この記事でわかること
- 2024年1月以降のマンションの相続税をどう計算すればいいか
- マンションの相続で受けられる控除や特例制度
- マンションの相続手続きの流れ
内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によれば、65歳以上の11.8%が分譲マンションに居住しています。高齢の親が元気なうちに、マンションの相続について話しておきたいと考える人もいるのではないでしょうか。
親がマンションを所有している場合、知っておきたいのがマンションの評価方法です。マンションにかかる相続税は、2024年から新たな評価方法が導入され、相続税負担が重くなる可能性があります。
この記事では、マンションの評価方法や、2024年に導入された新ルールの内容と計算例、マンションの相続で受けられる控除や特例、相続手続きの流れなどを解説します。
目次
マンション相続の基礎知識:評価額計算と2024年新ルール
動画の要約マンションの相続税評価額の計算方法や控除、特例制度、相続手続きの流れを紹介しています。2024年からの新ルールとその計算方法も詳しく説明されており、相続専門の税理士への相談が推奨されます。
マンションの相続税評価額の計算方法
マンションの相続税評価額は、土地と建物、それぞれの評価額を求めて合算することが必要です。相続税は時価によって財産を評価しますが、マンションや土地、非上場株式などは、国税庁が公表している一定のルールに従って計算した評価額を時価として扱います。
マンションの相続税評価額の計算方法
マンションの相続税評価額=建物の評価額+土地の評価額
マンションの建物と土地の評価額はそれぞれどのように算出すればいいのでしょうか。従来の評価方法に加え、「居住用の区分所有財産」に該当する場合は追加で新ルールが適用されます。居住用の区分所有財産とは、1棟の区分所有建物に存する居住の用に供する専有部分1室にかかる区分所有権および敷地利用権のことで、以下の建物は該当しません。
- 構造上、主として居住の用途に供することができるもの以外のもの(事業用のテナント物件など)
- 区分建物の登記がされていないもの(一棟所有の賃貸マンションなど)
- 地階(登記簿上「地下」と記載されているもの)を除く総階数が2以下のもの(総階数2以下の低層の集合住宅など)
- 1棟の区分所有建物に存する居住の用に供する専有部分1室の数が3以下であって、その全てを区分所有者またはその親族の居住の用に供するもの(いわゆる二世帯住宅など)
- たな卸商品等に該当するもの
※借地権付分譲マンションの敷地の用に供されている「貸宅地(底地)」の評価をする場合などにも、新ルールの適用はありません
従来の建物の相続税評価額の計算方法
マンションの建物部分の相続税評価額は、固定資産税評価額と同じです。固定資産税評価額とは、固定資産税や都市計画税を計算するときの基準となる金額のことです。
固定資産税は、不動産の所有者が納付する税金です。地方自治体に納める地方税であるため、地方自治体が税額を算定して毎年6月に納税通知書を発行します。建物の固定資産税評価額は、納税通知書に添付されている課税明細書のうち、「家屋」の「価格(評価額)」欄で確認できます。
■課税明細書のイメージ
たとえば、マンションを所有している場合に、課税明細書の価格欄に5,000万円と記載されていたら、マンションの建物部分の相続税評価額は5,000万円です。
従来の土地の相続税評価額の計算方法
土地の相続税評価額は、路線価方式または倍率方式のいずれかの方法で計算します。
路線価方式
マンションの敷地に路線価が定められている場合は、以下の計算式で相続税評価額を計算します。
路線価方式による計算式
マンション全体の敷地面積(㎡)×路線価×持分割合(または敷地権割合)=マンションの土地の相続税評価額
路線価とは、道路に面する標準的な土地の、1㎡あたりの評価額です。路線価は、国税庁のWebサイト「財産評価基準書」で確認できるため、相続する土地の路線価図を確認しましょう。
相続が発生した年の路線価図を開くと、道路に数字や記号が割り振られています。「310B」「400C」といった形で、数字とアルファベットで示されているのが路線価です。数字は、1㎡あたりの評価額を1,000円単位で表しており、例えば「400C」と書かれた道路に面した土地なら、1㎡あたり40万円という評価額がベースになります。
また、路線価の後につくアルファベットは、その道路に面する土地に借地権が設定されていた場合に土地の評価額の何割を借地権自体の価値として評価するかを示しており、AからGまでで以下のように割合が定められています。
