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最終更新日:2022/3/11

節税できる?「法人化」による相続税対策検討のポイントとは

古尾谷 裕昭
この記事の執筆者 税理士 古尾谷裕昭

ベンチャーサポート相続税理士法人 代表税理士
東京税理士会 登録番号104851

東京、横浜、千葉、大宮、名古屋、大阪、神戸など全国の主要都市22拠点にオフィス展開し、年間2,200件を超える日本最大級の相続税申告実績を誇る。 業界最安水準となる明朗料金ときめ細かいフォローで相続人の負担を最小にすることを心がけたサービスが評判を得る。1975年生まれ、東京都浅草出身。

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人が亡くなった場合に、亡くなった方(被相続人といいます。)が有していた財産を相続人が相続した際に、相続税が課される場合があります。

この相続税について軽く考えていると、相続税を納めるためにせっかく相続した財産を売却しなければならない、といったことにもなりかねません。

また、場合によっては、相続税を納めるために財産を売却したのに、その際に得た所得に対して、更に譲渡所得税が課せられ、それを納めるために更に財産を売却しなければならない等といった、悲惨な目に遭うことにもなりかねません。

そこで、本稿では、相続税についての基本的な知識を確認するとともに、その相続税対策の一環としての「法人化」という方法について考えてみたいと思います。

相続税の基礎

相続税が発生する場合

最初に、相続税について基本的事項を確認しておきましょう。

相続税は、相続が開始された場合に常に課税されるものではありません。

相続税が課税されるのは、相続される財産(これを「相続財産」といいます)が「基礎控除額」を超える場合に限られます。

つまり、相続財産の額が、基礎控除額以下の場合には、そもそも相続税は課税されないのです。

基礎控除額の計算

では、基礎控除額はどのように計算されるのでしょうか。

基礎控除額については、平成30年に改正があり、大幅に引き下げられました。

基礎控除額は現行法では、以下の通り計算されます。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)

具体的に見てみましょう。

相続人が、配偶者と子供2人の場合、基礎控除額は以下の通りとなります。

基礎控除額=3,000万円×(600万円×3人)=4,800万円

つまり、相続財産の額が4,800万円を超える場合に初めて相続税が課税されることになります。

相続財産とは

相続税が課税されるか否かは、相続財産の額と基礎控除額のいずれが大きいかによって決定されることはわかったと思います。

それでは、相続財産の額はどのように計算されるのでしょうか。

基本的には、相続財産とは、被相続人が亡くなった時に所有していた財産のことをいいます。

現金はもちろん、預金、貴金属類、不動産、他人に対して有している債権、株式等、一切の財産を含みます。

また、被相続人が有していた財産ではありませんが、被相続人が亡くなったことによって相続人が取得した生命保険金や死亡退職金なども、相続財産に含めて計算されます(「みなし相続財産」といいます)。

一方で、被相続人が負担していた債務などのマイナス財産がある場合には、それをプラスの財産から控除して、相続財産の実質的な価額を算出します。

この場合、現金、預金、生命保険金等のプラスの財産、また、マイナスの財産としての借入金などはその額面金額で計算されます。

これに対して、不動産については路線価を基準に、その価額を評価して、その価額を算定することになります。

この場合、更に、その土地上に建物があり、土地を第三者に賃貸しているなどの行為をしている場合には、その分を、評価額において考慮することになります。

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相続税対策の基本

以上で、相続税の基本的な仕組みがわかったと思います。

つまり、相続税を納めなくてもいいようにする、または、納める場合でもその課税額を少なくする相続対策としては、相続財産の額を減少させることが最もわかりやすく、また、簡潔な方法と言うことになります。

