記事の要約
- 死後離婚とは、義父母などの姻族との親族関係を終わらせる手続きのこと
- 死後離婚をしても、配偶者の遺産の相続権は失われず、遺族年金も受給できる
- 遺産総額が基礎控除を超える場合は、死後離婚だけではなく相続税にも注意が必要
「配偶者が亡くなった後、疎遠だった義理の両親の介護や、一緒のお墓に入ることに強い抵抗感がある」 「義実家と法的に縁を切りたいけれど、生活のために遺産や遺族年金がなくなるのは困る」
配偶者との死別後、このような悩みを抱える方は少なくありません。
特に、ある程度の資産を築かれてきたご家庭においては、自身の老後資金や生活水準を守るためにも、経済的な権利は絶対に確保したいところです。
この記事では、死後離婚の手続きやメリット・デメリットに加え、相続税申告や二次相続の注意点まで解説します。
なお、VSG相続税理士法人では、相続に関するご相談を無料で受け付けております。
相続手続きや相続税に関することでご不安なことがございましたら、お気軽にご連絡ください。
目次
死後離婚は再び増加傾向。2024年度は4,777件に
政府が公表している「戸籍統計」によると、死後離婚の手続きである「姻族関係終了届」の提出総件数は、2024年度には4,777件に達しました。
死後離婚の件数は2022年度から再び増加傾向にあり、10年前(2014年度)の2,202件と比較して約2.16倍と、高い水準で推移しています。
提出者の多くは、夫に先立たれた妻であるとみられています。
死後離婚増加の背景には、核家族化や女性の経済的自立に加え、「相続時のトラブル回避」、「お墓(祭祀)の負担減」を目的とした、複合的な要因があると見られています。
死後離婚とは「姻族との親族関係」を終わらせる手続き
一般的には「死後離婚」と呼ばれていますが、厳密に言えば、亡くなった相手と離婚する手続きではありません。
民法上、婚姻関係は「配偶者が亡くなった時点」で自然に終了しているためです。
死後離婚は俗称であり、正確には「姻族関係終了届」という書類を役所に提出する手続きのことを指します。
つまり、死後離婚とは配偶者との別れではなく、姻族(義父母・義理の兄弟姉妹など、配偶者の血族)との親族関係を終わらせることです。
なお、「姻族関係終了届」の提出自体には期限がありません。
配偶者の死後であれば、いつでも自身のタイミングで手続きが可能です。

義理の親族の扶養義務はなくても、死後離婚をするメリットは?
原則として、残された配偶者(例:夫を亡くした妻)が義理の親族に対し、介護や金銭援助をする扶養義務はありません。
民法上、扶養義務があるのは直系血族や兄弟姉妹に限られているためです(民法877条1項)。
このため、姻族関係にある者が扶養義務を負うのは、家庭裁判所が「特別の事情」を認めた極めてまれな場合に限られます(長期間の同居など)。
また、民法第730条には「同居の親族は互いに扶けあわなければならない」という互助義務もありますが、本条は一般的には「道徳的な倫理規定」であり、強制的に義務を課せられるものではないと考えられています。
しかし、姻族との関係は、法的な扶養義務の有無以上に、精神的な負担や慣習的な人間関係の負担を伴うことがあります。
死後離婚(姻族関係終了届の提出)のメリットは、扶養義務や互助義務が消えることのほか、人間関係に基づく煩わしさからも解放される点にあります。
姻族関係終了届の提出で変わること・変わらないこと
姻族関係終了届を出すことで、法的に何が変わり、何が変わらないのかを整理しましょう。
| 項目 | 死後離婚(届出提出)後の扱い |
|---|---|
| 義親族の扶養義務や互助義務 | なくなる(介護や金銭的援助の義務が消滅) |
| 配偶者の遺産の相続権 | ある(配偶者には相続権が残る) |
| 遺族年金の受給権 | ある(権利は消滅しない) |
| 氏(名字) | 変わらない(旧姓に戻すには別途手続きが必要) |
| 戸籍 | 変わらない(新しい戸籍を作る、または親の戸籍に戻るには別途手続きが必要) |
死後離婚しても「遺産」や「年金」はもらえる
義理の実家と縁を切ったとしても、「配偶者の遺した財産を相続する権利」は失われません。
「通常の離婚」とは異なり、遺産を相続できる
死後離婚は、「通常の離婚」とは法的性質が全く異なります。
通常の離婚は、配偶者との関係を解消する手続きですが、死後離婚は、亡くなった配偶者の血族である「姻族」との関係のみを終了させる手続きです。
