東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、ビジネスの実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
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廃業とM&Aのどちらの選択肢を選んでも、旅館やホテルにとって重要な決断になります。
決断するための参考として、旅館やホテルの動向を確認してみましょう。
現在の新型コロナ禍までの流れを説明します。
バブル期はレジャーも盛んであったことから開発が進み、各地に旅館やホテルが建設されました。
建設の中心になったのは大人数が宿泊できる大型ホテルなどでした。
しかし、やがてバブルが弾けると客足が遠のき、大型ホテルを中心に経営状況悪化などを理由に廃業が相次ぎました。
50室以下の中小のホテルや旅館をのぞき、現在も同じオーナーが経営しているケースは珍しいと言われています。
旅館やホテルにとって第二の苦境ともいうべき事件がリーマンショックです。
リーマンショックとは、2008年に起きた世界的な大事件のことです。
アメリカの大手投資銀行であるリーマンブラザーズが破綻したことにより、世界的な景気悪化と株価の下落が起き、会社の倒産や業績悪化が相次ぎました。
そして、ホテルや旅館の団体旅行客が減少し、レジャーは個人や家族などの少人数のものにシフトしたと言われています。
そのため、旅館やホテルは家族や友人同士、個人などの少人数旅行にあわせたプランやサービスを打ち出すようになりました。
旅館やホテルにとっては「団体から少人数」への変遷の時代でした。
日本を訪れる外国人旅行客(インバウンド)の増加により、外国人向けのサービスを展開するホテルや旅館なども出てきました。
テレビなどでもインバウンド関係のニュースを目にした経験があるのではないでしょうか。
しかし、日本のホテルや旅館のすべてが外国人旅行客の恩恵を受けているわけではありません。
外国人旅行客の市場は4兆円規模ですが、日本人旅行客の市場規模は20兆円を超えています。
日本のホテルは約1万件あると言われており、旅館については4倍の4万件ほどだと言われています。
インバウンドがクローズアップされる時代ですが、日本のホテルや旅館を支えているのは日本人観光客です。
外国人旅行客の恩恵を受けているかどうかは、旅館やホテル、そして地域によってかなりの違いがあります。
前述したように、新型コロナの流行による旅館やホテルへの打撃が報じられています。
客足が遠退いた結果、経営悪化により倒産したホテルや旅館などもあります。
2020年末のGoToトラベルの停止なども打撃に拍車をかけ、旅館やホテルにとっては先が見えない状況が続いています。
帝国データバンクによると、2021年1月~9月の旅館やホテルのコロナ関連倒産は143件となっており、既に2020年の集計値(104件)を上回っている状況です。
この数字はあくまで倒産件数ですので、自主的な廃業なども加えるとさらに件数が増えることでしょう。
経営状況が苦しいならばどこかの時点で廃業やM&Aなどの決断を下す必要があります。
参考としてコロナの影響で廃業や破産した旅館の最新情報をご紹介します。
田村屋旅館は福島県猪苗代町にある老舗旅館です。
創業は明治19年と歴史があり、バブル時代やリーマンショックの時代にも営業していた旅館でもあります。
田村屋旅館は新型コロナの影響で廃業を決定し、負債総額は4億円を超えています。
富士見荘は愛知県西浦温泉の老舗旅館です。
中国人を中心としたインバウンド需要を見込んでいた旅館でしたが、新型コロナの影響で宿泊客が激減しました。
コロナ禍の影響により今後の営業の見通しがたたないとして破産を申請しました。
奥飛騨温泉郷内の中で最も古い老舗旅館のひとつが薬師のゆ本陣です。
奥飛騨温泉郷内では、最大の設備を誇っていた旅館でもありました。
薬師のゆ本陣も新型コロナの影響により2020年3月30日に事業を停止して破産手続きに入っています。
負債総額は2億円を超えていました。
天龍閣は、仙台市青葉区霊屋下にある創業69年の老舗旅館です。
政治家や著名人などが多く訪れることで有名で、市内の中心部にありながら広瀬川の見える静かな立地が人気でした。
以前は修学旅行やサークルなどの団体客を中心に利用されていましたが、新型コロナの影響によって予約が激減していました。
新型コロナの収束の見通しが立たないことや、身内の看護やなどが重なり、2021年11月25日に廃業しました。
