東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、ビジネスの実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
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廃業について検討する前に、まずは直近の歯医者業界の動向について見ていきましょう。
コロナの影響もふくめて説明します。
「歯医者はコンビニより多い」という言葉を耳にした経験はありませんか。
歯医者は東京都など一部の地域に集中している傾向があるため、コロナが流行する前から激戦状態であったと指摘されています。
歯医者の少ない地域に歯科医院を開業すればいいのではないかと思うかもしれません。
しかし現状は、東京都や徳島県、福岡県などの地域に集中が続いています。
コロナ禍前から最大の激戦区は東京都で、人口10万人あたりの歯医者数が約116人となっています。
歯医者業界へのコロナの影響が指摘されていますが、コロナの前から東京都などでは歯医者による激戦の影響があったわけです。
コロナ禍後の歯科医院はその数が減少傾向になると予測されています。
ただ、減少傾向になっても都市毎の歯医者の分布はほぼ変わらないだろうとも言われています。
理由はふたつあります。
まず1つ目の歯医者の結婚の特徴ですが、近年女性の歯医者が増えており、同業者と結婚するケースが少なくありません。
歯科医同士で結婚した場合、夫婦共同経営や夫が開業した歯科医院で妻が働くかたちを取ることが多いため、女性歯医者の増加や歯医者の結婚が歯科医院の数に影響をおよぼすと言われています。
2つ目は新型コロナの流行です。
コロナにより歯医者の患者は減少しました。
患者が減少すると歯科医院の経営が苦しくなり、倒産や廃業のリスクが高まり、実際に倒産・廃業を選択する歯科医も出ています。
この2つの事情から、歯科医院自体は減少傾向に転じると予想されているのが現状です。
しかし、歯科医院が特定の地域に集中する状況は今後も変わらないだろうと言われています。
結婚事情やコロナの影響で歯科医が開業した歯科医院の数が少なくなっても、激戦区では変わらず激戦が続く可能性があるということです。
歯科医業界では実際にどのくらいの倒産・廃業・休止が起きているのでしょうか。
コロナが流行する前の段階の廃業や倒産の件数から順を追って見ていきましょう。
まず歯医者業界の倒産件数についてです。
歯医者業界の倒産は2000年から2019年までで、232件となっています。
2019年の倒産件数だけでも15件に上っており、さらに負債額は約990万円にもなっているのです。
また2018年9月末から2019年10月までの1年間の間に1,470件の歯科医院が廃業しています。
そのうち、休業している歯科医院は156件です。
休止や廃業については「経営状況が苦しい」などの理由から廃業や休止に至ったケースだけではありません。
子どもや他の歯医者への事業承継のために廃業するというケースもあります。
参考:令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況|厚生労働省
参考:医療機関の倒産、過去10年間で最多 ~ 負債額トップは「東京ハートセンター」経営の冠心会 ~
歯科医院を廃業すべきか継続すべきか判断するためのポイントについて説明します。
継続と廃業で迷ったら、次の5つのポイントで判断してみましょう。
歯医者を廃業すべきか継続すべきかの判断ポイントのひとつは経営状況を改善できるかです。
現在の経営状況が思わしくなくてもいずれ状況を改善できるのであれば、あえて廃業を選択する理由はなくなります。
しかし経営状況の改善が難しいのであれば、これ以上悪化する前に廃業するという選択肢が考えられるのです。
経営状況の目安としては営業利益があります。
営業利益とは、歯医者の売上から売上原価や販売管理費などを差し引いて求める歯医者の利益のことで、金融機関の借入利息などを引く前の段階になります。
営業利益が赤字で、今後も赤字が続き黒字化する目途が立たない場合は経営状況の立て直しは難しい状態なので、廃業や破産を検討する必要があります。
歯医者として経営を続ける際に金融機関からの借入ができなくても、当面の資金を準備できるかどうかが問題になります。
金融機関から借入をしないと資金の準備ができない場合は廃業を検討し、できる場合は歯医者を継続することを検討します。
たとえば歯科医院が経営難で民事再生をおこなうとします。
民事再生をすると金融機関への返済はストップしますが、同時に金融機関からの借入もできなくなるため、事業資金などがないからといって金融機関を頼ることはできません。
手続き中でも患者に処置をすれば診療費を受け取れますが、経営状態が傾いていると診療による収入だけでは資金繰りに困ってしまう可能性があります。