配偶者の死亡により、婚姻関係自体は終了していますが、「配偶者であった」という事実は消えません。
民法上、配偶者は常に相続人となり、姻族関係終了届を提出したとしても配偶者としての地位に基づく「相続権」はそのまま残ります。
したがって、残された配偶者には、自宅などの不動産、預貯金、有価証券といった法定相続分の財産を受け取る権利があります。
まれに、義理の親や兄弟から「縁を切るなら遺産も放棄しろ」と迫られるケースもありますが、法律上は従う必要がありません。
配偶者の相続権
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
引用元 e-GOV法令検索┃民法
遺族年金も受給資格を失わない
姻族関係終了届を提出しても、遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)の受給権に影響はありません。
遺族年金の受給要件は、あくまで「配偶者が亡くなった時点」での関係性や年齢、子供の有無などで決定されます。
したがって、死後に親族関係を終了させても受給権が消滅したり、年金額がカットされることはありません。
ただし、再婚した場合は死後離婚の届出にかかわらず、遺族年金の受給権を失います。
年金の請求先と手続き期限は以下のとおりです。
| 遺族基礎年金 | 故人の住所地を管轄する市区町村役場 ※国民年金の第3号被保険者期間中に亡くなったときは、年金事務所または年金相談センター |
|---|---|
| 遺族厚生年金 | 年金事務所または年金相談センター |
【注意】年金制度上の受給期間・要件
死後離婚によって権利は消えませんが、もともとの年金制度のルール(年齢・性別・子供の有無)による制限は適用されます。
例えば、「30歳未満かつ子のいない妻」の場合、 遺族厚生年金は5年間の有期給付となります。
また、 2025年6月に成立した「年金制度改正法」により、遺族厚生年金の見直しが行われます。
施行後において「2028年度末時点で40歳未満であり、子どものいない女性」などは、有期給付変更の影響を受ける可能性があるため、確認が必要です。
「相続放棄」と「姻族関係終了届」の混同に注意
最も避けなければならない間違いが、「義実家と関わりたくないから」という理由だけで、誤って家庭裁判所に「相続放棄」をしてしまうことです。
相続放棄をすると、借金などの「マイナスの財産」を相続しなくて済む反面、大切な自宅や老後資金といった「プラスの財産」もすべて手放すことになってしまいます。
さらに注意すべき点は、相続放棄をしても、義理の親族との法的な縁は切れず、介護などの扶養義務を負う可能性はなくならないということです。
一方で、「死後離婚」は義実家との縁は切りつつ、相続財産を受け取れる手続きです。
相続財産を守るためにも、2つの手続きを混同しないよう、十分にご注意ください。
ただし、亡くなった配偶者に高額な借金があり、返済義務を引き継ぎたくないときは、相続放棄を検討するのもよいでしょう。
相続放棄の期限は「自己のために相続開始があったことを知った日から3カ月以内(通常は配偶者の死去3カ月以内)」で、期限後の申述は原則として認められません。
3カ月以内に相続財産や借金を調査できないときは、相続に強い専門家に依頼することをおすすめします。
死後離婚で「お墓」と「遺骨」はどうなる?義実家と同じ墓に入りたくない場合
死後離婚を考える方の多くは、「配偶者、または義理の親族と同じ墓には入りたくない」という悩みを抱えています。
しかし、親族関係の解消と墓地の管理は、また別の話です。
死後離婚の手続きをしても、「遺骨を守る権利」と「墓地を管理する義務」の双方が残ります。
(1)配偶者の遺骨を守る「権利」がある
死後離婚をしたからといって、義理の家族に配偶者の遺骨を取り上げられることはありません。
過去の裁判でも、遺骨の所有権については、原則として亡くなった人の配偶者に帰属すると判断されています(東京高裁 昭和62年10月8日判決)。
(2) 墓地を管理する「義務」が残ることがある
姻族関係終了届を提出すれば、基本的には義実家の墓地を管理する義務はなくなります。
しかし、亡くなった配偶者の遺言書に、あなたを「祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)」に指定する旨が記載されていた場合は、注意が必要です。