旅館やホテルが廃業する原因は新型コロナだけでなく、他にも廃業の原因を潜在的に抱えてます。
新型コロナ以外の廃業理由にはどのようなものがあるのでしょうか。
旅館やホテル廃業してしまう理由
それでは1つずつ詳しく見ていきましょう。
新型コロナ以外の廃業理由のなかで一番多いのが旅館やホテルの資金不足です。
資金がなければ従業員に給料を払うことも宿泊環境を整えることもできない上、ホテルや旅館が老朽化しても設備を新しくすることもできません。
新型コロナの影響がなくても、旅館やホテルの資金不足は起こり得ます。
ホテルや旅館が資金調達をおこなおうとしても、金融機関などが融資に応じなければ資金調達自体が難しくなります。
他の方法で資金調達しようにも、必要額に満たなければやはり設備投資や従業員の雇用状況、今後のホテルや旅館の事業運営に影響が出ることになってしまいます。
また、資金調達の結果、負債が増えてしまったり、返済が増えることによってもホテルや旅館が倒産することがあります。
旅館やホテルを運営するためには人手が必要になります。
従業員を募っても人手が集まらず、廃業することもあります。
たとえば、ある旅館は集客も上々で経営状態自体は悪くありませんでした。
しかし、長年勤めた従業員が体調を崩すなど短期間で何人か辞めてしまい、旅館業に影響が出るようになってしまいました。
旅館は従業員を募集しましたが、その旅館は繁華街からも街の中心部からも離れた静養に最適な立地にあるため、アクセスなどの問題からなかなか働き手が集まりませんでした。
働き手がいなければ旅館として成り立たないため、廃業という選択肢を選ぶことになりました。
近隣にホテルや旅館が沢山できてしまうと、ホテルや旅館同士の競争が激化してしまい廃業にいたるケースがあります。
たとえば歴史のある温泉地でも、近隣に多くのホテルや旅館があれば宿泊客は分散してしまいます。
多くの旅館やホテルがある地域では競争により経営が苦しくなり、最終的に廃業するケースがあります。
旅館やホテルの経営者が高齢になると、次の世代にバトンタッチすることになります。
ある程度の年齢になると旅館やホテルを継続するために、後継者に事業を委ねることになるのですが、後継者自体が見つからないことがあります。
子どもが旅館を継ぎたがらない場合や、従業員の中にも後継者になる人がいない、事業に関わっている人がみんな高齢で今から若い世代の育成をすることは難しい場合など、後継者不足に陥り廃業するケースがあります。
特に近年の日本では、ホテルや旅館以外の業種でも後継が見つからず、さまざまな業種で後継者不足による廃業が実際に起きています。
従業員不足や後継者の不在などで自主的に廃業を決意しても、中には廃業そのものが難しいケースもあります。
負債が多いケースがその代表例です。
負債が多いと、廃業しようとしても家族や取引先に迷惑がかかるため廃業の決断を下せないことがあります。
廃業の際は旅館やホテルの資産を換金し負債の清算などに充てますが、負債が多いと清算しきれないのです。
そのため、旅館やホテルの経営状況が思わしくないケースや、後継者不足や経営者の高齢化などで事業継続が難しい場合でも廃業できないケースは珍しくありません。
借入金の問題があり、廃業が難しいケースでは、M&Aという選択肢があります。
M&A(Mergers and Acquisitions)とは会社の吸収や合併、売却などのことです。
廃業が難しい場合は、旅館やホテルそのものをM&Aにより売却して事業からリタイアする方法が考えられます。
また、M&Aは後継者不足問題の解決方法としても使われているため、後継者不在により廃業を検討しているケースでは解決策として使える可能性もあります。
業種それぞれに特徴があるように、M&Aにおいても業種ごとに特徴があります。
旅館やホテルなどの業種のM&Aにおける特徴やメリットとはどのようなものでしょうか。
旅館やホテル業界のM&Aの特徴とメリット
それでは1つずつ詳しく見ていきましょう。
旅館やホテルをこれから始め始めるためには多額の投資が必要になります。
旅館やホテルは店舗ひとつあれば営業できるわけではありません。
お客が宿泊するための客室を用意しなければいけませんし、サービスに応じた部屋なども必要です。
また、温泉などの設備も必要になることでしょう。
旅館やホテルを増やそうとするときも、多額の費用が必要になります。
事業拡大のためコンセプトの違う別館などを検討している、別の地方にコンセプトやサービスを変えて旅館の2号店を出したいと思っている、といったケースでもゼロから始めるのは大変です。
