この記事でわかること
- アメリカで一定期間働いていた人の家族はアメリカの遺族年金を受給できる
- 配偶者の場合は遺族年金の受給方法を選択できる
- 日本の公的年金加入期間とアメリカのソーシャルセキュリティ加入期間は通算できる
アメリカで一定期間就労し、ソーシャルセキュリティ(公的年金制度)に加入していた方は、退職年齢以降はアメリカの年金を受給できます。
そして、ソーシャルセキュリティの被保険者が死亡した場合は、配偶者・元配偶者など一定の要件を満たす遺族がアメリカの遺族年金の受給が可能です。
また、2005年の日米社会保障協定により、アメリカと日本の両方で一定期間働いていた期間がある方については、日本の公的年金加入期間とアメリカのソーシャルセキュリティ加入期間を通算した期間分の年金を受給できるようになりました。
これに伴い、遺族年金についても同様の取り扱いが認められています。
今回は、アメリカの遺族年金制度について、アメリカで働いていた人の相続人の遺族年金の受給要件や受給額、申請手続きや必要書類などを解説します。
目次
アメリカで働いていても遺族年金は受給できる?
アメリカで働いていた人の配偶者等は、アメリカの遺族年金を受給できるでしょうか。
2005年10月に発効した日米社会保障協定により、40クレジット(10年間相当)社会保険に加入していた場合、公的年金の受給資格が認められています。
加入期間は日本での社会保険加入期間との通算が可能です。
その場合、アメリカで最低6クレジット(1年半相当)の加入期間が必要となります。
アメリカの公的年金の受給資格を有した人が亡くなった場合、配偶者等の受給資格を満たす人が遺族年金を受給できます。
遺族年金の受給要件について詳しくは、次章でご説明します。
アメリカで働いていた人が遺族年金を受給する要件
アメリカで働いていた期間がある人の配偶者等が遺族年金を受給するためには、以下の要件を満たす必要があります。
受給資格
アメリカの遺族年金の受給資格として、被保険者側の要件と、遺族側の要件の双方を満たしている必要があります。
被保険者の年金受給・加入の要件
被保険者が公的年金の受給者であったか、21歳~死亡の前年まで毎年1クレジット(3カ月)以上、最大40クレジット(10年)の加入期間があった場合となります。
ただし、子または子を養育する配偶者が受給する場合は、被保険者が死亡する直前の13クオーター(39カ月=3年3カ月)の間に6クレジット(18カ月=1年6カ月)以上となります。
「クオーター」は、クレジット(ソーシャルセキュリティ加入期間)と異なり、単純な「3カ月相当」の期間を表します。
なお、ここでの「子」の定義は後述します。
遺族の要件
受給資格のある遺族は以下のいずれかに該当する方です。
1.配偶者
- 60歳以上の配偶者
- 50歳以上の障害のある配偶者
- 16歳未満の子または障害のある子(年齢制限なし)を扶養する配偶者
2.子
- 18歳未満の子
- 19歳未満の全日制高校に通う子
- 22歳までに障害等級1級・2級該当の障害を持った子(年齢制限なし)
3.父母
- 62歳以上で、被保険者から生計費の50%以上の支出を受けていた者
4.元配偶者(受給開始時点で独身であること)
- 60歳以上(障害者の場合は50歳以上)で、10年以上の婚姻期間があること
- 16歳未満の子または障害のある子を扶養している場合は婚姻期間の制限なし
アメリカで働いていた人の遺族年金の受給額
遺族年金の受給額は、被保険者の受給額に対して一定の割合となります。
遺族年金の受給額
遺族年金の受給額は、上記の被保険者の満期退職年金受給額に対して、受給者側の条件によって以下の割合となります。
配偶者・元配偶者 | 満期退職年齢以上 | 100% |
60歳~満期退職年齢まで | 71.5%~99% | |
障害あり:50歳~59歳 | 71.5% | |
16歳未満の子を扶養している | 75% | |
子 | 18歳未満・19歳未満の全日制高校生・22歳未満で障害を持った子 | 75% |
父母 | 62歳以上・50%以上の生計維持 されていた(片親の場合) |
