東京弁護士会所属。新潟県出身。
破産してしまうかもしれないという不安から、心身の健康を損ねてしまう場合があります。
破産は一般的にネガティブなイメージですが、次のステップへのスタート準備とも言えます。
そのためには、法律上の知識や、過去の法人破産がどのように解決されてきたかという知識が必要です。
法人破産分野を取り扱ってきた弁護士は、こういった法律・判例や過去事例に詳しいため、強い説得力をもって納得のいく措置をとることができます。
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Contents
詐欺破産罪とはどういうものなのか詳しく解説しましょう。
破産法では、債権者の財産的利益を侵害する行為、債権者の平等を侵害する行為などを破産犯罪として定めています。
また、これらの破産犯罪に対する罰則も、犯罪ごとに規定されています。
これから、具体的にどのような行為が詐欺破産罪の対象となるか説明していきますが、まずは破産法の第十四章罰則に定められている詐欺破産罪の条文を確認してみましょう。
(詐欺破産罪)
第265条 破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(相続財産の破産にあっては相続財産、信託財産の破産にあっては信託財産。次項において同じ。)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。
- 一 債務者の財産(相続財産の破産にあっては相続財産に属する財産、信託財産の破産にあっては信託財産に属する財産。以下この条において同じ。)を隠匿し、又は損壊する行為
- 二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
- 三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
- 四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
- 2 前項に規定するもののほか、債務者について破産手続開始の決定がされ、又は保全管理命令が発せられたことを認識しながら、債権者を害する目的で、破産管財人の承諾その他の正当な理由がなく、その債務者の財産を取得し、又は第三者に取得させた者も、同項と同様とする。
詐欺破産罪が成立すると、破産手続開始の決定が確定したとき、詐欺破産罪の対象となる行為をした者は、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金に処し、場合によってはこれを併科することとなっています。
なお、法人の場合も詐欺破産罪を犯すと、法人と行為者ともに1,000万円の罰金を科されることがあります。
この詐欺破産罪の対象となる行為自体は、破産手続開始の前であっても、後であっても関係ありません。
これに加えて詐欺破産罪となるのは、破産手続開始の決定があったときです。
すなわち、詐欺破産罪の対象となる行為を行ったとしても、破産手続開始の決定がなければ、詐欺破産罪には問われないということです。
では、具体的にどのような行為が詐欺破産罪となるのか、確認していきましょう。
破産法では、債権者を害する目的で以下のような行為を行った場合、詐欺破産罪に該当するとしています。
このような行為は「債権者を害する目的」で行った場合のみ、破産犯罪となります。
たとえば、債権者を害する意図はなく、不注意によって財産を損壊させてしまった場合などは、破産犯罪とはなりません。
この4つの行為について、それぞれ詳しく解説します。
財産の隠匿とは、財産隠しのことです。
また、損壊は壊してしまったということですが、不注意による損壊は含まれません。
財産隠しは条文のとおり、破産手続開始の前後どちらであっても関係ありません。
ですから、手続申立て前に財産隠しを行った場合でも、手続開始の決定が確定した段階で、詐欺破産罪の対象となります。
財産譲渡の仮装とは、債権者を害する目的で自分の財産を譲渡したように見せかけるという行為です。
たとえば、自分の財産を親族や友人などの第三者へ売却したかのように虚偽の契約書を作成したり、譲渡を仮装して不動産登記を行ったりするような行為です。
また債務負担の仮装とは、破産申立者が実際はしていない借金を負担しているかのように仮装する行為です。
破産申立者が多額の債務を負担しているかのように仮装することで、他の債権者が得られるはずの配当利益が少なくなるということです。
このような仮装行為は財産隠しの一種とみなされ、詐欺破産罪の対象となります。
債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損させる行為です。
たとえば、債務者が更地の土地を所有していた場合、債権者を害する目的で他者に建物を建てさせて土地価格を下落させるといった行為です。
財産の不利益処分とは、たとえば所有していた土地を時価の4分の1で売却するような行為です。
土地を処分せずに、破産管財人が管理・換価処分すれば時価に近い金額で売却でき、結果債権者は多くの配当を得られることになるので、このような行為は詐欺破産罪の対象となります。
また、債権者にとって不利益な債務とは、たとえば自己破産手続きの際に高金利で借入れを行うような行為です。
これまでに説明した4つの行為のほかに、債務者について破産手続開始の決定がされたことを認識しながら、債権者を害する目的で、その債務者の財産を取得した者または第三者に取得させた者も詐欺破産罪の対象となります。
