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最終更新日:2023/7/13

正しい相続手続きVOL27 「贈与税」と「相続時精算課税」どちらを申告すれば損しない?

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

相続対策として、贈与の活用ということがよく言われます。

そこで、本記事では、なぜ、相続対策として贈与が有効なのかについて基本的な事項を確認するとともに、贈与の仕方として通常の贈与の方法(暦年課税)と相続時精算課税制度の仕組み、さらに、具体的な贈与の方法としてどちらを利用したらいいのかについても考えてみたいと思います。

相続対策としての生前贈与の利用

相続に関して問題となるものの一つが相続税です。

相続税は、被相続人から相続人に承継される相続財産の評価額が基礎控除額を超える場合に課税されます。

基礎控除額は相続人の人数によって自動的に以下の算式で決定されます。

基礎控除額=3,000万円+600万円×相続人の人数

例えば、配偶者と子供2人が相続人の場合、基礎控除額は、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円

となり、相続財産が4,800万円より多い場合には相続税がかかることになってしまいます。

しかも、その税率は相続財産が多いほど税率も高くなるという超累進課税となっていて、その税率の最低は10%、最高は55%となっています。

その結果、相続税対策の最も有効な方法としては、相続開始前に、被相続人が所有していた財産を贈与などによって減らしておくという方法がとられるわけです。

ただし、単純に生前贈与をした場合には、贈与税が問題となります。

そこで、生前贈与をする場合にどのような方法で贈与をすると適切かが問題となります。

通常の贈与(暦年課税)

通常の生前贈与の場合、基礎控除額は年間110万円とされています。

つまり、年間110万円までの贈与について贈与税はかかりません。

したがって、年間110万円以内の金額を複数年にわたって贈与すると、贈与税の課税を受けることなく、財産を相続人に移転し、相続財産を減少させることが可能となります。

ただし、この場合に注意しなければならないことは、それが全体として一個の贈与とみられ、その総額に対して贈与税が課せられる危険があるということです。

例えば、本来、1,000万円を贈与するのに、相続税を免れるために毎年100万円を10年に分割して贈与したものと判断されると、「定期贈与」として1,000万円についての贈与税が課税される場合があるのです。

例えば、毎年同一の日(誕生日など)に一定額を継続して贈与するといった場合に、定期贈与と判断される可能性が高くなります。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度の仕組み

通常の贈与の方法とは別に、平成15年の税制改正によって相続時精算課税制度が創設されました。

これは、一定の者からの贈与について、贈与時に支払う贈与税を軽減した上で、相続時にそれまでになされた贈与の税金も相続税と一緒に精算する制度です。

具体的には、60歳以上の親または祖父母から20歳以上の子または孫への生前贈与について、一人の贈与者からの贈与について累計額で2,500万円までは贈与税がかからないこととされます。

当該贈与者からの贈与の累計額が2,500万円を超えた場合には、その超過額に対して一律20%の贈与税が課せられます。

その上で、当該贈与者が亡くなって相続が開始した場合には、当該贈与者(被相続人)から贈与された額を相続財産に加算した額を相続財産として相続税を計算し、それまでに相続時精算課税制度により支払った贈与税の額と、最終的に計算された相続税の額とを精算することになります。

それでは、具体的に見てみましょう。

被相続人が父親、相続人が子供1人で、生前に父親が子供に3,000万円の贈与を相続時精算課税制度によって行っていたとします。

また、相続開始時の父親の財産は2,500万円とします。

贈与時

相続時精算課税制度による3,000万円の贈与について、2,500万円までは贈与税は非課税、2,500万円を超える500万円については20%の贈与税がかかるため、贈与税として100万円を納めることになります。

相続開始時

相続財産の額は、相続開始時の財産2,500万円と、相続時精算課税制度による贈与額3,000万円の合計5,500万円となります。

基礎控除額は3,600万円(3,000万円+600万円×1人)となり、相続財産の額が基礎控除額を1,900万円超過するため、相続税が課されることになります。

その場合の計算は、相続人が子供1人のみですので、相続税は、
1,900万円×15%(税率)-50万円(控除額)=235万円
となります。

ところで、本件では贈与時にすでに贈与税100万円を納めているため、235万円から納付済みの100万円を引いた135万円の相続税が課されることになります。

相続時精算課税制度の機能

以上の計算から分かるとおり、相続時精算課税制度は、贈与された財産の価額も相続財産に加算して相続税を計算するため、正確に言うと、相続財産を減少させるという効果はありません。

つまり、上記の例で3,000万円の生前贈与がなければ、相続開始時に相続財産5,500万円として相続税を計算することになり、結局235万円の相続税を納めることになります。

納める相続税の額は相続時精算課税制度を利用した場合と全く変わりありません。

それでは、相続時精算課税制度を利用して生前贈与するメリットは何でしょうか。

具体的には以下のようなメリットが考えられます。

まとまった金額の贈与が可能となる

通常の贈与であれば110万円を超えると贈与税が課されます。

しかし、相続時精算課税制度を利用すると、住宅購入資金などの多額の贈与をしようとする場合でも、その時点で20%の贈与税を払うだけですみますし、その贈与税も最終的に相続時に精算されるため、税金を納めすぎるリスクはありません。

