東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前職の経験を生かし、ビジネスの実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。
今般の新型コロナウイルスの大きな影響を踏まえて、政府は中小企業・零細企業向けの助成金・補助金・給付金等の支援を拡充しています。
ただ、その制度の多さ故に、一般の人では追いつかないくらい制度が追加・変更されています。
7月上旬時点の新しい情報も含め、中小企業・零細企業向けの支援策をまとめました。
また、制度数が多いため、全体の詳細も網羅すると相当なボリュームとなります。
そのため、概要部分である「支給対象となる要件・助成(融資)内容・給付時期・申請期間・申請方法・問い合わせ先」の6点に整理し、簡潔に説明します。
まずは、中小企業・零細企業向けの資金繰り支援についてです。
支給対象となる要件は下記の通りです。
「新型コロナウイルス感染症の影響を受けて一時的な業況悪化を来たした」という条件が大前提です。
その上で次の(1)または(2)のいずれかに該当する必要があります。
上記、イ・ロのように前年(前々年)同期と単純に比較することができないケースも存在します。
この場合は、最近1か月の売上高が、
以上の「いずれか」と比較して5%以上減少というケースも対象になります。
「信用力や担保に依らず一律金利」という点が大きな特徴で、担保を取らないという点も良さと言えましょう。
資金使途、運転資金・設備資金両方とも利用可能となっております。
また、融資後の3年間までは、0.9%の金利引き下げの措置がとられます。
他にも特筆すべき点があり、「各公庫の既往債務の借り換えも可能」という点は大きなメリットと言えます。
これまで1~3%程度の金利を支払ってきたものが、実質3年間は無利子、その後も安価な金利で借りられるわけですので。
さらに追加措置として、7月頭より、融資限度額と利下げ限度額の引き上げが実施されました(記載数値は、引き上げ後の数値)
他にも、5年以内の据置期間ということで、5年間は金利だけを払えばいい(当初3年は実質無金利)というメリットもあります。
限度額は中小事業6億円、国民生活事業8,000万円となっており、金利は当初3年間、基準金利よりマイナス0.9%となり、4年目以降は基準金利に変更されます。
(なお、全額が利下げ対象という訳ではなく、利下げ限度額として、中小事業2億円、国民生活事業4,000万円の上限があることにご注意下さい)
実際、具体的な金利はというと、中小事業金利:1.11%→当初3年0.21%、国民生活事業金利:1.36%→当初3年0.46%と、かなり低い利率と言えます。
貸付期間は、設備資金20年以内、運転資金15年以内となっており、できれば今後のコロナの影響が長引くリスクも考え、長期で調達し、手元資金を確保しておくことが望ましいでしょう。
申込はすでに開始しており、申請期間の定めは特にありません。
申請は、事業所の地域を管轄する、日本政策金融公庫の支店が担当します。
おおむね日本政策金融公庫と同様の対応で、支給対象となる要件は、前述の日本政策金融公庫と同様です。
助成(融資)内容も、おおむね公庫と同条件ですが、融資限度額は6億円と、中堅企業に向けた大きめの枠が確保してあります。
また、当初3年間の金利優遇措置もあり、基準金利マイナス0.9%、4年目以降は基準金利1.11%→0.21%(利下げ限度額:2億円)と、こちらもかなり安価な金利で借り受けることが可能です。
申込はすでに開始しており、申請期間も特に定めはありません。
申請時は、事業所を管轄する商工中金の窓口に申請します。
通常の融資と違い、商工会議所・商工会・都道府県商工会連合会の経営指導員による経営指導を受ける点が特徴的です。
経営指導を受けることで、経営そのものを見直すいい機会にもなるでしょう。
条件としては、「最近1か月の売上高が前年または前々年の同期と比較して5%以上減少以上に該当すること」が前提となります。
限度額は1,000万円ですが、こちらも既存の公庫融資と別枠で取り扱われます。
経営改善利率はもともと1.21%(令和2年5月1日時点)ですが、これより当初3年間は、マイナス0.9%の引き下げになります。
後述の利子補給制度に該当する場合は、実質無利子(利子は一旦徴収されるが、後で利子分の補給がある)となるケースもあります。
すでに申請期間の締め切り関しては、現状特に定めがありません。
という順番です。
まず前提として、日本政策金融公庫等の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」、「新型コロナウイルス対策マル経融資」もしくは商工中金等による「危機対応融資」により借入を行った中小企業者である必要があります。
その上で、特別貸付等の借入を申込んだ時点の「最近1か月」または「その後2か月」の3か月間のうちいずれか1か月と、前年または前々年同月の売上高を比較し、以下の要件を満たす場合に特別利子補給の対象になります。
借入後当初3年間は無利子、とよく表現されますが、期限と上限があります。
上限は、日本政策金融公庫の中小事業、商工中金の融資は2億円、日本政策金融公庫の国民生活金融事業は4,000万円です。