記号 | A | B | C | D | E | F | G |
---|---|---|---|---|---|---|---|
借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
例えば、Aと記載されている道路に面している土地の場合、借地権割合は90%です。もし、土地の所有権ではなく借地権を相続した場合は、土地の評価額に借地権割合を掛けて借地権自体の相続税評価額を算出します。借地権が設定された土地を相続する場合は、土地の相続税評価額から借地権の相続税評価額を引いて、借地権部分を除いた土地の価額を計算します。
路線価が定められている地域のマンションの相続税評価額を、以下の事例で、算出してみましょう。
事例の概要
- 建物の固定資産税評価額:5,000万円
- 路線価:1㎡あたり20万円
- マンション全体の敷地面積:1,000㎡
- 土地の持分割合:2,000,000分の7,500
- 借地権:なし
この例で、マンションの建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同じ金額になるため5,000万円です。土地の相続税評価額は、以下のように算出できます。
土地の相続税評価額
マンション全体の敷地面積(1,000㎡)×路線価(20万円)×土地の持分割合(7,500/2,000,000)=75万円
マンション全体の相続税評価額は、建物と土地の相続税評価額の合計となるため、この事例では以下のような計算結果となります。
マンションの相続税評価額
建物の相続税評価額(5,000万円)+土地の相続税評価額(75万円)=5,075万円
倍率方式
路線価が設定されてない土地の相続税評価額を算出するための計算方法が、倍率方式です。道路に面していない地域や、郊外の農村地域などには、路線価が存在しません。そのような地域に建つマンションの土地の相続税評価額を算出する場合、以下のように計算します。
倍率方式による計算式
マンション全体の敷地の固定資産税評価額×評価倍率×持分割合(または敷地権割合)=マンションの土地の相続税評価額
この計算式に出てくる評価倍率とは、路線価が定められていない土地の価額を出すために決められた一定の倍率のことで、路線価と同様、国税庁のWebサイト「財産評価基準書」で確認できます。
2024年1月からマンションの相続税評価に追加された新ルール
居住用の区分所有財産に対して、新ルールが追加されました。この新ルールは、2024年1月以降に発生した相続・贈与などに適用されます。
新ルールの導入には、マンションの相続税評価額が実際の取引における時価よりも大幅に低くなるケースについて、税務当局に問題視された背景があります。
マンションの建物の固定資産税評価額は、マンションの構造や素材などから算出され、立地や収益性、眺望、築年数、総階数、デベロッパーのブランド力などは一切考慮されていません。そして、マンションの土地は住人全体で共有しているため、戸建てに比べて1世帯分の土地面積は小さくなり、立地条件が良好な場所であることが反映されにくくなるため、土地部分の相続税評価額も低くなります。
そのため、マンションでは相続税評価額と時価に差が生まれやすかったのです。その差は、特に市場価格が高額な都心の一等地にあるタワーマンションの高層階などでは、相続税評価額が時価の3~4割ほどになることもありました。
市場価格が1億円で相続税評価額が3,000万円だとすると、現金で1億円を持っているよりもその現金でマンションを買ったほうが7,000万円も財産額を圧縮することができ、相続税の負担も小さくなります。富裕層を中心に、いわゆる「タワマン節税」が流行し、相続税の節税対策としてタワーマンションを購入するケースが散見される状況でした。この差を是正するために、マンションの相続税評価に新ルールが設けられました。
ただし、この新ルールによって、タワーマンションなどの相続税評価額が市場価格と同額程度になるわけではありません。市場価格の3~4割以下で評価されていたマンションの相続税評価額が、6割程度に増額されるイメージです。この6割は、戸建ての相続税評価額が市場価格の約6割であることに平仄(ひょうそく)を合わせた数値といわれています。そのため、マンションの購入による相続税の節税効果がまったくなくなったわけではありません。
マンションの相続税評価額に関する新ルールの計算方法
