この記事でわかること
- 住宅の生前贈与に適用できる3つの制度
- 各制度が併用できるのかどうか
- 住宅を生前贈与するときの注意点
住宅の購入には多額の費用がかかります。もし、子どもや孫、配偶者の負担を減らすため、「生前のうちに住宅や住宅資金を贈与したい」と考えたとき、活用できる制度はあるのでしょうか。
住宅取得の生前贈与において、納税負担を軽減する制度は主に3つあります。ただし、制度の仕組みや注意点を正しく理解していないと、思わぬ税負担につながる可能性もあります。
この記事では、住宅の生前贈与に活用できる3つの非課税制度の概要と、制度の併用について解説します。また、実際に生前贈与をする際に押さえておきたい注意点についても詳しく紹介します。
目次
住宅の生前贈与に適用できる3つの非課税制度
生前贈与とは、財産の所有者が生きている間に無償で財産を渡す、贈与の一種です。
生前贈与にはいくつかのメリットやデメリットがあるため、贈与額や贈与時期を調整し、計画的に実行する必要があります。
贈与には110万円の基礎控除額がありますが、高額の贈与を受けた場合、受贈者(贈与を受けた人)は贈与税を支払うことになります。
特に住宅の購入価格は高いため、住宅取得の際に資金を贈与する場合は、贈与額も高額になることがあります。
住宅取得の生前贈与において、納税負担を軽減するには以下の3つの制度があります。
- 住宅取得等資金贈与の特例
- 贈与税の配偶者控除
- 相続時精算課税制度
1.住宅取得等資金贈与の特例
住宅取得等資金贈与の特例とは、令和8年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得または増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合において、受贈者(贈与を受ける人)が一定の要件を満たすときは、最大1,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。
贈与税を非課税にした上で、さらに将来の相続財産を少なくできるため、相続税の節税にもつなげることができます。
住宅取得等資金贈与の特例は、住宅やその敷地そのものの贈与ではなく、宅地等を取得するための「資金の贈与」が対象です。そのため、住宅ローンを返済するための資金援助は適用対象外となります。また、土地や借地権のみの取得の場合も適用対象外です。
ほかにも、取得する住宅や受贈者の住所・所得などの要件がありますので注意が必要です。
2.贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
贈与税の配偶者控除とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、贈与税の申告をすることにより、基礎控除とは別に最高2,000万円まで控除できる特例です。
居住用不動産そのもの、居住用不動産を取得するための資金のどちらであっても適用できます。
また、受贈者は贈与を受けた年の翌年3月15日までにその不動産に居住し、かつその後も引き続きその不動産に住む見込みであることが必要です。また、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日の間に、贈与税の確定申告を行うことも要件の一つです。
なお、同一夫婦間においてこの制度を適用できるのは一生に一度です。一度適用を受けると、再度同じ配偶者から贈与を受けた場合でも、贈与税の配偶者控除を受けることはできません。
3.相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、原則として贈与の年の1月1日時点において60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対し、財産を生前贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。年間110万円の基礎控除があり、さらに110万円を超えた場合でも累計2,500万円の範囲であれば贈与税はかかりません。しかし、2,500万円を超えた贈与に対しては一律20%の贈与税がかかります。
贈与する財産の種類は問わず、住宅取得の資金であっても居住用不動産そのものであってもこの制度は適用できます。
相続時精算課税制度では、贈与税の非課税枠が拡大される一方、生前に贈与した財産も相続財産に加算され、相続時にまとめて相続税が課されます。
いわば、相続時精算課税制度は「贈与時の課税を相続時まで先延ばしにする仕組み」であり、原則として相続税の節税にはつながりません。
ただし、相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、贈与時の価額で相続時に課税されます。贈与した財産が相続時に値上がりしていても、増加分には課税されません。
そのため、将来値上がりが予想される財産(例:人気のあるエリアの不動産)を生前贈与するときには、結果として相続税の軽減につながる可能性があります。
なお、一度でも相続時精算課税制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与では暦年課税が使えなくなる点に注意しましょう。また、最初の贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければなりません。
併用の可否
上記で紹介した制度は、贈与税の基礎控除と併用することで、さらに非課税枠を拡大することができます。
贈与税の配偶者控除
贈与税の配偶者控除額:最大 2,000万円
贈与税の基礎控除額:110万円
合計で最大2,110万円まで、非課税での贈与が可能です。
住宅取得等資金の贈与
- (1)暦年贈与と併用する場合
- 住宅取得等資金の非課税枠:最大1,000万円
贈与税の基礎控除額:110万円
合計で最大1,110万円まで、非課税での贈与が可能※です。
- ※
- 住宅の要件・契約日などの条件を満たす必要があります。
- (2)相続時精算課税制度と併用する場合
- 制度改正により、令和6年1月1日以降、相続時精算課税制度にも年間110万円の基礎控除が新設されました。
住宅取得等資金の非課税枠:最大1,000万円
相続時精算課税制度の特別控除:2,500万円
贈与税の基礎控除:110万円
合計で最大3,610万円まで、非課税での贈与が可能です。
なお、住宅取得等資金の贈与特例を利用する場合は、贈与者が60歳未満であっても、相続時精算課税制度を適用できます。