また、実質無利子となるように、後から利子支払分が補填されるという仕組みになっております。
7月上旬時点では未定ですが、利子補給そのものに関しては遡及(さかのぼってくれる)制度が存在します。
令和2年1月29日以降に、日本公庫等から借入を行っており、上記適用要件を満たす場合には、自動的に本制度がさかのぼって適用されます。
そのため、すでに融資を受けていても、条件に当てはまれば後から利子補給がされるので、「条件に当てはまるけどもう申請した………」という場合でも、特別利子補給制度を後から適用してもらえば、その分のメリットを享受できます。
申請期間は、中小企業庁ホームページなどで公表されますので、まだ少し待つ必要があります。
参考:中小企業庁
申請方法と問い合わせ先に関しても、まだ不透明な部分があり、具体的なことに関しては、公表後の問い合わせが望ましいと言えます。
他にも、セーフティネット貸付の要件緩和・生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付などの政策がありますので、日本政策金融公庫・商工中金などのホームページを確認ください。
「給付金」という形で、条件に該当すると、無償でもらえるお金が存在します。
給付金に関する詳細は別記事で解説しておりますので、当記事ではごく概略にとどめます。
雇用の継続などに関し、該当するケースでは助成金が支給されます。
こちらに関しても、一部制度に関しては、別記事で詳細を解説しております。
よって、該当記事に関しては簡略に説明します。
雇用の継続を図る事業主に対し、企業の場合、最大1日1万5,000円を上限に助成
子どもの保護者である労働者の休職に伴う所得の減少に対応するため、正規・非正規問わず、労働基準法上の年次有給休暇とは別途、有給の休暇を取得させた企業に対し(年次有給を消化させた場合はNGです)、日額8,330円~15,000円を上限とし、休暇中に支払った賃金相当額の全額を給付
その他、中小・零細企業向けの助成金としては下記の制度があります。
働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)として、在宅またはサテライトオフィスにおいて就業するテレワークの実践に取り組む中小企業事業主に対して、その実施に要した費用の一部を助成する制度です。
支給対象となる要件:下記の条件に全て該当すること
業種 | 資本または出資額 | 常時雇用する労働者(派遣労働者も対象 |
---|---|---|
小売店・飲食店 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
また、下記のどれか1つ以上を実施することが必須条件となります。
(なお、シンクライアント端末の購入費用は対象となりますが、それ以外のパソコン・タブレット・スマホの購入は対象外ですので、ご注意ください)
助成内容は、各種必要経費の合計額×補助率ですが、成果目標の達成度合いに応じ、支給割合が変わります。
と、支給額が変わってきます。
そのため、成果目標を達成するための、全社的な取り組みが必要となります。
ゆえに、給付時期も他の助成金より遅く、特定の月について成果目標を設定し、達成したか否かがわかった時期以降に給付が行われます。
申請期間は令和2年12月1日までとなっていますが、予算がなくなり次第打ち切りですので、早めに申し込んだ方が良いでしょう
厚生労働省の申請ページを参照してください。
補助金等補助支援事業も、既存制度をより拡充した制度が開始されています。
こちらも、別記事で詳細を解説している項目については、簡易な説明にとどめます。
原則は補助上限 1,000万円、補助率2分の1です。
しかし新型コロナウイルス感染症の影響を乗り越えるための投資に関しては、補助率3分の2または4分の3が支援されます。
消毒液・マスク・フェイスシールドなど感染拡大予防の取組を行う場合は50万円を上限として、実際に支出した額を、そのまま定額で上乗せします。
商工会・商工会議所の事業です。
商工会議所の管轄地域内で事業を営んでいる「小規模事業者」という条件があり、小規模事業者の定義は下記の通りです。
なお、および一定の要件を満たした特定非営利活動法人に対しては、原則として補助対象経費の3分の2以内、上限50万円~100万円を補助がされ、ケースによっては上限が上がる場合もあります。
別記事で解説しておりますが、30~450万円1を補助。
3分の2から4分の3の補助です。
産業を維持する上で、重要な製品・部素材について、これまでコスト削減のため多かった海外ではなく、国内回帰を行い、国内で生産拠点等を整備しようとする際の設備導入等を支援します。
支給対象となる要件:
上記の2点のどちらかに合致することが必要です。
助成内容は、建物・設備の導入費等、大企業2分の1以内、中小企業等3分の2以内となり、審査通過後に給付されます。
申請期の公募受付締切は、7月22日(水)12:00必着です。
2つの様式があります。
こちらも無条件の支給ではなく、審査を経て採択されることが必要です。
助成内容としては、
とそれぞれ違いがあり、助成は採択後です。
