この記事でわかること
- 家族信託を利用することで税務署への届出書類が必要な場合があることがわかる
- 家族信託を開始・終了する時以外にも税務署への届出が必要な場合があるとわかる
- 受託者ではなく受益者に確定申告義務が生じることを知ることができる
家族信託を利用すると、それまでの財産の所有者が委託者となり、受託者に財産の管理や処分などを任せることとなります。
このような契約を行ったり、信託契約の内容を見直したりする段階で税務署に対して何らかの手続きが必要となることはないのでしょうか。
また、家族信託を利用した場合、信託財産の実質的な所有者は誰で、どの人がその財産から生ずる収益についての確定申告をする必要があるのでしょうか。
ここでは、家族信託を利用した場合の税務署への届出書類や確定申告について解説します。
目次
家族信託で税務署への届出が必要になり得るタイミング
家族信託契約を締結する際は、財産の所有者が委託者となり、家族にその財産の管理を依頼します。
信託契約により財産の管理を任される人のことを受託者といいます。
また、信託契約では信託財産から生ずる収益を受けとる人(受益者)を決めます。
家族信託の契約を締結した時、そしてその信託契約が終了した時には、その前後で財産の実質的な所有者や利益を受ける人が変更となる可能性があります。
そのため、家族信託の開始時や終了時に税務署に対して届出をしなければならない場合があるのです。
さらに、家族信託に関する届出が必要となるのは、その開始時や終了時だけではありません。
家族信託は契約により成立しますから、その信託の内容を後から見直すことができます。
そのため、受益者が変更になったり信託財産の中身を変更したりした際に、税務署への届出が必要になるケースがあるため注意が必要です。
家族信託を利用している場合には、毎年1月31日までに税務署に提出しなければならない書類があります。
家族信託を利用している場合には、原則必要となるものであり、契約の締結や内容の変更といった動きがなくても毎年必ず提出することとなるので、受託者となる人は注意が必要です。
家族信託の開始時は書類提出不要
家族信託の契約を締結する場合、ほとんどのケースでは財産の所有者である親世代が委託者となり、子供が受託者となります。
また、信託契約のもう1人の当事者である受益者には、ほとんどの場合、従来の財産の所有者である親がそのまま就任します。
このように委託者=受益者となる信託契約のことを自益信託といいます。
たとえば、アパートを保有する父親が、長男にアパートの管理を委託する信託契約を締結したとします。
この場合、委託者は父、受託者は長男となります。
また、アパートの家賃を実際に受け取る人を信託契約で決めることとなりますが、これまでと変わらず父親が家賃収入を受け取るものとした場合、父親は委託者兼受益者ということになります。
この場合、信託契約を締結する前と後を比較してみると、アパートの管理を実際に行う人はそれまでの父親から長男に変化していますが、家賃収入を受け取る人は信託契約前も信託契約後も父親のままで変化はありません。
家族信託はほとんどのケースで自益信託となります。
この場合、実際にその信託財産から収益を得る人に変化がないため、税務署に対して家族信託を開始したことを報告する書類を提出する必要はありません。
家族信託の開始時に書類の提出が必要な場合もある
家族信託を利用した場合であっても、すべての場合で自益信託になるとは限りません。
たとえば、先ほどのケースで父親が委託者、長男が受託者となり、そのアパートの家賃収入を母親が受け取る場合は、委託者=受益者ではありません。
このように自益信託でない場合で、信託財産の相続税評価額が50万円以下の家族信託を開始した時は、受託者が「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」と「信託に関する受益者別(委託者別)調書」を作成し、その信託契約開始の日の属する月の翌月末日までに受託者の住所地を所轄する税務署に提出します。
参考:
「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」
「信託に関する受益者別(委託者別)調書」
信託終了時は財産の移転がなければ書類提出は不要
家族信託を利用していても、その契約を当事者間の合意のもと終了させる場合があります。
家族信託を終了させると、それまで信託財産として受託者の名義とされていた財産は、多くの場合、もう一度委託者の財産に戻されることとなります。
たとえば、アパートの所有者であった父親が委託者兼受益者、長男が受託者となる家族信託を締結していた場合で、その家族信託契約を解消し、もう一度アパートの名義を父親に戻すような場合です。
この場合、アパートの家賃収入を得るのは家族信託を利用している間も、家族信託を終了してからも父親であることには変わりはありません。
