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交通事故の慰謝料請求にあたって、話し合いもせずにいきなり訴訟を提起する人は少ないでしょう。
まずは、被害者と加害者で、多くの場合はそれぞれの任意保険会社が、訴訟外で話し合いをすることになります。
いきなり訴訟をしない方がいい理由は、訴訟には費用も時間もかかるからです。
日本では本人訴訟も認められていますが、民事訴訟になると実体法のみならず手続き法もからむので、ほとんどの場合は、裁判の専門化である弁護士に依頼します。
弁護士費用は事務所によって異なりますが、着手金と成功報酬がかかり、訴訟手続きが長引くほど費用は高くなります。
また、民事訴訟は、短くても6か月以上かかりますし、長い場合だと判決確定まで2年かかる場合も珍しくありません。
その間、被害者としては慰謝料が受け取れないということになりますので、まずは示談交渉で落とし所を探した方が良いのです。
また、示談交渉をせずにいきなり裁判をすることに抵抗感がある人も多いでしょう。
交通事故裁判は、刑事裁判と民事裁判の2種類があります。
刑事裁判は、加害者に対して刑事責任を問うために行う裁判で、加害者の有罪・無罪を判決するものです。
一方、民事裁判は、被害者に対する損害賠償額を決めるための裁判です。
示談交渉が上手くいかなかった場合に訴訟を起こすのは、民事裁判になります。
交通事故の慰謝料には、怪我の治療についての傷害慰謝料と、治療終了後の症状固定後に請求する後遺障害慰謝料の2つがあります。
後遺障害慰謝料はすべの後遺症に支払われるわけではなく、自賠責事務所という審査機関に、後遺障害等級認定申請をして、等級が認定された場合のみ、それぞれの等級に応じた慰謝料がもらえます。
後遺障害の等級の認定は、書面主義といって申請にあたり提出された書面のみを審査します。
そのため、認定結果が必ずしも客観的に妥当なものとは限らず、被害者としては、納得がいかない場合もあります。
等級認定がひとつ違うだけでも、受け取ることができる金額にかなりの差がありますし、
もし一番下の等級である14級にも認定してもらえなければ、一切後遺障害慰謝料がもらえないことになってしまいます。
このような場合の一時的な不服申し立て手段としては、審査を行った自賠責事務所に対して異議申し立てを行い再度審査してもらうことができます。
しかし、同じ機関がもう一度審査するので、結論が変わらないこともあります。
このような場合は、訴訟提起により判決で違う結論を出してもらうことを考えましょう。
裁判所は自賠責とは全く関係のない組織ですので、別の結果が出る可能性もあります。
また、口頭弁論などもありますので、書面審査のみの自賠責での審査よりも詳細に事情を訴えることができるので、より良い結果が得られる可能性もあります。
交通事故に関する裁判は、加害者の刑事裁判と、加害者と被害者の間の民事裁判の2つが考えられますが、慰謝料についての裁判は、民事裁判となります。
民事裁判のやり方は、民事訴訟法という手続き法に詳細に定められています。
様式違反があると却下されるなど門前払いもありえるので、裁判をする場合は弁護士に代理を依頼する人がほとんどでしょう。
民事裁判の手続きの流れは次の通りです。
民事裁判の手続きの流れ
それでは1つずつみていきましょう。
まず訴状を裁判所に提出します。
軽い怪我などで請求する慰謝料の額が140万円以下であれば簡易裁判所に対して、それ以上であれば被告の住所地の地方裁判所に出します。
日本では三審制となっており、2回の控訴が認められますが、第一審はこの簡易裁判所か地方裁判所になります。
訴状を受け取った裁判所は、加害者である被告に訴状を送達し、民事裁判がはじまります。
まず、被告は、初回の裁判期日までに、原告の訴状に対して主張を認める、認めないなどの認否反論をし、証拠を出します。
それに対して、原告はまた反論したり、証拠を提出したりします。
