この記事でわかること
- 数次相続の概要がわかる
- 数次相続における遺産分割方法がわかる
- 数次相続の場合の遺産分割協議書の記載方法がわかる
- 数次相続の場合の中間省略登記が理解できる
家族が亡くなった際、一般的には遺された家族全員で遺産分割協議を行いますが、短期間で次の相続が発生すると、2つの遺産分割を同時進行させることになります。
たとえば父が亡くなり(「一次相続」といいます)遺産分割協議をしないうちに、相続人の一人である長男が亡くなった(「二次相続」といいます)場合などには、遺された相続人は二人分の遺産分割が必要です。
このように、2回以上の相続が相次いで発生することを「数次相続」と言い、数次相続の遺産分割協議書は通常の遺産分割協議書と書き方が異なります。
ここでは、数次相続とはどんなものなのか、相続が重なったとき遺産分割協議書の書き方はどうなるのか、書式付きで見ていきましょう。
数次相続(すうじそうぞく)の場合の遺産分割とは
相続は男女の平均寿命(平均余命)とも関連しているため、まず父親、次に母親の順で相続開始となるケースが一般的です。
遺産分割においても、「一次相続の手続きを終えた後に二次相続を迎える」と考えておられる方が多いでしょう。
しかし家族の死亡タイミングによっては「数次相続」となり、一般的な相続に比べて相続手続きの流れも変則的になります。
では数次相続が発生した場合、遺産分割はどのような流れになるでしょうか?
数次相続とは
短期間のうちに相続が連続する状況を「数次相続」といい、以下のようなケースが考えられます。
- 父親の遺産分割が終わらないうちに母親が死亡した
- 祖父母の遺産分割が終わらないうちに子ども(祖父母の子)が死亡した
つまり、同時進行で2つの相続に対応するわけですが、前妻・前夫の子どもがいる場合は少々複雑な状況になります。
仮に前妻の子がいる夫が死亡した場合、相続人は前妻の子と後妻になります。
後妻との間に子どもが生まれていれば、その子どもも相続人になりますが、もし短期間で後妻も亡くなった場合は、前妻の子と後妻の子が遺産を分け合うことになります。
今まで面識がなかった相続人同士で遺産分割協議を行うため、数次相続によって「争続」に発展するケースも考えられるでしょう。
数次相続と相次相続は同じ意味?
相続が相次ぐ(立て続けに発生する)状況を「相次相続」といいますが、税法上の言葉であり、数次相続とは本質的な意味が違います。
税法には相次相続控除の制度があり、前回の相続から10年以内に相続が発生した場合、今回の相続税負担が軽くなるよう、一定額を控除できるようになっています。
数次相続とは別物ですが、相続税が発生する家庭には大きく影響してくるでしょう。
相続税の基礎控除はどのように計算する?
相続税には基礎控除があり、以下のように計算します。
相続税の基礎控除:3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
基礎控除を上回る部分に相続税がかかる仕組みですが、数次相続の場合は一次相続の法定相続人しか人数にカウントしません。
したがって、法定相続人の数と基礎控除額は以下のようになります。
- 一次相続の法定相続人:母、長男、長女の3人
- 相続税の基礎控除:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
数次相続によって基礎控除が増えることはないので、二次相続の相続人をカウントしないよう注意してください。
相続税の申告期限はどうなる?
相続税は「相続開始を知った日(被相続人の死亡を知った日)の翌日から10ヶ月以内」が申告期限です。
ただし、申告義務者が申告しないまま死亡した場合は、申告義務者の死亡を知った日が申告期限までの起算日になります。
仮に父親の死亡から半年後に長男が死亡し、申告義務者である長男が相続税申告していなかった場合、長男の妻や子どもの申告期限は半年間の延長となります。
一方、一次相続の相続人には期限延長がないため、母親と長女は父親の死亡を知った日から10ヶ月以内に申告しなければなりません。
数次相続が発生した場合の相続の流れ
では、数次相続発生後の流れについて解説しますが、今回の事例では父親が亡くなり、遺産分割協議が終わらないうちに相続人である長男が亡くなった場合です。
この場合、父の遺産分割協議は、母、長女及び長男の相続人である長男の配偶者と子の5人で行うことになります。
- 母親:被相続人の配偶者は必ず相続人となる
- 長女:父親の第一順位の相続人
- 長男の配偶者:必ず長男の相続人となる
- 長男の子ども:父親(長男)の第一順位の相続人
以上の相続人全員で遺産分割協議を行いますが、まず相続人の範囲を確定させるため、父親と長男について出生から死亡までの連続した戸籍を取り寄せます。
必要な戸籍がすべて揃ったら、次の要領で遺産分割協議を進めていきましょう。
数次相続の場合の遺産分割協議書の記載方法
複数の相続を同時進行させるため、数次相続では「相続人でありながら被相続人」という複雑な立場の人も登場します(今回の例の場合は長男が該当)。
また、同時に2人の相続人となる人も登場するので、誰がどの立場で、誰の財産を相続するのか、整理しながら遺産分割協議を進めるとよいでしょう。
遺産分割協議書の書き方も含め、具体的には次の要領になります。
遺産分割協議の進め方
数次相続の場合の遺産分割協議では、一度にまとめて分割方法を話し合ってもよいでしょう。
特に相続人同士が離れて住んでいる場合や、2つの相続に共通する相続人がいる場合は、時間の節約にもなり労力も軽減されます。
ただし、重複する相続人がいないようであれば、それぞれ別に協議されることをおすすめします。
無関係な相続の話し合いに参加しても意味はないため、ケースバイケースで考えるとよいでしょう。