82.5% |
同上・両親が存命の場合 | 75%×2人 |
配偶者は配偶者加給(配偶者ベネフィット)と遺族年金のどちらかを選ぶ
被相続人の配偶者については、被相続人が亡くなる前でも、退職年金の満額受給年齢に達していれば被相続人の受給額の半額を受給できます。
これは「配偶者加給(配偶者ベネフィット)」と呼ばれる制度です。
配偶者加給を受給するためには、パートナーである退職年金受給者が自身の受給を申請している必要があります。
配偶者は、パートナーの死亡後は配偶者加給と遺族年金のどちらかを受給できることになります。
配偶者加給の受給開始年齢は、退職年金の受給開始年齢と同じで、生まれた年によって異なります。
(遺族年金の配偶者の年齢要件と異なるので注意が必要です)
生まれた年 | 受給開始年齢 |
---|---|
1937年以前 | 65歳 |
1938年 | 65歳2カ月 |
1939年 | 65歳4カ月 |
1940年 | 65歳6カ月 |
1941年 | 65歳8カ月 |
1942年 | 65歳10カ月 |
1943年~1954年 | 66歳 |
1955年 | 66歳2カ月 |
1956年 | 66歳4カ月 |
1957年 | 66歳6カ月 |
1958年 | 66歳8カ月 |
1959年 | 66歳10カ月 |
1960年~ | 67歳 |
アメリカで働いていた人が遺族年金を受給する方法・必要書類
ここでは、アメリカで働いていた人の配偶者等が遺族年金を受給する方法、及び遺族年金の申請に必要な書類をご説明します。
必要書類
アメリカの遺族年金受給手続きに必要な書類は、以下の通りです。
- アメリカの年金請求申出書(日本年金機構のサイトからダウンロード可能)
- 戸籍謄本(子どもがいる配偶者の場合は全員分)
- 年金手帳または年金証書のコピー
- 社会保障番号(Social Security Number)カードの写しまたは社会保障番号を確認できる書類の写し
(社会保障番号が不明の場合は、アメリカ側で調べてもらえます)
申請手続き
- 最寄りの年金事務所または年金相談センターで上記書類を提出する
- 日本の年金事務所が資格を確認し、アメリカ合衆国領事部連邦年金課(SSA)に申込者の年金加入記録が送られる
-
SSAが審査を行い、資格があると思われる方に対して直接連絡がくる
この段階で電話での聞き取りなどを経て、審査に進みます。
配偶者の社会保障番号がわからない場合、SSAから社会保障番号取得のために、アメリカ大使館または領事館で面接証明(Mandatory Interview certificate)を受けるよう指示されることがあります。
SSN(社会保障番号)取得が必要な場合、予約の上、写真付きの身分証明書(有効なパスポート、運転免許証、写真付きの住民基本台帳カードのいずれか)を持参してアメリカ大使館で申請を行いましょう。
- 審査後、SSAから決定通知が届く
支給は月1回、次の中から受給者が選択した方法で行われます。
- ドル通貨でアメリカの口座に振込み
- ドル通貨小切手の郵送
- 日本円で日本の口座に振込み(為替レート:口座振込み時のレート)
アメリカで働いていた人が遺族年金を受け取るときの注意点
アメリカで働いていた人の配偶者等が遺族年金を申請する場合、注意すべき点として以下が挙げられます。
アメリカの遺族年金は相続税の課税対象となる
まず、アメリカの遺族年金については、日本の遺族年金と異なり相続税がかかることに注意が必要です。
相続税の非課税財産には含まれない
日本の遺族年金の受給権は、相続税法第3条1項6号の「契約に基づかない定期金に関する権利」に該当します。
この「契約に基づかない権利」は、相続税の関係では非課税財産に含まれません。
一方、厚生年金保険法第41条により、遺族年金は非課税財産として扱われます。
これに対して、アメリカの遺族年金など外国の法令に基づく遺族年金は、所得税については非課税となります(所得税法第9条1項3号、所得税基本通達9-2)。
しかし、相続税法では外国法に基づく年金に対して非課税とする規定はありません。