こうしたやりとりが、裁判所での月に一回の期日や期日外での手続きで進んでいき、双方の主張がだしつくされたところで、裁判所が判断を下します。
原告と被告からの上記主張と証拠を審査しているうちに、裁判官が結論について一定の心証が形成されます。
なお、日本の民事裁判では、アメリカのように相手方に強制的に資料を出させる手続きはないですので、自らが主張立証する証拠のみが審査されます。
もっとも、交通事故に関しては、立証責任の転換といって、被告が運転に過失がないことを立証しない限りは、過失があったものと推定されます。
心証が形成されたタイミングで、判決を出す前に、両当事者に和解勧告が出されるのが一般的です。
裁判官から示された和解勧告について、両当事者が話し合いをし、和解ができる場合は裁判上の和解が成立します。
裁判上の和解は、判決と同じ効果をもつので、そこで決まったことを後から変えることはできません。
また、被告に慰謝料の支払いが命じられ、和解成立後に支払わなかった場合は、強制執行による取り立てがなされます。
和解が成立しなかった場合は、本人尋問や当事者尋問が行われます。
尋問は一問一答形式で行われ、主尋問と反対尋問、補充尋問があります。
まず主尋問で原告側の弁護士などが、原告側の証人に対して質問をします。
その後、反対尋問で被告側が原告側の証人に質問をし、証言をした内容の矛盾点などを明らかにします。
また、裁判官から補充尋問があり、主尋問と反対尋問で確認できなかったことなどについて質問をされます。
尋問の所要時間は、全体で2時間程度となることが多く、1人に対する尋問は30分から1時間程度です。
尋問当日は、印鑑と身分証明書が必要です。
印鑑は、シャチハタなどのスタンプ式の印鑑ではなく、朱肉で押すタイプの印鑑が必要です。
また、免許証など顔写真付きの身分証明書を持参します。
服装についての決まりはありませんが、スーツやそれに準ずる服装が望ましいです。
判決を受けることになった場合、原告と被告は、判決の前に裁判所に最終準備書面を提出します。
最終準備書面では、裁判官に自分の主張を認定してもらうために、これまでの提出書類や口頭弁論、尋問などの証拠について、自分の主張がどのくらい立証されたかを記載します。
最終準備書面を提出後に、判決を言い渡す判決期日が決まります。
被告側も原告側も、判決期日に出廷する必要はありません、
判決の内容は、裁判所に電話で確認するか、数日後に届く判決書で確認できます。
判決に不服がある場合は、判決が出てから一定の期間内に高等裁判所に控訴をすることができます。
日本では三審制がとられているため、控訴審でも不服の場合は、一応最高裁判所への上告の道もあります。
しかしながら、交通事故の裁判はほとんどの場合が控訴審までで決着がつきます。
地裁と高裁は事実審ですが、最高裁は法律審といって事実審査はしません。
判決の内容に憲法違反などがなければ、審理もされないということになります。
控訴審の判決がでて上告審に行かない場合は、2週間で判決の内容が確定します。
上述のように、まずは示談交渉で当事者間が話し合いますが、なかなか話しがまとまらない場合は、第三者を入れた手続きを検討することになります。
訴訟は紛争解決手段としては、最終手段となりますので、訴訟提起前に仲裁やあっせんを利用し、当事者同士の交渉の延長で解決を図るという手段もあります。
具体的には、民事調停や交通事故紛争処理センターによるあっせんがあります。
これらの手続きは、裁判所や行政庁がからむとはいえ、決定権は当事者にあるため、あくまで当事者間の話し合いの延長になります。
違いとしては第三者が介在することにより、お互い冷静に話し合いができることや、客観的な和解提案について調停員からアドバイスをもらうこともできます。
また、調停がまとまれば、確定判決と同じ効力があるので、決められた慰謝料を加害者が払わない場合などは、強制執行により回収することができます。