破産管財人の承諾その他の正当な理由があった場合は、この限りではありません。
また、この債務者の財産を取得する行為や第三者に取得させる行為は、破産手続開始の前後を問わないというものではありません。
破産手続開始決定後または保全管理命令後に行った場合に限られます。
詐欺破産罪を犯した人は、会社の破産手続開示決定が確定した時に、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金に処される可能性があります。
また、この両方を併科されることもあります。
なお、法人の代表者や従業員などが、その法人の業務や財産に関して詐欺破産罪を犯した場合は、法人に対しても1,000万円以下の罰金が科されることがあります。
自己破産は、免責許可が決定すれば、非免責債権を除く申立人の債務のすべてが免除されます。
申立人にとっては借金がすべて無くなるため、とても利益のある制度といえますが、債権者にとっては貸していたお金が返ってこないので、大きな不利益を被ります。
そのため申立人に財産が残っている場合は、生活に必要な最低限の財産以外のすべての財産を没収し、債権者に少しでも多く分配しなければなりません。
それでは、具体的に裁判所が自己破産申告者の保有財産をどのような方法でチェックするのか、また調査対象となる財産は何かについて説明していきます。
自己破産手続きの申立ての際に提出する財産目録は、自己申告です。
自己申告だと、虚偽の内容を申告しても大丈夫なのでは?と考える方がいるかもしれませんが、そうはいきません。
自己破産手続きは弁護士などの専門家が代理人となることが一般的です。
申立人が依頼した弁護士ですが、虚偽内容のまま手続きを進めてくれるわけではありません。
財産目録についても裁判所に提出する前に、まず弁護士が細かくチェックします。
このチェックは、自己申告に基づく財産目録の記載内容だけに終わりません。
申告漏れなどがないように、
なども細かくチェックされます。
これらの書類は、申立て時に財産目録と合わせて提出しなければなりません。
基本的にお金の流れは、預金通帳・明細書を見れば大体わかるものです。
給与や副業の収入は入金記録を見ればわかりますし、家賃・水道光熱費などの引き落とし履歴や、固定資産税の支払いなどの履歴によって、どのくらい出金があるかも把握できます。
ですから、自己破産手続きで提出する財産目録は自己申告とはいえ、通帳や給与明細など、その他の資料と合わせてチェックすることで、裏付けを確認されることになります。
これらのチェックにより、嘘の財産目録を作成しても必ずばれてしまうので、正直に自己申告することが大切です。
調査対象となるのは、申立人が所有するすべての財産です。
財産目録に漏れがないように、あらゆる財産がチェックされます。
預貯金・現金・不動産・自動車などの財産はもちろん、他の人に対して有している債権なども財産に含まれます。
しかし、基本的に調査対象となるのは申立人名義の財産に限られ、家族名義の不動産や預貯金などは調査対象となりません。
また、当然、自己破産手続きで没収される財産は申立人名義の財産のみで、家族名義の財産は基本的に対象外です。
ただし、財産隠しを疑われる場合は、家族名義であっても調査対象となることがあります。
たとえば、自己破産の申立て直前に申立人名義の不動産を家族名義に変更している場合や、家族名義の口座に振り込みを行っている場合は、財産隠しを疑われるので、家族名義であっても調査対象となります。
ここまでは、主に自己破産手続き開始決定が下さる前に行われる財産調査について説明してきましたが、申し立てを行い、破産手続きが開始した後に財産隠しが見つかった場合、どうなるのでしょうか。
申告すべき財産だと気づかなかったというミスの場合は特に問題ありません。
ただし、ミスを装った財産隠しであったり、ミスを指摘されても協力を拒否したりする場合は違います。
故意に財産隠しを行ったと判断された場合は、免責不許可事由に該当するので、免責を受けることができず、借金は免除されません。
もともと、自己破産手続きは、返済不可能になった借金などの債務を免除してもらうための手続きです。
財産隠しにより、免責が受けられない結果になってしまうのは本末転倒です。
また、財産隠しが発覚した後、更に嘘を重ねるような行為は絶対にしてはいけません。
なぜなら、財産隠しにより免責不許可事由に該当すると判断されても、その後正しく申告し直せば、裁判所の裁量によって免責許可となるケースもあるからです。
財産隠しは絶対行ってはいけませんが、行ってしまった場合でも、指摘されたときはすべて正直に話すようにしましょう。
自己破産の手続き中、手続き終了後であっても財産隠しが発覚した場合は、免責が許可されないという事態になりますが、手続きが終了し免責許可決定が下された後に財産隠しが発覚した場合、罪に問われる可能性があります。
免責許可後の財産隠し発覚は、さらに悪質だと判断されることになります。
どのような罪になるのか、どのような判決になるのか、次で解説します。
通常の場合、一度自己破産手続きによる免責決定が下りると、取り消されることはありません。
しかし財産隠しが発覚し、詐欺破産罪の有罪判決が確定した場合は、裁判所の職権または債権者の申し立てによって、免責取消しの決定が行われる可能性があります。
免責決定がされるまで財産隠しがばれなければ大丈夫、と考えるのは危険です。
詐欺破産罪に問われる可能性があるだけでなく、有罪判決が確定した場合は、せっかく受けた免責許可も取り消しとなってしまいます。