歯医者に当面の資金が準備できない、あるいは資金調達が困難であれば、廃業を検討する必要があります。
歯科医院を経営している歯医者の意思も判断ポイントになります。
歯医者が「今後も歯科医院を継続したい」という意思を持っていれば、経営などの面も考慮して継続の道を模索することになります。
対して「リタイアしたい」などの意思を持っていれば、事業継続はやめて廃業するという判断になります。
歯医者の経営状況が悪化していて、「歯科医院を継続したい」と考えている場合は、再建のために手続きや努力をしていきますが、リタイアしたいと考えている歯医者に無理やり事業を継続させることはできません。
廃業を望まず歯科医院を継続する場合、金融機関からの借入とは無縁でいられません。
すぐに金融機関から借入する事態にならなくても、新しい設備を導入するなどの場合は金融機関の力を借りる必要があるかもしれません。
加えて金融機関に返済期間の延長や借入条件の変更などを相談する可能性もあるかもしれません。
経営状況が悪化している場合に、金融機関に経営状況についてウソをついたり誤魔化したりするケースがありますが、そのようなことがあれば金融機関は不信感を抱きますから、歯医者と金融機関の関係も悪化するのです。
金融機関との関係が険悪になっていると、廃業せずに事業を継続するうえで金融機関のサポートを受けることが難しくなることもあります。
歯医者を廃業するかどうかの判断ポイントのひとつとして、金融機関との関係性が良好かどうかについても考えてみましょう。
廃業せずに事業継続するかどうかのポイントに、後継者の有無があります。
経営者である歯医者が高齢だと、年齢なども考慮して廃業しようと考えるかもしれません。
しかし後継者がいればどうでしょう。
歯科医院を継いでくれる後継者が育ちつつある、あるいは育っていれば歯医者として事業を継続し、後継者に引き継いでもらってもいいのかもしれません。
後継者の有無は廃業の際の判断ポイントのひとつになります。
歯医者が歯科医院の経営を辞めるときは廃業あるいは破産という二択しかないと思っていませんか?
廃業や破産以外にもM&Aという選択肢があります。
M&Aとは合併や買収を意味し、事業承継の際に使われるので、歯科医院を第三者に継いでもらうことが可能です。
廃業では従業員は失業してしまいますが、M&Aの場合は従業員も守れます。
歯科医院として歯医者が育てた技術やノウハウなども評価してもらえるというメリットもあるのです。
歯医者の経営する歯科医院の経営状況からどうしても破産を選ばなければならないケースもあります。
しかし、仮に経営状況などをふまえてM&Aが可能なら、廃業ではなくM&Aというかたちで事業を残すことを検討してはいかがでしょうか。
歯医者が経営する歯科医院の経営状況により、M&Aが難しい場合は破産を検討することになります。
破産手続き完了までの期間の目安は3カ月ほどです。
歯医者が破産手続きをするときは、まずは破産手続きに必要な書類を準備しなければいけません。
必要になる書類は以下の通りです。
この他に弁護士に依頼する場合の委任状などが必要になります。
歯医者の歯科医院が医療法人の場合は確定申告書なども必要になるので、手続きを始める際に必要書類は確認しておきましょう。
必要書類を準備したら、管轄の裁判所に歯医者の破産手続きを申し立てます。
申立の際は必要書類も一緒に提出します。
破産手続きの申立が適正に行われると、破産管財人が選任されるという流れです。
破産管財人が選任されると破産手続きが進みます。
債務状況の確認や債権者集会などが行われ、破産手続きが終了すると共に債務が免責され、歯医者の債務については返済義務がなくなります。
債権者も免責を受けた歯医者の債務については取立てができません。
なお、医療法人の場合は医療法人の破産と同時に医療法人の理事長なども破産手続きをすることが基本になります。
歯医者の破産手続きを弁護士に依頼した際の費用相場は、歯医者個人の医院か、医療法人かによって変わります。
ただし、これはあくまで相場です。
弁護士事務所によって費用が異なるので、依頼の際は金額をよく確認することが重要です。
交通費や相談料などの費用が別途必要になる可能性があるため、歯医者の破産ではまず弁護士から見積もりを取得するといいでしょう。
歯医者が事業をたたむときには廃業や破産、M&Aなどの方法があります。
経営状況などによって適切な方法が変わってくるため、歯医者が個人で手続きを選ぶことは難しいかもしれません。
弁護士に相談すれば、ニーズや状況にあわせて手続きをアドバイスしてもらうことが可能です。
M&Aや破産の手続きについても弁護士にサポートしてもらえますので、スムーズに進められます。
最良の判断を下すためにも、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。