東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!
諸般の事情により、自ら自己破産を選択する人は後を絶ちません。
自己破産イコール借金がチャラになる、と簡単に考えている人がいるならばその考えは少々違っています。
これまでの借金を今の状態では完済することは難しいが、今後の生活を立て直して再生できるだけの意欲がある人に対して、はじめて自己破産という再出発の機会が与えられます。
今回解説する「裁量免責」は、自己破産に至った原因を踏まえ、免責するだけの「理由」と「事情」が無ければ認められません。
そんな裁量免責について、今回は詳しく解説します。
Contents
多くの人々が勘違いしていること、それは「自己破産をすれば必ず認められる」ということです。
実際、自己破産を申し立てたら絶対に認められるとは限りません。
それ相当の理由と事情がない限り、自己破産は認められないのです。
たとえば不可抗力によって収入が激減した、あるいは家族の病気療養に必要な費用を借金で賄っていたなど、本来であれば自己破産を選択する人ではない人、やむにやまれず自己破産に至った人に再出発の機会を与えるために裁量免責の制度があります。
裁量免責が認められないことを、別の言い方で「免責不許可事由」とも呼びます。
事情がどうであっても、情状酌量の余地がない自堕落なお金の使い方をしているとみなされて、裁量免責を認められないケースのことを指します。
ここからは、免責不許可事由に該当するケースをそれぞれ詳しく解説します。
借金があると分かっているのにさらに借金を重ねることは、債権者にとって確実な債権回収を妨害する行為とみなされます。
また、虚偽の申請をして借金を重ねることも、債権者が不利益を生じることから、免責不許可事由に該当します。
収入と支出のバランスを顧みない浪費や、ギャンブルによる借金は免責不許可事由に該当します。
何をもって「収入と支出のバランス」が保たれているか、その考え方には個人差がありますが、少なくとも収入を超える支出や、収入の二分の一を超える返済を抱えている状態になれば浪費と考えるのが妥当で、免責不許可事由に該当する場合が多いです。
借金の返済を迫られた時、これ以上返済能力がないとアピールし、自己破産をもくろむ人がいるのは事実です。
しかし、こういう人に限って本当は財産を隠し持っており、隠し通すために虚偽の帳簿等を作成したり、あるいは債権者に対して虚偽の事実を伝えることがあり、これらの不誠実な行為は当然免責不許可事由に該当する行為です。
過去にも自己破産をしていた人間が、2度目以降の自己破産では免責不許可になる仕組みがあります。
具体的には、過去7年以内に免責を受けている場合はいかなる事情であっても免責不許可事由に該当し、再度免責を受けることはできません。
先ほどは「免責不許可にならない」ケースを紹介しましたが、この章ではその逆の免責不許可事由があっても裁量免責になるケースを紹介します。
裁量免責を得られるポイントは、自己破産に至った人間が再生する意欲を持ち、その姿勢を認めてもらえるかどうかにかかっています。
それらの点を踏まえて、これから解説する内容をしっかりと理解してください。
自己破産を認可するのは裁判所です。
裁判所が自己破産を認可するために最も重視するのが、今後の手続きに協力する姿勢があるかどうかです。
裁判所は、自己破産に至ったことに対する反省とその後の誠実な対応、この2つがあってこそ自己破産を認可し、破産者の人生再出発を促すだけの判断ができるのです。
破産手続に協力しない場合には、裁量免責が認められなくなる可能性が高いです。
自己破産した場合、破産管財人が指定されて残った財産の売却等を行い、債権者に対して少しでも多くのお金を弁済するように努めます。
当事者としては、破産管財人に真実を報告し、その後の弁済がスムーズに進むように協力を欠かさない姿勢が求められます。
しかし、破産管財人との面接に応じないなど非協力的な態度を取っていると裁量免責が認められなくなる場合があります。
そもそも自己破産は、破産者が経済的に立ち直り、日常生活を送ることができるように更生の機会を与えることが目的です。
逆を言えば、更生する姿勢や意欲が見られない場合には裁量免責が認められないことも実際にあるのです。
多くの債権者に迷惑をかけた事実を反省し、二度と過ちを起こさない意欲を見せ、更生の見込みがあることをアピールすることは必要不可欠です。
借金を返せなくなった場合、もっと働いて稼いで返すというのは安直な話かもしれません。
しかし、裁量免責を検討する場合においては、収入増による債務の返済努力はかなり前向きでかつ誠実な行動としてみなされます。
収入が増え、その分債務を返済することが容易になる、それでいて日常生活において借金をしなくても自立することができる…これだけプラス要素が並べば、裁判所も裁量免責を認めることは確実です。
自己破産のすべてが破産者自身に原因があるとは限りません。
たとえば、父親が事業に失敗して、連帯保証人となってしまった息子さんが努力をしたものの、結局は自身も自己破産をせざるを得なくなってしまったというケースはよくあります。
この場合、父親が事業に失敗したことが直接の原因であり、息子さん自身には何の落ち度もないと言えなくもありません。
そのため、これ以上息子さんが借金を背負う状況ではない事情があれば、裁量免責が認められる場合が多いです。
それでは、実際に裁量免責が認められた事例について、具体的な内容を解説します。
今回解説する内容のすべてが、間違いなく裁量免責を勝ち取ることができるとは限りませんから、あくまで事例の1つとしてご理解いただきたいと思います。
Aさんは念願のマイホームを手に入れましたが、急激な会社の業績悪化でボーナスがカットされることになり、住宅ローンの支払いができなくなったことに伴い自己破産を選択しました。
この場合、Aさん自身の浪費などではなく経済情勢の急激な変化による不可抗力であることと、Aさん自身が誠実に働き、再生のために努力を惜しまない姿勢が評価され、裁量免責を得ました。
一流商社の営業部でトップの成績を上げていたBさんは、ポケットマネーで取引先の企業の接待に励んでおり、接待がBさんの営業成績を左右している状態でした。
しかし、取引先の企業が経済的事情により契約を打ち切ると、その分Bさんの給料から出来高部分が減少することになり、その結果借金を重ね、自己破産に至りました。
この場合、接待費用を浪費とみなすかみなさないかがポイントでしが、Bさんの普段の姿勢や社内での評価なども考慮され、Bさん自身の浪費ではないと判断され、裁量免責となりました。
You tubeでも有名人となったCさんは、レトロゲーム収集家として一定の評価を得ていましたが、思ったほど広告収入が伸びず、多額の借金を抱えて自己破産を選びました。
趣味が高じて損益となったCさんの行為を果たして浪費とみなすか、自営業としての必要経費とみなすかが話題になりましたが、Cさん自身がコレクションを売却するなど債務の圧縮と債権者への支払いに積極的に協力していたことから、裁量免責となりました。
裁量免責はやむなく自己破産に至ったものの、今後はそのような可能性がないことや、破産者自身に再生の意欲があり、具体的な行動と成果が見込めるときにはじめて認められるものです。
そして、破産管財人や裁判所関係者など専門的な知見を持つ第三者のアドバイスや指示を受けることで再生への道のりを確実に進むことができると言えます。
事情はどうあれ、自己破産をして他人に迷惑をかけてしまったことは事実です。
そのことを反省し、同じ過ちを繰り返さない前向きで誠実な姿勢こそ、裁量免責を得て再出発を図るために最も大事なことなのです。