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最終更新日:2023/7/13

正しい相続手続きVOL43 どうしても相続税が払えない!他の方法について解説

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

相続税は、現金で一括納付することが原則です。

しかし、相続財産が不動産や、取引相場のない同族会社の株式であるなど、すぐには換金できない資産のみである場合など、納付期限までに現金を準備できないという事態が生じることもありえます。

そのような場合の対応方法として、「延納」という制度が認められていますが、それさえも困難な場合に備えて、さらに「物納」という方法が認められています。

本稿ではその「物納」という手段についてみていきたいと思います。

1.「物納」という制度

「物納」とは、読んで字のごとく、相続税を金銭ではなく「物」によって納めることを言います。

民法では、債務の弁済に代えて違う「物」を引き渡すことによって弁済するという「代物弁済」という方法が認められています(民法第482条)が、「物納」も、一種の代物弁済と考えることができるでしょう。

「物納」という制度が認められているのは、相続税についてだけで、所得税、法人税、贈与税などには認められていません。

2.物納が認められる要件

(1)物納が認められる要件

物納をするためには、以下の要件が備わっている必要があります。

  • ・延納によっても相続税を金銭で納付することを困難後する事由があり、かつ、物納する金額について、その納付を困難とする金額を限度としていること
  • ・物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、法が定める財産及び順位により、かつ、その所在が日本国内にあること
  • ・物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること、および、物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと
  • ・物納しようとする相続税の納付期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続き関係書類を添付して税務署長に提出すること

以下、順番に見ていきましょう。

(2)金銭での納付が困難とする事由があり、かつ、納付を困難とする金額を限度としていること

物納が認められるためには、単に一括現金納付ができないだけでなく、延納によることもできないという場合でなければなりません。

また、物納が認められる場合でも、その金額は現金納付および延納ができない金額を上限とし、あくまでも物納は金銭での納付ができない部分についてのみ認められることになります。

(3)物納できる財産

物納できる財産は次の3種類に限られていて、しかも、その優先順位も決められています。

  • 第1順位:不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
  • 第2順位:非上場株式等
  • 第3順位:動産
  • 例えば、不動産を持っているのに先に株式や、自家用車などを物納することはできません

    ただし、後に述べる、管理処分不適格財産や、物納劣後財産に該当する場合には、それらの財産ではなく、例外的に後順位のものの物納が認められることになります。

    (4)管理処分不適格財産に該当しないこと、および、物納劣後財産に該当する場合は他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。

    ①管理不適格財産

    相続税法施行令は管理不適格財産として、物納の対象にならないものを定めていて、これらに該当する財産は物納することができません(相続税法施行令第18条)。

    代表的なものとしては、

    • ・抵当権などの担保権が設定されている不動産
    • ・権利の帰属や隣地との境界等について係争中の不動産
    • ・借地権者が不明な貸地
    • ・他の不動産と一体として利用されている土地、又は、共有持分
    • ・譲渡制限株式、質権などの目的となっている株式

    などがあげられます。

    ②物納劣後財産

    また、相続税法施行令は、物納劣後財産を定めています。

    これらに該当する財産は、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限って物納に充てることができるとされています(相続税法施行令第19条)。

    その結果、第1順位の財産が物納劣後財産に該当する場合には、第2順位の財産が先に物納の対象となることになります。

    代表的なものとしては

    • ・地上権、永小作権、耕作を目的とする賃借権などが設定されている土地
    • ・違法建築建物およびその敷地
    • ・納税者の居住または事業の用に供されている建物および敷地
    • ・劇場、工場、浴場など、その管理に特殊技能を要する建物および敷地

    等です。

    (5)物納申請書の提出

    相続税の納付期限(=相続開始日の翌日から10ヵ月)内に、物納申請書に、物納手続き関係書類を添付して提出しなければなりません。

    ただし、この期限までに物納手続き関係書類を提出できない場合には、事前に、物納手続き関係書類提出期限延長届出書を提出して、提出期限の延長を求めることができます

    この延長は1回につき3ヵ月間を限度とし、最長で1年間に限られます(3ヵ月の延長を4回までということ)。

    なお、延長申請ができるのは、物納手続関係書類に限られ、物納申請書は必ず、相続税の納付期限までに提出されなければなりません

    申請書には、相続税を金銭で納めるのが難しい事情、物納する財産及びその価格等の必要事項を記載することになります。

    この際の、物納する財産は相続によって取得した財産でなければならず、相続人が従来から所有していた財産を物納することはできません

    また、その価格は相続財産の評価の際に評価額とされた金額となります。

    市場価格ではないことに注意が必要です。

    申請が提出されると税務署でその内容を審査し、問題がなければ物納を許可します。

    一方、物納を申請した財産が管理処分不適格と判断された場合には姿勢は却下されます。

    この場合、申請者はその財産に変えて他の財産による再申請を1回に限って行うことができます。

    また、延納によることが困難であるとする理由がないことを理由に却下された場合には、物納申請から延納申請に変更することが認められています。

    3.物納か売却かの判断

    相続税の支払いができない場合に、その財産を売却するのか、それとも物納するのかが問題となります。

    (1)物納のデメリット

    ①収納価額が低い

    物納の場合、その価額は相続財産の評価の際になされた評価額となります。

    つまり、土地の場合には路線価などに基づく金額となり、実際の市場価格よりも低い金額とされます。

    また小規模宅地の特例などを利用している場合にはその特例を適用した後の金額となるため、金額的には非常に低い金額となってしまう可能性があります。

    ②測量などが必要

    不動産の物納の場合には、その物件の測量や境界画定などが必要となります。

    その結果、それらの費用負担が生じることになります。

    (2)物納のメリット

    ①資金調達に奔走する必要がない

    資産を売却して資金調達する必要がないため、その買い手を探したり、価格交渉をしたりといった手間はありません。

    ②譲渡所得税がかからない

    物納ではなく資産を売却して納税のための資金を調達した場合には、その譲渡価格に対して譲渡所得税などの各種の税金がかかることになります。

    そのため、相続税を支払うために資産を売却したのに、譲渡所得税等を取られたために相続税の納付資金に足りなくなってしまい、さらに資産の売却をしなければならないという繰り返しが生じてしまう場合があり得ます。

    これに対して、物納の場合には譲渡所得税等を納付するという必要もありません。

    (3)判断

    物納がいいのか、売却がいいのかは最終的に個別事情によって判断せざるを得ません。

    例えば、買い手が付きにくい不整形地などの場合には、物納することによって売却の手間をかけずに処理できるというメリットが生じる場合おあります。

    ただ、資産価値という観点からのみ考えた場合には、想定される売却価格から譲渡所得税等を控除した額と、相続財産の評価の際の評価額(収納金額)とを比較し、収納価格が上回っている場合には物納、そうでない場合には売却という判断になるかと思われます。

    物納の申請には期限がありますので、判断がつかないときには、とりあえず物納の申請を行っておいて、有利に売却できた時は延納に切り替えるといった対応も考えられると思います。

    まとめ

    以上、物納についてみてきました。

    物納はあくまでも最終の手段であり、また、物納できる財産も制限されるなど、難しい面もありますが、具体的な事情によっては資産を売却して無理して金銭での相続税を納付するよりもメリットがある場合もあります。

    具体的な事情に応じて、どのような手段を講じることがいいのか、慎重に判断することが必要です。

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