この記事でわかること
- 借用書が必要な理由
- 借用書の書き方
- 借用書が無効になるケース
- 借用書を作成する際の注意点
お金の貸し借りをした場合は、後でトラブルになるのを防ぐために借用書を作る方が多いでしょう。
また、家族間でお金の貸し借りをしたつもりが税務署から「贈与」とみなされて、贈与税が課税される可能性があります。
贈与税を課税されないためにも、「金銭消費貸借契約」であることを証明できる書類を作成することが重要です。
今回は、借用書の書き方について、お金の貸し借り時に借用書が必要な理由や、借用書が無効になるケース、借用書を作成するときの注意点などについて解説します。
借用書とは
借用書とは、金銭や物の貸し借りがあったことを証明し、返済を約束するために借主が作成して貸主に提出する書類をいいます。
お金の貸し借りのことを、金銭消費貸借契約(民法第587条)と呼びます。
なお、以下では、金銭の貸し借りについての借用書を前提に説明します。
お金の貸し借り時に借用書が必要な理由
お金の貸し借りは、現金の受け渡しと返還の約束をすれば成立します。
つまり法律上は、借用書を作らなくても契約が有効に成立することになります。
しかしお金の貸し借り時に借用書を作成することをおすすめします。
では、お金の貸し借り時に借用書が必要な理由をご説明します。
契約内容を明確にするため
理由の1つ目は、貸した金額・返済日・利息・返済方法などの契約内容を明確にすることです。
通常、他者との間でお金を貸し借りする場合の金額は100円や1,000円単位の少額ではなく、数万円~数百万円になります。
また、返済日も数日後や1週間後ではなく、1カ月以上後になることが多く、1年後、2年後ということもあるでしょう。
お金の貸し借りがあったことを忘れないためにメモしておくこともできますが、メモを紛失することや、誤った内容を記録する可能性があります。
金額や返済日などの契約内容を双方が確認した上で借用書として文書化していれば、後で契約内容についての記憶が食い違うなどのトラブルを防ぐことができます。
お金の貸し借りの事実を証拠として残すため
理由の2つ目は、お金の貸し借りをした事実を証拠として残す必要があるということです。
たとえば、AさんがBさんに100万円を貸したとします。
返済日にAさんが「100万円を返してください」と督促したところ、Bさんが「あなたからお金を借りた事実はありません」あるいは「返済期限はまだ来ていません」などと返事をしたら、Aさんはどうすればよいでしょうか。
このような場合でも、借用書があればAさんはその内容を正確に伝えることができます。
借用書を作成していない場合は、それに準じる履歴(銀行振込みの明細など)を伝えるようにしましょう。
Bさんが応じない場合、Aさんは「内容証明郵便で請求書を送る」という方法をとることができます。
内容証明郵便は、日本郵便がその郵便物の差出人・宛名・差出日時・内容について証明してくれる郵便です。
しかし、内容証明を送って督促しても、Bさんに強制的に返済させることはできません。
返済を強制するためには、Bさんに対して裁判所に貸金返還請求訴訟を提起して、請求を認める判決を出してもらう必要があります。
訴訟で請求を認めてもらうためには、AさんがBさんに対して「金銭何円を、何月何日までにどのような方法で返済するという約束で貸した」という事実の証拠が必要です。
借用書を作成していれば、お金を貸した事実や金額、返済に関する取り決めが証拠として残ります。
これにより、訴訟を起こさなくても借用書を根拠にBさんに対してしっかりとした証拠を保全して督促できます。
「贈与」でなく「消費貸借」であることを証明するため
理由の3つ目は、契約が「贈与」ではなく「消費貸借」であることを証明するためです。
日常的な数千円~数万円単位までの貸し借りについては、税金の問題は通常起こりません。
ただし、「事業を始める」「一戸建てやマンションを購入する」など、多額のお金が必要になる場合、資金の一部・全部を借りると税法上の取り扱いが問題になってきます。
貸し借りの条件や金額、返済の態様によっては貸し借りではなく「贈与」とみなされる可能性があるためです。
税務署に「贈与」とみなされた場合、贈与の扱いを受けた部分について贈与税が課され、借りた人が納税義務を負います。
税務署に「贈与」の疑いを持たれやすいのは、以下のようなケースです。
無利息で返済している場合
