東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、ビジネスの実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
新型コロナウイルスの感染拡大により、仕事を失った方や仕事を休まざるを得ない方が大勢いると思います。
ただでさえ生活が苦しい中、失業や休業により収入が不安定になると、さらに不安になることでしょう。
そのような状況に対応するため、個人向けの融資制度が設けられています。
少しでも不安な気持ちを和らげられるよう、こういった制度を利用することも検討してみましょう。
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新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、生活が困窮している人に対する支援の1つとして、緊急小口資金や総合支援資金といった制度を利用することができます。
これらの制度はもともと、生活福祉資金貸付制度として厚生労働省が定め、都道府県社会福祉協議会が主体となって実施している貸付制度の1つです。
生活福祉資金貸付制度とは、金融機関などからの借入を受けることが難しい低所得者世帯や障害者世帯、高齢者世帯に対して貸付を行う制度です。
低所得世帯とは、具体的には市町村民税非課税世帯をいいます。
また、障害者世帯とは身体障害者手帳などの交付を受けた者が属する世帯をいい、高齢者世帯とは65歳以上の高齢者が属する世帯をいいます。
従来は、このように他から借入をすることが難しい人を救済するための制度という役割がありました。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を踏まえ、低所得者層以外の人にも対象を広げて、生活資金の確保に悩む人に対する特例貸付を実施しています。
具体的には、休業により収入が減少した人を対象とする「緊急小口資金」と、失業した人を対象とする「総合支援資金」があります。
緊急小口資金とは、緊急かつ一時的に生計の維持が困難となった場合に貸し付ける少額の費用として、従来から利用されてきました。
しかし、もともとの制度は、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受けた人を救済するためのものではないため、現在の状況に対応するには限界があります。
そのため、その要件を見直して、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受けた人も利用できるようにしたのです。
従来の緊急小口資金の適用対象者は低所得者世帯とされ、具体的には市町村民税の非課税程度とされていました。
この要件では、現在休業によって収入が減少している人であっても、前年の所得にもとづいて計算される市町村民税については非課税とはならないため、多くの新型コロナウイルスの影響による生活困窮者は対象にならないこととされていたのです。
そこで厚生労働省では、令和2年3月25日から7月31日までの間、その要件を大きく見直すこととしました。
これまでの対象者に加えて、「新型コロナウイルスの影響を受け収入が減少した人」も新たに対象者とされ、休業状態でなくても利用できるようにしました。
この見直しによって、緊急小口資金の利用対象者が大幅に拡大されたのです。
また、対象者だけでなく融資の上限額などの条件面でも見直しが行われています。
融資の上限額については、従来は一律10万円とされていましたが、子供の休校措置に対応するために休業を余儀なくされた人や、個人事業主などの場合は上限額が20万円に引き上げられています。
融資を受けた場合には返済をしなければなりませんが、すぐに返済することはできない場合に返済猶予の期間が定められています。
この期間のことを据置期間といいます。
従来、据置期間は2か月以内とされていましたが、この期間が1年以内に変更されています。
返済期間(償還期限)についても、従来の1年以内から2年以内に延長されています。
なお、借入を行う際の利子は無利子であること、保証人が不要であることは従来の制度から変更はありません。
条件 | 見直し前 | 見直し後 |
---|---|---|
融資の上限額 | 10万円 | 新型コロナウイルスに感染した人がいる場合、要介護者がいる場合、学校の臨時休業に対応するため休業した場合などは20万円 |
据置期間 | 2月以内 | 1年以内 |
償還期限 | 1年以内 | 2年以内 |
借入利子 | 無利子 | 無利子(変わらず) |
保証人の有無 | 不要 | 不要(変わらず) |
緊急小口資金を利用する場合は、市区町村の社会福祉協議会に申し込みを行うほか、令和2年4月30日からは労働金庫も新たに受付窓口とされています。
