような契約により、解約返戻金相当額がみなし相続財産になる例です。
- ・保険契約A:契約と保険料負担および被保険者は父親、保険金受取人は娘
- ・保険契約B:契約および被保険者は娘、父が生前に保険料を負担
この事例でも、契約Aの保険金3,000万円で申告書第9表のみを作成していますが、B契約の保険料(父親負担)も権利として取得したことになります。
つまり生命保険契約に関する権利を取得したとみなされるため、みなし相続財産として解約返戻金相当額が課税対象になります。
参考:事例10(国税庁)
課税対象となる相続財産の評価で間違えやすい事例
次の事例は相続財産の範囲や評価などに関するもののうち、誤りやすい7つの事例を紹介しています。
税務調査で指摘されやすい名義預金の事例もあるので、預貯金口座の相続についても注意が必要です。
被相続人以外の名義の財産(預貯金)
事例6は典型的な名義預金の例で、相続財産の範囲を誤ったものです。
名義は相続人の子であっても、お金の出どころや管理・運用が被相続人(父)であれば、子の財産とは認められません。
従って、被相続人の財産として申告書第11表へ記入し、誰の名義なのかも補記しておくことが必要です。
参考:事例6(国税庁)
所得税の準確定申告後に還付金を受領している場合
被相続人の所得税について準確定申告をした場合、高額な医療費を払っているなど、条件によっては還付金が発生します。
この場合の還付金の帰属先は本人(被相続人)なので、申告書第11表に相続財産として記入します。
参考:事例7(国税庁)
支給されていなかった年金を受け取った場合
事例8では、未支給年金を相続財産として申告書第11表に記入しています。
被相続人が受け取る予定だった未支給年金を遺族が請求した場合、一時所得として所得税の課税対象になるため、第11表への記入は不要となります。
参考:事例8(国税庁)
お墓の購入費用に係る借入金
被相続人の借金はマイナス財産として遺産総額から控除でき、お墓は非課税財産として相続税計算に含めません。
しかし非課税財産を取得するための借入金は債務控除できないため、第13表への記入及び控除はできません。
参考:事例11(国税庁)
未納の固定資産税や住民税
被相続人が亡くなった年に固定資産税や住民税が確定している場合、相続開始後に納税通知書が送付されても、控除可能な債務として申告書第13表へ記入できます。
借入金や未払金と同じ扱いということですね。
参考:事例12(国税庁)
団体信用生命保険契約により返済が免除される住宅ローン
住宅ローンを契約する際に団体信用生命保険へ加入しておけば、契約者死亡後の残債は返済を免除されます。
従って相続人に支払い義務はなく、債務控除の対象にはならないので、申告書第13表への記入はできません。
参考:事例13(国税庁)
被相続人が亡くなる前3年以内の贈与財産
年間110万円までの贈与は非課税であり、また相続開始前3年以内の贈与は相続財産に持ち戻しますが、事例14では以下のような贈与が行われています。
- ・相続発生の前年に200万円の贈与(贈与税は納付済み)
- ・相続発生の前々年に100万円の贈与
贈与税がかかる・かからないに関係なく、相続開始前3年以内の贈与は相続財産にカウントするため、すべて申告書第14表への記入が必要となります。
参考:事例14(国税庁)
まとめ
国税庁が公開している「誤りやすい事例集」は内容もわかりやすく、具体的な記入例もあるため、相続税申告を控えている方はぜひ参考にしてください。
特に相続人や相続財産の範囲、養子の法律的な立場は間違いやすくなっています。
また、みなし相続財産や本来の相続財産など判断の難しい財産もあるため、申告の際には財産の性質をよく確認しておかなければなりません。
つまり相続税は申告に誤りが出やすく、税務調査を誘発しやすい税金ともいえます。
相続税の申告・納税は「早めに・正確に」が理想なので、不安がある場合は相続専門の税理士へ相談しておきましょう。