財産隠しを行っても、いずれは発覚してしまうものなので、正直に財産申告を行いましょう。
自己破産手続きで一定額以上の財産を所有している場合は管財事件となり、裁判所により選任された破産管財人が財産を換価処分(現金化)して、債権者に平等に分配することになります。
しかし、破産管財人はすべての財産を没収するわけではありません。
もともと、破産法における自己破産手続きは、返済不可能となった債務者を救済し更生させることを目的としています。
ですから、破産者が生活するのに必要な財産も全て没収して、破産後の生活が送れなくするようなことはありません。
そのため、破産者の生活に必要な最低限の財産は没収されずに、破産者に残ります。
この残った財産を、破産者が自由に使える財産ということで、「自由財産」と呼びます。
自由財産となるのは、99万円以下の現金、差し押さえが禁止されている生活に必要な財産、破産手続開始後に新しく取得した財産などです。
この範囲は、自己破産を申立てた裁判所により多少異なるので、事前に確認を行ってください。
破産手続開始後に新しく取得した財産とは、たとえば毎月受け取っている給料などです。
没収されるのは、裁判所の破産手続開始決定の時点で所有している財産ですから、破産手続開始決定後に受け取る給料については、全額手元に残すことができます。
これは給料に限らず、賞与(ボーナス)や年金も同様で、生活保護を受給している場合は停止されることもありません。
また、破産手続開始決定後に親が死亡して遺産を相続した場合でも、手続開始決定後に発生した遺産であれば、没収されることはありません。
自己破産しても、生活に必要な最低限の財産は自由財産として手元に残るうえ、手続き開始後の給料も全額残るので生活に関する心配は不要です。
自己破産しても、生活に必要な最低限の財産である自由財産は手元に残りますが、それ以外にも財産を残す方法があります。
実現度は低いですが、2つ紹介しましょう。
自由財産の拡張とは、破産法で規定された自由財産に当てはまらなくても、裁判所の許可を得ることで自由財産にできるという制度です。
自由財産拡張の許可をもらうためには、原則として裁判所への申立てが必要です。
自由財産として拡張できるかどうかは、破産者の生活状況や破産手続開始時点で破産者が所有していた財産の種類と金額、収入を得る見込み、その他の事情を考慮した上で、裁判所が判断します。
つまり、裁判所が破産者の生活に必要不可欠だと判断した場合のみ、自由財産の拡張が認められるということです。
具体例としては、自動車やバイクなどがあります。
便利という理由ではなく、通勤のためにどうしても必要であるとか、病院の通院に必要であるといった止むを得ない理由がある場合で、かつ査定でも20万円に満たないようなときは、自由財産として拡張を認められる可能性があります。
その他では、20万以下の生命保険解約返戻金や退職金、家財道具などは、自由財産の拡張を認められる可能性がありますが、これは東京地方裁判所における財産換価基準に基づくもので、裁判所によって異なるのでご注意ください。
自由財産の拡張の申立ては、一般的には破産手続の申し立てと同時に行う必要があり、破産管財人の意見を聴取して裁判所が拡張するかどうかを決定します。
自由財産の拡張の申立てにより、自由財産以外の財産を手元に残すことが可能になりますが、実際に裁判所が認めるケースは非常に少ないので、予め理解しておいてください。
基本的に、自己破産手続きが開始されたら、破産者の財産を親族などに売却することはできません。
しかし、破産管財人から相場の金額で親族などが買い取ることは可能です。
破産者の財産は、破産管財人によって売却されます。
それを親族などが買い取り、破産者に貸し出すことで、実質は財産を所有し続ける形がとれます。
たとえば、破産者が所有していた家や自動車などが破産管財人により売りに出されたときに、親族などが買い取り、その後、破産者へ貸し出しを行えば、破産者が家や自動車を使用し続けることが可能になります。
賃料の設定などは、破産者と親族との話し合いで決めることになるので、状況に合わせた価格設定ができます。
破産管財人から、親族が家や自動車を買い取ることは問題ありませんが、破産者が自己破産の手続きを申立てる前に、財産没収を避けるために親族などへ名義変更することは、財産隠しとみなされます。
名義変更は財産調査によって簡単に発覚してしまいます。
名義変更による財産隠しが発覚すると、免責の許可を受けられないだけでなく、悪質な場合は詐欺破産罪に問われる可能性もあるので、絶対行ってはいけません。
また、換価価値のある財産を勝手に処分したり、毀損してしまったりする方がいますが、こういった不当な行為も免責不許可事由に該当するので、ご注意ください。
自己破産手続きで管財事件となった場合は、申立人の所有する財産は換価処分され、債権者に配当されます。
申立人の財産は、自己申告による財産目録をベースに調査されることとなりますが、この際、財産隠しは絶対行わないでください。
財産隠しは免責不許可事由となりますから、発覚した場合は借金の免除を受けることができなくなるだけでなく、悪質だと判断されると詐欺破産罪に問われる可能性もあります。
自己破産しても、全ての財産が没収されるわけではありません。
破産者の生活に必要な最低限の財産は、自由財産として手元に残ります。
また、破産手続開始決定後に新しく得た給料などの財産は没収されないので、安心してください。
事情に応じて、手元に残せる自由財産の拡張を申立てることもできるため、破産手続きの代理を依頼する弁護士に相談してみましょう。