仮に、先の例で3,000万円を通常に贈与していたら、控除額110万円を超える2,890万円に対して50%の贈与税が課せられます(控除額は250万円)。

その結果、贈与税は2,890万円×50%-250万円=1,195万円となります。

相続開始時の相続財産は2,500万円ですので相続税はかかりませんが、合計で納める税金の額は1,195万円となり、相続時財産課税制度を利用した場合の235万円よりも、960万円も多くなっていました。

値上がり物件を価格が低いときに贈与すれば相続税対策になる

相続税は、相続開始時の財産の評価額を基準として計算されます。

一方、相続時財産課税制度を利用して贈与された財産は、相続時に相続財産に加算されますが、その際の価格は贈与時の価格とされます。

つまり、贈与された時の財産の評価額が3,000万円であった物件が、相続開始時には5,000万円に値上がりしていた場合でも3,000万円として評価すれば足りることになり、その分だけ相続財産の評価額を減額する効果が期待できます。

相続時精算課税制度を利用する場合の注意点

相続時精算課税制度の利用に際してはいくつか注意点があります。

贈与者と受贈者の制限

まず、この制度はその贈与者から受贈者に対して相続による財産移転がなされることが前提となっています。

したがって、贈与者は60歳以上の親または祖父母に限定され、贈与を受ける受贈者は20歳以上の贈与者の子または孫に限られます。

相続時精算課税制度を利用するとその贈与者からの贈与全てに適用される

贈与に際して、相続時精算課税制度の適用を申請した場合、以後、その贈与者から受ける贈与についてはすべて相続時精算課税制度が適用され、その累計額に加算されていき、少額の贈与であってもすべて申告が必要となります。

途中で、その贈与者からの贈与を、通常の暦年課税による贈与に変更することはできません。

贈与における基礎控除が適用されない

相続時精算課税制度を利用すると、暦年課税による年間110万円という贈与税の基礎控除は適用されなくなります。

少額の贈与であっても、すべて、相続時精算課税制度による累計額に加算され、相続時の精算対象に含まれることになります。

具体的な場合にどちらを選択するべきか

それでは、具体的な場合に通常の贈与(暦年課税)と相続時精算課税制度のどちらを選択すればいいのでしょうか。

贈与税(暦年課税)を選択すべき場合

相続財産の額が基礎控除額を超えることが確実で、少しでも相続財産を減らしたい場合

相続時精算課税制度は、相続財産自体の評価額を減少させる効果はありませんので、この場合には暦年課税方式により、基礎控除を最大限に利用しつつ、少しずつでも生前贈与により財産を減少させることになります。

ただし、相続開始前3年以内の贈与は、相続分の前渡しと評価され、相続税計算において相続財産に組み入れられるため、できるだけ早い時期から贈与を行う必要があります。

子や孫以外への贈与の場合や年齢の要件が満たされない場合

相続時精算課税制度は、贈与者と受贈者が親子または祖父母と孫の関係にあること、さらに、贈与者が60歳以上、贈与を受ける受贈者が20歳以上という条件があります。

したがって、それ以外の者の間で贈与を行う場合には、相続時精算課税制度は利用できないため、通常の暦年課税によることになります。

相続時精算課税を選択すべき場合

相続財産の評価額が基礎控除を超えない場合

この場合は、節税効果を考える必要はありませんので、相続時精算課税制度を利用して、贈与税の控除額を気にすることなく、好きな時に好きなだけ贈与することがいいでしょう。

収益物件を贈与する場合

親または祖父母が収益財産を所有している場合、それを所有し続けた場合、それによる収入が蓄積され、相続財産が増加していくことになります。

また、親または祖父母の所得税も累進課税が採用されている関係から税率が高くなることが考えられます。

そこで、これらの収益財産については、生前贈与して、その収益を子や孫の収入とすれば、相続財産の増加を回避でき、また、子や孫の所得が低い場合には親または祖父母の所得税も節税できることになります。

さらに、子や孫が収益物件によって得た収益を、相続税を納める際の原資とすることも可能となるメリットが考えられます。

値上がりする物件

将来の値上がりが期待できる物件については、評価額が低い時点で相続時精算課税制度によって贈与しておけば、相続時の評価においても低い贈与時の価格で評価されるため、相続税の節税につながります。

まとめ

以上、贈与に関して、通常の贈与(暦年課税)と相続時精算課税制度による贈与について見てきました。

それぞれ、メリット、デメリットがありますので、最終的には、相続財産としてどのような財産があるか、その評価額がどの程度あるのかということも加味して、慎重にどの方法が最もメリットが大きいかを判断することになります。

また、場合によっては、双方の制度を上手に組み合わせて活用するなどの方法も考えられるでしょう。

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