

東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、ビジネスの実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

2025年、ホテルや旅館の倒産件数は増加傾向にあり、その背景には人件費の高騰や物価高などの問題があります。
この記事では、ホテルや旅館の倒産に関する最新動向と倒産の主な理由、倒産(破産手続き)の具体的な流れを解説します。
倒産した場合でも、破産(清算)以外に民事再生やM&Aなど再生型の選択肢も検討可能です。
しかし、対応が遅くなるほど、再生型の手続きを行える可能性が低くなります。
資金繰りが悪化した場合は、早期に弁護士に相談しましょう。
Contents
帝国データバンクが2025年11月に発表した調査[注1]によると、2025年のホテル・旅館など宿泊業の倒産件数は、前年を上回るペースで推移しています。
倒産の主な理由は深刻な人手不足と人件費や外注費の高騰、光熱費や食材費などの物価高による収益の悪化です。
加えてコロナ渦で実施されたゼロゼロ融資の返済がスタートし、資金繰りが悪化するケースも目立ちます。
現在は、インバウンド需要により過去最高益を記録している大手企業が多いでしょう。
一方で、増加したコストを価格転嫁できず、満足に設備の老朽化対策ができない中小企業が淘汰され二極化しています。
集客はうまくいっているものの、人手不足により倒産に追い込まれるリスクも深刻です[注2]。
[注1]帝国データバンク
[注2]東京商工リサーチ
帝国データバンクのデータを受け、ホテル・旅館業が抱える資金、人材、競争、承継の構造的な課題を、それぞれの見出しで解説します。
構造的な課題は、資金繰りの悪化や債務超過に直結するため、倒産の引き金となるリスクがあります。
宿泊業が抱える課題を理解し、早期に解決できるようにしましょう。
資金不足に陥る具体的な要因は、大きくわけて以下の3点です。
コロナ渦から客足の回復が遅れているホテルや旅館では、競争の激化により単価が下落し、売上の低迷を招いています。
また、人件費や光熱費、食材費などあらゆるコストが高騰し、利益率を圧迫している点も大きな要因です。
特にコロナ渦で実施されたゼロゼロ融資の返済が本格化し、キャッシュフローが悪化するケースも少なくありません。
資金不足により設備投資ができず、さらなる客離れを招く悪循環となっている中小企業もあります。
人手不足は倒産に直結する深刻なリスクです。
人手が足りず、清掃や接客が追いつかなくなれば客室の稼働率をあげられず、売上に響きます。
人材を確保しようにも賃金の引上げが必要で、その結果利益を圧迫して資金繰りの悪化を招きます。
そして人手不足によりサービスや品質が低下し、顧客満足度が低下すると悪い口コミの増加やリピーターの損失にもつながるでしょう。
人手不足による負のサイクルに陥ると、売上が減少し倒産へつながる可能性が出てきます。
宿泊業は、外資系高級ホテルや格安ビジネスチェーン、民泊など幅広いジャンルがあり、競争が激化しています。
集客のためにOTA(オンラインのみで取引する旅行会社)に仲介を依頼すれば、手数料の負担がかかります。
ライバルとの価格競争に勝つため値下げを行えば、利益率も低下しがちです。
差別化しようにも、老朽化した施設や特徴のないサービスでは顧客に選ばれず、売上が減少し、倒産につながる企業が増えています。
地方の老舗旅館や家族経営のホテルでは、後継者不足が深刻な問題となっています。
業績は悪くない場合でも、経営者が高齢になり、後継者が見つからず事業継続を断念する「黒字廃業」が目立ちます。[注3]
また、経営者が個人で多額の連帯保証をしているため、親族が事業継承をためらい、その結果廃業(倒産)を選ぶケースも珍しくありません。
M&A(事業継承)による解決策もありますが、売り手と買い手のタイミングが重要で、タイミングを逃すと難しくなる場合もあります。
[注3]中小企業庁 事業承継ガイドライン
経営者にとってホテル・旅館を残せるかどうかは最大の関心事でしょう。
倒産した場合に事業を残す選択肢として、以下の3つが挙げられます。
以下で、それぞれを詳しく解説します。
民事再生は、ホテル・旅館の運営を継続しながら、多額の債務を大幅に圧縮できる再建型の手続きです。
営業をやめる必要はなく、黒字化の見込みがあれば存続が可能です。
ただし、資金繰り悪化による限界が来る前に、早めに弁護士に相談しましょう。
早期の弁護士関与が再建成功率を左右します。
M&A(事業継承)は、経営権を第三者に譲渡し、ホテル・旅館の事業を次の世代へ引き継ぐ手段です。
負債を切り離し、事業だけを譲渡する方法もあり、ブランドや雇用を維持できるメリットがあります。
ただし、破産寸前の状態では買い手がつかないため、事業価値のあるうちに早期相談が重要です。
私的整理は、裁判所を通さずに債権者と直接交渉し、返済計画を立て直す手続きです。