一括返済・分割返済かにかかわらず、無利息で返済している場合、「法定利息分を贈与した」とみなされ、その利息分に対して贈与税が課される可能性があります。
ただし、贈与税には「暦年贈与の基礎控除」という制度があり、贈与額が1年あたり110万円までであれば非課税になります(相続税法第21条の5・租税特別措置法第70条の2)。
お金の貸し借りの場合、利息分が年間110万円を超えることは通常ありません。
したがって、事実上は利息分に贈与税を貸される心配はないといえます。
返済が滞った場合
返済が滞った場合、未返済の部分が贈与とみなされる可能性があります。
分割返済であれば、1年間の未払い分が110万円を超えない限り、基礎控除により非課税となります。
110万円を超える未返済金額を1年以内に一括返済する場合や、分割返済の1年間の未返済分が110万円を超える場合は、超過分に対して贈与税が課される可能性があると考えておきましょう。
借りた側の収入に対して借入金額が大きい場合
たとえば年収300万円で預貯金がゼロの人が1,000万円を借りるなど、借りた側の収入・資力に対して契約金額が大きい場合、返済が滞る可能性が高いとされて未返済分に贈与税が課される可能性があります。
これらのケースは、特に家族間のお金の貸し借りでよく起こります。
たとえ家族間であっても、お金を「貸した」事実を証明できるよう借用書作成をおすすめします。
【テンプレート付】借用書の書き方
ここでは、借用書の書き方について、テンプレートとともに説明します。
借用書の項目
借用書の項目について法律上の決まりはありませんが、トラブル防止のため、以下の項目については必ず記載するようにしましょう。
- 表題(金銭消費貸借書または借用書)
- 契約日(お金を貸し借りした日)
- 契約金額
- 利息や遅延損害金の金利
- 返済期日
- 返済方法(具体的に)
- 借りる側が「金銭を受領した」旨の記載
- 借主の住所、氏名、印鑑
- 貸主の住所、氏名、印鑑
- 連帯保証人や保証人についての取り決め
借用書のテンプレート
以下は、借用書(金銭消費貸借契約書)のテンプレートです。
借用書が無効になるケース
以下の場合、借用書を作成していても契約自体が無効になる(つまり借用書も無効になる)可能性があります。
当事者の一方が契約の取消の意思表示をした場合や、絶対的に無効である場合は、契約が最初から存在しなかったことになります。
制限行為能力者と契約した場合
以下の人と金銭消費貸借契約を行った場合、契約が取り消されることがあります。
- 未成年者(民法第5条2項)
- 成年被後見人(民法第9条)
- 被保佐人(民法第13条4項)
- 被補助人(民法第17条4項)
これらに該当する人は、判断能力が不十分なままで契約を行う恐れがあります。
そのため、契約を行う場合には監護者の同意を得なければなりません。
監護者の同意を得ずに締結した契約については、各条項により取り消すことができます。
たとえば、未成年者に対してお金を貸す場合、親権者の同意(民法第820条)が必要です。
親権者の同意なしに金銭消費貸借契約を締結した場合、親権者は契約を取消すことができます。
この場合、親権者が有効に契約取消の意思表示を行えば、借用書があっても、また貸した側が同意しなくても契約は無効になります(民法第121条)。
契約内容の重要な部分に錯誤があった場合
貸し借りする金額・返済日など、契約内容の重要な部分に認識違いがあった場合には、「錯誤」により契約を取り消すことができます(民法第95条)。
借用書を作成している場合は、借用書の記載を確認しないで契約することは民法第95条3項の「表意者の重大な過失」にあたると考えられるので、取消が認められない可能性が高いです。
しかし、借用書を作成する場合は「相手方が借用書の記載を確認したかどうか」を他方も認識するべきといえます。
したがって、借用書の記載について相手方が確認していないことに気づいていた、あるいは確認したかどうかを認識しなかった場合には同項の除外事由にあたり、錯誤による取り消しが認められると考えることができます。
契約が公序良俗に反する場合
公序良俗に違反する契約は、無効になります(民法第90条)。
たとえば、犯罪目的に使用するお金を貸し借りする契約、返済できなかった場合に貸した側が借りた側に違法行為を行うことを義務づける契約などは、公序良俗に反して無効です。
契約内容が公序良俗に反する場合は、双方が契約内容を承諾して借用書を作成していても無効になります。