新ルールでは、評価乖離率、評価水準、区分補正率という数値によって、マンションの相続税評価額を計算します。評価乖離率とは、従来の方法で計算した相続税評価額と理論上の時価とのあいだにどれだけ差があるかを示す数値です。評価乖離率をもとに評価水準を計算し、評価水準に応じた区分所有補正率を従来の相続税評価額に掛けて、相続税評価額を算出します。
評価乖離率、評価水準、区分所有率と、それらをもとにした新ルールによるマンションの相続税評価額の計算方法は、それぞれ以下のとおりです。
評価乖離率の計算方法
- (1)=マンションの築年数×△0.033(築年数1年未満は1年として計算)
- (2)=マンションの総階数÷33×0.239(総階数÷33が1を超える場合は1で計算、小数点以下第4位切り捨て)
- (3)=評価対象となる部屋の所在階×0.018(地階は0として計算)
- (4)=敷地持分狭小度×△1.195(敷地持分狭小度は敷地利用権の面積÷専有面積で計算、小数点以下第4位切り上げ)
- 評価乖離率=(1)+(2)+(3)+(4)+3.22
評価水準の計算方法
1÷評価乖離率=評価水準
区分所有補正率の計算方法
- 評価水準が0.6未満の場合:区分所有補正率=評価乖離率×0.6
- 評価水準が0.6以上1以下の場合:区分所有補正率なし
- 評価水準が1を超える場合:区分所有補正率=評価乖離率
新ルールによるマンションの相続税評価額の計算方法
従来の方法で計算した相続税評価額×区分所有補正率=マンションの相続税評価額
評価乖離率は、その数値が大きいほど理論上の時価よりも相続税評価額が低額になることを表しています。そして評価水準は、相続税評価額が時価の何割程度になっているかを示しています。新ルールでは従来の方法で計算したマンション1室の相続税評価額に区分所有補正率を掛けるため、例えば評価水準が0.6未満の場合、相続税評価額の計算方法は以下のとおりです。
評価水準が0.6未満の場合の計算方法
従来の方法で計算したマンション1室の相続税評価額×評価乖離率×0.6=マンション1室の相続税評価額
この計算では、従来の方法で計算したマンション1室の相続税評価額×評価乖離率が理論上の市場価格となり、その6割が相続税評価額になるということです。
この新ルールを踏まえて、以下のような事例でマンションの相続税を計算してみます。
事例の概要
- 従来の方法で計算した相続税評価額:1億円
- 築年数:10年
- 総階数:33階
- 所在階:10階
- 敷地面積:3,000㎡
- マンション1室の持分割合:1/100
- マンション1室の専有面積:50㎡
評価乖離率
- (1)=マンションの築年数×△0.033=10年×△0.033=△0.33
- (2)=マンションの総階数÷33×0.239=33÷33×0.239=0.239
- (3)=評価対象となる部屋の所在階×0.018=10階×0.018=0.18
- (4)=敷地持分狭小度×△1.195=敷地利用権の面積÷専有面積×△1.195=3,000㎡×1/100÷50㎡×△1.195=△0.717
- 評価乖離率=(1)+(2)+(3)+(4)+3.22=△0.33+0.239+0.18+△0.717+3.22=2.592
評価水準
評価水準=1÷2.592=0.3858…
区分所有補正率
- 評価水準が0.6未満であるため、区分所有補正率は評価乖離率×0.6
- 区分所有補正率=2.592×0.6=1.5552
マンション1室の相続税評価額
マンション1室の相続税評価額=従来の方法で計算した相続税評価額1億円×区分所有補正率1.5552=1億5,552万円
マンションの相続で受けられる控除や特例制度
マンションを相続しても、必ず相続税がかかるわけではありません。相続税は、相続財産から負債などを差し引いた後の金額が基礎控除額を上回る場合に発生する税金です。つまり、マンションだけでなく、相続する全ての財産の価値が相続税の基礎控除額の計算で算出される金額以下であれば、相続税はかかりません。
相続税の基礎控除額の計算方法
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
また、基礎控除額を超えた場合でも、以下のような控除や特例の適用を受けることで、税金の負担を抑えられます。
配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)とは、
配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)とは、被相続人の配偶者が相続した財産に対する相続税を軽減する制度です。被相続人の財産形成に少なからず配偶者が貢献していること、配偶者は被相続人と年齢が近く、遠くない将来に相続を迎えると予想されることを考慮した制度となっています。
