この記事でわかること
- 遺贈とは何か、遺贈と相続の違い
- 遺贈の種類(包括遺贈・特定遺贈)や概要
- 遺贈で注意すべきポイント
この記事では、遺贈とは何か、遺贈の種類や相続との違い、遺贈に関する注意ポイントを解説します。
目次
遺贈とは?
日本財団が2023年に公表した調査内容によると、調査対象となる60~79歳の男女2,000人のうち、遺贈という言葉を聞いたことがある人が全体の約半数、遺贈に関心を持っている人が全体の4人に1人となっています。遺贈という言葉を聞いたことがあるものの、意味を知らないという人も多いです。
遺贈とはどのような制度なのか、内容や遺贈にかかる税金について解説します。
遺贈は法定相続人以外の人にも財産を譲渡できる
遺贈については、民法第964条(包括遺贈及び特定遺贈)に記載があります。
包括遺贈及び特定遺贈(条文)
- 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
遺贈の大きなメリットは、財産の受取人として相続人以外の第三者や団体を指定することができる点です。主に、身寄りがなく法定相続人がいない人や法定相続人以外の人に財産を相続させたい人などに利用されています。
遺贈が用いられる一例として、以下のようなケースが挙げられます。
- 孫に全財産を相続させたい
- 生前に親身に介護してくれた家政婦に財産を残したい
- 社会貢献活動を行う団体に寄付したい(※団体に寄付する制度は「遺贈寄付」と呼ばれます)
遺贈で発生する税金は相続税
ただし、遺贈寄付を行う場合で、受遺者が法人の場合は原則として相続税は発生しません。相続税はあくまでも個人に対して課税される税金です。法人が遺贈を受けた場合は、法人税の対象となりますが、公益法人やNPO法人が遺贈を受けた場合、法人税は課税されません。
遺贈寄付の対象が譲渡所得を生じるものである場合、被相続人はみなし譲渡所得課税となるため準確定申告が必要となります。
遺贈は主に包括遺贈と特定遺贈の2種類
包括遺贈の概要と注意点
「自分の財産を友人Aと団体Bに2分の1ずつ遺贈する」「全財産の40%を孫に、30%を兄に、30%を妹に継がせる」といった書き方がされます。割合のみの指定では不動産のようなわけられない財産は共有で所有することになり、後にトラブルになる恐れがあるため、受遺者は遺産分割協議に参加することが可能です。
包括遺贈のメリットは、万が一、相続が発生した後に特定の財産が消失していることが判明しても、指定されているのは割合のみであるため、遺贈の内容に変化が生じないことです。
たとえば、特定遺贈のように「現金を」と財産の内容に指定があると、相続発生時までに被相続人が現金を使ってしまっていたら、遺贈できなくなります。一方、包括遺贈では、財産の内容を問わず、遺言書で指定されている割合分は必ず遺贈することになります。
なお、包括遺贈のメリットは、デメリットにも成り得るため注意が必要です。プラスの財産のみであれば問題ありませんが、債務や連帯保証人の立場といったマイナスの財産がある場合、それらも相続しなければならない点には注意が必要です。
マイナスの財産を相続したくない人は、包括遺贈の放棄という選択肢が選べます。包括遺贈を放棄する際は、相続の開始(遺贈があったことを知ったとき)から3カ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出します。
特定遺贈の概要と注意点
「現金150万円を家政婦Aに譲る」「〇〇銀行の口座の預金をすべて孫に相続させる」などの書き方がされます。特定遺贈では、受遺者が相続する財産が具体的に指定されているため、負債などマイナスの財産が引き継がれることはありません。
ただし、不動産を法定相続人以外に遺贈する場合は、不動産取得税が発生するため注意が必要です。
不動産取得税は、以下の計算式で算出されます。
不動産取得税の計算式
不動産取得税の税率は、土地や家屋(住宅)の場合は3%、家屋(住宅以外)の場合は4%です。
遺贈と相続の違い
遺贈と相続で大きな違いが生じるのは「誰が財産を引き継ぐのか」「相続税はどのように計算されるのか」の2点です。
財産を引き継ぐ人の違い
遺贈では、法定相続人以外のあらゆる個人や団体に財産を引き継がせることが可能です。一方、相続は民法で定められる範囲、すなわち法定相続人が財産を引き継ぐことになります。
相続では、被相続人の配偶者は常に相続人となります。配偶者とは、婚姻届を出した妻や夫のことを指し、内縁関係にある人は対象外です。
相続における法定相続人の範囲と順位は、以下のように定められています。
- 【第1順位】被相続人の子
- 被相続人の子が相続開始前に亡くなっている場合、子の直系卑属(子や孫)が相続人になります。被相続人の前妻の子や嫡出でない子(婚姻外の子)も第1順位として扱われます。
- 【第2順位】被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)
- 被相続人の父母が相続開始前に亡くなっている場合、祖父母が相続人になります。第2順位の人は、第1順位の人がいないときに相続人になります。
- 【第3順位】被相続人の兄弟姉妹
- 第1順位の人も第2順位の人もいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。相続開始前に兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その人の子(甥や姪)が相続人になります。
相続税の計算時の違い
遺贈における相続税を計算する際は、相続税の基礎控除や税額軽減などの制度が適用されないケースがあります。