祭祀承継者とは、墓地や仏壇、位牌などの「祭祀財産」を受け継ぎ、管理する人のことです。
遺言による指定は法的な効力を持つため、遺言で祭祀承継者に指定されていた場合は、義実家の墓地の管理義務を負う可能性があります。
もし、祭祀を主宰したくない(管理を引き受けたくない)場合は、以下の手続きや対応が必要です。
- 家庭裁判所への申し立て
- 姻族関係が終了したことなどを理由に、祭祀承継者の辞任や、新たな祭祀承継者の選任を申し立てます。
- 義理の親族間での協議
- 義理の両親など、他の関係者と話し合い、別の承継者を決めます。
義理の親族の墓とは別に供養したいときは「改葬」と「分骨」をする
判例で「配偶者の遺骨を供養する権利」があるとされていても、勝手に遺骨を持ち出すことはできません。
例えば、「義理の両親と一緒のお墓は嫌だけれど、愛する配偶者とは一緒にいたい」という願いを叶えるためには、亡き配偶者と共に入るための新しい墓を用意し、遺骨を移す手続きが必要です。
- 1. 遺骨を移動させる「改葬(かいそう)」
- 現在の墓(義実家の墓など)から配偶者の遺骨を取り出し、新しく用意した墓や納骨堂に移します。
改葬をするには、現在の墓地がある市区町村役場で「改葬許可証」を取得する必要があります。 - 2. 遺骨の一部を手元に残す「分骨(ぶんこつ)」
- 「義実家の墓に納骨すること自体は拒まないが、自分も夫の遺骨を持っていたい」という場合に有効です。
火葬の段階、あるいは納骨後に遺骨の一部を分けてもらい、手元供養や別のお墓で供養します。
分骨をするには、火葬場や現在の墓地管理者から「分骨証明書」を発行してもらう必要があります。
改葬には、義理の親族や現在の墓地管理者(寺など)との調整が必要になります。
トラブルを避けるためにも、事前の説明や手続きは丁寧に行いましょう。
死後離婚で「名字」や「再婚」の手続きはどうなる?
死後離婚の手続きに伴い、「名字」はどうなるのでしょうか。
また、再婚時の扱いについても解説します。
名字は自動的には戻らない(復氏届が必要)
姻族関係終了届を提出しても、自動的に名字(氏)が旧姓に戻るわけではありません。
旧姓に戻したい場合は、別途「復氏届(ふくしとどけ)」という書類を市区町村役場に提出する必要があります。
ただし、復氏届を提出すると親子が別々の名字になります。
子どもの名字を自分と同じ旧姓に変えたいときは、家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出して許可を得てから、市区町村役場に「入籍届」を提出します。
子どもが15歳未満の場合は、親権者が法定代理人となって申立てを行い、15歳以上の場合は子ども自身が申立人となります。
再婚しても姻族関係は消滅しない
前配偶者と死別後に再婚しても、前の配偶者の親族との姻族関係は継続します。
通常の離婚とは異なり、婚姻関係が解消されるのは配偶者との間だけだからです。
新しい生活のために、きっぱりと前の義実家との縁(扶養義務など)を消滅させたい場合は、再婚の有無に関わらず「姻族関係終了届」の提出が必要です。
死後離婚の3つのデメリットと注意点
死後離婚の手続きをする上で、知っておくべき注意点は以下のとおりです。
(1)一度提出すると取り消しができない
姻族関係終了届は、一度受理されると撤回・取り消しができません。
死後離婚をしても子どもと義父母の親族関係が消えるわけではないため、互いが良好な関係を築いてきた場合は、後々つらい思いをする可能性もあります。
もし親族関係を復活させたい場合は、養子縁組をすることになります。
(2)義実家との関係が悪化するおそれがある
死後離婚は、配偶者との婚姻関係を解消するものではありませんが、「離婚」という文字が付いていることから、一般的な離婚と同じように捉えられることがあります。
義父母や義理の兄弟との関係が悪化することはもちろん、「離婚して縁を切ったのだから法要には来てほしくない」と言われ、亡き配偶者の法要やお墓参りにも影響が出るかもしれません。
また「義理の親族に知られずに縁を切りたい」と考える方も多いですが、完全に秘密に行うことはできません。
死後離婚の手続きの履歴は、戸籍謄本に「姻族関係終了届出」として記載されるため、義理の親族が相続手続きなどで戸籍を取り寄せた際に、必ず知られることになります。
発覚した際にトラブルになる可能性を考慮し、提出は慎重に検討する必要があります。