しかしM&Aを使えばゼロから始める必要はなく、初期投資もおさえることが可能です。
旅館やホテルは始めるときにお金がかかるからこそ、M&Aで費用負担をおさえたい買い手があらわれ手続きがスムーズに進む可能性があります。
これは買う側と売る側どちらにもメリットになります。
旅館やホテルは他業種からの参入が多い業種であるという特徴があります。
不動産業や飲食業界など、旅館やホテルの隣接業界からのM&A希望者(希望企業)が集まりやすい傾向があり、他業種からの買い手がつきやすいというメリットがあります。
たとえば、不動産会社がメインの不動産業の他に旅館の経営にも乗り出そうと考えていました。
しかし、すでに説明した通り、旅館やホテルをゼロから始めるためには多額の資金が必要になります。
加えて、メインが不動産業ですから、旅館やホテルの経営ノウハウ・技術などもゼロから磨かなければいけません。
このようなケースでM&Aを活用すれば初期の費用負担を抑えることができて、なおかつ旅館業のスキルや技術なども入手できるため、買い手側にもメリットがあります。
旅館やホテル業界の動向でもお話しましたが、日本は団体旅行から個人や家族単位の少人数の旅行へと移り変わってきた歴史があります。
今日まで大規模なホテルとして経営してきたが、経営が苦しくなってきているというケースもあります。
このようなケースでは、同業同士のM&Aにより大規模な旅館・ホテルから小規模な旅館・ホテルへの乗り換えが考えられます。
M&Aで乗り換えをすれば、ゼロから旅館やホテルを作る必要もなく、小規模も旅館やホテルの経営ノウハウも取得できます。
旅館やホテルのM&Aでは、大規模な旅館やホテルから小規模な旅館やホテルに乗り換えたいというニーズから、同業の買い手が見つかりやすいというメリットも考えられます。
M&Aで旅館やホテルを売却すると、ホテルや旅館の技術や人材、培ってきたノウハウなども価値として計算されます。
廃業では不動産などの資産を売却した金銭のみですが、M&Aでは今まで事業を頑張って培ってきたものも金銭的な評価の対象になるのです。
その結果、債務の軽減だけでなく売却益を得られるケースもあります。
廃業の場合は従業員もホテルや旅館を去らなければいけません。
しかしM&Aの場合は従業員を守れるというメリットがあります。
ホテルや旅館業界で働いている人は、接客などの高いスキルを身につけています。
M&Aを使えば従業員はそのまま旅館やホテルでスキルを活かして働くことができ、買い手の方はスキルの高い従業員を確保できるというメリットがあります。
旅館やホテルをM&Aで売却するときは3つの注意点があります。
M&Aでは帳簿は資料のひとつになります。
帳簿に記載されていない債務などがあると、後から買い手と「聞いていない」とトラブルに発展する可能性があり、買い手の売り手に対する信頼も落ちてしまいます。
ホテルや旅館は宿泊客から次々と入金がありますから、細かな債権や債務が発生しやすい業種です。
帳簿にはしっかりと記載しておくようにしましょう。
M&Aでは買い手の価値観や考え方などによって評価が変わる場合があります。
たとえば、旅館の敷地に新たな施設を造りたいと思っている買い手がいたとします。
旅館には土地が余っているため、その買い手は余っている土地も評価してくれました。
対して旅館の設備にはあまり興味のない買い手がいたとします。
この買い手は設備には興味がないため、余っている土地については特に好評価はしませんでした。
このように相手によって評価が変わるため、ニーズに合う買い手を探すことが重要です。
M&Aではスキルや従業員も評価の対象になります。
しかし、買い手によって評価の基準は様々です。
そのため、人材やスキルをしっかり評価してもらえるよう買い手に働きかけることも重要になります。
旅館やホテルは従業員の経験やスキルで成り立っている部分もあるため、スキルや経験も立派な財産です。
買い手にしっかり評価してもらうよう注意しましょう。
旅館やホテルには廃業以外にM&Aという選択肢もあります。
M&Aは売り手と買い手、従業員それぞれにメリットのある方法です。
しかし、メリットを得るためにはただM&Aをするのではなく、メリットを引き出すかたちでM&Aできるよう要所に気を配って進める必要があります。
メリットのあるM&Aをするためには、実績と経験が豊富な専門家のサポートを得ることが重要です。
M&Aを成功させるためにも、まずは経験豊富な弁護士に相談してみるのがおすすめです。