分かりやすい例として、被相続人の配偶者に適用される「配偶者の税額軽減(相続税の配偶者控除)」が挙げられます。この制度は、被相続人の配偶者が相続した場合に限り、以下のどちらか多い金額までは相続税がかかりません。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
たとえば、配偶者のみが法定相続人となる場合、1億6,000万円を超えても相続税はかかりません。相続では、他にも死亡保険金の非課税枠のような相続人の生活を守る目的で相続人に有利な規定があります。
受遺者は相続税の基礎控除の人数外
しかし、必ずしも遺産に対する相続税が課税されるわけではありません。
相続税を計算する際は、遺産から非課税財産や葬式費用、債務、基礎控除額を差し引くことができます。よって、実際に課税対象となる遺産は、相続する遺産よりも少なくなります。
相続税には、財産の価額から所定の金額を差し引くことができる非課税枠があります。この非課税枠が「基礎控除」と呼ばれるもので、以下の計算により算出されます。
相続税の基礎控除額の計算式
被相続人の養子は、実子がいる時は1人まで、いない時は2人まで法定相続人の数に含められます。
以下の事例で、相続税額を計算してみましょう。
正味の遺産額が1億円で、配偶者と子2人が法定相続分を相続するケース
- 基礎控除額は、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
課税遺産総額は、1億円-4,800万円=5,200万円 - 課税遺産総額を法定相続分で分けると、配偶者2,600万円(1/2)、子1,300万円ずつ(1/4ずつ)
- 税率15%・控除額50万円を適用すると、相続税額は配偶者340万円、子は145万円ずつとなり、合計630万円となる
- 相続分の割合で配分すると、配偶者は0円(配偶者控除による)、子は630万円×1/2×1/2=157.5万円ずつが実際の相続税となる
上記のケースでは、配偶者も子も法定相続人であるため、基礎控除額を計算する際の法定相続人の数にカウントされます。
なお、遺産を配偶者と子への相続だけでなく、孫に遺贈したとしても、孫は法定相続人ではないため、基礎控除額の計算における法定相続人の数に含めることができず、一家の相続税負担は同じとなります。
相続税の2割加算が適用されることも
相続税の2割加算の対象者
- 被相続人の配偶者や父母、子以外の人(被相続人の兄弟姉妹や甥、姪、第三者)
- 孫(被相続人の養子として相続人になり、代襲相続人になっていない孫も含む)
※例外として、相続開始前に被相続人の子が死亡して代襲相続人になった時は、被相続人の孫は2割加算は不要となります。
2割加算の対象者には、「通常の計算で算出された相続税額×20%」の税額が加算されます。
以下で、孫に遺贈する場合の相続税額を計算してみましょう。
正味の遺産額が1億円で、配偶者が1/2を、子2人が各1/5を、孫1人が1/10を相続するケース
- 基礎控除額は、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円
課税遺産総額は、1億円-4,800万円=5,200万円 - 課税遺産総額を法定相続分で分けると、配偶者2,600万円(1/2)、子1,300万円ずつ(1/4ずつ)
- 税率15%・控除額50万円を適用すると、相続税額は配偶者340万円、子は145万円ずつとなり、合計630万円となる
- 相続分の割合で配分すると、配偶者は0円(配偶者控除による)、子は630万円×1/5×1/5=126万円ずつが相続税額となる
- 孫は630万円×1/10=63万円に2割加算が適用されるため、63万円×1.2=75万6,000円が実際の相続税額となる
法定相続人が未成年の場合や85歳未満の障害者である場合は、相続税から所定の金額を差し引く「未成年控除」や「障害者控除」が適用されます。これらの控除を受けるには、法定相続人であることが要件の一つに挙げられます。
法定相続人ではない孫に遺贈する場合、このような控除の制度が適用されないことがデメリットとなり得ます。
遺贈に関して注意したいポイント
遺贈を行う際は遺留分の侵害に気をつける
もし、遺贈によって遺留分が侵害されることがあった場合、相続人は「遺留分侵害額の請求」を行うことができます。
法定相続人に認められている遺留分は、以下の通りです。
相続人 | 遺留分 |
---|---|
配偶者のみ | 1/2 |
子のみ | 1/2 |
父母のみ | 1/3 |
兄弟姉妹のみ | なし |
配偶者と子 | 1/4ずつ |
配偶者と父母 | 1/3、1/6 |
配偶者と兄弟姉妹 | 1/2、なし |
遺留分を侵害された相続人と受遺者との間でトラブルに発展する可能性もあるため、遺贈の際は遺留分を侵害しないように注意しましょう。
遺贈に関する疑問は税理士に相談しよう
遺贈は、法定相続人ではない人に財産を相続する制度で、被相続人の希望に叶った相続をするのに最適です。
しかし、受遺者に相続税がかかること、被相続人との関係性によっては2割加算が適用されること、法定相続人の遺留分を侵害するとトラブルの元となることなどを考慮した上で、慎重に検討する必要があります。
実際の相続では、さらに多くの相続人が関係するケースも少なくないため、相続税の計算が複雑な場合があります。
また、遺言書の作成には守るべきルールがあり、守られていない場合は遺言書が無効となることもあります。相続税の負担を考慮した有効な遺言書を作成するためには、専門知識のある税理士に相談するのがおすすめです。
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