借用書を作成するときの注意点
借用書を作成するときに注意すべきこととして、以下が挙げられます。
金額は漢数字で記載する
契約金額は、漢数字の大字(だいじ)で記載してください。
「大字」は、法的な文書を作成する際に使われる漢数字で、数字の1・2・3・10・10,000につき通常の漢数字とは異なる文字で表記します。
また、金額を表す場合は、金額の前に「金」、後に「也」をつけます。
たとえば、「120万円」は「金百弐拾萬円也」、「3,000万円」は「金参千萬円也」と書きます。
「大字」の使用は、金額の改ざんを防ぐ目的で行われています。
氏名は自筆する
改ざんなどのトラブルを防ぐため、署名欄の氏名は自筆で手書きしましょう。
契約金額が1万円以上の場合は収入印紙を貼る
印紙税法により、契約金額が1万円以上になる場合は、同法で定められた金額分の収入印紙を貼る必要があります。
同法の規定に従った金額分の印紙を貼らなかった場合、貼るべきであった印紙額の3倍の額を追徴されることや、場合によって罰金刑などの処罰が科される可能性があります。
ただし、印紙を貼らなかった、または貼付した印紙額が不足していた場合も、契約書の有効性には影響がありません。
借用書に印紙を貼った場合には、再利用できないように捺印や自筆署名などで「消印」をする必要があります。
金銭消費貸借契約は返済期日から5年で時効消滅する
貸した側(債権者)が返済の督促をしなかった場合、金銭消費貸借契約に基づく金銭債権は返済期日から5年で時効消滅します(民法第166条1項1号)。
金銭債権が時効消滅した場合、債権者は未返済分の金額の返還請求ができなくなります。
この5年間の時効期間の起算点、つまり「いつの時点から起算して5年間か」については、返済方法や借りた側(債務者)の返済状況によって異なります。
債務者がまだ返済していない場合
返済方法が一括返済または分割返済で、債務者がまだ返済していない場合は、返済期日(分割返済の場合は最初の返済期日)が起算点になります。
分割返済で債務者が1回以上返済していた場合
返済方法が分割返済で、債務者が1回以上返済していた場合は、最後に返済した期日の次の期日が起算点になります。
なお、それぞれの起算点から5年で時効消滅するのは、債権者が何も権利を行使しなかった場合です。
返済期限が過ぎた後で債権者が催告した場合は、6カ月間時効の進行が止まります(民法第150条1項)。
紛失やトラブル防止のために公正証書として作成する
借用書を作成した場合は、可能な限り、公証役場で公正証書として作成することをおすすめします。
公正証書として作成した場合、以下のようなメリットがあります。
強制執行が可能になる
公正証書として借用書を作成する場合、「もし返済できなかった場合には強制執行(債務者の財産差押など)を行う」旨の記載、つまり強制執行認諾文言をつけるのが一般的です。
強制執行認諾文言付き公正証書は、民事執行法第22条の「確定判決と同一の効力を持つ文書」に含まれます。
これにより、返済が行われなかった場合に、訴訟手続によらずに強制執行が可能になります。
訴訟で有効・確実な証拠となる
万が一訴訟になった場合でも、公正証書は有効で確実な証拠となります。
公正証書が作成されると、原本が公証役場に保管され、債権者に正本、債務者に謄本が渡されます。
これにより、第三者が契約書の名義や内容を改ざんする、あるいは契約書が紛失するなどのトラブルが起きる可能性がほぼなくなります。
まとめ
お金の貸し借りの契約自体は、借用書を作らなくても成立します。
また、借用書は個人で作成することもできます。
しかし、借用書がなければ「お金を貸した事実」を法的に証明できないため、お金を返してもらえない場合に強制的に返済させることができません。
また、金額や返済方法によっては、借用書がないと贈与とみなされて借りた側に贈与税が課される場合もあります。
また、個人で作成した借用書に不備があった場合、後日トラブルになる可能性があります。
借用書の作成について法律の専門家に依頼することで、起こりうるトラブルを想定して、それらを回避するための条項を記載するなど、個別の事例に適した借用書を作成できます。
借用書の作成をお考えの方は、弁護士、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
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