したがって、アメリカの遺族年金受給権については、課税対象の相続財産とみなされます。
相続税の計算方法
アメリカの遺族年金は、「契約に基づかない定期金に関する権利」として、課税財産となります。
このため、アメリカの遺族年金に相続税を課税する際の「評価額」の計算方法は、相続税法第24条1項3号の「終身定期金」の評価方法に従って行います。
終身定期金は、次に掲げる金額のうち、いずれか多い方の金額によって評価します(相続税法第24条1項3号)。
引用:
1.当該契約に関する権利を取得した時において、当該契約を解約するとしたならば支払われるべき解約返戻金の金額
2 定期金に代えて一時金の給付を受けることができる場合には、当該契約に関する権利を取得した時において当該一時金の給付を受けるとしたならば給付されるべき当該一時金の金額
3 当該契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者に係る余命年数として政令で定めるものに応じ、当該契約に基づく給付を受けるべき金額の1年当たりの平均額に、当該契約に係る予定利率による複利年金現価率を乗じて得た金額
アメリカの遺族年金の受給者が自身の日本の老齢年金も受給できる場合がある
アメリカの遺族年金について、根拠となる被保険者の老齢年金受給資格が日米の年金制度の加入期間の通算による場合は、日米社会保障協定に基づいてアメリカまたは日本の遺族年金を受給できます。
この場合は、アメリカと日本のどちらかの遺族年金を申請することになります。
これに対して、アメリカの遺族年金の受給資格を満たす人が、自身の日本での国民年金や厚生年金の受給資格も満たしている場合は、両方を受給することができます。
なお、日本での公的年金については所得税・相続税とも非課税となりますが、アメリカの遺族年金については前述のように相続税の課税対象となることに注意してください。
受給期間をさかのぼって請求できるのは6カ月分まで
遺族年金は、受給開始期間を過ぎてからでも請求できます。
ただし、申請日より前の期間の分までさかのぼって請求できるのは、申請日の6カ月前以後の分に限られます。
たとえば、被保険者要件を満たす夫が2024年4月1日に亡くなってから8カ月後の2024年12月に妻が遺族年金を申請した場合、さかのぼって請求できるのは2024年6月分~11月分となります。
遺族年金の他に死亡一時金の受給もできる
被保険者の遺族については、遺族年金の他に、被保険者が死亡した時点で死亡一時金の受給もできます。
死亡一時金は、遺族年金受給開始年齢に達していなくても受給が認められています。
ただし、被保険者の死亡後2年以内に申請する必要があります。
まとめ
アメリカの遺族年金を受給する場合、申請から受給決定までかなりの時間を要します。
受給要件を満たす時点の3カ月前から申請ができるので、早めに準備と手続きを行いましょう。
また、日本の公的年金と異なり、アメリカの遺族年金は相続税の課税対象となることなど、いくつか注意すべき点があります。
特に税金の問題は、申告を怠るとペナルティが課せられる可能性があります。
わからないことがありましたら、早めに税理士へのご相談をおすすめします。
相続専門税理士の無料相談をご利用ください
ご家族の相続は突然起こり、何から手をつけていいか分からない方がほとんどです。相続税についてはとくに複雑で、どう進めればいいのか? 税務署に目をつけられてしまうのか? 疑問や不安が山ほど出てくると思います。
我々ベンチャーサポート相続税理士法人は、相続人の皆さまのお悩みについて平日夜21時まで、土日祝も休まず無料相談を受け付けております。
具体的なご相談は無料面談にて対応します。弊社にてお手伝いできることがある場合は、その場でお見積り書をお渡ししますので、持ち帰ってじっくりとご検討ください。
対応エリアは全国で、オフィスは東京、埼玉、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸の主要駅前に構えております。ぜひお気軽にお問い合わせください。