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加害者が任意保険に加入している場合、保険会社はたいてい裁判基準の8割程度を示談金として提示して「これ以上は払えません」と言ってきます。それに対して被害者が納得できるかどうかで、示談がまとまるかまとまらないかが決まります。納得できるのであれば示談、納得できないのであれば迷うことなく弁護士を頼っていただければと思います。
弁護士にとっては、保険会社が提示してくる「裁判基準の8割」をどれだけ10 割に近づけるかが腕の見せどころです。とはいえ、交渉が決裂して訴訟までいくことも当然あります。
交渉がうまくいかなかった場合、解決方法は2つあります。
①交通事故紛争処理センターに相談する
②裁判所に持ち込む
交通事故処理センターとは裁判外の紛争処理機関(ADR)の1つで、交通事故による損害賠償に関する法律相談や和解斡旋・審査業務を行う機関です。全国の高等裁判所がある場所に設置されています。
本部及び支部:
札幌、仙台、東京( 本部)、名古屋、大阪、広島、高松、福岡
相談室:
さいたま、静岡、金沢
まずは最寄りの支部または本部に電話をして利用予約をして、来訪する日時を決めます。決められた日に来訪して、センターにいる担当弁護士と面談の後、和解斡旋を申し込むことになったら、センターから相手方に連絡してもらえます。
和解斡旋の際には、担当弁護士が双方の意見を聞き和解案を提示してくれるので、お互いが合意できればその時点で和解が成立します。弁護士立ち会いの下、示談書を作成します。
和解斡旋の話し合いは双方合意に至るまで何度か繰り返されます。何度話し合っても合意に至らない場合は和解斡旋の手続きは終了し、次は「審査」の請求をします。
審査とは、センターの上位機関である「審査会」が行うものです。審査の日に担当の審査員が当事者から事故内容を聴取して説明を求めたり、双方の主張を聴いたりして、審査会が損害賠償問題の解決方法を決定します。これを「裁定」といいます。
裁定に同意するのであれば和解が成立し、同意できないのであれば裁判なお他の方法で問題を解決することになります。
交通事故紛争処理センターは無料で利用できます。また、センターの発表によれば、人身事故の場合は3回で70% 以上、5回までで90% 以上の事案で和解が成立しているということなので、比較的早期に解決できるというメリットもあります。
示談がまとまらない場合のもう1つの方法が裁判によって解決するというものです。
交通事故紛争処理センターによる和解斡旋によっても解決しなかった場合も、最終的には法的手続きを取るしかなくなるでしょう。この場合の法的手続きには、
・調停
・訴訟
の2つがあります。
「調停」とは、裁判所に間に入ってもらって加害者と被害者が話し合い、お互いが合意することで紛争の解決を図るものです。
「話し合い」という性質上、一方に話し合おうという意志があっても、相手が応じなければ成立しません。そもそも示談がまとまらなかったわけですから、調停に持ち込んで解決する可能性は低いともいえます。
そのため、調停という手続きは取らず、すぐに訴訟を提起することのほうが多くなっています。
交通事故の裁判には、「刑事裁判」と「民事裁判」の2 種類があります。
損害賠償義務の有無や金額については、「民事裁判」で争われます。民事裁判は誰でも提起することができるので、示談がまとまらない場合、交通事故の被害者が加害者を被告にして裁判を提起するということになりま
す。これを「訴訟」といいます。
民事裁判を提起するには、裁判所に「訴状」という書類を提出しなければなりません。提出する裁判所は、
①被害者の住所地
②加害者の住所地
③交通事故の発生場所
のいずれかを管轄する裁判所で、請求金額によって異なります。
請求金額が140万円以下の場合:簡易裁判所
請求金額が140万円を超える場合:地方裁判所
民事裁判の際、裁判所に「訴状」を提出します。訴状には
・当事者の住所氏名
・請求金額とその内訳
・事故の内容
などを記載します。
特に定められた書式はありませんが、簡易裁判所では備え付けられているところもあります。代理人を選任した場合は、当事者の委任状を添付することが必要になります。
裁判所に訴状を提出すると、裁判所から1、2カ月後に第1回口頭弁論の期日指定がなされます。
その期日までに被告が争う意思を示さなかった場合、裁判は終了。請求した内容通りの判決が出されます。
争う意思を示した場合は、②に進みます。
月1回程度のペースで裁判が行われます。何が争いになっているかを整理し、当事者双方の主張を裏付ける証拠を提出します。
争点整理が終わり、証拠が出そろったタイミングで、裁判所が和解案を提示します( 和解勧告)。
当事者双方が納得できれば和解が成立して和解調書が作成され、裁判は終わります。
和解が成立しなかった場合には、④に進みます。
尋問とは法廷で、裁判官や双方の弁護士からの質問に答えることです。原告・被告双方に対して行われ、証人がいる場合には証人に対しても行われます。
過失割合や後遺症との因果関係に争いがある場合は、事故の目撃者や医師などに証人尋問を行うことがあります。
尋問から1、2カ月後に判決が言い渡されます。
判決内容に不服がある場合は、判決書を受け取った日から2週間以内に「控訴状」を裁判所に提出します( この場合、⑥に進みます)。
控訴状が提出されなかった場合は、判決が確定。これをもって裁判は終了となります。
日本では1つの事件で3回まで審理を受けられることになっています(3審制)。1審の判決内容に不服があり2審に上訴する(上級の裁判所に新たな裁判を求める) ことを「控訴」、2審(控訴審)の判決内容に不服
があり3審に上訴することを「上告」と言います。
いずれの場合も、1審の裁判同様、当事者が主張を行ないその証拠を提出した上で和解協議を行います。
通常、交通事故においては上告が認められることはないので、控訴審の判決でほぼ終了となります。
和解で終局する場合、1年以内がほとんどですが、判決までとなると1年半程度かかることが多いようです。
控訴審まで進むとさらに解決までの期間が長くなり、1年半以上かかることもあります。
裁判、それも控訴審まで行ってしまうと、精神的負担が大きくなります。
交通事故の損害賠償はどこかで折り合いをつけて、なるべく早く終わらせるほうが被害者の方にとってはいいのではないかと思います。
とはいえ、どこで折り合いをつけるべきなのか、被害者自身にはわからないことが多いでしょう。
そんな時に頼りになるのが、被害者側の交通事故案件を多数取り扱ったことのある弁護士です。
経験豊富な弁護士なら、加害者側にどの程度の損害賠償能力があるかリサーチする方法を知っていますし、保険会社相手に被害者にとって最大限に有利になるよう交渉するノウハウも持っています。
被害者自身の任意保険に弁護士特約が付帯されている場合は、事故直後に保険会社に「交通事故の被害者になったので弁護士特約を使いたい」旨を伝えてください。
弁護士特約が付帯されていない場合も、加害者側の保険会社から示談を迫られるなどもめそうな場合は、なるべく早く弁護士に相談することをお勧めします。
不幸にして交通事故の被害者になったとしても、法律の専門家が背後にいることで、その被害を最小限にとどめることが可能になります。ぜひそのことを心にとどめておいてください。