そのための方法としては、

  • ・財産自体を生前に減少させておく方法
  • ・財産の評価額を減少させる方法
  • ・各種の特殊控除などを利用する方法

の3つが考えられます。

相続財産の額を減らして、基礎控除額よりも少なくできれば、相続税を納めなくてもすむからです。

ただ、単純に生前に贈与したのでは、相続税よりも高額な贈与税がかかってくる可能性があります。

そこで、合法的に相続財産を減少させる方法、または、将来、相続人になるべき者に対して財産を移転しておく方法として、法人化という方法が考えられることになります。

法人設立による相続税対策の意味

法人設立によってなぜ相続税対策となるのでしょうか。

法人とは、社団法人、財団法人、NPO法人、株式会社をはじめとする会社などをいいます。

法人という制度は、「法律によって権利義務を取得することを認められた組織」のことを言います。

このように設立された法人の財産は、その出資者である個人等とは別の法人自体の財産とされるため、たとえ、その出資者等が将来亡くなったとしても、相続財産には含まれないことになります。

つまり、個人が法人を設立して、自己の所有する財産をその法人の所有物としておけば、自己の所有財産をあらかじめ減少させることが可能となり、将来、自己が死亡したときに相続財産に含まれる財産の額を基礎控除額の範囲内、または、それに近づけておくことが可能となります。

相続人への財産の移転

法人を設立し、将来自分が死んだときに相続人になるべき人を、その役員等として、役員報酬を支払えば、「贈与」によらずに、相続人になるべき者に対して、あらかじめ相続分の先渡しと同様に、財産を移転することが可能となります。

しかも、これは、あくまでも、相続人となるべき者が当該法人の役員報酬として受領するものですから、通常の所得税はかかるとしても、それ以上の贈与税や相続税を課されることはありません。

相続税対策として法人を設立する場合のポイント

法人の設立が相続税対策として有効と言うことはご理解いただけたと思います。

そこで、以下では、具体的に法人を設立する場合に、どのような点に注意したらいいかについて、考えてみましょう。

法人の形式

法人と言っても、株式会社、合同会社、一般社団法人、一般財団法人、NPO法人など、いろいろな種類があります。

一時期は、出資持分がないことから、一般社団法人の形式が相続税対策としては最も有効とされていました。

株式会社のように出資持分が株式という形をとった場合には、確かに財産は出資者から会社に移転しますが、出資者は株式を保有することとなり、その株式の評価額が相続財産に含まれることとなります。

その結果、株式評価額が高いと、結局、相続財産額が増えてしまう、ということになりかねませんでした。

これに対して、一般社団法人の場合には持分がないため、その出資持分が相続財産として考慮されることがないとされた為です。

ところが、平成30年の税制改正によって、一般社団法人が同族で支配されている場合には、当該社団法人の純資産額を同族役員数(被相続人を含む人数)で割った額について相続があったものとして相続税が課税されることになりました。

その結果、現在では敢えて、一般社団法人とするメリットはないこととなりました。

その結果、現在では発起人が一人でも可能であり、資本金の制限等もなく、設立手続も簡易な株式会社を設立するのが一般的と思われます。

資本金

株式会社とした場合、その資本金はいくらとするのが妥当かという点が問題となります。

現在、法律上、株式会社設立における資本金について、特別な限定はありません。

ただし、基本的には1,000万円未満に設定することが妥当でしょう。

資本金が1,000万円以上の場合には、消費税の申告が必要になるなど、その手間が増えるためです。

誰を株主とするか

設立する法人の株主を誰にするかは重要かつ難しい問題です。

従来から一般的に言われているのは、相統人を株主とするべきであり、本人(被相続人となり得る人)は株主となるべきではない、というものです。

なぜなら、将来、自らが死亡した場合のことを考えると、もし、本人が株式を所有していた場合には、将来、自らが死んだ場合には自身が所有している当該会社の株式が相続財産に含まれることとなります。

その結果、結局、自ら所有していた財産を法人に移転して、相続財産を減らしたのに、その会社の株式が高額に評価され、結局、それによって相続財産が増加してしまい、相続税が課税されることにもなりかねない為です。