今回の数次相続の遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議書は相続手続きに使用しますが、法定相続分どおりに分割する場合など、提出が不要になるケースもあります。
しかし相続争いの防止効果もあるため、なるべく作成した方がよいでしょう。
数次相続では書き方も特殊になり、まず冒頭部分に一次相続の被相続人情報を記載しますが、二次相続の被相続人は次のように記載します。
【二次相続の相続人情報の記載例】
本籍地 東京都中央区銀座○丁目○番○号
生年月日 昭和○○年○○月○○日
相続開始日 令和○○年○○月○○日
最後の住所地 ○○県○○市○○町○丁目○番○号
氏名 山田 花子
「山田 花子」の相続人については、「相続人 兼 被相続人 山田 花子 相続人○○ ○○」という書き方になります。
なお、立場が「相続人の相続人」ではない場合は、「相続人○○ ○○」で構いません。
数次相続がある場合の遺産分割協議書のサンプル書式のダウンロード【ひな型】
ここまでの解説を整理すると、数次相続における遺産分割協議書は以下のような書き方になります。
クリックすると拡大画像になり、サンプル書式もダウンロードもできるので、必要な方はぜひご利用ください。
なお、今回は数次相続に関わる部分を解説していますが、財産についても詳細情報が必要となりますので、不動産の場合は必ず地番や地積、地目などを記載してください。
数次相続の場合の中間省略登記
不動産の所有者が亡くなった際は、土地・建物の所有権を相続人に移すため、法務局で相続登記(移転登記)の手続きを行います。
原則として相続が発生する都度行う手続きですが、数次相続の場合は「中間省略登記」が認められることもあります。
文字どおり中間となる登記を省略し、今回の相続人へダイレクトに所有権を移転させる手続きですが、次のようなケースであれば認められる可能性があります。
数次相続において中間省略登記が認められるケース1 一次相続(中間の相続)の相続人が1人の場合
相続人が長男1人の場合など、一次相続の相続人が1人しかいない場合は、中間省略登記を認めてもらえる可能性があります。
具体的には、すでに妻を亡くしている夫(父親)が死亡した際、相続人が長男1人(既婚・子どもなし)だけだったとします。
その後短期間で長男も亡くなれば数次相続となりますが、長男の妻が義父の不動産を相続する際、一次相続の相続人は長男1人だけだったということになります。
つまり、一次相続から二次相続まで財産の行き先が分岐することなく、もとから一直線だった場合に適用されると考えておけばよいでしょう。
したがって、一次相続の際に妻(母親)が存命の場合や、長男以外にも子どもがいる場合は、中間省略登記の対象になりません。
数次相続において中間省略登記が認められるケース2 中間の相続人は複数いるが、そのうち1名が単独で相続する場合
遺産分割協議や相続放棄、遺言などによって不動産が単独相続になった場合も、中間省略登記が認められるケースになります。
遺産分割協議は相続人全員の同意によって成立するため、被相続人の不動産(自宅の土地や家屋など)を、長男や長女が1人で相続する場合があります。
また、遺言書には法律文書としての強制力があり、不動産の承継者が指定されている場合は、原則として指定された者以外の相続が認められません。
相続放棄した人には代襲相続も発生しないため、中間の相続人が複数いたとしても、状況次第では「1名が単独で相続する」という状況になります。
「何だか複雑で分かりにくいな」と感じときは、家系図を書いてみると整理しやすくなるでしょう。
中間省略登記を利用するメリット
相続登記そのものが生涯に1~2回しか発生しないため、中間省略で登記できることはあまり知られていません。
しかし相続登記の際には次のメリットがあるため、数次相続と相続登記は関連付けて考えておくとよいでしょう。
1)相続人の負担が軽減される
相続登記の際には、被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続しているもの)や、相続人全員の現在戸籍、固定資産評価証明書など、様々な書類が必要です。
書類の準備だけでも相当な手間になりますが、中間省略登記できれば1回の手続きで済むため、相続人の負担はかなり軽くなるでしょう。
また、戸籍謄本は原本を提出しますが、原本還付の手続きをしない限り返還されません。
中間省略登記を利用しなかった場合、原本還付を忘れると戸籍収集も二度手間になってしまいます。
2)登録免許税の負担が1回分で済む
相続によって不動産を取得した場合は、登記申請の際に登録免許税を納めます。
税額は固定資産評価証明書に記載される課税価格(1,000円未満切り捨て)に、0.4%を乗じて計算するので、不動産価格が1億円の場合は以下のようになります。
- 登録免許税:1億円×0.4%=40万円
中間省略登記できれば1回分の納付で済むため、都度の相続登記より軽い税負担になります。
数次相続が発生した際には、中間省略登記できる条件かどうか、必ず確認しておきましょう。
まとめ
「数次相続」がある場合の遺産分割協議書の記載方法について説明をしてきました。
数次相続が発生すると、相続人調査も複雑になり、遺産分割協議書の作成方法や相続登記の対応もわかりにくくなるものです。
特に前妻または前夫の子どもがいる場合、法定相続人の範囲を間違いやすくなり、結果として無効な遺産分割協議書を作成する羽目になりかねません。
自己判断で間違った対応をしないよう、迷ったときには早めに専門家に相談して正しい方法で遺産分割を進めましょう。
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ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
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