この記事でわかること
- 遺言書の有無による遺産の分け方の違い
- 遺言書があるかどうか確認する方法
- 遺言書がある場合の相続手続きの注意点
被相続人が亡くなったときには、相続手続きを行いますが、遺言書の有無によって相続手続きの進め方は大きく変わります。
遺言書を発見したものの、どのように手続きを進めたらよいのかわからず、お困りの方もいらっしゃるでしょう。
今回は、遺言書の有無による遺産の分け方の違いや遺言書があるかどうか確認する方法、遺言書がある場合の注意点などを解説します。
目次
遺言書の有無によって遺産の分け方は異なる
遺産の分け方を決める際は、最初に遺言書の有無を確認します。
遺言書がある場合には、原則として遺言書の内容に従って遺産を分けることになるからです。遺言書がない場合には、相続人全員での遺産分割協議で遺産の分け方を決める必要があります。
ここでは、遺言書の有無による遺産の分け方の違いを解説します。
遺言書がある場合
遺言書がある場合には、遺言書の内容に従って遺産を分けます。
遺言書には、次の3つの種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
このうち、自筆証書遺言と秘密証書遺言については、開封前に家庭裁判所での検認手続きが必要です。
遺言書の検認手続きとは、相続人に遺言書の存在と内容を知らせるとともに、遺言書の偽造や変造を防止するための手続きとなります。検認を受けずに遺言書を勝手に開封すると、5万円以下の過料が科されたり、他の相続人から遺言書の偽造や変造を疑われたりする可能性があります。
なお、自筆証書遺言であっても法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、偽造や変造の恐れがないため、検認手続きは不要です。
検認後、遺言書の形式などに問題がなければ、遺言書の内容に従って遺産を分けます。なお、遺言書に記載がされていない遺産がある場合には、遺産分割協議で遺産の分け方を決める必要があります。
全員の合意があれば遺言に従わないことも可能
遺言書がある場合でも、相続人および受遺者全員の合意があれば、遺言書と異なる内容で遺産を分けることも可能です。
遺言書の内容は、すべての相続人の意思に沿うものとは限りません。遺言書の内容に従って遺産を分けると、相続人間のトラブルを引き起こしたり、税金面での不利益を受けたりする可能性もあるでしょう。
そのため、遺言書があったとしても、相続人と受遺者が遺言書と異なる遺産の分け方を望むのであれば、遺産分割協議で遺産の分け方を決めることも認められているのです。
遺言書がない場合
遺言書がない場合は、遺産分割協議で遺産の分け方を決めます。遺産分割協議とは、相続人全員の話し合いで誰がどの遺産をどの割合で相続するのかを決める手続きです。遺産分割協議を成立させるには、相続人全員が同意しなければなりません。
相続人のうち1人でも遺産分割協議に反対する人がいるときには、家庭裁判所での調停や審判の手続きを利用することができます。調停や審判が確定するまでには数年かかるケースもあります。相続人による遺産争いを避けるためには、遺言書を作成しておくことが何より重要となるでしょう。
なお、遺産分割協議を行うためには、事前に戸籍謄本などを収集して法定相続人を確認したり、相続財産を調査したりする必要があります。法定相続人や相続財産の調査が難しい場合には、司法書士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
遺言書の有無を確認する方法
被相続人(亡くなった人)が遺言書を作成していても、相続人が遺言書の有無や所在を認識していないケースがあります。遺言書の有無や所在がわからないときに遺言書を探す方法として、次の3つの方法があります。
- 公証役場・法務局に保管されていないか確認する
- 自宅を捜索する
- 預かっている人がいないか確認する
それぞれの方法について詳しく解説します。
公証役場・法務局に保管されていないか確認する
被相続人が公正証書遺言を作成していたときには、公証役場の遺言検索システムで遺言書の有無を確認できます。
遺言検索システムを利用するには、被相続人の除籍謄本や被相続人の利害関係人であることを証明する戸籍謄本などが必要です。遺言書の存在が判明したら、遺言書を作成した公証役場で遺言公正証書の正本や謄本の交付請求ができます。
遺言が秘密証書遺言の場合にも、遺言検索システムを利用して遺言書の有無を確認できます。ただし、秘密証書遺言が存在していることが判明しても、遺言書の保管場所まではわかりません。
なお、令和2年7月10日から、自筆証書遺言を法務局で管理・保管してもらえるようになりました。法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合、自筆証書遺言についても検索システムで遺言書の有無を確認できます。さらに、法務局の遺言書保管制度では、遺言者があらかじめ指定者通知を希望している場合、遺言者が亡くなったときに通知対象者に対して、遺言書が保管されている旨が通知されます。
自宅を捜索する
法務局の遺言書保管制度を利用していない自筆証書遺言については、検索システムを利用して遺言書があるかどうか確認することはできません。被相続人が生前に「遺言書を書いた」と言っていたものの遺言書が見つからないときは、自宅の棚や机の引き出し、カバンなど、被相続人の身の回りを探してみてください。
遺言書の保管場所としてよくあるものは、次の場所が挙げられます。
- 金庫
- タンスや机の引き出し
- 仏壇
- 本棚 など
遺言書を探しても見つからないときは、遺言書がないものとして相続手続きを進めることになります。ただし、遺産分割協議が成立した後に遺言書が見つかったときは、遺産分割協議のやり直しが必要となる可能性があるため、遺言書の有無はしっかりと確認しましょう。