このように家族信託が終了した場合でも、その財産から収益を得る人が変わらない場合には、税務署に対して家族信託の終了に関する届出をする必要はありません。
多くのケースでは、家族信託を終了した時には、信託財産をもとの所有者(家族信託の委託者兼受益者)に戻すこととなるため、特別な手続きは必要ないのです。
家族信託の終了時に手続きが不要となるのは、以下の3つの要件のいずれかに該当する場合です。
- (1) 家族信託の受益者が信託財産ではなくなった財産の権利者となった場合
- (2) 受益者別に評価した信託財産の相続税評価額が50万円以下の場合
- (3) 残余財産がない場合
家族信託の終了時に書類の提出が必要な場合
家族信託が終了した時には、税務署への届出が必要ないケースが多いのですが、場合によっては届出が必要となります。
たとえば、先ほどのアパートに関する家族信託を終了した時に、それまでの受益者であった父親がアパートの所有者とならず、母親が所有者となった場合には、家族信託の受益者が財産の権利者となっていないため、受託者が「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」と「信託に関する受益者別(委託者別)調書」を作成し、その信託契約終了の日の属する月の翌月末日までに受託者の住所地を所轄する税務署に提出しなければなりません。
参考:
「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」
「信託に関する受益者別(委託者別)調書」
変更時は財産評価額50万円以下なら書類提出不要
家族信託の契約を締結した場合でも、その契約の内容を見直すことは可能です。
たとえば、アパートの所有者であった父親が委託者兼受益者、長男が受託者となる家族信託契約を締結していたものの、その契約が終了する前に受益者だけを母親に変更することができます。
またこの場合に、信託財産としていたアパートの建物や敷地に加えて、新たに貸駐車場用の土地を信託財産に加えることも可能です。
このような家族信託の内容の見直しは、財産を保有する人やその家族の不安を解消するとともに、誰もが安定した生活を送るために必要なものです。
ただ、このような見直しを行った場合には、税務署に対して届出が必要になる場合があるため注意が必要です。
家族信託を利用していて受託者の変更が行われた場合、あるいは信託に関する権利の内容に変更があった場合で、かつ受益者別に評価した信託財産の相続税評価額が50万円を超える場合には、受託者が「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」と「信託に関する受益者別(委託者別)調書」を作成し、その信託契約の変更の日の属する月の翌月末日までに受託者の住所地を所轄する税務署に提出しなければなりません。
参考:
「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」
「信託に関する受益者別(委託者別)調書」
逆にいえば、変更が行われた場合でも、受益者別に評価した信託財産の相続税評価額が50万円未満である場合には、これらの提出は不要ということになります。
信託財産の収益合計が1年間で3万以上なら書類提出が必要
家族信託の受託者は、信託財産の管理や処分を行ったうえでその結果を受益者に報告するとともに、その収益を受益者に分配する必要があります。
たとえば、アパートを所有していた父親が委託者兼受益者、長男が受託者となる家族信託契約を締結した場合、アパートの家賃収入や管理会社への管理料の支払は毎月発生しますし、固定資産税や都市計画税は年に1回(分納している場合は4回)の支払いとなります。
また、建物の修繕費用のように、必要となった時に支払いを行うものもあります。
これらの収支の内容は、その支払いが発生した都度、受託者が受益者に報告するのがいいのかもしれませんが、実際にはその都度報告をすることは無理でしょうし、あまりに報告の回数が多いと、かえって受益者の方で把握しきれない可能性があります。
そこで、受託者から受益者への報告は少なくとも1年に1回行うこととされています。
この報告の内容は、1年間に信託財産から発生した収支の状況となりますが、同様の報告を受託者が税務署に対して行わなければならない場合があります。
1年間の信託財産にかかる収益の合計額が3万円以上(計算期間が1年未満の場合には15,000円以上)の場合には、受託者が「信託の計算書合計表」と「信託の計算書」を作成し、毎年1月31日までに受託者の住所地を所轄する税務署に提出しなければなりません。
参考:
「信託の計算書合計表」
「信託の計算書」
1年間の収益金額が3万円以上であることが書類作成の要件となっているため、ほとんどの場合、これらの書類を作成し提出しなければならないこととなります。