倒産(破産)を回避するための手段で、事業を維持しながら再建を目指します。
弁護士が間に入ると、債権者との交渉がスムーズに進み、迅速に解決を目指せる点が大きなメリットです。

資金繰りが限界に達した時、再建の見込みがなければ破産(清算)が選択肢となるでしょう。
ここでは、破産した場合の法的手続きの流れを解説します。
破産は、裁判所の管理下において土地建物や設備、売掛金など債権を含め、会社の財産をすべて現金化します。
現金化した財産を債権者へ公平に分配した後、会社の法人格を消滅させる清算型の手続きです。[注4]
弁護士への相談から、破産手続きの終結・法人格消滅までの7つのステップを時系列で詳しく解説します。
[注4]破産法/e-Gov
破産法
破産手続きでは財産を債権者へ公平に分配するため、会社の資産調査が欠かせません。
申告漏れや財産隠しのリスクについても理解しておく必要があります。
また、会社の資産によっては事業再建の可能性も否定できません。
チャンスを逃さないためにも、できる限り早期に弁護士への相談が重要です。
弁護士は初期調査として、負債総額や資産価値、資金繰りの状況など財務状況の把握からスタートします。
財務調査の結果、破産しかないのか、民事再生やM&Aなどの再生型の可能性はないか、法的な見通しを立てます。
破産の場合は、裁判所の予納金や弁護士費用など、申立費用の確保の目途についてもこの段階で確認しておきましょう。
破産を決めたあとは、弁護士と事業停止のXデーを決定します。
Xデーに向けての準備で必要なのは、まず予約客の対応です。
新規予約を停止し、既存の予約客へ連絡・キャンセル処理をします。
特に旅行代理店やOTA経由での予約客へ連絡が漏れないようにしましょう。
前受金がある場合の取り扱いにも注意が必要です。
また、従業員へ事業停止の告知のタイミングは弁護士とよく相談しましょう。[注5]
従業員にとっては解雇となるため、特に住み込みの従業員がいる場合は退去問題も考える必要があります。
弁護士が受任通知を発送すると、債権者からの取り立てが停止するため、その間に準備を行いましょう。
[注5]労働基準法/e-Gov
労働基準法第20条(解雇の予告)
ホテル運営には膨大な量の契約が関わっており、破産に伴い契約を整理する必要があります。
厨房機器、リネン類、ベッド、家具など什器をはじめとするリース物件の取り扱いは、残存リース料の支払いや違約金などのリスクがあるため注意しましょう。
食材、飲料の仕入れ先やアメニティなどの取引先にも通知を行い、整理します。
もしホテルの建物や敷地が賃貸であれば、物件の明け渡し交渉なども必要です。
賃貸借契約をよく確認し、対応しましょう。
ホテル・旅館の運営は、旅館業法に基づく許可制です。[注6]
しかし破産したからと言って許可が取り消されるわけではありません。
許可を廃止するためには、廃止から10日以内に届出(廃止届)を提出します。
届出先は営業施設を管轄する保健所で、都道府県知事あてです。
破産の場合、食品衛生法に基づく飲食店営業許可も同様に廃止届が必要である点にも注意が必要です。
不安があれば、弁護士に相談しましょう。
[注6]旅館業法/e-Gov
旅館業法
初期調査から届出関係までの準備が整い次第、弁護士が裁判所に破産手続開始の申立を行います。[注4]
裁判所は申立の書類を審査し、申請者が支払不能に陥っているか、免責不許可事由に該当しないかなどを調べます。
要件を満たしていると判断すれば、破産手続開始決定が出され手続開始です。
開始決定と同時に、裁判所によって中立な立場の弁護士が破産管財人に選定されます。
この時点から、会社の財産の管理・処分権限はすべて破産管財人に移行します。
破産管財人が行う管財業務は以下の通りです。[注4]
ホテルが所有する土地や建物、家具などの什器、リネンや食材などの在庫を競売や任意売却によって処分し、すべて現金化します。
旅行代理店などから未回収の売掛金(債権)がある場合は、支払の催促と回収も業務の一つです。
並行して、債権者からの債権届出を精査し、清算会社の債務を確定させます。
現金化・回収によって集まった現金を金融機関や取引先、従業員など、法律の優先順位に従って債権者へ公平に配当を行います。
管財人の調査の結果、財産がなく債権者への配当が期待できない場合は異時廃止となります。[注4]
配当が完了、もしくは異時廃止となった後は、裁判所で最後の債権者集会が開かれます。
破産管財人は財産の換価や配当の結果、管理の経緯について債権者へ最終報告を行い、管財業務を完了させます。
問題がなければ裁判所が破産手続終結決定を下し、登記は閉鎖されて会社の法人格は完全に消滅、手続きは終了です。
ホテル・旅館が倒産(破産)した場合は、他の業種の破産とは見る必要のあるポイントが異なる点に注意が必要です。
破産手続きにおいて気を付けるポイントは以下の通りです。