特別控除2,500万円は、相続のときに相続財産に加算して相続税を計算することになります。
住宅を生前に贈与するメリット
上記で紹介した特例を上手に使うことで、贈与者の生前に無税、またはさほど税負担がなく住宅や住宅資金を贈与することができます。
相続税対策につながることも生前贈与の利点ですが、一番のメリットは「渡したい相手に住宅や住宅資金を引き継ぐことができる」という点でしょう。
贈与する相手やタイミングを自由に選べる
住宅や住宅資金を生前贈与するメリットの一つは、「誰に対して、いつ贈与するか」を贈与者自身が自由に決められるという点です。
相続の場合は亡くなった時点で法定相続人が確定し、遺言がなければ相続人間の話し合いで財産を分けていきます。本当に財産を渡したい相手に財産が引き継がれたかどうかは、自分で確認することはできません。
一方、生前贈与であれば「同居している長男A男に住宅を贈与したい」といった自分の希望を、あらかじめ実現することが可能です。
財産を贈与する時期についても、贈与者のライフイベントに合わせたり、受贈者が援助してほしい時期に合わせたりするなど、柔軟に選ぶことができます。
贈与者の意思を最大限に反映できることは、生前贈与の大きな魅力でしょう。
遺産分割のトラブルを回避しやすい
相続時の遺産分割協議におけるトラブルを未然に防げる点も、生前贈与のメリットです。
住宅などの不動産は、現金のように簡単に分割することができません。そのため、誰がどのように取得するか、相続人同士で揉めることがあります。
しかし、住宅を特定の相手へ生前贈与すればその不動産は受贈者の財産となり、原則として相続財産に含まれません。
遺産分割の対象外となるため、結果として遺産分割協議がスムーズに進みやすくなり、相続時の争いを防ぐことにもつながるでしょう。
住宅を生前贈与する際の注意点
住宅の生前贈与にはメリットもありますが、相続税の特例が適用できなかったり、贈与税の税負担が大きくなったりすることもあるため注意が必要です。
小規模宅地等の特例が適用できない
小規模宅地等の特例とは、相続または遺贈によって、被相続人(亡くなった人)が事業の用または居住の用に供されていた宅地等を取得した場合、一定の要件を満たしたときは宅地等の評価額を最大80%まで減額できる制度です。この制度を利用することにより、法定相続人や受贈者が支払う相続税を大幅に減らすことができます。
しかし生前贈与の場合、財産の所有権は受贈者へ移っています。小規模宅地等の特例は相続財産にのみ適用されるため、敷地を生前贈与で引き継いだ場合は適用できません。
不動産取得税が課税される
不動産取得税とは、土地や家屋を取得した際にかかる税金です。
相続で住宅を取得したのであれば不動産取得税はかかりません。しかし、贈与で住宅を取得した場合は不動産取得税が課されます。
なお、不動産取得税は固定資産税評価額の3%となりますが、居住用の中古住宅を取得する場合、要件を満たすと軽減措置があります。
贈与の方が相続より、登録免許税の税率のほうが高い
登録免許税は、不動産の登記をする際にかかる税金です。
住宅を相続で取得しても贈与で取得しても登録免許税がかかりますが、税率は相続のほうが軽くなっています。相続の場合、税率は0.4%ですが、贈与の場合は2%となります。
特別受益となる可能性がある
「特別受益」とは、特定の法定相続人が被相続人から生計の資本として贈与(生前贈与や遺贈)を受けたときの利益のことです。
法定相続人に対する住宅の贈与や住宅取得のための資金贈与は、時として特別受益とみなされる可能性があります。その場合、贈与はいわば「遺産の先もらい」であるとされ、相続のときに取得する財産が減ってしまうことになります。
事例
- 法定相続人は兄弟2人である
- 生前に長男が1,000万円の贈与を受けていた
- 被相続人が亡くなったときに1億円の財産が残された
長男は生前に1,000万円を受け取っているため、兄弟2人で法定相続分の5,000万円ずつ相続した場合、兄弟間で不公平が生じます。
そこで、長男が贈与された財産を特別受益として相続財産に加算し、すべての相続財産を1/2に按分した5,500万円を、兄弟がそれぞれ取得する相続財産とします。
相続財産=1億円+1,000万円=1億1,000万円
1億1,000万円÷2=5,500万円
長男は先に1,000万円を受け取っているため、相続の際には4,500万円を受け取ることになります。
事例のように、特別受益を相続財産に加えて相続分を計算し直すことを「特別受益の持ち戻し」と言います。
なお、婚姻期間が20年以上の夫婦間において、居住用の建物や敷地が贈与・遺贈された場合は、特別受益の持ち戻し免除の意思表示をしたものと推定されます。
つまり、20年以上連れ添った配偶者に居住用財産を贈与した場合は、その財産は相続財産には加えず、配偶者固有の財産と推定されるということです。
特別受益の持ち戻し免除は、贈与・遺贈の時点で婚姻期間が20年以上あれば適用されます。法律上の夫婦に対する適用であり、事実婚は含まれません。
また、持ち戻し免除はあくまでも推定であるため、遺言書などで明確に意思表示をした方が確実になること、他の法定相続人の遺留分を侵害する場合は、遺留分侵害額請求の対象になることに注意しましょう。
相続か生前贈与かで迷ったら税理士に相談しよう
住宅の生前贈与においては、税制優遇制度をうまく活用すれば贈与税を抑えることができ、最終的には節税につながる可能性があります。
生前贈与は渡したい人に財産を確実に渡せる方法ではありますが、相続のときに「遺産の先もらい」であるとして揉める可能性があります。
配偶者に居住用財産を贈与した場合には、持ち戻し免除の意思表示(遺産の先もらいとしないでほしいと被相続人が意思表示すること)をしていなかったとしてもその意思表示をしていたものと推定して、特別受益の持ち戻しは免除されます。しかしその他の贈与では、持ち戻し免除を希望するのであれば、遺言書などで意思表示をする必要があります。
よかれと思って行った生前贈与がのちのち相続人間のトラブルに発展しないように、贈与をする前に相続専門の税理士に相談することをおすすめいたします。
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ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
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