信託財産で収益があるなら受益者も確定申告が必要
ここまで紹介してきた書類は、すべて家族信託の受託者が作成して提出すべきものです。
受託者は信託財産の管理を任されており、家族信託の開始や終了、そして信託の変更や毎年の収益状況についてすべてを把握しているため、その把握した内容を必要に応じて税務署に報告しなければならないとされているのです。
ただ、家族信託には他にも委託者と受益者が当事者として関わっています。
このうち、委託者は自分の財産の管理や処分を受託者に依頼するだけの人ですから、家族信託契約の締結によって課税関係が生じることはありません。
一方の受益者は、信託財産から生じる収益を実際に受け取る人であるため、毎年何らかの利益を受け取っていることとなります。
この場合、受益者はその信託契約から生じた利益について確定申告を行い、税金の負担をしなければならないとされています。
受益者は、家族信託から生じた収益がある場合には、その内容に基づいて確定申告を行う必要があります。
アパートを所有していた父親が委託者兼受益者、長男が受託者となる家族信託契約を締結した場合は、父親がそのアパートの収益を受け取ることとなるため、父親は不動産所得に関する計算を行わなければなりません。
具体的には、不動産所得の「青色申告決算書」あるいは「収支内訳書」を作成するとともに、信託財産から発生する総収入(家賃)と経費(管理費、固定資産税、修繕費、減価償却費等)を記載した不動産所得の明細書を添付する必要があります。
参考:
「青色申告決算書(不動産所得用)」
「収支内訳書(不動産所得用)」
なお、不動産所得の計算上、信託財産からはマイナスが発生し、信託財産以外の一般財産からはプラスが生じることがあります。
このような状況では、信託財産からも一般財産からも不動産所得が発生している場合であっても、信託財産から生じた赤字を一般財産から生じた黒字と相殺することはできません。
すべての財産について家族信託を利用していない場合であれば、物件ごとに算出された赤字と黒字を互いに相殺することができます。
そのため、家族信託を利用することによって所得税の負担が大きくなる可能性があるのです。
複数の不動産を所有する人は、どの物件を信託財産とするのかによって、その後長期間にわたり税負担が大きく変わる可能性があるため、事前によく検討しておきましょう。
信託財産による収益は受益者に納税義務が生じる
信託財産から発生した収益は、信託契約により取り決められた受益者のものとなります。
収益を受け取った人は、1年間の収益を自分で計算し、翌年の3月15日までに確定申告書を作成し税務署に提出しなければなりません。
また、計算の結果、税額が発生する場合には、原則3月15日までに所得税を納税しなければなりません。
無申告となった場合や、納付期限に遅れて納税した場合には、ペナルティが科されることもあるため、必ず期限を守るようにしましょう。
なお、信託財産の管理を実際に行っているのは受託者であり、受益者はその収益を受け取っているだけに過ぎません。
しかし、受託者から信託財産に関する計算書などの報告を受けた受益者は、その計算書類に基づいて自身の確定申告を行わなければならないのです。
信託財産に関する収益の計算や受益者への報告を行うのは受託者である一方、信託財産に関する収益の納税義務者は、受託者ではなく受益者であることを忘れてはいけません。
まとめ
家族信託の契約などの手続きを行う際には、家庭裁判所などが関与することはありません。
また、家族信託を開始した時に税務署への届出が必要になるケースも、かなり少ないと思われます。
しかし、家族信託の契約が継続する間は、受託者が毎年税務署に届出を行う必要があるほか、受益者は信託財産から生じた収益についての確定申告をしなければなりません。
特に受益者について生じる申告や納税に関する義務については、どのような家族信託契約とした場合であっても、受託者が代わりに行うことはできません。
その代わり、受託者は家族の一員として受益者をフォローすることはできるので、受益者が確定申告や納税について忘れることのないよう、家族全員で支えていくようにしましょう。
相続専門税理士の無料相談をご利用ください
ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
我々ベンチャーサポート相続税理士法人は、相続人の皆さまのお悩みについて平日夜21時まで、土日祝も休まず無料相談を受け付けております。
具体的なご相談は無料面談にて対応します。弊社にてお手伝いできることがある場合は、その場でお見積り書をお渡ししますので、持ち帰ってじっくりとご検討ください。
対応エリアは全国で、オフィスは東京、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸の主要駅前に構えております。ぜひお気軽にお問い合わせください。