ホテル・旅館特有の注意点が多いため、各見出しで詳しく解説します。
倒産により事業を停止すると、予約客や取引先とトラブルになるリスクがあります。
OTAや旅行代理店経由で受けた予約は、事前決済の扱いが複雑なため、トラブルを引き起こす最大の要因です。
事前決済などの前受金は、利用客にとって債権となりますが、破産手続きにおいては優先権がない場合は配当がほとんど期待できません。
そのため、クレームやトラブルになりがちです。
対策として、弁護士を通じOTAや代理店に通知すれば、混乱を最小限に抑えられる可能性があるため、早めに相談しましょう。
事業停止により、従業員は解雇となります。
解雇は生活に関わる重要な事柄のため、従業員への説明はより丁寧に詳しく行う必要があります。
まず未払賃金や退職金は、財団債権・優先的破産債権として、他の金融機関など一般の債権より優先的に支払われる事実を伝えましょう。
万が一、会社の破産財団に支払う現金がなかったとしても、救済措置として未払賃金立替払制度を利用できる可能性がある点も重要です。
住み込みの従業員は、寮が賃貸物件の場合、破産に伴い明け渡す必要があると伝えます。
従業員の住居確保が大きな問題となるため、弁護士を通じて計画的な退去交渉が必要です。
リース契約をしている設備や什器の扱いには注意が必要です。
ホテル内の設備は、リース契約である場合が多くあります。
厨房機器、ベッドや家具、リネン類など、リースである以上、会社の財産ではありません。
所有権はリース会社にあるため、破産管財人は勝手に売却や処分できません[注4]。
そのため会社が破産すれば、リース会社は取戻権に基づいて物件(リース品)を引き上げます。
その場合、リース残高の支払いや違約金などの問題が発生する可能性があるため注意しましょう。
もし民事再生やM&A(事業譲渡)など事業再建を目指す場合は、リース会社と再契約できるかが鍵となります。
ホテル・旅館は旅館業法に基づく許可制のため、倒産によって事業停止する場合は届出を行う必要があります[注4]。
旅館業法の許可は、その会社・個人にのみ与えられる権利として一身専属性が強く、例外を除いて原則、承継できません。
そのため破産する場合、管轄の保健所へ廃止届を提出します。
M&Sで事業承継をする場合は、事業を買い受けた新しい会社が、改めて新規で旅館業法の許可を取り直す必要があります。
許認可の取り直しには時間がかかるため、M&Aを目指す場合は保健所と事前調整が不可欠です。
ホテル・旅館の倒産は地域へ大きな影響を与えます。
特に地方の有名旅館や老舗ホテルが倒産した場合、地域の雇用喪失やブランドのイメージダウンなど、観光への影響を理解しておく必要があります。
廃業による影響を防ぐために、M&Aによりスポンサー探しを通じて事業継続が可能な場合もあります。
周囲から望まれるケースも多くあるため、よく検討しましょう。
ホテル・旅館に限らず、経営者の多くは金融機関からの借入れに対し個人保証をしています。
連帯保証のため、会社が破産しても、経営者個人の返済義務は消えません。
そのため法人の破産と同時に、経営者個人も自己破産を申し立てるケースがほとんどです。
経営者が自宅など不動産を所有している場合は、自己破産によって自宅を失う可能性が高く、大きなリスクと言えます。
回避策として注目されているのが経営者保証ガイドラインの活用です[注7]。
早期に事業再生や債務整理を行えば、一定の資産を手元に残せるため、経営者の生活再建や再起の後押しとなります。
法人も個人も同時に破産する最悪の事態を回避するためにも、民事再生などの事業再建や弁護士への早期相談が重要です。
ホテル・旅館が倒産する際、事業再建や譲渡のチャンスの取り逃しが最大のリスクです。
民事再生やM&A(事業譲渡)は、会社の体力が残っているうちにしか選択できません。
資金繰りが悪化し資金が完全に尽きてしまうと、破産(清算)しか選択肢がなくなり、築き上げた事業も従業員もブランドも、全て失います。
特に観光業は、地域の雇用や観光資源の核となるため、倒産は会社だけでなく地域経済にとっても大きな損失です。
まだ大丈夫と先送りにしていると、再生の道が選択できなくなるため、経営者にとって最大のリスクと言えます。
資金繰りが悪化してきた段階で早めに弁護士に相談すれば、事業再建・譲渡のチャンスを掴める可能性があるでしょう。
ホテル・旅館業界はゼロゼロ融資の返済、コスト高、人手不足などの影響で倒産が増加傾向にあります。
倒産した際、破産手続きでは予約客や従業員対応、許認可の扱いなどホテル特有の注意点が多いため気を付けましょう。
経営者は個人保証のリスクがあり、法人と個人の同時破産が多くなっています。
手遅れになる前に弁護士に相談し、民事再生やM&A(事業承継)など、再建の選択肢の検討が最も重要です。
ホテル・旅館の経営は複雑な法務が絡みます。
資金繰りにお悩みの経営者の方は、再建の選択肢を失う前に、ぜひ一度弁護士にご相談ください。