東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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資金繰りが厳しく会社の倒産も考えているが、その後の生活に不安を感じて決断ができないという方もいるのではないでしょうか。
一般的に法人が破産をすると、事業主である社長個人も自己破産手続きができるため、返済義務が消滅します。
また原則、自己破産で給料が差し押さえられることがないため、会社が倒産しても当面の生活費は確保できる可能性があります。
ただし自己破産をするタイミングによっては、差押さえの対象となってしまう場合があるため、注意が必要です。
本記事では、自己破産を検討している法人の社長向けに、自己破産で給与の差し押さえを回避する方法や自己破産の手続きの流れについて解説します。
Contents
自己破産したときに差押さえ対象となる財産は、破産した人が破産手続開始時点に保有している財産です。
そのため原則として、自己破産前、あるいは自己破産手続き後に受け取った給料やボーナスは差押さえの対象にはなりません。
しかし破産手続開始時点で、受け取り予定の給料がある場合は差押さえの対象となる可能性があります。
たとえば5月末締め翌月の6月28日に給料が支払われる会社で、6月1日に破産手続開始決定となった場合、5月末に翌月給料を受け取る権利が発生しているため、差押さえの対象となります。
ただし民事執行法152条により、受け取り予定の給料の4分の3(上限33万円)までは差押さえが禁止されています。
たとえば翌月の給料が20万円であれば、15万円までは差し押さえ禁止、5万円が差押さえの対象です。
また翌月の給料が50万円であれば、差押さえ金額の上限である33万円が差押さえ禁止、残り17万円は差押さえの対象となります。
債権の滞納が続いて金融機関などが訴訟をすると、強制執行により給料などの資産が差し押さえられてしまう可能性があります。
しかし給与の場合、仮に差し押さえられても、自己破産すれば差押さえを止めることが可能です。
ただし自己破産で差押さえが止まるタイミングは「管財事件」と「同時廃止」で異なります。
なお管財事件か同時廃止どちらになるかは明確な振り分け基準がなく、現金や財産の保有額などをもとに裁判所が判断します。
では、管財事件と同時廃止について、詳しく見ていきましょう。
管財事件とは、裁判所に選ばれた破産管財人が財産を清算する手続きのことです。
管財事件の場合は、破産手続開始決定と同時に差し押さえの効力が失われます。
具体的には、破産管財人が失効取り消しの上申書を提出し、裁判所が差押さえの執行命令を取り消すという流れです。
裁判所が差押さえの執行命令を取り消すことで強制執行の効力を失い、給料の満額を受け取れるようになります。
同時廃止とは、破産管財人が選任されず、破産手続開始決定と同時に破産手続きが廃止される手続きのことです。
破産者の財産が少なく、債権者への配当という目的を果たせないとき、破産手続開始決定と同時に廃止決定となるため、同時廃止と呼ばれます。
同時廃止の場合も、破産手続開始決定により免責決定が確定するまでの間、強制執行の効力が中止されます。
ただし同時廃止の場合、免責許可決定が確定するまで、破産者は差し押さえられた給与を満額受けとれません。
免責許可決定が出るまでは、勤務先の会社が社内で保管するか供託所に預ける形で給与がプールされ、免責許可決定が確定後、債務者は満額の給与を受け取れます。
自己破産手続きは、以下の流れで進めていきます。
では、各手順について、詳しく解説していきます。
自己破産手続きを検討しているときは、まず弁護士や司法書士といった専門家に相談してみましょう。
自己破産は法律上、債務者自身でも手続きができます。
しかし自己破産をする前に、任意整理や個人再生など、より自身に合った債務整理方法があるかもしれません。
現状の借入件数や借入額、財産状況や家族の有無、職業などといった様々な観点から、どの債務整理方法を選択するべきかアドバイスを受けられるため、まずは専門家に相談してみることが大切です。
相談の上、最終的に自己破産をすることが決まったら、委託契約を結び、専門家は債権者に受任通知を送ります。
受任通知とは、弁護士や司法書士が依頼者の代理人についたことを債権者に知らせる文書のことです。
受任通知が債権者の手元に届くと、債権者は債務者に督促や取り立てができなくなります。
同時に、各債権者に借金の残高を証明する書類を送付するよう請求します。
専門家の手元に各債権者から残高や利息に関する情報が届きます。
それをもとに法定金利での引き直し計算を行い、債務総額が確定します。
自己破産をするには、裁判所に申立てを行う必要があります。
申立てに必要な書類は以下の通りです。
返済が困難であることを証明するために、収入に関する書類も必要になります。
作成した書類の内容と客観的な資料の内容のつじつまが合わない点について裁判所から指摘を受けると、不本意な判断が下される可能性があります。
裁判所に申立てをする前に、必要書類をそろえたら、内容をもとに専門家と入念な打ち合わせをしましょう。
必要書類をそろえて、打ち合わせを済ませたら裁判所に自己破産の申立てを行います。
書類の提出先は、自己破産者が居住している地域を管轄する地方裁判所です。
裁判所が書類を受理して、内容に問題がなければ自己破産の手続きが始まります。
同時廃止になるか管財事件になるかも、この時点で判断されます。
申立書や破産管財人の調査結果から、免責不許可となる事由なしと判断されると免責許可決定が出ます。
免責許可決定が出ると、裁判所はその決定を官報に掲載して一般に知らせ、掲載された日から2週間債権者から不服申し立てがなければ債務許可決定が確定し、法律上の支払義務が免除されます。
自己破産をしても給料が差押さえの対象にならなければ、債務が免除される上、当面の生活費が確保できるため、不安が軽減されるでしょう。
ただしタイミングによっては給料が差し押さえられるため、注意が必要です。
自己破産を検討している状態を放置しておくと、事態をさらに悪化させてしまうかもしれません。
カードローンの返済や、クレジットカードの支払いが難しいときなどは、早く弁護士や司法書士などの専門家にご相談ください。