(3)頼れる親族が減る(孤独のリスク)
将来、自身の病気や介護が必要になった際、義理の家族を頼ることはできなくなります。
特に自身側の親族が少ない場合、老後のサポート体制(身元保証人など)を別途整えておく必要があります。
死後離婚(姻族関係終了届)の具体的な手続き
死後離婚の手続きは、市区町村役場の窓口に「姻族関係終了届」を提出・受理されれば完了します。
死後離婚の手続きに「義理の家族の同意」は不要
死後離婚は、単独意思で行うことができ、義理の両親や兄弟の同意は必要ありません。
自分のタイミングで手続きを進めることができます。
死後離婚の手続きの流れと必要書類
死後離婚の手続きは、「姻族関係終了届」に氏名や本籍、亡くなった配偶者の氏名などを記入し、窓口に提出すれば完了します。
また、手続きに必要な持ち物は以下のとおりです。
- 姻族関係終了届
- 本人確認書類
- 印鑑
役所の戸籍課窓口での受け取り、または市区町村のホームページからダウンロード可
運転免許証やマイナンバーカード
認印可、念のため持参するとよい
姻族関係終了届
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引用元 大阪市
姻族関係終了届の提出先と費用
手続きの提出先は、届出人(あなた)の本籍地、または所在地の市区町村役場です。
手数料自体は無料ですが、郵送で手続きをする場合の切手代などがかかります。
富裕層は「死後離婚」のほか「相続税」にも注意
資産をお持ちの方は、死後離婚のほかに「相続税の申告」にも注意が必要です。
死後離婚の手続きは「無期限」だが、相続税の申告は「10カ月以内」
姻族関係終了届には提出期限がありません。
しかし、相続税の申告・納税には「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」という期限が厳格に設けられています。
納期限を過ぎても相続税を納付しない場合、ペナルティとして、延滞税や無申告加算税といった追加の税負担が課せられるため注意が必要です。
「配偶者の税額軽減」は二次相続にも気をつけること
残された配偶者には、相続で取得した財産のうち「1億6,000万円」、または「法定相続分相当額」までのどちらか多い金額については相続税がかからないという特例があります(配偶者の税額軽減の特例)。
しかし、今回の一次相続で、配偶者の税額軽減の特例を最大限に利用することが、必ずしも「最善の相続対策」とは限りません。
配偶者が多くの財産を相続した結果、将来、子どもが相続する二次相続の際に、税負担が大幅に増えてしまうリスクが伴うからです。
- 一次相続(今回)
- 特例の適用により税金がゼロになるケースが多い。
- 二次相続(将来)
- 相続人自身(以下の図では母)の財産も加算され、相続人の数が減ることも相まり、相続税が高くなるケースがある。
被相続人(亡くなった人)の配偶者と子どもが相続する場合。財産の大半を配偶者が相続すれば、子どもにかかる相続税の負担は小さくなる。

遺された配偶者が亡くなり、その財産が子どもに移る場合。子どもだけに相続されるため、相続税の負担が大きくなる。
資産規模が大きいほど、目先の相続税をゼロにするだけでなく、「トータルで家族の資産をどう残すか」というシミュレーションに基づいた戦略的な資産分割が不可欠です。
「家族全体で負担を最小限に抑える」ための戦略的な資産分割については、相続分野に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
まとめ:死後離婚は、自分の人生と資産を守るための「選択肢のひとつ」
死後離婚(姻族関係終了届)をしても、残された配偶者は、遺産も遺族年金も受け取ることができます。
一方、取り消しはできないため、慎重に検討しましょう。
また、遺産総額が基礎控除を超える場合は、相続税の申告も行う必要があります。
また、二次相続を見据えた遺産分割を行わないと、将来、子どもに多額の相続税がかかることもあります。
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「義理の家族とは縁を切りたいが、相続税や手続きがよく分からない」 「自分の老後資金を守りつつ、子供に負担をかけない相続をしたい」
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