配偶者の税額軽減の適用を受けることで、配偶者の相続財産のうち、課税対象となる財産の合計額が1億6,000万円または配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税はかかりません。
法定相続分とは、法律で定められている遺産分割割合の目安のことです。例えば、配偶者と子どもが相続する場合、配偶者は2分の1、子どもは残りの2分の1を原則として均等に分けるといった形で定められています。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、相続する土地が小規模な宅地などである場合、一定の要件を満たせば相続税評価額を最大で80%削減できる制度です。
被相続人の自宅が建つ土地や、事業に使用していた宅地に多額の相続税がかかると、相続税の負担によって宅地を売却しなければならなくなったり、自宅や事業の承継を諦めなければならなくなったりして相続人の生活が立ち行かなくなるケースもあるでしょう。そこで、相続税の負担を軽減し、相続人が被相続人の自宅などを引き継げるようにしています。
小規模宅地等の特例は、宅地の用途によって大きく以下の4つに分類され、評価減を適用できる面積の上限や減額割合が異なります。
対象となる宅地等 | 土地の適用要件 | 限度面積 | 減額の割合 |
---|---|---|---|
特定居住用宅地等 | A.被相続人が住んでいた自宅の敷地 B.被相続人と生計を一にする親族の自宅の宅地 ※いずれかに該当 |
330㎡まで | 80% |
特定事業用宅地等 | A.被相続人の事業に用いていた宅地 B.被相続人と生計を一にする親族の事業に用いていた宅地 ※いずれかに該当。ただし、相続開始3年以内に事業用に使用しはじめた土地は含まれない。 |
400㎡まで | 80% |
特定同族会社事業用宅地等 | 被相続人および親族などが50%超の株式または出資を持つ会社の事業に用いていた宅地 | ||
貸付事業用宅地等 | 被相続人または生計を一にする親族の不動産貸し付け業、駐車場業、駐輪場業に用いていた宅地(相続開始前3年以内に新たに貸付事業用に使用し始めた土地は含まれない) | 200㎡まで | 50% |
マンションの相続手続きの流れ
マンションを相続する場合、所定の手続きを踏んで登記の変更や相続税の申告・納税などを済ませる必要があります。相続が発生したら、以下の流れに沿ってできるだけすみやかに手続きを進めましょう。
- 遺言書の確認
- 相続財産および相続人の確認
- 遺産分割協議(遺言書がない場合)
- マンションの相続登記手続き
- 相続税の申告・納税
最初に、遺産の内容や分割方法などを記載した遺言書の有無を確認します。遺言書には、自筆証書遺言や、公証人に遺言の内容を伝えて遺言書を作成してもらう公正証書遺言、遺言の内容を秘密にしたまま公証役場で手続きを行う秘密証書遺言といった種類があります。公証役場や法務局、貸金庫などに遺言書が保管されていないかを確認してください。
遺言書の確認と併せて、被相続人が保有していた財産や、相続人になる人の範囲を確認します。その後、遺言書があればそのとおりに遺産を分割し、遺言書がなければ、遺産分割協議を行って財産をどのように分けるか決定します。
財産の分け方が確定したら、マンションの相続登記を行い、名義を被相続人から相続人に変えましょう。また、相続税の申告・納税も、原則として遺産の分割方法が確定してから行います。相続税の申告・納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内であるため、迅速な対応が必要です。
マンションの相続税を期限どおりに申告するには、専門家への相談がおすすめ
マンションを含む、土地や建物の相続税評価額は計算が複雑です。特にマンションの相続税評価額の計算は、新ルールの理解から始めなくてはなりません。
相続開始から10カ月の期限内に相続税を申告・納税するのが難しいと感じたら、できるだけ早く税理士に相談しましょう。相続を専門とする税理士事務所の多くは、司法書士と提携しているため、相続登記の代行も依頼することができます。
ベンチャーサポート相続税理士法人では、相続税の申告を親身にお手伝いしています。相続税の節税対策や申告・納税でお困りの場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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