しかし、一方では、本人が株主になっていないとなると、会社経営の点で、株主である相続人が決定権を有することとなり、本人の意思による会社経営ができないという危険が考えられます。

これを回避する方法としては、平成30年度税制改正による事業承継税制の特例措置の利用という方法も考えられます。

これは、10年間の措置として、法人の経営者兼株主が死亡したことにより、後継者が経営を引き継いだ場合に、承継した株式にかかる相続税のうち100%の猶予・免除を認める制度です。

ただし、この制度を利用するためには、当該法人が事前に「中小企業における経営の承継円滑化に関する法律」による認定を受けている必要があるなど、様々な要件が定められていますので、内容をしっかり確認した上で検討する必要があります。

相続税対策という観点のみからすると、株主は相続人にすることが好ましいですが、会社経営の観点を含めて、最終的にその株主を誰にするか、その株式の所有割合をどうするか(例えば、過半数は本人、残りを相続人が均等に所有など)を決定することになるでしょう。

役員を誰にするか

役員についても、特に制限はありません。

ただ、事前に、相続人に「役員報酬」として、財産を移転しておくという目的からすると、相続人を役員に選任して、相続人に役員報酬を支払うという方法が合理的でしょう。

なお、相続人を「社員」とするという考え方もあるかもしれませんが、この場合には、勤務実態が必要となります。

実際に、その相続人となる者が勤務していればかまいませんが、そうでない場合には、幽霊社員に対する給与支払いということが問題となる危険がある為、役員としての選任が妥当でしょう。

法人化のデメリット

ここまで、相続税対策として法人化することのメリット、および、法人化する際に効力すべきポイントについて検討してきました。

最後に、法人化することのデメリットについても考えてみたいと思います。

事業者でなければならない

法人化するためには、何らかの事業を行っていることが前提となります。

法人を設立するためには定款を定める必要があり、そこには目的とする事業を記載する必要があります。

従って、何も事業等を行わないにもかかわらず、法人を設立するということはできません。

設立手続の必要

法人を設立するには、既に述べた定款の作成をはじめとした法律に従った手続きを経る必要があります。

これらの手続きは自分で行うことももちろんできますが、場合によっては専門家に依頼する必要が生じる場合もあるかもしれません。

その場合には、それらの費用負担等も効力する必要があります。

法に従った法人運営の必要

法人を設立した以上、それぞれの法律に従って、法人の運営を行う必要があります。

その意味で、当初の主たる目的は相続税対策であったとしても、法人を設立した以上は、社会的な存在である法人を経営するのだという意識を持って、その運営を行うことが必要です。

法人運営における重要なポイントとしては、会計原則や株式会社などの場合には会社法に従った経理処理が必要となります。

また、変更事項等が生じた場合には変更登記などを行う必要があります。

法人税

個人事業主の場合には、赤字の場合には税金を納める必要がありませんでした。

しかし、法人の場合には国税としての法人所得税、地方税のうちの法人事業税は納める必要はありませんが、地方税である法人住民税についてはたとえ赤字であっても納付が必要となります。

経営を巡るトラブルの可能性

本人のみが出資を行い株主等が本人のみの場合には問題とはなりません。

しかし、相続人を株主とした場合などには、相続人が経営に口を出すことになるため、会社経営に関してのトラブルなどが発生する可能性が否定できません。

まとめ

以上、相続税対策としての法人設立のメリット、考慮すべきポイント、併せて、そのデメリットについて整理してきました。

法人化は合法的に相続財産を被相続人の財産から分離する方法としては有効な手段です。

ただ、それを行うにはそれなりの知識や手間などがかかることを認識した上で、それを行うのか否かを判断する必要があります。

安易に法人化を進めて、かえってトラブルを誘発し、思い通りの効果が得られない等の失敗をしないように、十分に検討した上で行う必要があります。

相続税対策を検討している方は、【厳選!相続税対策】22個の節税手法で相続税ゼロを目指す!の記事もあわせてご参考ください。

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