預かっている人がいないか確認する
遺言書は、自分で保管せずに他の人に預けているケースも多くあります。遺言書の預け先の例としては、次のようなものが挙げられます。
- 弁護士や司法書士、税理士などの士業
- 知人
- 銀行 など
被相続人が専門家に相続の相談をしていたときには、相談を受けた専門家が遺言書を保管していることもあります。銀行の遺言信託や貸金庫を利用しているケースもあるため、被相続人が利用していた銀行にも問い合わせてみるのがおすすめです。
遺言書がある場合の相続手続きの注意点
遺言書がある場合の相続手続きでは、次の点に注意が必要です。
- 公証役場・法務局以外で保管されていた遺言書は、検認手続きが必要
- 複数の遺言書が見つかった場合、日付が後のものが有効になる
- 兄弟姉妹や法定相続人以外を受遺者にすると相続税の負担が増える
- 遺言書に記載がない財産については遺産分割協議が必要
- 遺言の内容によっては遺言執行者が必要な場合がある
それぞれの注意点について詳しく解説します。
公証役場・法務局以外で保管されていた遺言書は検認手続きが必要
法務局の遺言書保管制度を利用していない自筆証書遺言や秘密証書遺言については、開封前に検認手続きが必要です。
検認を受けるには、被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所に遺言書の検認の申立てを行います。申立てをするには、申立書や被相続人の生まれてから亡くなるまでの連続する戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本などの書類が必要です。
参考:遺言書の検認|裁判所
検認を受けずに遺言書を開封しても、遺言書は無効にはなりません。しかし、検認前に勝手に開封すると過料の制裁を科されるだけでなく、相続人間のトラブルに発展する可能性が高いため、検認は忘れずに行いましょう。
複数の遺言書が見つかった場合は、日付が後のものが有効になる
遺言書は、何度でも作り直すことができます。そのため、複数の遺言書が見つかるケースも少なくありません。
このように複数の遺言書が見つかり、内容が抵触するときには、抵触する部分については日付が後の遺言書が有効となります。
前の遺言と後の遺言との抵触等(条文)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
なお、複数の遺言書があるときでも、後の遺言書に記載がない部分や後の遺言書と抵触しない部分については前の遺言書が有効なままとなります。そのため、複数の遺言書が見つかったときでも、前の遺言書は大切に保管するようにしてください。
兄弟姉妹や法定相続人以外を受遺者にすると相続税の負担が増える
被相続人の兄弟姉妹が遺産を相続する場合や法定相続人以外に遺産を遺贈する場合には、配偶者や一親等の血族(子供や父母)である法定相続人が遺産を相続する場合と比較して、相続税の負担が増えます。
兄弟姉妹や受遺者が財産を取得した場合、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。なお、財産を取得した人が兄弟姉妹や受遺者でも、相続税の基礎控除は適用されるため、遺産額によっては相続税がかからない場合もあります。
たとえば、被相続人の配偶者や一親等の血族が相続した場合であれば相続税が500万円となる財産を、兄弟姉妹や受遺者が取得した場合には相続税は2割加算された600万円となります(500万円×1.2)。
さらに、特例や非課税枠の適用を受けられないケースもあるため、兄弟姉妹や法定相続人以外の受遺者は、配偶者や一親等の血族と比較して相続税の負担は大きくなります。
遺言書に記載がない財産については遺産分割協議が必要
遺言書がある場合でも、すべての遺産の分け方が記載されているとは限りません。遺言書の記載から漏れている財産については、別途遺産分割協議が必要です。
遺言書に記載されていない財産について遺産分割協議を行う際は、遺言書の内容も考慮したうえで遺産の分け方を決めることになります。そのため、遺言書の内容に不満を持つ相続人がいる場合には、遺産分割協議を成立させるのが難しくなる可能性があります。
遺言書を作成する際には、のちのちの遺産トラブルを避けるため、財産の記載漏れがないようにしましょう。
遺言の内容によっては遺言執行者が必要な場合がある
遺言書で子どもの認知や相続人の廃除または廃除の取り消しをしたい場合、遺言執行者の選任が必要です。
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するための手続きを行う人のことで、遺言書で指定することもできますが、指定がなかった場合、家庭裁判所で選任を受けなければいけません。
選任が必要な場合以外にも相続財産に権利関係が複雑な財産が含まれる場合も、遺言執行者を選任することで相続手続きをスムーズに進めることができます。
遺言書や遺産分割協議による相続手続きは専門家に相談しよう
遺言書の有無によって、遺産の分け方は大きく異なります。相続人の遺産争いを避けるためには、生前に遺言書を作成しておくことが重要です。また、遺言書を作成したときには、相続人が遺言書をスムーズに見つけられるように保管場所を伝えておくことをおすすめします。
遺言書を作成しても、作成方法や遺言内容によっては相続人や受遺者の負担となる場合があります。漏れのない適切な内容の遺言書を作成するためには、司法書士や弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
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