申請期間は令和2年06月30日(火) ~ 令和2年07月22日(水)17:00までとなっています。
近年よく喧伝される後継者不足ですが、新型コロナウイルスの影響で、これまでなんとか続けてきた事業者が、後継者不在による廃業を選ぶ事例も増え始めています。
そこで、中小企業の貴重な経営資源を活用し、雇用・技術の維持継承、地域のサプライチェーンを維持するため、後継者不在事業者の経営資源を引継ぐことに対し補助金を補助する制度が設立されました。
支給対象となる要件は、事業の第三者(つまり家族・親族以外)へ承継を行う場合で、助成(融資)内容:それぞれ3分の2を補助します。
またそれぞれ上限があります。
給付時期は申請後、申請期間の定めはなく、今後より詳細な方法が提示される予定ですので、中小企業庁のホームページを確認することをおすすめします。
中小企業庁 事業環境部 財務課
その他の支援として、ぜひ経営者に着目していただきたい措置をピックアップします。
新型コロナウイルスの影響を受けている中小企業(特に地域の地盤となる企業)に対して、借入ではなく出資等を通じて、資本増強策を強化する政策です。
スタートアップの事業成長下支えや事業の「再生」により廃業を防ぐとともに、V字回復に向けた基盤強化を図るという点では、これまでの中小企業支援策と変わりがないように見えますが、こちらをあえて通常の融資に分類しなかった理由は、「資本性劣後ローン」という仕組みを活用しているからです。
この資本制劣後ローンは、「長期間元本返済がなく、民間金融機関が自己資本とみなすことができる」ため、バランスシート(B/S)上では負債ではなく、資本に分類されます。
なお、劣後ローンというのは、「会社が倒産した場合に、かなり後の順位で返済するローン」という意味合いです。
金融機関側から見れば、回収できる可能性が低い貸付金になります。
バランスシート上で負債が大きければ、当然民間金融機関からの融資は受けにくいです。
しかし今回の劣後ローンの場合は資本とみなされることにより、ローンという資金供給でありつつも、長い期間において元本返済の必要がないため、金融機関の査定が、通常のローンよりも柔軟に判断されます。
(その分、金融機関の側としてはリスクもあるため、金利が高くなります)
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた、以下のいずれかに該当する事業者
※国民事業については、原則認定支援機関の経営指導を受けて事業計画を策定した事業者
貸付限度額
中小事業・商工中金7.2億円(既存借入と別枠)
国民生活事業7,200万円(既存借入と別枠)
貸付期間
5年1か月、10年、20年(期限が来た際に、一括して償還。
5年を超えれば期限前であっても弁済可能。
そのため、期限を決めずにいつまでも借りられるわけではないという点は注意する必要があります。
貸付利率
当初3年間は一律ですが、4年目以降は直近決算の業績に応じて変動します。
当初3年間および4年目以降赤字 | 4年目以降黒字 | ||
---|---|---|---|
5年1か月・10年 | 20年 | ||
中小事業・商工中金 | 0.5% | 2.6% | 2.95% |
国民生活事業 | 1.05% | 3.4% | 4.8% |
上記のように、特に4年目以降は、通常の貸付より金利が高くなることは念頭に置いた方が良いでしょう。
7月1日から事前相談を開始、システム構築後の8月上旬以降より、制度開始予定。
承認後に貸付となる予定です。
申請方法も、今後公開される予定です。
今回の新型コロナウイルスに関する補正予算としては、第一次で総額25兆5,655億円、第二次で総額31兆9,114億円と、両方併せると、令和2年度の予算案の102兆6,580億円の半分近くになるほどの、巨額の費用が投入されています。
それだけ、今回の新型コロナウイルスが様々な業界に与えた影響が甚大であり、法人破産や連鎖倒産を防ごうという政府の危機感が感じられます。
経営者としては、自社が利用できる助成金・給付金・補助金を確認すると共に、業務の形態自体も、withコロナを前提とした形に変革することにより、「新しい生活様式」に適用した働き方・事業の形を整備していく必要があるでしょう。
また、助成金・給付金・補助金で自社が適用できる制度があれば、積極的に申請・活用することが重要です。
その際は、多くの企業は税理士・社会保険労務士などの専門家と接点を多く持っているかと思いますので、必ず信頼のおける専門家に相談することが大切と言えます。
また、助成金・給付金・補助金は、用途や支給条件に基づき活用することが厳格に定められており、不適切な申請や利用方法を行うと、補助金の利息・追徴金を加えた返還請求だけでなく、企業名の公表や代表者・役員・関係者の刑事告発など、不正に得た額を大きく超える額の返還に加え、社名・代表者名の公表、場合によっては、刑事告発により、執行猶予なしの実刑も含めた重い処罰が科される可能性があります。
そのため、申請時は虚偽のない内容で正しく申請することと、税理士・社会保険労務士・行政書士など、各助成金・給付金・補助金で提出代行が許可されている専門家に依頼することが重要と言えます。
ぜひ専門家に相談した上で、制度を積極的に活用することを検討してはいかがでしょうか。