申込用紙は「緊急小口資金特例貸付借入申込書」という名称になっており、インターネットからダウンロードすることができます。
https://www.mhlw.go.jp/content/000627403.pdf(厚生労働省ホームページより)
なお、印刷する際は両面印刷しないようにとの注意書きがあるため、ご注意下さい。
ダウンロードすると借入申込書のほか、借用書、重要事項説明書、申立書がセットになっているため、必要な箇所の記入と押印を行います。
また、この他に
が必要です。
また、令和2年5月28日から7月31日までの間は、郵便局の窓口で申請書類の受付を行うこともできます。
取扱いのある郵便局については事前に確認しておく必要があるほか、借入申込書などの書類を記載しておくこと、必要書類についても事前に準備しておくことを忘れないようにしましょう。
総合支援資金貸付とは、失業などの事情により日常生活全般に困難を抱えている人に対して、必要な資金の貸付を行う制度です。
また、単に貸付を行うだけでなく、社会福祉協議会やハローワークなどの継続的な相談支援もあわせて行うことで、生活の建て直しや経済的自立を目的としています。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて失業したことにより、生活の立て直しが必要な人については、従来のままでもこの制度を利用することができます。
しかし、それだけでは不十分と考えられるため、令和2年3月25日から7月31日までの間、その要件を見直しています。
総合支援資金(生活支援費)の対象者は、従来は低所得世帯で失業や収入の減少により生活が困窮している世帯とされていました。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、この従来の要件に加えて新たに「新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、収入の減少や失業等により生活に困窮している世帯」が含まれたのです。
新型コロナウイルスの影響を受けた場合、必ずしも失業状態になくても対象となることが明記されたため、利用者が大幅に拡大することとなりました。
また、対象者の変更に合わせて様々な条件の見直しも行われています。
返済時の据置期間については、従来は6か月以内とされていましたが、この期間が1年以内に変更されています。
また、借入時の利子については、従来、保証人がいる場合は無利子となる一方、保証人がいない場合には年1.5%の利子が発生していました。
しかし、今回の措置ではすべて無利子とされています。
融資の上限額については、従来は単身世帯で月15万円以内、2人以上の世帯で月20万円以内、貸付期間については原則3か月以内・最長12か月という条件に変わりはありません。
また、償還期間についても10年以内ということで変わりはありません。
条件 | 見直し前 | 見直し後 |
---|---|---|
融資の上限額 | 単身世帯月15万円以内 2人以上月20万円以内 原則3か月以内 | 変わらず |
据置期間 | 6月以内 | 1年以内 |
償還期限 | 10年以内 | 10年以内(変わらず) |
借入利子 | 保証人ありの場合無利子 保証人なしの場合年1.5% | 無利子 |
保証人 | ありの場合は利子の優遇 | 不要 |
総合支援資金(生活支援費)を利用する場合は、市区町村の社会福祉協議会に申し込みを行う必要があります。
労働金庫や郵便局では、緊急小口資金のように取り扱いを行っていないため注意が必要です。
なお、総合支援資金の申込書は緊急小口資金の申込書のように、インターネットでダウンロードすることができません。
これは、総合支援資金の制度は単にお金を貸し付けて終わりという制度ではなく、その後の就職や生活の立て直しをも含めて対策を行うことを理念としており、社会福祉協議会での相談を合わせて行う必要があると考えられているためです。
しかし、現在は新型コロナウイルスの感染拡大やその防止を目的として、郵送での対応を原則としていることも考えられます。
まずは市区町村の社会福祉協議会の連絡先を確認して、電話で問い合わせを行うなどしましょう。
いきなり窓口へ出かけても対応してもらえない可能性もあります。
新型コロナウイルスの感染拡大による経済への影響は、すでに大きく出ているように思えますが、実際にはこの先も長期間続く可能性があります。
そのため、収入の減少や休業・失業といった不安を抱えたまま生活せざるを得ない人が、今後も増え続ける可能性があるのです。
今回ご紹介した個人向けの緊急小口資金や総合支援資金については、従来から利用できる制度ですが、新型コロナウイルスの影響でその対象や内容が拡充されており、より利用しやすくなっています。
ただし、この措置は当初7月31日までとされておりましたが、9月30日まで延長されました。
もしどうしたらいいか迷っている人がいたら、まずは市区町村の社会福祉協議会に相談してみましょう。