調停やあっせんでの話し合いもうまくいかなかった場合は、いよいよ裁判を考えることになります。
もっとも、すべてのケースにおいて、必ず何度も示談交渉を重ねたり、調停やあっせんをやる必要はありません。
離婚問題などは調停前置主義といって、かならず調停を起こして不成立にならない限りは民事訴訟が提起できませんが、交通事故の慰謝料請求についてはこのような制限はありません。
当初から両者の主張の隔たりがあまりにも大きく、お互い譲歩する気が全くないなどの場合は、早めに訴訟にでて、司法判断を仰いだ方が結果的に早く解決することができるでしょう。
慰謝料請求訴訟でよく争点になるものは、過失割合です。
加害者と被害者はどちらがより大きな怪我をしたかということで決まるのではなく、事故の際にどちらに過失があったかということで決まります。
過失とは、一般の人が気がつくであろう注意義務を怠ったことをいいますが、例えば脇見運転の場合はこれにあたります。
被害者の側が通常に安全運転をしていて、加害者のみが脇見運転をして追突したというようなケースで、その証拠も揃っている、あるいは加害者も認めているというケースであれば単純ですが、被害者のほうも速度違反があったような場合は、どちらにも過失があるということになります。
過失割合に応じて、被害者の過失部分は慰謝料の対象にならないので、どのように認定されるかで慰謝料の金額は大きく変わります。
そのため、過失割合について、加害者と被害者が激しく争うということも少なくありません。
過失割合は、別冊判例タイムズ38号という書籍の分類が実務上よく使われています。
しかし、書籍の分類はあくまで目安ですので、それに加えて個別の事情が考慮されることになります。
最近の車にはドライブレコーダーなどがつけられていることも多いですし、店舗の駐車場の防犯カメラに事故の様子が写っていた場合などは立証が容易ですが、そういった証拠がない場合は目撃者をつのったり、事故当時の警察の検分書を取り寄せたりして証明をしていくことになります。
詳しく知りたい方は、下記記事を参照してください。
過失割合のほかに争点となりやすいのは、慰謝料の支払い対象となる範囲です。
交通事故は事故の状況、被害の程度、被害者加害者の属性などさまざまな要素により損害賠償の範囲は影響を受けますし、法的な論点もたくさん存在します。
たとえば、後遺障害慰謝料請求についての訴訟だとすると、後遺症と既往症との関係、事故との因果関係、自営業者やパートタイムの方の逸失利益の範囲角が争われたりします。
こうした争点で自らの主張をとおすためには、診断書や医学的テストの結果、過去一定期間の収入を示す資料の提出などが大切になります。
交通事故慰謝料請求で裁判をすると決めたのであれば、何が何でも望む慰謝料の金額を勝ち取りたいですよね。
裁判の成否は担当弁護士の力量にかかってきますので、弁護士選びは大きなポイントになります。
弁護士といえど得意不得意分野はありますので、優秀な弁護士でも企業法務や離婚に詳しい弁護士が、交通事故の訴訟に辣腕を発揮できるとは限りません。
やはり、交通事故の取り扱い件数が一定数以上ある弁護士に依頼するのが一番です。
日本の民事訴訟は、弁論主義を基調としているので、当事者が主張しない事実については、基本的に裁判所は審理しません。
つまり、どのような証拠をどのようなタイミングで提示するかは、弁護士の腕にかかっています。
交通事故分野の弁護士の中でも、被害者のための慰謝料請求訴訟の経験が豊富な弁護士を選びましょう。
被害者の方が弁護士特約を付けている場合などで、任意保険会社から紹介を受けた弁護士に依頼することもあると思いますが、保険会社の弁護士は、基本的には加害者のために慰謝料を下げる立場での経験の方が多いこともありますので、選任にあたっては注意しましょう。
いかがでしたでしょうか。
交通事故の被害について適切な補償を受けるためには、時として訴訟をしなければならないこともあります。
訴訟の流れや必要な証拠、ポイントなどについてご参考になれば幸いです。